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滋賀県

鉄鼠(てっそ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

鉄鼠  / テッソ

幽霊と霊獣の妖怪 軍記・物語鳥山石燕の絵

園城寺の僧・頼豪の怨霊が化した巨大な鼠。経典と仏像を食い破った。

鉄鼠の姿を描いた図

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 鉄鼠」 1776年 / パブリックドメイン 出典

鉄鼠とはどんな妖怪か

鉄鼠は、僧頼豪の怨霊とされる妖怪です。

平安時代の園城寺の僧で、鼠にまつわる話が伝わります。

平家物語』によれば、頼豪は「効験があれば思いのままに褒美を取らせる」という白河天皇との約束のもと、皇子の誕生を祈祷し続け、承保元年(1074年)に見事これを成就させました。

褒美として園城寺の戒壇院建立を願い出ましたが、対抗勢力である比叡山延暦寺の横槍のため、叶えられることはありませんでした。

怨んだ頼豪は、自分の祈祷で誕生した皇子を、今度は祈祷で魔道に落とそうと断食に入ります。百日後、悪鬼のような姿に成り果てて死にました。

その後、頼豪の怨念は巨大な鼠と化し、延暦寺の経典を食い荒らしたといいます。

鉄鼠という名は、江戸時代の妖怪画集『画図百鬼夜行』で鳥山石燕が付けたものです。

鉄鼠の漢字表記と読み方

読みは「てっそ」です。鉄の鼠という意味で、鳥山石燕が付けた名です。

それ以前の呼び名も伝わっています。

頼豪鼠(らいごうねずみ) … 『平家物語』の読み本『延慶本』での呼び方です。怨霊となった僧の名をそのまま取っています。

三井寺鼠(みいでらねずみ) … 江戸時代の狂歌絵本『狂歌百物語』での呼び方です。三井寺は滋賀県大津市の園城寺の別名です。

名に「鉄」が入るのは、『太平記』の記述によります。頼豪の怨念は石の体と鉄の牙を持つ八万四千匹もの鼠となった、とあるためです。

平成以降は、京極夏彦の推理小説『鉄鼠の檻』の題名に採用されたことでも知られるようになりました。

鉄鼠(てっそ)

鳥山石燕が『画図百鬼夜行』で付けた名。

頼豪鼠(らいごうねずみ)

『平家物語』の読み本『延慶本』での呼び方。

三井寺鼠(みいでらねずみ)

『狂歌百物語』での呼び方。三井寺は園城寺の別名。

鼠の秀倉(ねずみのほくら)

