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鹿児島県

ケンムンとはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

ケンムン  / ケンムン

山の妖怪水の妖怪 各地の伝説

奄美群島に伝わる妖怪。ガジュマルの木に住み、河童とも木の精ともいわれる。

ケンムンの姿を描いた図

名越左源太 「南島雑話 ケンモン」 1850年ごろ / パブリックドメイン 出典

ケンムンとはどんな妖怪か

ケンムンは、ガジュマルの木に住む奄美の妖怪です。

ケンモン」とも呼ばれます。土地ごとに違いはあるものの、おおむね河童や沖縄のキジムナーと共通する外観や性質が伝えられています。

古くは江戸末期の文献『南島雑話』に「水蝹」と記されました。相撲好きで人に逢えば挑戦するとされ、頭に皿があって河童と同じ姿で描かれています。

ケンムンは水の精でありながら、同時に木の精でもあります。 海にも山にも目撃され、これは季節によって住む場所を変えるためといわれます。

ガジュマルの木を切ると祟られ、目を病むと恐れられました。

昔は人を助ける穏やかな存在でした。 それが幕末の頃から、危険で避けるべきものへと変わっていきます。

ケンムンの漢字表記と読み方

読みは「ケンムン」または「ケンモン」です。

名は「化け物」「怪の物」の訛りとされ、得体の知れない霊的な存在を意味しています。

沖永良部島では「ヒーヌムン」、つまり木の者と呼びます。別名としてクンモンクンムネブザワともいいます。

一説によれば、本来この妖怪の名は仮名では正しく書き表せない発音であるため、仮に「ケンムン」という表記を当てているともいわれます。

つまり、いま使われている名は近似にすぎない可能性があります。

土地の言葉をそのまま文字にすることの難しさが、この名に表れています。

ケンムン(けんむん)

もっとも一般的な書き方。

ケンモン(けんもん)

同じものを指す別の呼び方。

水蝹(けんもん)

『南島雑話』での表記。

ケンムンの姿と特徴

ケンムンの姿には、細かい伝えが残っています。

脚と腕 … 体に不釣り合いなほど細長い。膝を立てて座ると頭より膝のほうが高くなる。先端は杵のような形。
… 皿があり、力水または油を蓄えている。
大きさ … 子どもの身の丈ほど。
顔つき … 犬、猫、猿に似る。目は赤く鋭い。口は尖っている。
… 黒または赤のおかっぱ頭。
… 赤みがかった色。全身に猿のような体毛がある。
匂い … 体臭は山芋の匂いに似る。涎は悪臭を放つ。

涎が青く光るのは燐の成分によるといわれます。

ケンムンは発光する、または怪しい灯りをともすとされます。涎が光るためとも、指先に火をともすためとも、頭の皿が光るためとも説明されます。

海にも山にも現れるこの光は「ケンムン火」「ケンムンマチ」と呼ばれます。

さらに、姿を変える力も持ちます。見た相手の姿に変化したり、馬や牛に化けたり、周囲の植物に化けたり、姿を消したりできるといわれます。

ケンムンの伝承物語

  1. ガジュマルの木と、目を病む祟り
  2. カタツムリを丸めて食べる
  3. 相撲と、皿の水をこぼさせる知恵
  4. 助けた漁師が宝物をもらう
  5. ケンムンはどこから来たのか
  6. 殺人者が罰せられた姿という説
  7. 島から姿を消していく
  8. アメリカへ渡って祟った

