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岩手県

吉浜のスネカとはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

吉浜のスネカ  / よしはまのスネカ

人型の妖怪神になった妖怪 各地の伝説

小正月の晩、岩手県大船渡市吉浜の家々を訪れ、囲炉裏で怠けた者の脛の皮を剥ぎに来る来訪神。

吉浜のスネカの姿を描いた図

Searobin 「碁石海岸の恵比寿浜(岩手県大船渡市)」 2005年 / CC BY-SA 3.0 出典

吉浜のスネカとはどんな妖怪か

スネカは、脛の皮を剥ぎに来る神です。

岩手県大船渡市三陸町吉浜。毎年1月15日の晩、鬼とも獣ともつかない面をかぶり、をまとった者が家々を訪れます。

名の由来は、大船渡市の説明がはっきり書いています。

冬の間、囲炉裏にあたって火斑ができた怠け者の「脛皮(すねかわ)」を「たくる(剥ぎ取る)」ことから来ています

火斑は、火にあたりすぎた脛にできる赤い斑です。働かずに囲炉裏の前にいた証拠として、それが見られました。

腰にアワビの殻を下げ、を背負い、身を屈めて鼻を鳴らしながら歩きます。2004年に国の重要無形民俗文化財、2018年にはユネスコ無形文化遺産となりました。

吉浜のスネカの漢字表記と読み方

スネカ」と読みます。文化財としての名称は「吉浜のスネカ」です。

もとの言い方は「スネカワタグリ」でした。脛皮(すねかわ)たくる、つまり剥ぎ取る。行いがそのまま名になっています。

三陸の沿岸には、似た来訪神が並びます。宮古のナモミ、秋田のナマハゲどれも「なもみ」「火斑」を剥ぐという同じ一点で名が付いています。

「なもみ」は火斑を指す方言です。ナマハゲの名も、この「なもみ」を「剥ぐ」から来たとされます。

スネカ(すねか)

もっとも一般的な表記。

スネカワタグリ(すねかわたぐり)

元の言い方。脛皮をたくる(剥ぎ取る)の意。

吉浜のスネカ(よしはまのすねか)

文化財としての正式名称。

スネカタクリ(すねかたくり)

近隣で使われる言い方。

吉浜のスネカの姿と特徴

スネカの姿には、四つの決まりがあります。

… 鬼とも獣ともつかない顔。角があり、牙があり、鼻が高い。土地の作り手によって表情が違います。
… 藁で編んだものを全身にまといます。
アワビの殻 … 腰に下げます。歩くたびに音が鳴ります。
… 背中に負います。

そして、歩き方まで決まっています。大船渡市の説明はこうです。

アワビの殻を腰にぶら下げ、俵を背負い、身を屈めて鼻を鳴らしながら歩く

身を屈める。鼻を鳴らす。 立って歩かないところが、人ではないことのしるしです。

俵の中身は、さらった子だとも語られます。

吉浜のスネカの伝承物語

  1. 一月十五日の晩、戸を叩く
  2. 訪れるとは音を立てること ─ 折口信夫の読み
  3. 海の彼方から年に一度来る ─ まれびと
  4. 怠けた脛に印が残る ─ 戒めの仕組み
  5. ユネスコの十件に入る ─ 来訪神として

一月十五日の晩、戸を叩く

スネカが来るのは、小正月の晩です。

文化庁の指定説明はこう書いています。

奇怪な面を着け、藁蓑などをまとったスネカと呼ばれる異装の者が小正月の夜に地区内の家々を訪れて

訪れる先は、地区内の家々。子どものいる家に上がり込み、怠け者や泣く子を戒めます

戸を叩き、アワビの殻を鳴らして入ってくる。子どもは泣き、親はその年の行いを申し立てます。 悪いことをしていないと親が請け合えば、スネカは去ります。

訪れるとは音を立てること ─ 折口信夫の読み

折口信夫は、この「戸の音」に神の来訪の本義を見ました。

現実に、古代の村人は、此まれびとの来つて、屋の戸を押ぶるおとづれを聞いた。音を立てると言ふ用語例のおとづるなる動詞が、訪問の意義を持つ様になつたのは、本義「音を立てる」が戸の音にばかり偏倚したからの事で

