猿の頭・虎の胴・蛇の尾を持ち、瓢ヶ岳の沼で藤原高光に射抜かれたと伝わる高賀山の妖魔。

さるとらへびとはどんな妖怪か
さるとらへびは、岐阜県関市の高賀山に伝わる妖魔です。都の子どもをさらい、高賀の村々を恐れさせたのち、朝廷の命を受けた藤原高光と戦います。
猿の頭、虎の胴、蛇の尾を持つ巨体ですが、討伐の場では一群の瓢箪に化けて沼へ隠れました。高光は夢で授かった言葉を手掛かりに、ただ一つ動かない瓢箪を射抜きます。倒された後の物語は、高賀山を囲む六社の始まりへ続きます。
さるとらへびの漢字表記と読み方
「さるとらへび」と読みます。頭の猿、胴の虎、尾の蛇を、そのまま続けた名です。
さるとらへび(さるとらへび)
関市が伝説の紹介に用いる呼び名。
猿虎蛇(さるとらへび)
三つの動物を組み合わせた姿を示す漢字表記。
さるとらへびの姿と特徴
沼から引き上げられた姿は、頭が猿、身体が虎、尾が蛇。身の丈は約三メートルと語られます。人の前へ出るまでは、沼に浮く瓢箪へ姿を変えていました。
さるとらへびの伝承物語
黒い雲が都の子どもをさらう
初夏の都で、御殿の子どもが遊んでいました。空はよく晴れていたのに、突然、黒い雲の塊が現れます。雲は子どもを包み、そのまま北東へ飛び去りました。
武士たちは雲を追い、高賀山へたどり着きます。夏だというのに村の家々は戸を閉ざし、人影もありません。武士が訳を尋ねると、山の魔物が村へ下り、田畑を荒らしていると聞かされました。都の異変と山村の恐怖は、同じ魔物の仕業として結びつきます。山から下りてくる魔物が田畑を荒らすため、人々は外へ出られずにいたのです。
藤原高光が七昼夜の祈りを捧げる
都から呼ばれた藤原高光は、軍勢を率いて高賀山へ入りました。しかし、魔物は山に隠れ、年月を重ねても討ち取れません。
高光は山の麓に宮を建て、七昼夜にわたって勝利を祈ります。人の力だけで追い詰められない相手に、山の神々の助けを求めたのです。すぐに弓を射るのではなく、祈りによって山へ入る道を開くところに、高賀山の信仰と退治譚の結びつきが表れます。祈りを終えると、険しい山道をたどって魔物のいる瓢ヶ岳へ向かいました。
夢の声が「動かぬものを撃て」と告げる
討伐の途中、高光は不思議な夢を見ます。水面とも草原ともつかない場所で、たくさんの瓢箪が揺れていました。そこへ「動かぬものを撃て」という声が響きます。
目覚めた高光は瓢ヶ岳を目指しました。山頂へ近づく途中では、ウナギが道を助けたともいいます。瓢箪の群れは魔物が正体を隠すための仕掛けであり、夢の言葉がなければ本物を見分けられません。やがて沼へ出ると、夢で見た通り、無数の瓢箪が水の上で揺れていました。
一つだけ動かない瓢箪を射抜く
水に揺られる瓢箪の中で、一つだけ動かないものがありました。高光は弓を構え、その瓢箪へ矢を放ちます。
矢が当たった瞬間、山に叫び声が響き、強い風と雷が起こりました。高光は続けて二の矢、三の矢を射ます。静かな水面と瓢箪の化かしは崩れ、山を揺らす戦いへ一変しました。ひるんだ魔物の背へ飛び乗り、ついに息の根を止めました。
沼から猿・虎・蛇の妖魔が現れる
沼から引き上げてみると、瓢箪の中身は別のものでした。猿の頭、虎の身体、蛇の尾を持つ、三メートルほどの妖魔が姿を現します。これが、さるとらへびです。
退治の後、高賀山には再び妖魔が住みつかないよう、高賀神社をはじめ六つの社が建てられたと伝わります。倒した相手の奇怪な姿を語るだけでなく、山を守る場所を残すところまでが物語の結末です。怪物を倒す物語は、山を囲む六社と参詣の道を一つに結びました。
高賀山には二つの退治伝承が残る
高賀山の由緒には、もう一つ古い筋があります。霊亀年間に、姿と鳴き声が牛に似た妖魔が村人を苦しめ、養老元年に藤原高光が退治したという話です。
一方、さるとらへびの物語は天暦年間の出来事として語られます。年代も魔物の姿も食い違います。どちらにも藤原高光と山の祈りが登場しますが、一つの年表へまとめると伝承ごとの差が消えてしまいます。高賀山では、古い開山伝承と、猿・虎・蛇の姿を持つ物語が重なりながら受け継がれています。
さるとらへびの伝承地域
伝承の中心は高賀神社から高賀山・瓢ヶ岳へ続く山域です。地図は物語の舞台となった地域を示します。
高賀山・瓢ヶ岳一帯(こうかさん・ふくべがたけいったい)
さるとらへび退治伝説の舞台
高賀山・瓢ヶ岳一帯の所在地:岐阜県関市洞戸高賀周辺
高賀神社と高賀山六社の由緒に藤原高光の妖魔退治が伝わります。
山岳地帯のため、訪問時は自治体の登山情報と天候を確認してください。
さるとらへびの正体と考えられているもの
さるとらへびは、都の子どもをさらい、瓢箪へ化けて沼に隠れ、藤原高光の矢に倒された高賀山の妖魔です。退治の物語は、高賀山六社の成立と山を巡る信仰の道まで結びます。
さるとらへびをめぐる妖怪のつながり
さるとらへびが登場する作品
さるとらへびは、高賀山の信仰と一組の妖魔です。
退治の後、山には高賀神社をはじめ六つの社が建てられたと伝わります。 怪物を倒す物語が、山を囲む六社と参詣の道を一つに結びました。
高賀山にはもう一つ、牛に似た妖魔を退治する古い筋もあります。年代も姿も食い違うため、一つの年表へまとめると伝承ごとの差が消えてしまいます。
さるとらへびが登場する事典
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さるとらへびについてよくある質問
さるとらへびとはどんな妖怪ですか。
猿の頭・虎の胴・蛇の尾を持つ高賀山の妖魔です。瓢箪へ化けて沼に隠れますが、藤原高光に見破られ、矢を受けて正体を現します。
さるとらへびを退治したのは誰ですか。
朝廷の命を受けて高賀山へ来た藤原高光です。七昼夜祈ったのち、夢の声を手掛かりに、動かない瓢箪を狙って矢を放ちました。
さるとらへびと鵺は同じ妖怪ですか。
別のものです。複数の動物を合わせた姿は似ていますが、さるとらへびは高賀山で藤原高光に、鵺は京都で源頼政に退治されます。
高賀山の妖魔は牛の姿とも伝わりますか。
はい。高賀山の古い開山伝承には、姿と鳴き声が牛に似た妖魔も登場します。年代も姿も、さるとらへびの物語とは異なります。
さるとらへびと併せて覚えたい言葉・用語
高賀山六社(こうかさんろくしゃ)
高賀山を囲む高賀神社・那比新宮神社・那比本宮神社・星宮神社・瀧神社・金峰神社の総称。
瓢ヶ岳(ふくべがたけ)
高賀山の南東に位置し、さるとらへびを射た沼の舞台とされる山。
藤原高光(ふじわらのたかみつ)
高賀山の妖魔を退治した人物として伝説に登場する武将。
さるとらへびの参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。