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天狗(てんぐ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

天狗  / テング

人型の妖怪 和漢三才図会

赤い顔と高い鼻を持つ山の妖怪。神とも魔とも扱われ、修験道と深く結びつく。

天狗の姿を描いた図

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 天狗」 1776年 / パブリックドメイン 出典

天狗とはどんな妖怪か

天狗は、神と妖怪の境目にいる山の主です。

赤ら顔に高い鼻、山伏の装束、背には羽、手には羽団扇、足には一本歯の高下駄。この姿がよく知られています。嘴を持つ烏天狗は別の形とされます。

名のもとは中国にあります。天を走る犬という意味の「天狗(てんこう)」は、流れ星を指す言葉でした。『日本書紀』には、大きな星が音を立てて流れたとき、僧の旻が「あれは天狗である」と言った記事があります。もとは空の現象の名だったのです。

日本では平安時代以降、修行を積みながら驕り高ぶって落ちた僧が天狗になるという考えが広まりました。そのため天狗は、神に近い力を持ちながら仏法を妨げる、どちらの側にも収まらない存在になります。

鞍馬山の僧正坊、愛宕山の太郎坊のように、山ごとに名を持つ大天狗が定められているのも天狗の特徴です。

天狗の漢字表記と読み方

読みは「てんぐ」です。字は「天の狗(いぬ)」と書きます。

もとは中国語の「てんこう」で、音を立てて流れる星を指しました。『日本書紀』舒明天皇の巻に、大きな星が東から西へ音を立てて流れたとき、唐から帰った僧の旻が「あれは流星ではない。天狗である」と語った記事があります。

中国の「天狗」は空を走る犬、日本の天狗は山に住む鳥形の怪異。同じ表記が、時代のなかで別のものを指すようになりました。 古代の語と中世以降の造形は、別々に読む必要があります。

天狗(てんぐ)

もっとも一般的な表記。

天狗(てんこう)

中国での読み。流れ星を指す語だった。

大天狗(だいてんぐ)

高い位の天狗。赤ら顔で鼻が高い姿。

烏天狗(からすてんぐ)

嘴と翼を持つ天狗。木の葉天狗ともいう。

天狗道(てんぐどう)

天狗が落ちる先とされる世界。六道のいずれにも入らないとされる。

天狗の姿と特徴

天狗の姿は、大きく二つの型に分かれます。

大天狗は、赤ら顔に高い鼻、白い髪と髭、山伏の装束、羽団扇、一本歯の高下駄という姿です。位の高い天狗とされます。

烏天狗は、と黒い翼を持ち、体は小さめに描かれます。木の葉天狗とも呼ばれ、大天狗に従う立場とされることが多くあります。

鼻が高いのは、あとから加わった特徴です。中世の絵巻では、天狗はもっぱら鳶のような鳥の姿で描かれています。高い鼻の顔になるのは近世に入ってからで、猿田彦の面の影響を受けたとする説があります。

持ち物では羽団扇が重要です。これをあおぐと風が起き、人を飛ばし、また鼻を伸び縮みさせる力があるとされました。

山伏の装束をまとうのは、天狗が修験道と深く結びついているためです。頭には兜巾(ときん)という小さな黒い帽子を戴きます。

天狗の伝承と変遷

  1. 流れ星から始まる ─ 名前だけが渡ってきた
  2. 慢心した僧の行き着く先 ─ 天狗道
  3. 山ごとの大天狗 ─ 名前を持つ天狗たち
  4. 護法としての天狗 ─ 名もない木の葉天狗まで
  5. 牛若丸と天狗 ─ 兵法を授ける師として

流れ星から始まる ─ 名前だけが渡ってきた

天狗という言葉が日本の文献に初めて現れるのは、『日本書紀』舒明天皇の巻です。

大きな星が東から西へ、雷のような音を立てて流れました。そこへ、唐から帰った僧のが、流星ではなく天狗で、その声が雷に似るという趣旨を語ったと記されています。このとき「あまつきつね」と読む注記があります。

