水辺に住む天狗。怪火を発し、網を打つ音を立てる。
川天狗とはどんな妖怪か
川天狗は、水辺に住む天狗です。
天狗の中でも水辺に好んで住み着くものといわれます。
東京の小河内村(現・奥多摩町)では、こう伝えられます。
多摩川にある大畑淵という大きな淵に住んでおり、人間に危害を加えることはなく、いつも岩の上に寂しそうに座り、物思いにふけっていた。
寂しそうに座っています。
ある年の春に姿を消しましたが、その年の秋にまた現れました。
そのとき、隣に一人の美しい天狗の娘が寄り添っており、彼女に膳椀を貸した者は、礼としてミミズが熱病の薬になることを教わったといいます。
川天狗の漢字表記と読み方
読みは「かわてんぐ」です。
川の天狗。 天狗は山にいるものですが、この天狗は水辺にいます。
東京都奥多摩、埼玉県秩父地方、神奈川県津久井郡、山梨県南都留郡の道志川。
いずれも、関東から中部にかけての山あいの川です。
そして、川天狗は漁に関わります。
川での漁を好むといわれ、静岡県でも同様です。
人が漁をすると、真似をします。
人が川に網を放つと、川天狗も姿を見せずに網を放つ音を立てたといいます。
川天狗(かわてんぐ)
もっとも一般的な表記。
天狗火(てんぐび)
関東から中部に伝わる怪火。川天狗によるものといわれる。
カワテング(かわてんぐ)
カタカナで書くこともある。
川天狗の姿と特徴
川天狗は、土地によって現れ方が違います。
東京・小河内村 … 岩の上に寂しそうに座る。姿が見える。
東京・水根渓谷 … 曇りの日や雨の夜、振袖姿で傘をさし、激しい山崩れの音を立てる。
神奈川・津久井郡 … 姿を現さない。大きな火の玉が転がって来る。
山梨・道志川 … 黒い坊主姿で現れ「子供! 子供!」と呼ぶ。
姿を見せないことが多くあります。
神奈川県津久井郡内郷村(現・相模原市緑区)では、川天狗は姿を現すことはなく、夜に人が川で漁をしていると、大きな火の玉が突然転がって来るといいます。
誰もいないのに大勢の人声が聞こえたり、松明の火が盛んに見えるものも、川天狗と呼ばれました。
川天狗の伝承物語
魚を供えると消える
神奈川県では、川天狗への対処法が伝わっています。
夜に人が川で漁をしていると、大きな火の玉が突然転がって来ることがあり、これが川天狗の仕業とされました。
そういうときは、こうします。
河原の石の上を洗い清め、獲れた魚を供えると、この怪異は失せたといいます。
分け前を渡します。
そして、川天狗も漁をします。
人が川に網を放つと、川天狗も姿を見せずに網を放つ音を立てたといいます。
同じことをします。
誰もいないのに大勢の人声が聞こえたり、松明の火が盛んに見えるものも、川天狗と呼ばれました。
自分たちの漁が、そのまま音になって返ってきます。
谷を覗くと落とされる
トチの古木から
山梨県の道志川では、川天狗と死者が結びつきます。
民俗学者・伊藤堅吉による村史『道志七里』によれば、道志村では川天狗が川に住んで魚を好み、怪火を発するとあります。
そして、ある川で人が死ぬと、その川のそばにある3本のトチの古木から青い火の玉を発したといいます。
人が死ぬと、木が光ります。
道志川のクソマタ淵では、別の姿で現れました。
子供が釣りをしていると、川天狗が黒い坊主姿で現れ、「子供! 子供!」と呼んだといいます。
呼ばれます。
夜に人が釣りをしていると、川天狗が網をうつ音を立てることもあり、その怪異に遭うと絶対に魚が釣れなくなったといいます。
釣れなくなります。
川天狗の伝承地域
川天狗は、次の土地に伝わります。
東京都西多摩郡小河内村(現・奥多摩町) … 多摩川の大畑淵という大きな淵に住んでいたといいます。 現在この一帯は奥多摩湖に沈んでいます。
東京都・水根渓谷 … 大河内と氷川の境にあり、山天狗と共によく現れたといいます。
神奈川県津久井郡内郷村(現・相模原市緑区) … 夜の漁のときに火の玉が転がって来たといいます。
山梨県南都留郡・道志川(道志村) … クソマタ淵で川天狗が黒い坊主姿で現れたといいます。
埼玉県秩父市 … 神奈川と同様の怪異があります。
いずれも川と渓谷そのものが舞台であり、川天狗を祀った碑や祠は確かめられていません。 この欄は空のままにしてあります。
川天狗の正体と考えられているもの
川天狗の正体については、次のように整理できます。
一つめは、水辺の天狗です。天狗の中でも水辺に好んで住み着くものといわれます。山にいるはずの天狗が、川にいます。
二つめは、怪火です。神奈川県では姿を現さず、大きな火の玉が突然転がって来るのが川天狗の仕業とされました。関東から中部に伝わる「天狗火」も、神奈川や山梨の山間部では川天狗によるものといわれます。
三つめは、漁の音です。人が川に網を放つと、川天狗も姿を見せずに網を放つ音を立てたといいます。誰もいないのに人声や松明の火が見えるものも、そう呼ばれました。
四つめは、危険の警告です。渓谷で音や景色を見せ、谷を覗き込もうとすると真っ逆様に川に落とされるといいます。実際に足を踏み外す危険のある場所です。
川天狗が何であったかは、わかっていません。 ただ、魚を供えると怪異が失せるという作法は、川で獲る者の礼儀として伝わりました。
川天狗をめぐる妖怪のつながり
川天狗が登場する作品
川天狗は、川で獲る人の妖怪です。
漁をする人が、漁の音を聞き、火の玉を見ました。 そして、獲れた魚を供えると怪異が失せたといいます。
資料は各地の村史と民俗の記録が中心です。
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川天狗についてよくある質問
川天狗は害を加えますか。
土地によります。小河内村では人間に危害を加えることはなく、いつも岩の上に寂しそうに座っていたといいますが、水根渓谷では谷を覗き込もうとすると真っ逆様に川に落とされるといいます。
怪異を鎮める方法はありますか。
神奈川県では、河原の石の上を洗い清め、獲れた魚を供えるとこの怪異は失せたといいます。分け前を渡します。
天狗火とはどういう関係ですか。
関東地方から中部地方にかけて伝わる怪火が天狗火で、神奈川県や山梨県の山間部では、この天狗火は川天狗によるものといわれます。
漁と関係があるのですか。
深く関わります。 川での漁を好むとされ、人が川に網を放つと川天狗も姿を見せずに網を放つ音を立てたといいます。その怪異に遭うと絶対に魚が釣れなくなったともいいます。
川天狗と併せて覚えたい言葉・用語
大畑淵(おおはたぶち)
東京都小河内村にあった多摩川の淵。川天狗が住んだとされる。
天狗火(てんぐび)
関東から中部に伝わる怪火。川天狗によるものともいわれる。
クソマタ淵(くそまたぶち)
山梨県道志川の淵。川天狗が黒い坊主姿で現れたという。