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広島県

猿猴(えんこう)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

猿猴  / エンコウ

水の妖怪獣の妖怪 各地の伝説

広島県をはじめ中国・四国地方に伝わる河童の一種。毛むくじゃらで猿に似ているという。

猿猴の姿を描いた図

不明 「絵本集艸 猿猴」 江戸時代 / パブリックドメイン 出典

猿猴とはどんな妖怪か

猿猴はひとことで言えば、猿に似た河童です。

広島県および中国・四国地方に古くから伝わります。

一般にいう河童と違うのは、姿が毛むくじゃらで、猿に似ている点です。

金属を嫌う性質があり、海または川に住みます。泳いでいる人間を襲い、肛門から手を入れて生き胆を抜き取るとされました。女に化けるという伝えもあります。

もともと「猿猴」とは、テナガザルを指す「猿」とマカクを指す「猴」の総称で、サルそのものを意味する言葉です。

広島市南区を流れる猿猴川の名は、この妖怪に由来します。

土佐、現在の高知県では、三歳ほどの子どものようで、手足が長く爪があり、体はナマズのようにぬめっていると伝えられます。

猿猴の漢字表記と読み方

読みは「えんこう」です。

「猿猴」はもともと猿を指す漢語です。

」はテナガザル、「」はマカクを指し、あわせてサルの総称です。

つまりこの妖怪の名は、はじめから「猿」を意味しています。

河童の一種とされながら、名も姿も猿に寄っているのは、そのためです。

なお、広島市南区を流れる猿猴川の名は、この妖怪に由来するとされます。付近では言い伝えにちなんだ祭りが開かれています。

同じ中国・四国地方でも、山口県萩市大島や阿武郡では「タキワロ」という河童に類する妖怪がおり、山に三年、川に三年住むと猿猴になるといわれます。

猿猴(えんこう)

もっとも一般的な書き方。

エンコウ(えんこう)

土地の呼び方を仮名で書いた形。

猿猴川(えんこうがわ)

広島市南区を流れる川。名はこの妖怪に由来する。

猿猴の姿と特徴

猿猴の姿は、河童とサルの中間にあります。

体毛 … 毛むくじゃら。ここが一般の河童と最も違う点。
土佐での姿 … 三歳ほどの子どものよう。手足が長く爪がある。体はナマズのようにぬめる。
捕えられた例 … 文久三年に土佐で生け捕りにされたとされるものは、顔が赤く、足は人に似ていた。
… 伸縮自在とされる。
苦手なもの … 金属。

手が伸び縮みするという特徴は、猿猴の話でくり返し語られます。

ある男が川辺に馬を繋いでいたところ、猿猴が馬の脚を引いて悪戯をしました。懲らしめようと腕を捻り上げましたが、捻っても捻ってもきりがなく、一晩中捻り続ける羽目になったといいます。

高知では、市松人形に化けて夜の漁の場に現れ、突くとにっこり笑うとも伝えられます。

姿が定まらないことが、この妖怪の姿とも言えます。

猿猴の伝承物語

  1. 河童でありながら毛むくじゃら
  2. 名にも違いが出る ─ 河童と呼び分ける
  3. 土佐の猿猴
  4. 桂井和雄が土佐で聞き書きする
  5. 猿猴になるもの、猿猴の名を残すもの

