高い山の川の畔にいる、背が高く肌の黒いもの。二人で語り合う。
川男とはどんな妖怪か
川男は、川辺の妖怪です。
江戸時代中期の国学者・谷川士清が編纂した国語辞典『和訓栞』にあります。方言や俗語などを収録した「後編」は、士清没後の明治20年(1887年)に出版されました。
『和訓栞』の記述によれば、こうです。
高い山に流れる川の畔にいる。
背が高く、肌の色が黒い。
そして、美濃国(現・岐阜県)の話が続きます。
夜間に網を使って漁に行く人が見かけることが多く、二人の川男が並んで物語を話していたといいます。
二人で、話しています。
川男の漢字表記と読み方
読みは「かわおとこ」です。
川の男。 名前が、そのまま姿を言っています。
「川男」の名は、山の妖怪として日本各地で伝承される「山男」に対して名づけられたものと見られています。
山に山男がいるなら、川には川男がいる。
そして、川姫や川女郎という妖怪もいます。
ただし、それらは人に危害を与えたり大声を出すものと伝えられます。
川男には、そうした特徴が確認されていません。
背が高いことから、かつては背の高い人を「川男のようだ」という言い回しもありました。
川男(かわおとこ)
『和訓栞』後編での表記。
カワオトコ(かわおとこ)
カタカナで書くこともある。
山男(やまおとこ)
山の妖怪。「川男」の名はこれに対して名づけられたとみられる。
川男の姿と特徴
『和訓栞』の記す川男は、次のような姿です。
背 … 高い。
肌 … 色が黒い。
いる場所 … 高い山に流れる川の畔。
見かける時 … 夜間、網を使って漁に行くとき。
数 … 二人で並んでいた。
ほとんど、それだけです。
背が高く、肌が黒い。それ以外の特徴は書かれていません。
色が黒いという特徴は、単に夜間のために黒く見えたものとの解釈もあります。
そして、二人で並んで物語を話していたといいます。
人のようです。
昭和・平成以降の書籍では、おとなしげな顔立ちであり、実際に性格もおとなしいとする説もあります。
川男の伝承物語
二人で語り合う
川男の記述で、いちばん印象に残るのはこの一点です。
二人の川男が並んで、物語を話していた。
美濃国(現・岐阜県)での話です。
夜間に網を使って漁に行く人が、見かけることが多いといいます。
夜の川です。
そこに、背の高い黒い者が二人。並んで、何かを話しています。
人を襲いません。
大声も出しません。
ただ、話しています。
昭和・平成以降の書籍には、川を訪れた人に物語を聞かせるという説もあります。
聞かせる側に回ることもあるようです。
河童ではない
妖怪ではないかもしれない
川男について、正直に書いておくべきことがあります。
民俗学研究所による『綜合日本民俗語彙』で妖怪の類に分類されていることを始め、昭和以降の多くの妖怪関連の書籍に記載されています。
しかし、原典を見ると違います。
原典『和訓栞』には「高山の流れの大川に居るもの」とあるのみで、妖怪の類との記述は見られません。
ただ、いるもの、と書いてあるだけです。
そこから、次の可能性が示唆されています。
妖怪ではなく、単に川辺に座っていた背の高い人間を「川男」と呼んだという可能性です。
夜の川辺に、背の高い人が二人いて、話している。
それだけのことかもしれません。
そして、それを見た漁師が「川男だ」と言った。
川男の伝承地域
川男の記述に出てくる土地は、美濃国(現・岐阜県)です。
『和訓栞』によれば、この地では夜間に網を使って漁に行く人が見かけることが多いとされます。
そして、いるのは「高い山に流れる川の畔」です。
岐阜県には、木曽川・長良川・揖斐川の上流域をはじめ、山間を流れる川が数多くあります。
ただし、具体的な川の名は書かれていません。
碑も祠も、この名では見つかっていません。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
川男の正体と考えられているもの
川男の正体については、次のように整理できます。
一つめは、山男に対する名です。「川男」の名は、山の妖怪として各地で伝承される「山男」に対して名づけられたものと見られています。
二つめは、魍魎です。高い山の川にいるという点から、上流の川の水の精として伝承されている魍魎の一種とする説があります。
三つめは、河童とは別種です。「背が高い」などの点は河童の特徴には見られず、河童の仲間というよりも別種の未確認動物とも考えられています。
四つめは、人間です。原典『和訓栞』には「高山の流れの大川に居るもの」とあるのみで、妖怪の類との記述は見られません。 単に川辺に座っていた背の高い人間を「川男」と呼んだという可能性も示唆されています。
五つめは、夜の暗さです。色が黒いという特徴は、単に夜間のために黒く見えたものとの解釈もあります。
川男が何であったかは、わかっていません。 ただ、夜の川辺で二人が並んで話していたという光景だけが、辞書に書き留められました。
川男をめぐる妖怪のつながり
川男が登場する作品
川男は、辞書に一行だけ残った妖怪です。
原典『和訓栞』には「高山の流れの大川に居るもの」とあるのみで、妖怪の類との記述は見られません。 昭和以降の書籍が、それを妖怪として扱いました。
資料は辞書と、後世の研究に分かれます。
川男が登場する古典
和訓栞
谷川士清の国語辞典。後編(明治20年出版)に川男の記述があります。
川男が登場する研究
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川男についてよくある質問
川男はどんな姿ですか。
背が高く、肌の色が黒いとされます。 高い山に流れる川の畔にいるといいます。色が黒いのは、単に夜間のために黒く見えたものとの解釈もあります。
何をするのですか。
二人の川男が並んで物語を話していたといいます。人を襲うとも、大声を出すとも伝えられていません。 昭和以降の書籍には、川を訪れた人に物語を聞かせるという説もあります。
河童の仲間ですか。
「背が高い」などの点は河童の特徴には見られません。 そのため、河童の仲間というよりも別種とも考えられており、上流の川の水の精である魍魎の一種とする説もあります。
本当に妖怪なのですか。
原典『和訓栞』には「高山の流れの大川に居るもの」とあるのみで、妖怪の類との記述は見られません。 単に川辺に座っていた背の高い人間を「川男」と呼んだという可能性も示唆されています。
川男と併せて覚えたい言葉・用語
和訓栞(わくんのしおり)
谷川士清が編纂した国語辞典。後編は明治20年に出版された。
魍魎(もうりょう)
山川の精とされるもの。上流の川の水の精ともされる。
山男(やまおとこ)
山の妖怪として日本各地で伝承されるもの。