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島根県

影鰐(かげわに)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

影鰐  / カゲワニ

水の妖怪 各地の伝説絵本百物語

海面に映った船乗りの影を飲み込むという怪魚。影を奪われた者は必ず死ぬとされた。

影鰐の姿を描いた図

contri 「温泉津の入江(島根県大田市)」 2007年 / CC BY-SA 2.0 出典

影鰐とはどんな妖怪か

影鰐はひとことで言えば、影を飲み込む怪魚です。

絵本百物語』に載る怪魚「磯撫で」の類話として記録されています。

出雲地方の海に棲む怪魚で、海面に映った船乗りの影を飲み込み、影を奪われた者は必ず死んでしまうといいます。

狙うのは水面に映った影です。水面に落ちた影だけを飲みます。

しかも、飲まれた本人はその場では何ともありません。後になって必ず死ぬ、という形をとります。

伝えには続きがあります。

影を飲まれそうになった船夫が、逆に影鰐を銃で撃ち殺したことがありました。

しかしその後、陸に上がって浜を歩いているとき、影鰐の骨が足の裏に刺さって死んでしまったといいます。

影鰐の漢字表記と読み方

読みは「かげわに」です。

「鰐」の字が使われていますが、指しているのは鮫です。

島根県を含む山陰地方では、鮫を「ワニ」と呼ぶ言い方が知られています。 影鰐の「鰐」も、この用法にあたるとみられます。

「影」は、海面に映った船乗りの影を指します。

つまり名は「影を狙う鮫」という意味に読めます。

もとになったとされる「磯撫で」は、外見が鮫に似ており、尾びれに細かい針がおろし金のように無数にあるとされる怪魚です。古書『本草異考』では「巨口鰐」と呼ばれています。

こちらの「鰐」も同じ用法です。

影鰐(かげわに)

もっとも一般的な書き方。

カゲワニ(かげわに)

仮名で書かれることもある。

磯撫で(いそなで)

『絵本百物語』に載る怪魚。影鰐はその類話とされる。

影鰐の姿と特徴

影鰐の姿については、伝えられていることがごく限られています。

分類 … 怪魚。
棲む場所 … 出雲地方の海。
狙うもの … 海面に映った船乗りの影。
結果 … 影を奪われた者は必ず死ぬ。
残るもの … 撃ち殺された後の骨。足の裏に刺さって人を死なせた。

体の色も、大きさも、鰭の形も伝えられていません。

もとになったとされる磯撫での姿は詳しく記されています。外見は鮫に似ており、尾びれに細かい針がおろし金のように無数にあるといいます。

影鰐がその形をしていたのかどうかは分かっていません。

分かっているのは、この怪魚が「影」を狙うということだけです。

姿を描くことのできない妖怪でありながら、その行いだけははっきりしています。

死んだ後の骨までが人を死なせるという点も、この怪魚の恐ろしさを際立たせています。

影鰐の伝承物語

  1. 影を飲まれるということ
  2. 影を失った者は死ぬ
  3. 骨が足の裏に刺さる
  4. 足の裏に刺さる骨
  5. もとになった磯撫で
  6. 磯撫でとの分かれ目

