病や災いをもたらし、人々が儀礼によって追い払おうとした害ある鬼の総称。

葛飾北斎 「北斎漫画 節分の鬼」 文化年間 / パブリックドメイン 出典
悪鬼とはどんな妖怪か
悪鬼は、害をなす側の鬼をまとめた呼び名です。
目に見えない疫鬼、仏法の敵、物語で人を襲う鬼。一体の名ではなく、役の名です。
悪鬼の漢字表記と読み方
「あっき」と読みます。「悪」は害をなす性質、「鬼」は人知を越えた異形の存在を表し、固有名ではなく分類の言葉として使われます。
悪鬼(あっき)
人へ害を及ぼす鬼を表す基本表記。
疫鬼(えきき)
疫病をもたらすと考えられ、追儺で追われた鬼。
悪魔悪鬼(あくまあっき)
仏法や人を害するものを重ねて表す言葉。
悪鬼の姿と特徴
悪鬼に、決まった姿はありません。
追儺の面では、突き出た角、見開いた目、大きく開いた口で災いの恐ろしさを形にします。
一方、疫鬼のように姿の見えないまま病を運ぶものも悪鬼と呼ばれました。見えるものと見えないものが、同じ名で並んでいます。
悪鬼の伝承と変遷
- 目に見えない病を、疫鬼の仕業と考える
- 宮中の追儺で、疫鬼を都の外へ追う
- 鬼を追う方相氏が、追われる鬼へ変わる
- 鬼面が、災いの顔を形にする
- 恐ろしい鬼面でも、悪鬼とは限らない
- 方相氏が戈で追い出す ─ 追儺の悪鬼
目に見えない病を、疫鬼の仕業と考える
病が次々に人へ移り、町や村へ広がっても、昔の人には原因を見ることができませんでした。そこで疫病は、外からやって来る疫鬼がもたらす災いとして恐れられます。
悪鬼という呼び名は、こうした害をなす力へ輪郭を与えます。相手を鬼として捉えることで、人々は追い払うための儀礼を組み立てました。
宮中の追儺で、疫鬼を都の外へ追う
日本の宮中では、八世紀初めには追儺が行われました。年の終わりに疫鬼を追い、その年の病と災いを外へ送り出す儀礼です。
中心に立つ方相氏は、面を着け、矛と盾を持って進みます。大勢が声と武器を合わせ、目に見えない疫鬼を宮中から都の外へ追い立てました。
鬼を追う方相氏が、追われる鬼へ変わる
方相氏は、もとは疫鬼を追う側でした。ところが平安時代の終わりごろになると、恐ろしい面と姿を持つ方相氏自身が鬼のように見られ、追われる役へ変わっていきます。
見えない悪鬼を追う儀礼は、目に見える鬼を追う場面へ移りました。追う者と追われる者が入れ替わることで、災いの姿は観衆にも分かりやすくなります。
鬼面が、災いの顔を形にする
鎌倉時代には、追儺に用いた鬼面が作られました。角、険しい目、牙や大きな口は、病や不幸の恐ろしさを、一つの顔へ集めています。
文化遺産オンラインには、十四世紀の木造彩色の追儺面が残ります。人が身に着けられる面になったことで、悪鬼は儀礼の場を動き、追う側と向き合う役を演じられるようになりました。
人々は面を着けた鬼を追うことで、新しい年へ災いを持ち越さないよう願いました。のちに豆を打ち、「鬼は外、福は内」と唱える節分の形が広がります。
恐ろしい鬼面でも、悪鬼とは限らない
鬼の面を着けた来訪者の中には、家々を訪れて怠けを戒め、年の実りや福をもたらす存在もいます。見た目が恐ろしいだけで、人へ害をなす悪鬼になるわけではありません。
悪鬼という言葉が示すのは、角や牙ではなく働きです。病や災いを持ち込む側なのか、それを退け、暮らしを立て直す側なのか。鬼の役割は、物語と儀礼の中で決まります。
方相氏が戈で追い出す ─ 追儺の悪鬼
悪鬼は、追い出される相手として記録に残りました。南方熊楠が中国の追儺の様子を引いています。
方相氏は黄金の四目あり、熊皮を蒙り、玄裳朱衣して戈を執り盾を揚ぐ、十二獣は毛角を衣るあり、中黄門これを行う、冗縦僕財これを将いて以て悪鬼を禁中に逐う
(方相氏=追儺で鬼を追う役。玄裳朱衣=黒い裳に赤い衣)
金色の四つ目、熊の皮、戈と盾。 追う側のほうが、よほど恐ろしい姿をしています。
しかも、名指しで脅します。
悪鬼輩速やかに逃げ去らずば、甲作より騰眼に至る十二神が食ってしまうぞ
悪鬼を食う神を十二体そろえて、名前を読み上げる。 これが大晦日の宮中で行われました。日本の追儺と節分の豆まきは、この行事が渡ってきたものです。
悪鬼の伝承地域
悪鬼は一地点の妖怪ではなく、仏教・中国由来の観念や宮中儀礼、各地の鬼の物語に広く現れる分類語です。代表地を作る地図は置きません。
悪鬼の正体と考えられているもの
悪鬼の正体は、害の原因に付けられた名です。
一つめは、病。目に見えないまま人を倒すものを疫鬼と呼びました。追儺で追い出されるのはこの鬼です。
二つめは、仏法の敵。経典では、修行を妨げるものが悪鬼として現れます。
三つめは、物語の相手役。討たれるために置かれる鬼です。
この三つに共通するのは、「悪」が役であって種類ではないことです。 同じ鬼が、季節の境には福を運ぶ来訪者にもなります。
追う側の方相氏のほうが恐ろしい姿をしている。 悪鬼という名は、そういう入れ替わりを含んだまま使われてきました。
悪鬼をめぐる妖怪のつながり
悪鬼が登場する作品
悪鬼は、姿を持たなかった時代の鬼です。
古い記録の鬼には、角も牙もありません。人を一口に食い、痕跡だけを残して消えます。 『今昔物語集』の鬼一口も、その一つです。
角と虎の皮という姿は、後から加わりました。悪鬼という言い方は、姿より働きで呼んでいた頃の名残です。
悪鬼が登場する古典
悪鬼が登場する事典
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悪鬼についてよくある質問
悪鬼とは何ですか。
人へ病や災いを及ぼす鬼をまとめた呼び名です。一体の固有名ではなく、疫鬼や物語の鬼など、害をなす働きを持つ側を示します。
悪鬼と鬼は同じですか。
鬼はより広い呼び名です。そのうち人へ害をなす側を悪鬼と呼び、恐ろしい姿でも福をもたらす来訪者は区別されます。
追儺では誰が悪鬼を追いましたか。
もとは面を着けた方相氏が、矛と盾を持って疫鬼を追いました。のちに方相氏自身が鬼役として追われる形へ変わります。
節分の豆まきと悪鬼は関係がありますか。
関係があります。疫鬼を追う宮中の追儺が変化し、豆を打って鬼を外へ追い、「鬼は外、福は内」と唱える節分の習俗へつながりました。
悪鬼と併せて覚えたい言葉・用語
疫鬼(えきき)
疫病をもたらすと考えられた鬼。
追儺(ついな)
年の終わりに疫鬼や災いを追い払う儀礼。
方相氏(ほうそうし)
面を着け、矛と盾を持って疫鬼を追う役。後には鬼として追われる側にもなりました。
悪鬼の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。