(おとづる=音を立てる。偏倚=かたよる)

「訪れる」という言葉は、もともと「音を立てる」でした。 神が来たことは、戸の鳴る音で知られた のです。

スネカが腰に下げるアワビの殻は、その音を担っています。歩けば鳴り、近づけば大きくなる。姿を見る前に、音が来ます。

海の彼方から年に一度来る ─ まれびと

スネカは、外から来る神です。

折口信夫は、この型の神を「まれびと」と呼びました。

まれびとの最初の意義は、神であつたらしい。時を定めて来り臨む神である。大空から、海のあなたから、或村に限つて、富みと齢と其他若干の幸福とを齎して来るものと、村人たちの信じてゐた神の事なのである。

(齎す=もたらす。齢=寿命)

時を定めて来る。村を限って来る。富と寿命を持ってくる。 スネカの訪れは、この三つをすべて満たしています。

折口は、その古い形も書きました。

古い形では、海のあなたの国から初春毎に渡り来て、村の家々に一年中の心躍る様な予言を与へて去つた。

吉浜は三陸の海に面した集落です。腰に下げるのがアワビの殻であることも、この神が海の側から来るものだ という読みに重なります。

怠けた脛に印が残る ─ 戒めの仕組み

スネカが見るのは、です。

冬の東北で、囲炉裏は暖の中心でした。そこに長くあたっていると、脛の皮に赤い斑ができます。これを火斑(なもみ)といいます。

働いた者の脛には、この印が付きません。 外で仕事をしていたからです。

一年の働きぶりが、体に残る。 スネカはそれを剥ぎに来ます。子どもを脅す行事に見えて、仕組みは大人にも同じように効いています。

秋田のナマハゲも、この「なもみ」を剥ぐことから名が付いたとされます。宮古のナモミも同じです。

三陸から男鹿にかけて、同じ一点を見る神が並んでいます。 囲炉裏のある暮らしが、この神々を生みました。

ユネスコの十件に入る ─ 来訪神として

吉浜のスネカは、二度、公に位置づけられました

2004年2月6日、国の重要無形民俗文化財に指定されます。

2018年11月29日、ユネスコ無形文化遺産「来訪神:仮面・仮装の神々」に登録されました。全国8県10件の行事がまとめて登録され、スネカはその一つです。

同じ枠に入るのは、秋田の男鹿のナマハゲ、石川の能登のアマメハギ、鹿児島の甑島のトシドンなど。別々の土地で別の名を持つ神が、一つの型として認められました。

登録は、行事が続いていることの証明でもあります。 面を作る人、蓑を編む人、役を務める若者。担い手がいなくなれば、その年から途切れます。

吉浜のスネカの伝承地域

スネカが訪れるのは、大船渡市三陸町吉浜の家々です。

個人の住宅を回る行事なので、勝手に見に行く場所ではありません。見学を希望する場合は、大船渡市教育委員会へ問い合わせてください。

近年は地区外の親子を招く試みも行われています。開催日は毎年1月15日ですが、その年の事情で変わることがあります。

吉浜地区(よしはまちく)