影を飲まれるということ

影鰐が奪うのは、です。

海面に映った船乗りの影を飲み込みます。影を奪われた者は、必ず死んでしまうといいます。

なぜ影なのでしょうか。

日本には、影を人の魂と結び付けて考える言い伝えが各地にあります。

影が薄い者は死が近い、影を踏まれると力が奪われる、といった言い方は、いまも残っています。

影を失うことは、命そのものを失うことと同じだ、という考え方です。

影鰐の話は、この考え方をそのまま怪魚に負わせたものといえます。

影を失った者は死ぬ

恐ろしいのは、防ぎようがないという点です。

船の上にいれば、水面には必ず影が落ちます。しかも、飲まれた瞬間には何も起こりません。

体に傷はつかず、痛みもない。ただ、後になって必ず死ぬ。

もとになったとされる磯撫でも、防ぐことのできない怪魚として語られました。海面を撫でるように近づき、人を襲うまでは決して姿を見せません。

気づいたときには、すでに手遅れになっています。

海で暮らす人々にとって、こうした話は現実の危険と地続きでした。

骨が足の裏に刺さる

影鰐の伝えには、はっきりした結末があります。

影を飲まれそうになった船夫が、逆に影鰐を銃で撃ち殺したというのです。

怪異に勝った、という話です。

しかし話はそこで終わりません。

その船夫が陸に上がって浜を歩いているとき、影鰐の骨が足の裏に刺さって死んでしまったといいます。

倒した相手の骨に殺される。

この結末には、いくつかの読み方ができます。

一つは、怪異には勝てないという教えです。撃ち殺しても、結局は死にます。

足の裏に刺さる骨

もう一つは、殺したものの残骸を放っておいてはいけない、という戒めです。海の生き物を撃ち殺し、そのまま浜に打ち捨てておいた結果が、自らに返ってきました。

海の生き物をむやみに殺すことへの戒めと読むこともできます。

鮫の骨や歯は鋭く、実際に足を傷つけることがあります。傷から破傷風などを起こせば命に関わります。

そう考えれば、この話は現実に起きうる出来事を怪異の形で伝えたものとも読めます。

もっとも、これは一つの読み方にすぎません。

もとになった磯撫で

影鰐は、『絵本百物語』に載る怪魚「磯撫で」の類話として記録されています。

磯撫では、肥前松浦をはじめ西日本の近海に伝わる怪魚です。古書『本草異考』では「巨口鰐」と呼ばれています。

外見は鮫に似ており、尾びれに細かい針がおろし金のように無数にあるといいます。

北風が強く吹くと現れ、近くの海を通りかかる船を襲います。

その襲い方は巧みです。水を蹴散らして泳ぐのではなく、あたかも海面を撫でるかのように近づき、人を襲うまでは決して姿を見せません。

そして尾びれの針で人を引っ掛けて海中に落とし、食べてしまいます。

磯撫でとの分かれ目

船に乗っている人が接近に気づくことはありません。海の色が変わったと思った時点で、すでに手遅れです。

魚を釣るはずの人間が、逆に魚に釣り上げられてしまう。

妖怪研究家の多田克己は、磯撫でを想像上のものではなくシャチを指しているとしています。

ただしシャチには尾の針がありません。多田克己は、室町時代ごろに日本が中国や東南アジアと貿易を始めたことから、東南アジアに進出した日本人が現地のイリエワニを見て、その背から尾にかけての突起が針の表現につながったと推測しています。

三重県熊野市では、海辺に死人がいると「磯撫でに撫でられたのだろう」といわれたといいます。

影鰐の伝承地域

影鰐の伝承地として確かめられたのは、島根県の旧邇摩郡温泉津町、現在の大田市です。

出雲地方の海に棲む怪魚として記録されており、これ以外の土地に伝わることを示す記述は確かめられませんでした。

もとになったとされる磯撫では、肥前松浦をはじめ西日本の近海に伝わるとされ、こちらは伝承の範囲が広くなっています。

三重県熊野市では、海辺に死人がいると「磯撫でに撫でられたのだろう」といわれたといいます。

影鰐が現れたとされる海域を特定する記述は確かめられませんでした。影鰐を祀る祠も確かめられませんでした。

温泉津(ゆのつ)

影鰐が伝わる地

地図で開く

温泉津の所在地:島根県大田市

島根県の旧邇摩郡温泉津町、現在の大田市にあたる土地です。

ここに「影鰐」という怪魚の伝えが残ります。

出雲地方の海に棲み、海面に映った船乗りの影を飲み込み、影を奪われた者は必ず死ぬとされました。

影鰐を撃ち殺した船夫が、その骨を足の裏に刺して死んだという話も、この伝えに含まれます。

影鰐が現れたとされる海域を特定する記述は確かめられませんでした。

松浦(まつら)