ガジュマルの木と、目を病む祟り

ケンムンはガジュマルの木を住処としており、木の精霊ともいわれます。

そのため、この木を切ると祟られると恐れられました。

ケンムンの祟りに遭うと目を病んでしまいます。 目を突かれたように腫れ上がり、失明寸前になることもあるといいます。命を落とすこともあるとされました。

食べ物についても細かい伝えがあります。

魚や貝を食料としており、漁が好きです。夜になると海辺に現れ、指に灯りをともして岩間で漁をします。夜に漁に出た人が鉢合わせすることもありました。

特に魚の目玉を好みます。 漁師が魚を捕りに行くとなぜかよく捕れたが、どの魚も目玉を抜かれていた、という話もあります。

カタツムリを丸めて食べる

カタツムリやナメクジも食べます。カタツムリは殻を取って、餅のように中身を丸めて食べるといいます。

ケンムンの住んでいる木の根元には、カタツムリの殻や貝殻が大量に落ちていると伝えられます。

嫌うものもはっきりしています。ギブ、つまりシャコガイです。

ケンムンを追い払うには蛸を投げつけるか、嘘でも何か別の物を蛸と称して投げるか、投げると脅すと効き目があるとされます。

また、悪口を言われることを嫌います。山の中で「臭い」と言ったり、屁のことを話したりするのも嫌がるといいます。

相撲と、皿の水をこぼさせる知恵

ケンムンは相撲好きです。この習性は河童やキジムナーと共通します。

そして河童と同じく、皿の水が抜けると力を失います。

そこから、人の側にも知恵が伝わっています。

相撲を挑まれた際に、逆立ちをしたり礼をしてみせると、ケンムンもそれを真似るので、皿の中身がこぼれて退散するというものです。

相手が真似をする性質を利用するわけです。

ケンムンは本来、穏やかな性格で、人に危害を与えることはないとされていました。

薪を運んでいる人間をケンムンが手伝った話も残ります。

助けた漁師が宝物をもらう

蛸にいじめられているケンムンを助けた漁師が、そのお礼に籾を入れなくても米が出てくる宝物をもらったという話もあります。

加計呂麻島では、よく老人が口でケンムンを呼び出して子供に見せたといいます。

呼び出せる相手だったわけです。

しかし、こうした穏やかな伝えは、すでに幕末の頃から失われつつありました。

時代を経るにつれ、ケンムンは一転して危険で避けるべき存在となります。木運びを手伝うといった話は、語り継がれなくなっていきました。

ケンムンはどこから来たのか

ケンムンの由来を語る話は数多くあります。福田晃が挙げた型のほか、次のようなものが伝わります。

蛸にいじめられて樹上に移った

月と太陽のあいだに生まれたケンムンは、庶子だったので天から追放され、はじめ岩礁に住まわされました。しかし蛸にいじめられたので、太陽に新しい住処を求めたところ、密林のなかで暮らせと諭され、ガジュマルの木に住まいを求めるようになったといいます。

ケンムンが蛸を嫌う理由は、この話で説明されます。

藁人形の化身

ある女性が、大工の神であるテンゴに求婚されました。女性は結婚の条件として、六十畳もの屋敷を一日で作ることを求めます。テンゴは二千体の藁人形に命を与え、屋敷を作り上げました。この藁人形たちが後に山や川に住み、ケンムンとなったといいます。

殺人者が罰せられた姿という説

殺人者が罰せられた姿

ネブザワという名の猟師が仲間の猟師を殺し、その妻に求愛しました。真相を知った妻は彼を山奥へ誘い込み、釘で木に打ちつけます。ネブザワは助けられたものの、殺人の罰として半分人間・半分獣の姿に変えられました。全身に毛が生え、手足がやたら細長い姿になり、昼間は暗がりに隠れ、夜だけ出歩くようになったといいます。

孤児の姉弟

山へススキ刈りに行かされて難儀していた姉弟に、老人が山・川・海に季節ごとに暮らせと指示し、二人をケンムンと名付けたという話です。

虐げられた嫁

嫁いびりにあい、五寸釘でガジュマルの木に打ち付けられた女性がなった、というものです。

島から姿を消していく

第二次世界大戦以後、ケンムンはそれまでに比べてあまり目撃されなくなりました。

その大きな要因は、近年の乱開発によってガジュマルなどの住処を失ったためといわれています。

住む木が無くなれば、住むものもいなくなる。理屈としてはたいへん分かりやすいものです。

この時期のことを伝える、印象深い話が残っています。

奄美大島に仮の刑務所が作られる際、多くのガジュマルが伐採されました。島民はケンムンの祟りを恐れ、自分の意思ではないと示すため、指示を出した占領軍の総司令官の名を叫びながら伐採したといいます。

アメリカへ渡って祟った

後にその人物がアメリカで亡くなった際、島民は「ケンムンがいなくなったのは、アメリカに渡って祟っていたためだ」と話しました。

そしてしばらく後にまたケンムンが現れ始め、「ケンムンがアメリカから帰って来た」と噂が立ったそうです。

この話には、島の人々がケンムンをどう捉えていたかがよく表れています。

祟りは本当に恐ろしい。しかし、木を切らないわけにはいかない。その板挟みのなかで生まれた工夫が、名を叫ぶという行いでした。

ケンムンは、島の暮らしのすぐ隣にいる存在でした。

ケンムンの伝承地域

ケンムンの伝承地は、鹿児島県の奄美群島です。

なかでも奄美大島に伝承がもっとも豊かに残り、加計呂麻島には老人がケンムンを呼び出して子供に見せたという話が伝わります。沖永良部島では「ヒーヌムン」と呼ばれます。

住処はガジュマルの木とされ、特定の場所ではなく、その木のあるところならどこにでもいるものとして語られてきました。

ケンムンを祀る社は確かめられませんでした。

奄美大島(あまみおおしま)