河童でありながら毛むくじゃら

猿猴が河童の一種とされるのは、水に住み、人を襲い、生き胆を抜くという性質によります。

肛門から手を入れて生き胆を抜き取るというのは、河童の話に広く見られる形です。金属を嫌うという点も共通します。

しかし姿が違います。

一般にいう河童は、頭に皿があり、背に甲羅を負い、肌はぬめった緑や青とされます。

猿猴は、毛むくじゃらです。

水の妖怪でありながら、姿は山の獣に近い。ここが猿猴の特徴です。

柳田国男は「野草雑記」で、この名が花にまで及ぶことを書いています。

伊予の周桑郡でもエンコ花という者があって、エンコまたはエンコウはこの地方一帯に河童のことをそういう。

彼岸花が「エンコ花」と呼ばれました。 水辺に咲く花に、河童の名が付いています。

名にも違いが出る ─ 河童と呼び分ける

この違いは、名そのものにも表れています。「猿猴」とは、もともとサルの総称だからです。

なぜ水の妖怪にサルの名が付いたのか。

一つの手がかりは、河童が川と山を行き来するという各地の伝えです。彼岸の時季になると川から山へ、山から川へ移るとされる話は九州にも四国にもあります。

川にいるときは河童、山にいるときは獣。その両方の姿を一つに合わせたのが猿猴だ、と読むこともできます。

もっとも、これは一つの読み方にすぎません。

土佐の猿猴

高知県には、猿猴の話が数多く伝わります。

土佐近世妖怪資料』によれば、三歳ほどの子どものようで、手足は長く爪があり、体はナマズのようにぬめっているといいます。

文久三年に土佐で生け捕りにされたとされる猿猴は、顔が赤く、足は人に似ていたと伝えられます。

手は伸縮自在とされました。

ある男が川辺に馬を繋いでいたところ、猿猴が馬の脚を引いて悪戯をするので、懲らしめようと腕を捻り上げたが、捻っても捻ってもきりがなく、一晩中捻り続ける羽目になったといいます。

故郷七十年」では、呼び名の分布そのものを書き分けています。

面白いことに、東西の中間にエンコというのが入りまじっている。すなわち瀬戸内海の両側、山陰、山陽、四国ではエンコという所がある。猿の字をあてているが、淵猴とも書くことがある。

瀬戸内海の両側。 東のガタロウと西のガラッパの間に、エンコの帯があります。

桂井和雄が土佐で聞き書きする

民俗学者・桂井和雄の著書『土佐の山村の妖物と怪異』によれば、土佐の猿猴は市松人形に化けて夜の漁の場に現れ、突くとにっこり笑うといいます。

人間の女を犯すこともあるとされ、猿猴が人に産ませた子は頭に皿があり、生まれながらに歯が一枚生えているといい、その子は焼き殺されたと伝えられます。

恐ろしい話と滑稽な話が、同じ妖怪について並んで語られています。

猿猴になるもの、猿猴の名を残すもの

猿猴は、別の妖怪が育ってなるものとしても語られます。

四国にはシバテンという、河童に類する妖怪がいます。このシバテンが旧暦六月六日の祇園の日になると川に入って猿猴になるといい、この日には好物のキュウリを川に流すという習わしがありました。

山口県萩市大島や阿武郡にはタキワロという妖怪がおり、山に三年、川に三年住むと猿猴になるといわれます。

つまり猿猴は、河童の仲間のなかでも位が上のものとして扱われていたことになります。

名は現在も残っています。

広島市南区を流れる猿猴川の名は、この妖怪に由来するとされます。付近では言い伝えにちなんで「猿猴川河童まつり」が開かれています。

妖怪の名が川の名になり、川の名が祭りの名になったという形です。

伝説が土地の暮らしに組み込まれている例といえます。

なお、川の名がいつからそう呼ばれるようになったのかは分かっていません。

猿猴の伝承地域

猿猴の伝承地は、広島県を中心とする中国地方と、四国地方です。

もっともよく知られるのは、広島市南区を流れる猿猴川です。名はこの妖怪に由来するとされ、付近では言い伝えにちなむ祭りが開かれています。

高知県にも話が数多く伝わり、文久三年に生け捕りにされたという記録が残ります。

山口県萩市大島や阿武郡では、タキワロという妖怪が山に三年、川に三年住むと猿猴になるといわれます。

猿猴を祀る祠は確かめられませんでした。恐れられる相手であって、信仰の対象ではなかったとみられます。

猿猴川(えんこうがわ)

名の由来となった川

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猿猴川の所在地:広島県広島市南区

広島市南区を流れる川です。

その名は、この妖怪に由来するとされます。

付近では言い伝えにちなんで「猿猴川河童まつり」が開かれています。

妖怪の名が地名として残り、いまも土地の催しに使われている例にあたります。

川の名がいつからそう呼ばれたのかは分かっていません。

土佐(とさ)

