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熊本県

磯女とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

磯女  / イソオンナ

幽霊と霊水の妖怪 各地の伝説

九州の沿岸に広く伝わる女の妖怪。長い髪で血を吸うとされる。

磯女の姿を描いた図

Ippukucho 「ハイヤ大橋(熊本県天草市牛深)」 2015年 / CC BY 3.0 出典

磯女とはどんな妖怪か

磯女はひとことで言えば、髪で血を吸う海辺の女です。

九州各地に広く伝わる女の妖怪で、その名が示すように沿岸地方に現れます。

外見については伝えが分かれます。上半身は人間の美女に近いものの、下半身は幽霊のようにぼやけている、龍や蛇のようになっている、常人と変わりないなどの説があります。背後から見るとただの岩にしか見えないともいわれます。

長崎県南高来郡西郷の伝承では、長い黒髪の磯女が砂浜に現れて沖合いをじっと見つめており、それを見た者が声をかけようとすると、鼓膜を突き刺すような鋭い声で叫び、長い髪がその者にまとわりついて、毛を伝って生き血を吸うといいます。

熊本県天草市では、夜中に艫綱を伝って船に忍び込むとされ、そのため船が知らない土地で碇泊するときは艫綱をとらずに錨だけ下ろす習わしがありました。

磯女の漢字表記と読み方

読みは「いそおんな」です。

「磯」は海辺、波打ち際のこと。名がそのまま、現れる場所を示しています。

磯女の名は九州西部、長崎県や熊本県などで呼ばれているものです。土地によっては、次のような別名もあります。

磯女子(いそおなご)
海女
海姫
海女房
濡女子
濡女

長崎の千々岩海や有明海では「ヨロヅナセノ」と呼びます。

鹿児島県出水郡長島町では「磯姫」、石川県加賀市では「浜姫」と呼ばれるよく似たものが伝わります。

佐賀県東唐津では「ダキ」といいます。

名は違っても、海辺に現れる女という点は変わりません。

磯女(いそおんな)

九州西部でのもっとも一般的な呼び方。

磯女子(いそおなご)

土地による別の呼び方。

海女房(うみにょうぼう)

同じものを指すとされる別名の一つ。

磯女の姿と特徴

磯女の姿は、伝えによって大きく異なります。

上半身 … 人間の美女に近い。
下半身 … 幽霊のようにぼやけている。龍や蛇のようになっている。常人と変わりない。
… 長い黒髪。
背後から … ただの岩にしか見えないともいう。
… 鼓膜を突き刺すような鋭い声。

下半身についての説がこれほど分かれるのは、正面から近づかれるからだと考えられます。

砂浜に現れて沖合いをじっと見つめている姿が、長崎県南高来郡西郷の伝えです。

背中を向けているものに声をかけようとすると、鋭い声で叫び、長い髪がまとわりついて、その毛を伝って生き血を吸われます。

髪そのものが道になるわけです。

熊本県の御所浦島では、磯女は姿を変えることができるともいわれ、白髪の老人の姿となった磯女が漁師に昼飯をねだったという話があります。

美女とも老人とも語られ、姿は一つに定まりません。

磯女の伝承物語

  1. 艫綱を伝って船に忍び込む
  2. 苫の茅を三本、着物へ乗せる
  3. 水死者の霊とする伝え
  4. 一目見ただけで死ぬ ─ 各地の類話
  5. 船にない魚を取りに行かせる

