水辺にいる妖怪。九州では群れをなし、冬になると山へ還って山童になると語られた。

寺島良安 「和漢三才図会 水虎」 1712年 / パブリックドメイン 出典
河童とはどんな妖怪か
河童はひとことで言えば季節で住みかを変える水の怪です。
中国地方から東では、淵ごとに一匹ずつ離れて住むと考えられました。
ところが九州では違います。ミズシン、ガアラッパと呼ばれ、常に群れをなして住んでいました。
そして冬が近づくと、全部が水辺を去って山へ還り、山童になるといいます。夏になれば、また低地へ降りてきます。
この一年の往復は、山の神が春に里へ下って田の神となり、秋に山へ還る動きとまったく同じ形です。淵の主というより、季節を守る側の存在でした。
河童の漢字表記と読み方
読みは「かっぱ」です。
九州では山ワロ・河ワロという言い方があり、山と川で呼び分けます。同じものが、季節によって名前を変えるのです。
紀州熊野ではカシャンボと呼ばれる霊物が、これに近い習性を持つとされました。
河童(かっぱ)
広く使われる書き方。
ミズシン(みずしん)
九州での呼び名。
ガアラッパ(があらっぱ)
同じく九州での呼び名。
河童の姿と特徴
姿の伝えは土地ごとに違います。
柳田国男が注目したのは、姿より居場所と数でした。中国以東は一匹ずつ、九州は群れです。
同じ名前の下に、住み方の違う二つの伝えがあります。
河童の伝承と変遷
中国以東は一匹、九州は群れ
柳田国男は、河童の住み方を東西で分けます。
中国以東の川童が淵池ごとに孤居するに反して、九州でミズシンまたはガアラッパと称する者は、常に群をなして住んでいた
淵ごとに一匹か、まとまって一群か。この違いは大きなものでした。
一匹なら、その淵の主です。淵から離れることはありません。
群れなら、集団で動けます。九州の伝えで河童が季節ごとに住みかを変えられるのは、もともと群れているからです。
九州一帯では、これを山ワロ・河ワロと呼び分けました。山にいるときと川にいるときで、名前が変わります。
冬に水を去り、山へ還って山童になる
九州の河童には、季節の決まりがありました。
冬に近づく時それがことごとく水の畔を去って、山に還って山童となると考えられ、夏はまた低地に降りくる
冬は山、夏は川。一年を二つに割って住みかを移します。
冬は山、夏は川という往復は、村人の信仰と重なります。
野を耕す村人たちは、春に山の神が里へ下って田の神となり、秋を過ぎて再び山へ還ると信じ、農作の前後に二度の祭を営みました。
伊賀地方の鉤曳の神事をはじめ、神を誘い下す慣習は各地にあります。
河童の出入りは、この神の出入りと同じ形をしています。
紀州熊野のカシャンボも同じ動きをする
同じ習性は、九州の外にもありました。
紀州熊野の山中でカシャンボと呼ばれる霊物も、ほぼこれに類する習性を認められている、と柳田国男は書いています。
九州の山ワロ・河ワロ、熊野のカシャンボ。
離れた土地で、同じ季節の往復が語られていました。
柳田国男は、こうした伝えが単なる思い違いではないと考えます。寂しい樹林の底で働く人々が心に描く幻にも、父祖以来の約束があり、土地に根をさした歴史がありました。
だから多くの人が、おのずから似た遭遇をします。その土地を出れば笑われるような話でも、内側では信仰を支える力がありました。
山童は、もともと別のものだったか
ここで柳田国男は、慎重になります。
『西遊記』などの書物が九州の山童として書いているものは、他の府県でいう山男のことでした。挙動も外貌も、川童が冬のあいだだけ姿を変えたものとは思えません。
それとは別に、谷の奥に潜む小さな怪物がいるという言い伝えがありました。
柳田は、山童という名はもともとこちらに属していたのだろうと見ています。
壱岐の島では、一人の旅人が夜通しがやがやと宿の前を海へ下って行く足音を聴いたという話も残ります。
同じ名前の下に、水の怪と山の怪と、夜の足音までが集まっていました。名前が先にあり、そこへ土地ごとの経験が寄せられたのです。
河童の伝承地域
群れて住み季節で移動する型は九州(ミズシン・ガアラッパ・山ワロ・河ワロ)に伝わります。紀州熊野のカシャンボも同じ習性とされました。淵ごとに一匹ずつ住む型は中国地方から東に分布します。
曹源寺(かっぱ寺)(そうげんじ)
河童を祀る曹洞宗の寺
曹源寺(かっぱ寺)の所在地:東京都台東区松が谷3-7-2
合羽屋喜八が私財で新堀川を掘ったとき、隅田川の河童が手伝ったと伝わります。
合羽橋の名の由来の一つとされます。
天正16年(1588年)の創建で、明暦の大火のあと現在地へ移りました。
河童の正体と考えられているもの
河童は、山と川を往復する存在です。
淵の主として一匹でいる姿がよく知られていますが、九州では群れで暮らし、冬に山へ上がって山童になりました。
その往復は、山の神が里へ下って田の神になる動きと重なります。水の怪の背後に、季節を守る神の形が残っています。
佐渡の加茂湖には、一目入道という主がいるとされます。魚を献上する約束と引き換えに放され、約束を破られて祟りました。
河童をめぐる妖怪のつながり
河童が登場する作品
河童は、日本でもっとも創作に使われてきた妖怪です。
古典と近代小説と漫画が、それぞれ別の河童を作りました。 『遠野物語』の河童は馬を引き込む川の危険そのものですが、芥川龍之介の『河童』では人の社会を映す鏡になります。水木しげるの河童は、子どもの友だちに近い姿です。
同じ名でありながら、担う役目が入れ替わってきました。 どの河童の話をしているのかを分けて読むと、それぞれの時代が見えてきます。
河童が登場する古典・記録
河童が登場する小説
河童が登場する妖怪画
河童が登場する漫画・アニメ
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河童についてよくある質問
河童は群れで暮らすのですか。
土地によります。柳田国男は、中国地方から東では淵ごとに一匹ずつ離れて住み、九州のミズシン・ガアラッパは常に群れをなしていたと書いています。
河童は冬にどこへ行くのですか。
九州では、冬が近づくと全部が水辺を去って山へ還り、山童になると考えられました。夏になるとまた低地へ降りてきます。
河童と山の神は関係がありますか。
柳田国男は、河童が冬に山へ還り夏に降りる動きが、山の神が春に里へ下って田の神となり秋に還るのと同じ形だと指摘しています。
カシャンボとは何ですか。
紀州熊野の山中でそう呼ばれた霊物です。柳田国男は、九州の河童とほぼ同じ習性、つまり冬に山へ入り夏に低地へ降りる季節の往復が認められると書いています。
河童と併せて覚えたい言葉・用語
山ワロ・河ワロ(やまわろ・かわわろ)
九州で山と川それぞれにいるとされた者の呼び名。季節で入れ替わると語られた。
孤居(こきょ)
一匹だけで住むこと。中国以東の河童の住み方として柳田国男が使った語。
カシャンボ(かしゃんぼ)
紀州熊野の山中の霊物。九州の河童に近い習性を持つとされた。
河童の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。