もとになった磯撫での伝承地

地図で開く

松浦の所在地:長崎県

『絵本百物語』は、磯撫でを肥前松浦をはじめ西日本の近海に伝わる怪魚としています。

影鰐は、この磯撫での類話として記録されました。

磯撫では、尾びれに無数の細かい針を持ち、海面を撫でるように近づいて人を海中へ落とすとされます。

影鰐とは襲い方が異なりますが、鮫に似た怪魚である点は共通します。

示しているのは近い話が伝わる海域です。

影鰐の正体と考えられているもの

影鰐の正体については、次のように考えられています。

鮫とする見方があります。山陰地方では鮫を「ワニ」と呼ぶ言い方が知られており、影鰐の「鰐」もこの用法とみられます。もとになった磯撫でも、外見は鮫に似ているとされます。

影を魂とみる考え方から生まれたとする見方も有力です。日本には影を人の魂と結び付ける言い伝えが各地にあり、影を失うことは命を失うことと同じだと考えられてきました。

海の危険を語る話とする見方もあります。防ぎようがなく、気づいたときには手遅れという語り方は、実際の海難と重なります。

殺生への戒めとする見方も可能です。影鰐を撃ち殺した船夫が、その骨を足の裏に刺して死んだという結末は、倒した相手を放っておくことへの戒めとも読めます。

分かっていないことが多い妖怪です。 姿の記述はなく、伝えられているのは行いと結末だけです。磯撫での類話として記録されたことによって、辛うじて残ったともいえます。

影鰐をめぐる妖怪のつながり

影鰐が登場する作品

影鰐は、別の妖怪の類話として残った妖怪です。

『絵本百物語』に載る磯撫での記述に添えられる形で、出雲地方の伝えとして紹介されてきました。

単独でまとまった記録は確かめられませんでした。 姿の描写も伝わっていません。

それでも「影を飲む」という一点は強く、海の妖怪のなかでも独特の位置を占めています。

影鰐が登場する書物

絵本百物語

江戸時代の奇談集。磯撫でを載せ、その類話として影鰐が知られます。

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本草異考

古書。磯撫でを「巨口鰐」と呼んでいます。

影鰐が登場する説

多田克己の説

磯撫でをシャチとみる推測。尾の針はイリエワニの突起によるとします。

影鰐が登場するそのほか

海の妖怪を扱う各種の作品

影を奪うという趣向が取り上げられることがあります。

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影鰐についてよくある質問

影鰐とは何ですか。

出雲地方の海に棲むと伝えられる怪魚です。海面に映った船乗りの影を飲み込み、影を奪われた者は必ず死んでしまうといいます。『絵本百物語』に載る怪魚である磯撫での類話として記録されています。

「鰐」とはワニのことですか。

違います。島根県を含む山陰地方では鮫を「ワニ」と呼ぶ言い方が知られており、影鰐の「鰐」もこの用法とみられます。もとになった磯撫でも外見は鮫に似ているとされます。

影を飲まれた船夫はどうなりましたか。

影を飲まれそうになった船夫が逆に影鰐を銃で撃ち殺しましたが、後に陸へ上がって浜を歩いているとき、影鰐の骨が足の裏に刺さって死んでしまったといいます。

どこに伝わりますか。

島根県の旧邇摩郡温泉津町、現在の大田市に伝わります。出雲地方の海の怪魚として記録されており、これ以外の土地に伝わることを示す記述は確かめられませんでした。

磯撫でとはどう違いますか。

磯撫では尾びれの無数の針で人を引っ掛けて海中に落として食べます。影鰐は体には触れず、海面に映った影だけを飲みます。どちらも鮫に似た怪魚とされる点は共通します。

影鰐と併せて覚えたい言葉・用語

磯撫で(いそなで)

『絵本百物語』に載る怪魚。影鰐はその類話として記録された。

ワニ(わに)

山陰地方で鮫を指す言い方。影鰐の「鰐」もこの用法とみられる。

巨口鰐(おおぐちわに)

古書『本草異考』での磯撫での呼び名。

温泉津(ゆのつ)

島根県大田市の一帯。影鰐の伝えが残る土地。