艫綱を伝って船に忍び込む

磯女の話のなかで、もっとも具体的なのが熊本県天草市の伝えです。

船が港に泊まっているとき、夜中に磯女が艫綱を伝って船に忍び込みます。

艫綱とは、船の後ろを岸につなぐ綱のことです。

そして船中で眠っている人に髪の毛をかぶせ、その毛で血を吸って死に至らしめるといいます。

この話には、実際の備えが伴っています。

そのため、船が知らない土地で碇泊するときは、艫綱をとらずに錨だけ下ろしておくという風習があります。

岸とつながる綱がなければ、磯女は船に来られない。そういう理屈です。

苫の茅を三本、着物へ乗せる

島原半島でも、碇泊時の同様の風習が伝わります。さらに、漁師の家の苫の茅を三本、着物の上に乗せて寝ると磯女に襲われずに済むという謂れもありました。

北九州の漁村の伝承では、磯女はカニが化けたものなので、カニのようにどこにでもよじ登るのだといいます。

また、磯女を避けるために艫綱を使わないという伝承から、磯女は綱を伝うことはできても海を泳ぐことはできないという説もあります。

ただし、福岡県東北の海岸では磯女が水上を歩いていたという伝承もあり、これと食い違います。

綱を断てば安全という考えは、船乗りの実際の作法として残りました。

水死者の霊とする伝え

磯女の正体について、はっきり述べる土地があります。

長崎県北松浦郡小値賀町では、磯女の正体は水死者といわれます。

凪の日に船頭の前に現れ、海の中にある魂を陸に帰してくれるよう頼むといいます。

この伝えでの磯女は、船へ忍び込むだけです。頼むものです。

海で死んだ者の魂が、陸へ帰りたいと願う。その願いを伝えに来るのが磯女だということになります。

血を吸う話とは、まったく性質が違います。

長崎県五島列島の北部、宇久島にも磯女が現れるといわれます。

熊本県の御所浦島では、磯女は姿を変えることができるともいわれ、白髪の老人の姿となった磯女が漁師に昼飯をねだったという話があります。

害をなす磯女、頼みごとをする磯女、飯をねだる磯女。

同じ名で呼ばれながら、その振る舞いは土地ごとに大きく違います。

海辺に現れる女という一点だけが共通しており、それ以外は各地の伝えに委ねられています。

一目見ただけで死ぬ ─ 各地の類話

磯女によく似た存在は、九州の外にも伝わります。

磯姫

鹿児島県出水郡長島町の伝えです。磯にいる美女の妖怪で、人間を襲って血を吸います。

各地には、さらに重い話も残ります。

磯姫の姿を目にしただけでも死んでしまうといいます。 たとえすぐに顔を背けても、一目でも目にしたが最後、すぐに死んでしまうとされます。

ダキ

佐賀県東唐津の伝えです。鎮西町加唐島には「ダキ」が出るため、碇を下ろすだけで艫綱はつけないという伝承があります。

東唐津の漁師が、島の海岸で火を焚いていると、見知らぬ女が「魚をくれ」と言って近づいてきました。

船にない魚を取りに行かせる

様子が変だと思った漁師は、船にはない魚を取りに子供を遣ります。子供が「ない」と言って戻ってくると、自分も探す振りをして船に戻りました。

乗り込むが早いか、漁師が艫綱も碇綱も切って沖に逃げると、女は「えい、命を取りそこねた」と言って口惜しがったと言われます。

浜姫

石川県江沼郡橋立町、現在の加賀市の伝えです。浜に「浜姫」といわれるものがおり、気味が悪いほどの美女ですが、この浜姫に見られたものは影を飲まれて死んでしまうといいます。

九州から北陸まで、海辺の美女への恐れは広く分かれて存在しています。

磯女の伝承地域

磯女の伝承地は、九州各地の沿岸です。

熊本県では天草市御所浦島、長崎県では島原半島北松浦郡小値賀町五島列島の宇久島に伝えがあります。

福岡県東北の海岸では、磯女が水上を歩いていたという伝承もあります。

よく似たものは九州の外にもあり、鹿児島県出水郡長島町の「磯姫」、佐賀県東唐津の「ダキ」、石川県加賀市の「浜姫」が知られます。

この図鑑では、艫綱を伝う話がもっとも具体的に伝わる熊本県を大分類としています。

磯女を祀る場所は確かめられませんでした。

天草(あまくさ)

艫綱を伝う磯女が伝わる地

地図で開く

天草の所在地:熊本県天草市

船が港に泊まっているとき、夜中に磯女が艫綱を伝って船に忍び込むと伝えられる土地です。

眠っている人に髪の毛をかぶせ、その毛で血を吸って死に至らしめるといいます。

そのため、船が知らぬ土地で碇泊するときは艫綱をとらずに錨だけ下ろしておくという風習があります。

御所浦島には、白髪の老人に姿を変えた磯女が漁師に昼飯をねだった話もあります。

風習が現在も続いているかは確かめられませんでした。

島原半島(しまばらはんとう)

砂浜に現れる磯女が伝わる地

地図で開く

島原半島の所在地:長崎県南島原市

長崎県南高来郡西郷、現在の南島原市の伝承が残る土地です。

長い黒髪の磯女が砂浜に現れて沖合いをじっと見つめており、それを見た者が声をかけようとすると、鼓膜を突き刺すような鋭い声で叫び、長い髪がまとわりついて血を吸うといいます。