延暦寺が頼豪を祀った社の名。

鉄鼠の姿と特徴

鉄鼠の姿は、記録によって違います。

『平家物語』の読み本系 … 頼豪の怨念が巨大な鼠と化した、とされます。

『太平記』石の体と鉄の牙を持つ八万四千匹もの鼠となって比叡山を駆け上り、経典ばかりか仏像をも食い破ったとされます。

鳥山石燕『画図百鬼夜行』 … 経巻の上に立つ、牙を剥いた大きな鼠として描かれています。まわりに小さな鼠を従えた姿です。

死ぬ前の頼豪 … 断食して百日後、悪鬼のような姿に成り果てて死んだとされます。皇子の枕元には、白髪の妖しい老僧が現れるようになりました。

一匹の巨大な鼠か、八万四千匹の群れか。記録によって規模がまったく違います。

石の体と鉄の牙という描写が、鉄鼠という名を生みました。経典も仏像も食い破るという点で、ふつうの鼠とは別の存在として描かれています。

鉄鼠の伝承物語

  1. 約束が破られた ─ 頼豪の怨み
  2. 百日の断食 ─ 悪鬼となって死ぬ
  3. 八万四千匹 ─ 太平記の描写

約束が破られた ─ 頼豪の怨み

鉄鼠の物語は、約束が破られたところから始まります。

平安時代、園城寺の僧頼豪は、白河天皇からこう言われました。効験があれば、思いのままに褒美を取らせる。

頼豪は皇子の誕生を祈祷し続け、承保元年(1074年)十二月十六日、見事にこれを成就させました。

頼豪が願い出た褒美は、園城寺の戒壇院建立でした。戒壇院とは、僧が正式な僧になるための儀式を行う施設です。これを持つことは、寺にとって独立を意味しました。

ところが、叶えられませんでした。

理由は、対抗勢力である比叡山延暦寺の横槍です。延暦寺は、園城寺が戒壇院を持つことを許しませんでした。

約束を果たしたのに、褒美は与えられない。しかも、その理由は寺どうしの争いでした。

怨んだ頼豪は、恐ろしいことを始めます。自分の祈祷で誕生した皇子を、今度は祈祷で魔道に落とそうと断食に入ったのです。

百日の断食 ─ 悪鬼となって死ぬ

頼豪は断食に入りました。『太平記』は、その百日をこう書きます。

頼豪是を忿て、百日の間髪をも不剃爪をも不切、炉壇の烟にふすぼり、嗔恚の炎に骨を焦て、我願は即身に大魔縁と成て、玉体を悩し奉り、山門の仏法を滅ぼさんと云ふ悪念を発して、遂に三七日が中に壇上にして死にけり。

その頃から、敦文親王の枕元に妖しい白髪の老僧が現れるようになります。

白河天皇は頼豪の呪詛を恐れて祈祷にすがりましたが、効果はありませんでした。

敦文親王は、わずか四歳でこの世を去りました。

自分の祈りで生まれた子を、自分の祈りで殺す。これが頼豪の復讐でした。

そして、話はさらに続きます。

『平家物語』の読み本である『延慶本』『長門本』、その異本である『源平盛衰記』などによれば、その後、頼豪の怨念が巨大な鼠と化し、延暦寺の経典を食い荒らしました。

以来、大きな鼠を「頼豪鼠」と呼ぶようになったといいます。

八万四千匹 ─ 太平記の描写

軍記物語『太平記』の描写は、さらに大きなものです。

其後頼豪が亡霊忽に鉄の牙、石の身なる八万四千の鼠と成て、比叡山に登り、仏像・経巻を噛破ける間、是を防に無術して、頼豪を一社の神に崇めて其怨念を鎮む。

八万四千は、仏教でよく使われる数です。「数え切れないほど多い」という意味を持ちます。

石の体と鉄の牙。 これはもはや生き物ではありません。

経典を食い破ることには意味があります。経典は、寺の力の源です。 それを食い破るということは、延暦寺の力そのものを削ぐことにほかなりません。

仏像まで食い破ったというのは、さらに徹底しています。

江戸後期の読本作者曲亭馬琴は、この伝説を踏まえて『頼豪阿闍梨恠鼠伝』を著しました。

寺どうしの争いから、日本でもっとも有名な鼠の妖怪が生まれました。

鉄鼠の伝承地域

鉄鼠の伝承地は、滋賀県大津市の園城寺(三井寺)です。頼豪がいた寺であり、物語の出発点です。

物語のもう一方の舞台は比叡山延暦寺(滋賀県大津市坂本本町)です。頼豪の怨念が経典を食い荒らしたとされる寺です。

延暦寺は東坂本に社を築いて頼豪を神として祀り、その社は「鼠の秀倉」の名で伝えられました。ただし、この社の現在の所在を確かめられませんでした。 確かめられなかったものを、訪ねられるように書くことはしません。

なお、園城寺と延暦寺は、いずれも現在も信仰の場です。 鉄鼠の物語を目当てに訪ねる場所ではないことを、念のため書き添えます。

園城寺(三井寺)(おんじょうじ(みいでら))

