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高知県

古杣(ふるそま)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

古杣  / フルソマ

山の妖怪幽霊と霊 各地の伝説

深夜の山で大木を伐り倒す音だけが響く怪。朝に見ても切り株はない。

古杣の姿を描いた図

作者不明 「古杣」 江戸時代 / パブリックドメイン 出典

古杣とはどんな妖怪か

古杣はひとことで言えば倒れない木の音です。

深夜、山でカキンカキンと斧の音が続き、やがてワリワリワリワリバサアンと大木の倒れる響きがします。

夜が明けてその辺りを改めると、一枚の草の葉すら乱れていません。

天狗倒し天狗笑いとも呼ばれ、山で働く人がもっとも恐れた音の一つでした。

木を伐って暮らす人が、木を伐る音に脅かされる。聴こえるのは、自分たちの仕事の音でした。

土地によっては、供え物を怠ったせいだと考えました。詫びの餅を作り直すと、音は止んだといいます。

古杣の漢字表記と読み方

読みは「ふるそま」です。「」は山で木を伐る人と、その仕事場の山の両方を指します。

つまり古い杣昔この山で木を伐っていた者の音、という名前です。

同じ現象を、多くの土地では天狗倒しと呼びました。狸の悪戯だという地方もあります。

古杣(ふるそま)

高知などでの呼び方。杣は山で木を伐る人のこと。

天狗倒し(てんぐだおし)

広く使われる呼び方。

天狗笑い(てんぐわらい)

同じ山で語られた、大勢の笑い声の怪。

古杣の姿と特徴

姿はありません。音だけです。

柳田国男は、山で聴かれる怪音を三つ挙げています。第一に天狗礫、どこからともなく石が飛んでくる。第二に天狗倒し、大木を挽き伐る音がして倒れる響きがする。第三に天狗笑い、十人十五人が一度に笑う声が林の中から聴こえる。

害意はなくとも、人の胆を寒くする力があります。

古杣の伝承記録

  1. 深夜、前の山で斧の音が続く
  2. 夜が明けると、草の葉一枚乱れていない
  3. 餅を食べてしまった夜、山が荒れる
  4. 誰の仕業か、尋ねようがない

深夜、前の山で斧の音が続く

柳田国男は、この音をこう書き留めています。

深夜人定まってから前の山などで、大きな岩を突き落す地響がしたり、またはカキンカキンと斧の音が続いて、やがてワリワリワリワリバサアンと、さも大木を伐り倒すような音がする

カキンカキンは斧が幹に食い込む音、ワリワリワリワリは繊維が裂ける音、バサアンは倒れて枝葉が地を打つ音です。

聴いた者には、伐り倒される一部始終が順番どおりに聴こえました。

岩を突き落とす地響きから始まることもあります。山にいる人ほど、この音の意味を正確に聞き分けられました。

夜が明けると、草の葉一枚乱れていない

翌朝、その辺りを改めに行きます。

夜が明けてからその附近を改めて見ると、一枚の草の葉すら乱れてはいなかった

新しく伐った株はありません。倒れた木もありません。

第三の天狗笑いも同じです。十人十五人が一度に笑う声が、不意に閑寂の林の中から聴こえる。探しても誰もいません。

第一の天狗礫は、どこからともなく石が飛んできます。ただし通例は当たって人を傷つけることがないとされました。

三つとも、害が出ないという点で共通しています。木は倒れず、石は当たらず、笑い声は去る。それでも山で働く人の胆を寒くする力がありました。

餅を食べてしまった夜、山が荒れる

音が鳴る理由を、土地の人は自分たちの落ち度に求めました。

ある地方には、狗賓餅という供え物の習わしがあります。村中に触れを出し、老若男女が山に集まり、飯をふだんよりこわく炊いで握り、串に刺してよく焼き、味噌をつける。その初穂を五六本、木の葉に載せて供えるのです。

あるとき、その餅をみんなで食べてしまいました。

すると早速、山が荒れ出しました。 その夜は例の天狗倒しの音が盛んに鳴り、あわてて餅を作り直して詫び、ようやく収まったといいます。

誰の仕業か、尋ねようがない

柳田国男は、この音の正体について慎重です。

天狗倒しの音に至っては、果たして作者が彼らであったかということさえ疑わなければならない、と書きます。

狸の悪戯だという地方もあります。しかし——

本来跡方もない耳の迷いだから、誰の所業と尋ねてみようもない

痕跡が残らないので、犯人を捜す手がかりもありません。

秋田で山鬼と呼ばれたものも、もとは山中の異人を指す言葉でしたが、のちに大平山上に常住する者だけを指すようになり、ついには三吉大権現と書いて神になりました。

音だけが、確かに聴こえたという記憶として残ります。

古杣の伝承地域

天狗倒しの音は各地の山で語られました。柳田国男は狗賓餅の習わしとあわせて記録しています。古杣という呼び方は高知などに伝わります。

古杣の正体と考えられているもの

古杣は、仕事の音が山に残ったものです。

斧、裂ける繊維、倒れる幹。順番まで正確に聴こえるのは、聴いた人がその音を毎日聴いて暮らしていたからでしょう。

供え物を怠れば山が荒れ、詫びれば収まる。音は、山との約束を思い出させる合図として働きました。

古杣をめぐる妖怪のつながり

古杣が登場する作品

古杣は、山仕事の音だけが残る怪異です。

木を伐る音、倒れる音が夜の山に響きます。翌朝その場所へ行っても、切り株も倒木もありません。 山で死んだ杣人の霊とされました。

音だけで人を驚かせる怪異は各地にあります。古杣を分けているのは、その音が「仕事の音」であることです。 山で働く者にしか意味の分からない音でした。

古杣が登場する事典

日本妖怪大事典

村上健司による大部の事典。地方の小さな伝承まで、出典を添えて収めています。

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妖怪事典

村上健司による事典。全国の妖怪を採録元とともに整理しており、土地の伝承をたどる入口になります。

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古杣についてよくある質問

古杣とはどんな怪異ですか。

深夜の山で、斧の音と大木の倒れる音だけが響く怪異です。翌朝その場所を見ても、新しい切り株も倒れた木もありません。

天狗倒しと同じものですか。

同じ現象を指します。柳田国男は天狗礫・天狗倒し・天狗笑いの三つを山の怪音として並べ、古杣はこのうち天狗倒しにあたります。

なぜ音が鳴るとされましたか。

土地によっては供え物を怠ったためとされました。狗賓餅を村の者が食べてしまった夜に山が荒れ、天狗倒しの音が盛んに鳴ったという話が伝わります。

正体は分かっているのですか。

柳田国男は、天狗の仕業かどうかさえ疑う必要があるとし、痕跡が残らない以上、誰の所業か尋ねようもないと書いています。

古杣と併せて覚えたい言葉・用語

(そま)

山で木を伐る人。またその仕事場となる山。古杣の「杣」はこれにあたる。

狗賓餅(ぐひんもち)

山の神へ供える焼き餅。飯をこわく炊いで握り、串に刺して焼き味噌をつけ、初穂を木の葉に載せて供えた。

天狗礫(てんぐつぶて)

山中でどこからともなく石が飛んでくる怪異。通例は当たって人を傷つけないとされた。

古杣の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男『山の人生』