獣の妖怪一覧|猫又・化け狸・牛鬼と、動物が化けた妖怪
動物が年を経ると化ける。日本の妖怪には、この考え方が深く入っています。
猫は年を経て猫又になり、狸と狐は人を化かす。
ところが獣の妖怪には、実在しない獣を組み合わせて作ったものも混ざります。牛の頭に蜘蛛の胴、猿の頭に虎の手足。
このページでは、収録している獣の妖怪を横に並べて見わたします。
獣の妖怪とは
年を経て化けるもの|猫又・化け狸・ムジナ 5体
日本でいちばん広く共有されている考え方が、これです。
長く生きた動物は、化ける力を得る。
猫又は年を経た猫が化けたもので、尾が二股に分かれ、人の言葉を話し人を食うとされます。火車も、年を経た猫が化したものとされました。葬列や墓場から死体を奪うとされ、猫を死者に近づけてはいけないという言い伝えにつながっています。
化け狸は人を化かし、人の姿に化けます。腹つづみと大きな陰嚢で知られ、四国に伝えが濃く残ります。隠神刑部は八百八匹の狸を率いた総帥で、松山城を守ったとされます。
ムジナは少しややこしい例です。
指している動物そのものが、土地によって違う。
アナグマを指す土地も、タヌキを指す土地もあります。「同じ名前が同じものを指すとは限らない」という、妖怪を読むうえで大事な例になっています。
合成された獣|牛鬼・鵺・わいら 6体
実在しない組み合わせの獣は、獣の妖怪の中心を占めます。
鵺は、頭が猿、胴が狸、尾が蛇、手足が虎。源頼政に射落とされたと語られます。
一体の中に、四種類の動物が入っている。
牛鬼は牛の頭と蜘蛛の胴を持ち、西日本の海辺と山に伝わります。牛頭馬頭は牛の頭と馬の頭を持つ人身で、地獄で亡者を責める獄卒です。
件は牛から生まれ、人の顔を持ち、予言を残してすぐ死ぬとされました。予言を残して死ぬ獣は、幕末から明治にかけて瓦版で繰り返し取り上げられています。
わいらは特殊です。巨大な牛のような体に鋭い鉤爪を持つと描かれますが、
絵に説明文がついていない。何をするものかわからない。
名と姿だけが残り、正体が説明されないまま伝わった例です。
虫の妖怪|土蜘蛛・絡新婦・大百足 4体
大陸から来た獣と、名前だけの獣 8体
獏は中国から伝わり、日本で悪夢を食べるものと結びつきました。雷獣は落雷とともに落ちてくるとされ、江戸時代にはきわめて知名度が高い妖怪でした。見世物として剥製が出回っています。
すねこすりは雨の夜に足のあいだをこすりながら通り抜ける犬のようなもので、山彦は山で声を返すものです。どちらも、日常の小さな出来事に名を与えたものです。
鉄鼠は園城寺の僧・頼豪の怨霊が化した巨大な鼠で、経典と仏像を食い破りました。
恨みを抱いた人が、獣になる。
犬神は家に憑くとされる犬の霊で、四国と九州に伝えが濃く残ります。この伝えは、特定の家筋への差別を生みました。 妖怪の話が実際の暮らしを傷つけた例として、避けずに書いておきます。
人面犬は1989年から1990年にかけて全国で流行しました。獣の妖怪にも、現代に生まれたものがあります。
獣の妖怪を成り立ちごとに並べる
同じ獣でも、どこから来たかが違います。
| 成り立ち | 代表 | もとになったもの |
|---|---|---|
| 年を経て化ける | 猫又・化け狸・火車 | 実在する動物 |
| 合成された獣 | 鵺・牛鬼・牛頭馬頭 | 複数の動物を組み合わせた姿 |
| 虫 | 土蜘蛛・絡新婦・大百足 | 実在する虫を大きくした姿 |
| 大陸から来た | 獏・狒々 | 中国の書物にある獣 |
| 人が変わった | 鉄鼠 | 僧の怨霊 |
| 現代に生まれた | 人面犬 | 1989年からの噂 |
並べると、獣の妖怪は動物そのものより「化ける仕組み」の話だとわかります。
何年生きると化けるのか。
猫は年を経ると猫又になる、狐は千年で天狐になる。年数を数えるという発想が、獣の妖怪には共通しています。生き物を長く見ていた社会の考え方が、そのまま出ています。
もうひとつ、危険な動物ほど妖怪になっていません。熊や狼の妖怪は、この図鑑の収録のなかにありません。妖怪になっているのは、猫・狸・狐・鼠のように人の暮らしのすぐそばにいた動物です。
近すぎて正体がわからないものが、化ける。
お菊虫のように、実在する虫が怪異と受け取られた記録も残っています。
獣の妖怪についてよくある質問
獣の妖怪にはどんなものがいますか。
猫又・化け狸・ムジナのように動物が年を経て化けたもの、鵺や牛鬼のように複数の動物を組み合わせた姿のもの、獏や狒々のように中国の書物から入ったもの、土蜘蛛や絡新婦などの虫が含まれます。
猫が化けるといわれるのはなぜですか。
長く生きた動物は化ける力を得るという考え方によります。年を経た猫は尾が二股に分かれて猫又になるとされ、死体を奪う火車も年を経た猫が化したものとされました。猫を死者に近づけてはいけないという言い伝えにつながっています。
鵺はどんな姿の妖怪ですか。
頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎とされます。一体の中に四種類の動物が入っており、実在しない組み合わせで作られた獣の代表です。源頼政に射落とされたと語られます。
ムジナとは何の動物ですか。
土地によって違います。アナグマを指す土地もタヌキを指す土地もあり、同じ名前が同じものを指すとは限らない例としてよく取り上げられます。
なぜ熊や狼の妖怪は少ないのですか。
この図鑑の収録では確かに見当たりません。妖怪になっているのは猫・狸・狐・鼠のように人の暮らしのすぐそばにいた動物が中心です。ただし、少ない理由が確かめられているわけではありません。
獣の妖怪の一覧(収録しているすべての妖怪) 127体
本文で取り上げなかったものも含めて、この種別に属する妖怪をすべて並べています。名前を押すと個別ページへ移ります。