碇泊時の風習のほか、漁師の家の苫の茅を三本、着物の上に乗せて寝ると襲われずに済むという謂れもありました。

具体的な浜の名は伝わっていません。

磯女の正体と考えられているもの

磯女の正体については、次のように考えられています。

水死者の霊とする見方があります。長崎県北松浦郡小値賀町では、磯女の正体は水死者といわれ、凪の日に船頭の前に現れて海の中にある魂を陸に帰してくれるよう頼むといいます。

カニが化けたものとする見方もあります。北九州の漁村の伝承では、カニが化けたものなので、カニのようにどこにでもよじ登るのだとされます。

綱を伝うものとする見方は、船乗りの作法と結び付いています。艫綱を使わないという風習から、綱を伝うことはできても海を泳ぐことはできないという説が生まれました。ただし水上を歩いていたという伝承もあり、食い違います。

海辺の危うさを語る話とする見方も成り立ちます。夜の海、知らない土地での碇泊、一人での上陸。どれも実際に危険な場面です。

姿が定まらないことが、この妖怪の特徴です。美女とも、老人とも、背後から見れば岩とも語られます。

害をなす話と、頼みごとをする話が並んで伝わっています。 どちらか一方に決める必要はありません。

磯女をめぐる妖怪のつながり

磯女が登場する作品

磯女は、髪という一点で記憶される妖怪です。

長い黒髪が眠っている人にかぶさり、その毛を伝って血を吸う。この形は、ほかの妖怪にあまり見られません。

髪が体の一部でありながら、道具のように働く点が独特です。

作品では、船に忍び込む場面が描かれることが多くあります。艫綱を伝うという具体的な作法があるため、絵にしやすい怪異といえます。

磯女が登場する書物

綜合日本民俗語彙

民俗学研究所が編み、柳田國男が監修した語彙集。磯女を収めます。

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民間信仰辞典

桜井徳太郎の編。海辺の怪異として扱っています。

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妖怪事典

村上健司の編著。各地の磯女の伝えをまとめています。

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磯女が登場する漫画・アニメ

海の妖怪を扱う各種の作品

長い黒髪の女として、船に忍び込む場面が描かれます。

磯女が登場するゲーム

日本の妖怪を扱う各種の作品

髪で血を吸う女として登場することがあります。

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磯女についてよくある質問

磯女とは何ですか。

九州各地の沿岸に広く伝わる女の妖怪です。上半身は人間の美女に近いものの、下半身は幽霊のようにぼやけている、龍や蛇のようになっているなど、伝えは分かれます。長い髪で血を吸うとされます。

どうやって襲うのですか。

熊本県天草市では、夜中に艫綱を伝って船に忍び込み、眠っている人に髪の毛をかぶせ、その毛で血を吸って死に至らしめるといいます。長崎県では砂浜に現れ、声をかけようとした者に髪がまとわりつくとされます。

避ける方法はありますか。

船が知らない土地で碇泊するときは、艫綱をとらずに錨だけ下ろしておくという風習があります。島原半島では、漁師の家の苫の茅を三本、着物の上に乗せて寝ると襲われずに済むという謂れもありました。

正体は何とされていますか。

長崎県北松浦郡小値賀町では水死者とされ、凪の日に船頭の前に現れて海の中にある魂を陸に帰してくれるよう頼むといいます。北九州の漁村では、カニが化けたものとされます。

似た妖怪はいますか。

います。鹿児島県出水郡長島町の「磯姫」は姿を一目見ただけで死ぬとされ、佐賀県東唐津の「ダキ」は魚をねだって近づき、石川県加賀市の「浜姫」は見られた者の影を飲むといいます。

磯女と併せて覚えたい言葉・用語

艫綱(ともづな)

船の後ろを岸につなぐ綱。磯女はこれを伝って船に忍び込むとされる。

磯姫(いそひめ)

鹿児島県出水郡長島町の妖怪。姿を一目見ただけで死ぬとされる。

ダキ(だき)

佐賀県東唐津の妖怪。加唐島に出るため艫綱をつけないという。

(とま)

菅や茅で編んだ覆い。その茅を三本着物に乗せて寝ると襲われないとされた。