生け捕りの記録が伝わる地

地図で開く

土佐の所在地:高知県

猿猴の話がとくに数多く伝わる土地です。

『土佐近世妖怪資料』には、三歳ほどの子どものような姿で、手足が長く爪があり、体がナマズのようにぬめると記されます。

文久三年に生け捕りにされたとされる猿猴は、顔が赤く、足は人に似ていたと伝えられます。

市松人形に化けるという話も、この土地のものです。

生け捕りの場所を特定する記述は確かめられませんでした。

猿猴の正体と考えられているもの

猿猴の正体については、次のように考えられています。

河童の地方名とする見方が広く行われています。水に住み、人を襲い、生き胆を抜き、金属を嫌う。いずれも河童の話に共通する性質です。

サルと結び付いたとする見方も欠かせません。「猿猴」という言葉はもともとサルの総称であり、名からしてサルを指しています。 毛むくじゃらという姿も、これに沿います。

川と山を行き来する妖怪とする見方もあります。河童が季節によって川と山を移るという伝えは各地にあり、シバテンが猿猴になる、タキワロが猿猴になるという話も同じ発想の上にあります。

水難への戒めとする見方も重要です。泳いでいる人を襲うという話は、子どもを水辺に近づけないための戒めとして働きました。

一つに決めることはできません。 ただ、猿猴が河童の仲間のなかで「育った先の姿」として扱われてきたことは、複数の土地の伝えから読み取れます。

猿猴をめぐる妖怪のつながり

猿猴が登場する作品

猿猴は、地名として生き残った妖怪です。

広島市南区の猿猴川がその代表で、川の名から祭りの名へと受け継がれています。

妖怪の名がそのまま土地の名になっている例は、そう多くありません。

書物としては、土佐の資料に具体的な記述が残っており、姿や逸話を知る手がかりになっています。

猿猴が登場する書物

土佐近世妖怪資料

土佐の猿猴の姿を具体的に記しています。

土佐の山村の妖物と怪異

桂井和雄の著書。市松人形に化ける猿猴の話を載せます。

猿猴が登場する催し

猿猴川河童まつり

広島市南区の猿猴川付近で、言い伝えにちなんで開かれています。

猿猴が登場するそのほか

河童を扱う各種の作品

毛むくじゃらの河童として、地方色のある姿で登場することがあります。

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猿猴についてよくある質問

猿猴とは何ですか。

広島県および中国・四国地方に伝わる、河童の一種とされる妖怪です。一般の河童と違って毛むくじゃらで猿に似ています。海または川に住み、泳いでいる人間を襲い、肛門から手を入れて生き胆を抜き取るとされました。

なぜ猿猴という名なのですか。

もともと「猿猴」とは、テナガザルを指す「猿」とマカクを指す「猴」の総称で、サルそのものを意味する言葉です。姿が毛むくじゃらで猿に似ていることと結び付いています。

猿猴川と関係がありますか。

あります。広島市南区を流れる猿猴川の名は、この妖怪に由来するとされます。付近では言い伝えにちなんで猿猴川河童まつりが開かれています。

土佐の猿猴はどんな姿ですか。

三歳ほどの子どものようで、手足は長く爪があり、体はナマズのようにぬめっているとされます。手は伸縮自在で、捻っても捻ってもきりがないという話が伝わります。

猿猴になる妖怪がいるのですか。

います。四国のシバテンは旧暦六月六日の祇園の日に川に入って猿猴になるといい、山口県のタキワロは山に三年、川に三年住むと猿猴になるといわれます。

猿猴と併せて覚えたい言葉・用語

猿猴川(えんこうがわ)

広島市南区を流れる川。名はこの妖怪に由来するとされる。

シバテン(しばてん)

四国の河童に類する妖怪。祇園の日に川へ入って猿猴になるという。

タキワロ(たきわろ)

山口県の妖怪。山に三年、川に三年住むと猿猴になるとされる。

生き胆(いきぎも)

河童の類が人から抜き取るとされたもの。猿猴もこれを狙うという。

猿猴の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男「野草雑記・野鳥雑記」
  2. 青空文庫 柳田国男「故郷七十年」