この記述の後、天狗の名はしばらく文献上で目立たなくなります。 再び説話へ現れるころには、流星ではなく、僧を惑わす鳥形の怪異として語られました。

名前だけが中国から渡り、中身は日本で作られた。 天狗の成り立ちを考えるうえで、この空白は重要です。

慢心した僧の行き着く先 ─ 天狗道

平安時代の後半から、天狗は仏法を妨げるものとして語られ始めます。

今昔物語集』には、天狗が僧を惑わす話、修行者に取り憑く話が数多く収められています。天狗は鳶の姿で飛び、僧を空へさらい、遠国へ置き去りにします。

そして重要なのが、天狗になるのは誰かという点です。

修行を積み、法力を得ながら、驕り高ぶって仏の道を外れた僧を天狗になぞらえる説明が生まれました。文化庁の「天狗草紙」解説も、大寺院の僧の驕慢を天狗にたとえて風刺した作品だと説明しています。

「天狗道」はこうした仏教説話の中で語られる観念です。すべての地域伝承が同じ教理を持つわけではなく、山の怪異や修験の天狗とは分けて読む必要があります。

山ごとの大天狗 ─ 名前を持つ天狗たち

中世以降、天狗には名前が与えられます。それも、山ごとに定められました。

代表的なものを挙げます。

鞍馬山 僧正坊(京都)── もっとも名高い大天狗。牛若丸に兵法を教えたとされる。
愛宕山 太郎坊(京都)── 天狗の筆頭に数えられることが多い。
比良山 次郎坊(滋賀)
飯縄山 三郎(長野)── 飯縄権現と結びつく。
大山 伯耆坊(神奈川)
英彦山 豊前坊(福岡)
白峰山 相模坊(香川)── 崇徳上皇の霊を守るとされる。

これらをまとめて八天狗と呼ぶことがあります。

山があり、そこに修験の道場があり、そこに天狗がいる。 天狗の分布は、そのまま修験道の霊山の分布と重なります。

護法としての天狗 ─ 名もない木の葉天狗まで

名は大天狗の下にも連なります。歴史学者の喜田貞吉は、鞍馬山に居並ぶ天狗をこう数え上げました。

鞍馬では右の護法堂の大蛇以外、別に天狗という名高い護法のあることを忘れてはならぬ。所謂魔王大僧正を始めとして、霊山坊・帝金坊・多聞坊・日輪坊・月輪坊・天実坊・静弁坊・道恵坊・蓮知坊・行珍坊以下、名もない木の葉天狗・烏天狗の末に至るまで、御眷属の護法が甚だ多い

(護法は、寺や行者に仕えて働く霊のこと)

喜田は天狗を、修験の山に付いた護法神の一種と見ました。加賀の霊山についても短く言い切っています。

加賀の白山は言うまでもなく天狗の本場である。

大天狗から名もない木の葉天狗まで、位のある一団として並ぶ。天狗は一体の妖怪ではなく、山ごとの家来を抱えた集団として語られてきました。

牛若丸と天狗 ─ 兵法を授ける師として

天狗の話でもっとも広く知られているのが、鞍馬山の牛若丸でしょう。

源義経が幼名を牛若丸といったころ、鞍馬寺に預けられていました。夜な夜な山に入り、天狗から剣術と兵法を教わったと語られます。教えたのは鞍馬山の大天狗僧正坊とされます。

義経が鞍馬にいたことは記録にありますが、天狗に習ったという話は後世の作です。『義経記』が広めた筋書きで、能『鞍馬天狗』がそれを舞台に載せました。

しかし、この一話が天狗の性格を大きく変えました。天狗は、害をなすものから、力を授ける師へ移ります。

山で修行する人に力を与える存在。この見方が広まると、天狗は祀られるようになります。高尾山、秋葉山、飯縄山では、天狗が信仰の対象として今も扱われています。

天狗の伝承地域

天狗の名と物語は山ごとに違います。鞍馬は僧正坊と牛若丸、愛宕は太郎坊と火伏せ、高尾は像と修験の行事。同じ天狗という名でも、行けば別のものに出会います。

ここに挙げた三山は、いずれも参道が整い、日帰りで登れる山です。地図は伝承の地域を示すもので、山中には社寺の管理区域もあります。

高尾山(たかおさん)

天狗像と修験文化が伝わる山

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高尾山の所在地:東京都八王子市高尾町

高尾山では、山中の寺院や参道で大天狗・烏天狗の像を見ることができます。地図は個々の像ではなく、天狗信仰と修験文化が伝わる高尾山の位置を示します。

山域なので、天候・服装・通行情報を確認して訪れる。

鞍馬山(くらまやま)