スネカが訪れる集落

地図で開く

吉浜地区の所在地:岩手県大船渡市三陸町吉浜

三陸海岸に面した集落です。毎年1月15日の晩、スネカがこの地区内の家々を訪れます。

三陸鉄道リアス線の吉浜駅が最寄りです。集落は湾に沿って広がり、背後にすぐ山が迫ります。

明治と昭和の津波で高台へ移転した歴史があり、「吉浜の奇跡」と呼ばれる集落としても知られています。

三陸鉄道リアス線 吉浜駅。行事の見学は大船渡市教育委員会へ要確認。

吉浜のスネカの正体と考えられているもの

スネカの正体は、年の変わり目に来る外の者です。

一つめは、暦の区切り。小正月は、年が改まる節目にあたります。折口信夫のいう「時を定めて来り臨む神」が現れるのは、この境目です。

二つめは、海。吉浜は三陸の海に面し、スネカは腰にアワビの殻を下げます。海の彼方から来るものだという古い形が、持ち物に残っています。

三つめは、暮らしの点検。囲炉裏の前で冬を過ごしたかどうかが、脛の皮に出る。神は、その一点だけを見に来ます。

面をかぶるのは、村の若者です。顔を隠した瞬間、隣の家の若者が神になる。 来訪神の行事は、この入れ替わりで成り立っています。

恐ろしいのは面ではなく、一年を見られていることのほうです。

吉浜のスネカをめぐる妖怪のつながり

吉浜のスネカが登場する作品

吉浜のスネカは、いまも毎年行われている行事です。

本で読むより、一月十五日の晩に大船渡市三陸町吉浜で見るほうが早いものです。 国の重要無形民俗文化財であり、ユネスコ無形文化遺産「来訪神:仮面・仮装の神々」十件の一つでもあります。

折口信夫の「まれびと」論は、なぜ神が外から来て、また帰るのかを考えるための道具になります。

吉浜のスネカが登場する研究

折口信夫『古代研究』

年に一度、海の彼方から訪れる神を「まれびと」と呼んだ論。スネカの訪れ方を読むときの下敷きになります。

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綜合日本民俗語彙

各地の民俗語を集めた辞典。スネカ・スネカワタグリ・火斑といった語が引けます。

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吉浜のスネカが登場する古典・記録

遠野物語

柳田国男が佐々木喜善から聞き書きした岩手の伝承集。スネカそのものは出ませんが、同じ県の冬の暮らしと信仰が読めます。

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吉浜のスネカが登場する漫画・アニメ

妖怪をまとめて扱う作品

来訪神として、秋田のナマハゲと並べて取り上げられます。

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吉浜のスネカについてよくある質問

スネカとはどんな妖怪ですか。

岩手県大船渡市吉浜に伝わる来訪神です。毎年1月15日の晩、鬼とも獣ともつかない面をかぶり蓑をまとった者が家々を訪れ、怠け者や泣く子を戒めます。

スネカという名前の由来は何ですか。

「スネカワタグリ」を縮めた名です。囲炉裏にあたってばかりいると脛に火斑ができ、その脛皮をたくる(剥ぎ取る)ことから来ています。

スネカとなまはげは同じですか。

同じ型の来訪神です。どちらも「なもみ」(火斑)を剥ぐことから名が付いたとされます。2018年にユネスコ無形文化遺産「来訪神:仮面・仮装の神々」へまとめて登録されました。

スネカは何を持っていますか。

腰にアワビの殻を下げ、俵を背負います。身を屈め、鼻を鳴らしながら歩きます。俵の中身はさらった子だとも語られます。

スネカはいつ見られますか。

毎年1月15日の晩です。個人の住宅を回る行事のため、見学を希望する場合は大船渡市教育委員会へ問い合わせてください。

吉浜のスネカと併せて覚えたい言葉・用語

火斑(なもみ)

火にあたりすぎた脛にできる赤い斑。怠けた証拠とされた。

小正月(こしょうがつ)

一月十五日。来訪神の行事が集まる日。

まれびと(まれびと)

折口信夫の用語。時を定めて外から訪れ、富をもたらす神。

来訪神(らいほうしん)

年の節目に外から村を訪れる神。2018年にユネスコ無形文化遺産へ登録。

吉浜のスネカの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 文化遺産オンライン「吉浜のスネカ」
  2. 大船渡市「ユネスコ無形文化遺産 吉浜のスネカ」
  3. 大船渡市「国指定文化財の紹介」
  4. 青空文庫 折口信夫「古代生活の研究」