ケンムンの伝承の中心地

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奄美大島の所在地:鹿児島県奄美市ほか

ケンムンの伝承がもっとも豊かに残る島です。

ガジュマルの木を住処とするとされ、その木の根元にはカタツムリの殻や貝殻が大量に落ちているといわれます。

海にも山にも現れ、季節によって住む場所を変えるとされます。

戦後は乱開発によってガジュマルが失われ、目撃も減ったといわれます。

ガジュマルの木は島の各地にあります。

加計呂麻島(かけろまじま)

老人がケンムンを呼び出したという島

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加計呂麻島の所在地:鹿児島県大島郡瀬戸内町

よく老人が口でケンムンを呼び出して子供に見せたと伝えられる島です。

呼び出せる相手であったことは、ケンムンがもともと恐ろしいだけの存在ではなかったことを示しています。

奄美大島の南に位置し、ケンムンの伝承が濃く残る地域の一つです。

呼び出しの作法は伝わっていません。

ケンムンの正体と考えられているもの

ケンムンの正体については、次のように考えられています。

河童の一種とする見方が基本です。ケンムンは河童の原型が核となっているとされ、金久正が収集した伝承でも河童的要素が色濃いと評されています。頭の皿、相撲好き、皿の水が抜けると力を失う点が共通します。

木の精とする見方もあります。ガジュマルの木を住処とし、木を切ると祟るとされます。水の精でありながら木の精でもあるという二面性が、ケンムンの特徴です。

キジムナーと同じものとする見方も有力です。沖縄に伝わる木の精キジムナーとは、蛸を嫌うこと、魚の目玉を好むこと、相撲好きであることなど、多くの共通性が見られます。

本土の河童伝承が混ざったとする見方もあります。本土から伝わった河童の話が、島の伝承に加わった部分は否めないとされます。

季節で住む場所を変えるとする見方は、海にも山にも現れることを説明します。

穏やかな存在から危険な存在へと変わったという点も重要です。江戸末期の記録では人を助ける存在でしたが、幕末の頃からその伝えは失われていきました。

ケンムンをめぐる妖怪のつながり

ケンムンが登場する作品

ケンムンは、島の暮らしと結び付いた妖怪です。

ガジュマルの木、蛸、シャコガイ、カタツムリ。伝えられる細部が、すべて奄美の自然のなかにあるものです。

この土地に行かなければ意味の分からない話が、そのまま伝承になっています。

作品では、キジムナーと並ぶ南の島の妖怪として扱われます。手足が細長く、光をともす姿が描かれることが多くあります。

ケンムンが登場する書物

南島雑話

江戸末期の文献。「水蝹」の名で記し、頭に皿のある河童のような姿で描きます。

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奄美に伝わる説話の記録

ケンムンの由来を語る話が複数の型で集められています。

ケンムンが登場する漫画・アニメ

南島の妖怪を扱う各種の作品

キジムナーと並ぶ島の妖怪として登場します。

ケンムンが登場するゲーム

日本の妖怪を扱う各種の作品

細長い手足と光る姿で描かれることが多くあります。

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ケンムンについてよくある質問

ケンムンとは何ですか。

奄美群島に伝わる妖怪です。ケンモンとも呼び、河童や沖縄のキジムナーと共通する外観や性質が伝えられています。ガジュマルの木を住処とし、水の精でありながら木の精でもあるとされます。

どんな姿ですか。

体に不釣り合いなほど脚や腕が細長く、膝を立てて座ると頭より膝のほうが高くなります。頭の皿に力水を蓄え、大きさは子どもの身の丈ほど。全身に猿のような体毛があり、体臭は山芋の匂いに似るといいます。

祟りはありますか。

あります。住処であるガジュマルの木を切ると祟られると恐れられました。祟りに遭うと目を病み、目を突かれたように腫れ上がって失明寸前になることもあり、命を落とすこともあるとされます。

追い払う方法はありますか。

蛸とシャコガイを嫌うため、蛸を投げつけるか、嘘でも別の物を蛸と称して投げるか、投げると脅すと効き目があるとされます。相撲を挑まれたときは逆立ちや礼をしてみせると、真似をして皿の水がこぼれ退散します。

なぜ見かけなくなったのですか。

第二次世界大戦以後、乱開発によってガジュマルなどの住処を失ったためといわれています。

ケンムンと併せて覚えたい言葉・用語

南島雑話(なんとうざつわ)

江戸末期の文献。「水蝹」の名でケンムンを記す。

ガジュマル(がじゅまる)

ケンムンが住処とする木。切ると祟られると恐れられた。

ケンムン火(けんむんび)

海にも山にも現れるケンムンの光。ケンムンマチともいう。

ギブ(ぎぶ)

シャコガイのこと。ケンムンが蛸と並んで嫌うもの。