頼豪がいた寺

地図で開く

園城寺(三井寺)の所在地:滋賀県大津市園城寺町

琵琶湖の南西、大津にある古い寺です。三井寺の名でも広く知られます。

頼豪はこの寺の僧でした。園城寺の戒壇院建立を願い出て叶えられなかったことが、鉄鼠の物語の出発点です。

園城寺と比叡山延暦寺の争いは、この一件に限りません。平安時代を通じて、両寺は激しく対立しました。 園城寺は幾度も焼き討ちに遭っています。

近江八景のひとつ「三井の晩鐘」で知られる鐘があります。この鐘には、俵藤太が龍宮から得たものだという伝説も伝わります。

広い境内を持つ。国宝の金堂がある。

鉄鼠の正体と考えられているもの

鉄鼠の正体については、物語の背景から考えるのが確実です。

まず、頼豪は実在の僧です。 そして、園城寺と延暦寺の対立も史実です。平安時代を通じて、両寺は激しく争いました。 園城寺は幾度も焼き討ちに遭っています。

一つめは、寺どうしの争いの記憶です。園城寺が戒壇院を持てなかったことは、実際にあった出来事です。その無念が、怨霊譚として語られました。

二つめは、鼠という選び方です。なぜ鼠なのか。経典を食い荒らすのは、実際には鼠です。 寺の蔵で経典が損なわれることは、日常的に起こりました。

その被害に、怨霊という説明が与えられました。

三つめは、皇子の死です。敦文親王が幼くして亡くなったことは事実です。原因のわからない幼児の死に、呪詛という説明が与えられました。

四つめは、祀ることによる鎮めです。延暦寺は頼豪を神として祀りました。怨みを持って死んだ者を神として祀り、鎮める。これは日本で繰り返し行われてきた方法です。菅原道真と同じ形です。

鉄鼠が何であったかは、はっきりしています。 寺の争いと、経典を食う鼠と、幼い皇子の死。この三つが結びついたものです。

鉄鼠をめぐる妖怪のつながり

鉄鼠が登場する作品

鉄鼠は、名前の力で残った妖怪です。石燕が付けた「鉄鼠」という二文字が、石の体と鉄の牙という『太平記』の描写を凝縮しています。

平成以降は、京極夏彦の小説『鉄鼠の檻』の題名によって広く知られるようになりました。題名として使われることで妖怪が知られるという例です。

鉄鼠が登場する古典

平家物語

頼豪が皇子の誕生を祈祷し、褒美を得られず怨んで死ぬまでが語られます。

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延慶本・長門本・源平盛衰記

『平家物語』の読み本や異本です。怨念が巨大な鼠と化す後日談が載ります。

太平記

石の体と鉄の牙を持つ八万四千匹の鼠となったと記します。

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画図百鬼夜行

鳥山石燕が「鉄鼠」の名を付け、経巻の上に立つ鼠として描きました。

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鉄鼠が登場する読本・小説

頼豪阿闍梨恠鼠伝

曲亭馬琴の読本です。頼豪の伝説を踏まえて書かれました。

鉄鼠の檻

京極夏彦の推理小説です。題名に採用されたことで、鉄鼠の名が広く知られました。

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鉄鼠が登場する漫画・アニメ・ゲーム

ゲゲゲの鬼太郎

鉄鼠が登場する回があります。

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女神転生シリーズ

日本の妖怪の一体として実装されています。

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妖怪ウォッチ

鉄鼠を下敷きにした妖怪が登場します。

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鉄鼠についてよくある質問

鉄鼠とは何ですか。

平安時代の園城寺の僧・頼豪の怨霊が化した巨大な鼠です。延暦寺の経典を食い荒らしたとされます。

なぜ頼豪は怨んだのですか。

白河天皇の約束のもと皇子の誕生を祈祷して成就させたのに、褒美として願い出た園城寺の戒壇院建立が、延暦寺の横槍で叶えられなかったためです。

八万四千匹というのは本当ですか。

『太平記』の記述です。八万四千は仏教でよく使われる数で、「数え切れないほど多い」という意味を持ちます。

「鉄鼠」という名はいつ付いたのですか。

江戸時代です。鳥山石燕が『画図百鬼夜行』で付けました。それ以前は頼豪鼠、三井寺鼠などと呼ばれていました。

鉄鼠に会える場所はありますか。

頼豪がいた滋賀県大津市の園城寺(三井寺)が、物語の出発点です。ただし現在も信仰の場であり、怪異を目当てに訪ねる場所ではありません。

鉄鼠と併せて覚えたい言葉・用語

園城寺(おんじょうじ)

滋賀県大津市の寺。三井寺とも呼ばれる。頼豪がいた寺。

戒壇院(かいだんいん)

僧が正式な僧になるための儀式を行う施設。持つことは寺の独立を意味した。

鼠の秀倉(ねずみのほくら)

延暦寺が東坂本に築き、頼豪を神として祀った社。

八万四千(はちまんしせん)

仏教でよく使われる数。数え切れないほど多いという意味。