握り飯を礼に材木を運んだ山の者。先に渡すと食べて逃げる。

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 山童」 1776年 / パブリックドメイン 出典
山童とはどんな妖怪か
山わろはひとことで言えば握り飯で働く山の者です。
九州の山奥では、材木の運搬をこの者に任せることが多くありました。
労賃は決まっています。材木一本につき握り飯一個、二本なら二個。
約束を破って二本に一つしか渡さないと、非常に怒って、その怨みを長く忘れませんでした。
化かしもせず、害も加えません。決めたとおりに払うかどうかだけが問われます。
背丈は六尺を超える者もあり、力は非常に強い。それでいて、求めるのは握り飯だけでした。
山童の漢字表記と読み方
読みは「やまわろ」です。「わろ」は童、つまり子どものことです。
九州では山ワロ・河ワロと呼び分ける言い方があり、同じものが季節によって山と川を行き来すると考えられていました。
山わろ(やまわろ)
『西遊記』が記す薩摩方面での呼び名。
山童(やまわろ)
漢字を当てた書き方。
山男(やまおとこ)
同じ性質を持つ者として各地で語られた呼び名。
山童の姿と特徴
中津領の山奥で伝えられた姿は、はっきりしています。
背丈は六尺を超える者もあり、力が非常に強い。 男は色が青黒く、たいてい肥えています。
全身裸で下帯すらないのに、毛が深いので男女の区別は見えません。歯は真白ですが、口の香が甚だ臭いといいます。
女は姿を見せるだけで、働きには出てきません。
山童の伝承記録
材木一本につき、握り飯一個
中津領などの山奥では、材木の運搬を山の者に委託することが多くありました。
労賃ははっきりしています。材木一本に握り飯一個、二本なら二個。
持ってみて二本を一度に担げると思えば、一緒にして脇へ寄せます。 自分で運べる量を測っているわけです。
険しい道も牛のようにのそりのそりと歩き、川が深ければ首まで水に入って、水底を平地のように歩いてきました。
ただし出てくる場所には限りがあります。里までは決して出てきません。
約束を破ると、長く怨む
この取引には、守るべき決まりがありました。
約束に背いて、二本に握り飯一つしか与えなかったりすると、どうなるか。
非常に怒って、その怨みを永く忘れません。
柳田国男は、この山の者を愚直なる者と評した記録を引いています。だまされないが、だます側にも回らないという意味です。
出てくる場所にも決まりがあり、里までは決して出てきません。 働く範囲と住む範囲が分かれています。
険しい道も牛のようにのそりのそりと歩き、川が深ければ首まで水に入って、水底を平地のように渡ってきました。運ぶことに関しては、人より確かです。 そのうえ力が強く、二本の材木を一度に担ぎます。担げると見れば、自分から一緒にまとめて脇へ寄せました。
先に渡すと、食べて逃げる
『西遊記』が伝える薩摩方面の山わろにも、同じ性質があります。
握り飯を貰って、欣然として運送の労に服しました。
ただし、仕事の前に少しでも与えると、これを食ってから逃げてしまいます。
後払いでなければ成り立たない取引でした。また、人の先に立って歩くことを非常に嫌います。
『桃山人夜話』には、遠州秋葉の山奥に酒のために働く山男がいるという話も出ています。求めるものは土地によって違いました。
共通しているのは、欲しいものを先に渡してはいけないという一点です。
秋田の記録は、出羽国仙北から水無銀山阿仁へ越える近道で、常陸内という山で道に迷い、炭焼小屋に泊まった夜の出来事として書かれています。
米の飯が欲しいだけ ─ 塩気は好まない
なぜ山から出てきて働くのか。柳田国男の見立ては単純です。
米の飯が欲しいばかりに出て働くらしい、と。
そのため、山奥の寺などに入って食物を盗み食うこともありました。ただし塩気のある物は好まないといいます。
秋田の記録は、こう書き留めています。
唯折々其小屋へ食事などの時分を考へ来るとなり。飯なども握りて遣はせば悦びて持ち退く。人の見る処にては食せず
食事どきを見計らって来る。渡せば喜んで持ち去る。人の見ている所では食べません。
物は言はず。たゞのさ/\立廻りあるくばかり也。尤も悪きことはせず。至つて正直なる由なり
口をきかず、悪さもせず、正直だと書かれています。
山童の伝承地域
材木の運搬を任せた記録は中津領(大分県)の山奥、握り飯で働く山わろは薩摩方面(『西遊記』)です。似た性質の山男は秋田県の炭焼き小屋でも記録されました(『周遊奇談』)。
山童の正体と考えられているもの
山わろは、取引の相手です。
化かしません。害も加えません。決めた通りに払えば働き、破れば怒って長く怨む。先に払えば逃げる。
人が守るべき約束のほうが、はっきり書き残されています。
山童をめぐる妖怪のつながり
山童が登場する作品
山童は、河童が山へ入った姿とされます。
秋になると川から山へ上がって山童になり、春にはまた川へ下って河童に戻る。 九州各地に、この行き来の伝えがあります。
山では木を伐る人を手伝い、報酬に握り飯を求めるとも語られました。恐れる相手であると同時に、山仕事の相方でもあります。
山童が登場する事典
山童が登場する民俗学
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山童についてよくある質問
山わろとは何ですか。
九州の山奥で材木の運搬を担ったとされる山の者です。労賃は材木一本につき握り飯一個で、後払いが決まりでした。
約束を破るとどうなりますか。
二本の材木に握り飯一つしか与えないような約束違反をすると、非常に怒り、その怨みを永く忘れないと記録されています。
なぜ先に払ってはいけないのですか。
『西遊記』によれば、仕事の前に少しでも与えると、それを食べてから逃げてしまうためです。報酬は必ず仕事の後に渡すのが決まりでした。
山わろはどんな姿ですか。
背丈は六尺を超える者もあり、色が青黒く、たいてい肥えています。全身裸ですが毛が深く、歯は真白で口の香が臭いと伝えられます。
山童と併せて覚えたい言葉・用語
わろ(わろ)
童、つまり子どものこと。山ワロ・河ワロと呼び分ける言い方が九州にある。
中津領(なかつりょう)
豊前中津藩の領域。いまの大分県北部。山わろに材木を運ばせた記録がある。
西遊記(さいゆうき)
橘南谿の紀行。薩摩方面の山わろが握り飯で働くことを記す。中国の小説とは別。
山童の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。