大天狗・僧正坊の山

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鞍馬山の所在地:京都府京都市左京区鞍馬本町

京都の北にある山で、鞍馬山僧正坊という大天狗が住むとされてきました。牛若丸が兵法を授かったと語られる場所です。

山中には僧正ガ谷と呼ばれる場所があり、牛若丸が修行したと伝えられます。杉の巨木が並ぶ薄暗い谷で、天狗の話が生まれる地形がそのまま残っています。

鞍馬寺は山全体を境内とし、木の根が地表を這う参道が続きます。

叡山電鉄の鞍馬駅が起点。山道は起伏があり、歩きやすい靴が要る。

愛宕山(あたごやま)

太郎坊の山/全国の愛宕信仰の本社

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愛宕山の所在地:京都府京都市右京区嵯峨愛宕町

京都の西北にそびえる山で、愛宕山太郎坊という大天狗が住むとされます。天狗の筆頭に数えられることが多い存在です。

山頂の愛宕神社は火伏せの神として全国に信仰を広げ、各地に愛宕社が置かれました。台所に「火迺要慎」の札を貼る習わしは、この社のものです。

茨木童子が渡辺綱をさらおうとした行き先が愛宕山だとする伝えもあり、天狗と鬼の両方の話が集まる山になっています。

山頂の社まで徒歩で二時間ほどかかる。表参道が一般的な道筋。

天狗の正体と考えられているもの

天狗に一つの「正体」はありません。古代文献の流星を指す語、中世説話で僧を惑わす鳥形の怪異、『天狗草紙』で驕慢な僧を風刺する像、修験の山で語られる大天狗、近世以降に定着した鼻高の面が重なっています。

山伏の装束や山岳信仰との関係は重要ですが、実在の特定集団を天狗の正体と断定する資料はありません。時代ごとに別の文脈を持つ像が「天狗」の名へ集まったと整理するのが安全です。

鳥山石燕は、天狗礫の発する光を松明丸という妖怪として描きました。火を携えた猛禽のような鳥で、深い山の森に現れるとされます。

また、石燕は『百器徒然袋』に襟立衣を描いています。鞍馬山の僧正坊が着ていた僧衣であろうとされ、垂れた襟が天狗の鼻のように見えます。

天狗をめぐる妖怪のつながり

天狗が登場する作品

『今昔物語集』では、天狗は僧を惑わせ、仏法を妨げる存在として説話に現れます。鎌倉時代の『天狗草紙』は、大寺院の僧の驕慢を天狗になぞらえて風刺しました。

古代の流星を指す語から、中世の鳥形の怪異、驕慢な僧の比喩へと役割が変わったことが、二つの作品を通して分かります。

天狗が登場する説話・絵巻

今昔物語集

仏法を妨げ、人を惑わす天狗の説話を収めます。国立国会図書館の展示資料で天狗説話との関係を確認できます。

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天狗草紙

鎌倉時代の絵巻。大寺院の僧の驕慢を天狗になぞらえて風刺します。

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天狗についてよくある質問

天狗とはどんな妖怪ですか。

山に住むとされる妖怪です。赤ら顔に高い鼻、山伏の装束、羽団扇、一本歯の高下駄という姿で知られます。神とも魔とも扱われます。

なぜ「天狗」という名なのですか。

もとは中国語で流れ星を指す言葉でした。『日本書紀』に、音を立てて流れた星を僧の旻が天狗と呼んだ記事があります。日本の天狗は名前だけを受け継いでいます。

天狗と烏天狗は違うのですか。

別の型とされます。赤い顔で鼻の高いものを大天狗、嘴と翼を持つものを烏天狗(木の葉天狗)と呼び、烏天狗は大天狗に従う立場とされることが多くあります。

天狗の鼻はいつから高いのですか。

近世以降です。中世の絵巻では鳶のような鳥の姿で描かれており、高い鼻は後から加わりました。猿田彦の面の影響とする説があります。

天狗に会える場所はありますか。

伝承地域として東京都八王子市の高尾山、京都市の鞍馬山・愛宕山を紹介しています。山域なので、公開範囲・天候・通行情報を確認して訪れてください。

天狗は誰がなるのですか。

中世の仏教説話や『天狗草紙』では驕慢な僧と天狗が結びつきます。ただし、地域の山岳伝承をすべて同じ「天狗道」の説明で統一することはできません。

天狗と併せて覚えたい言葉・用語

修験道(しゅげんどう)

山にこもって修行し、験力を得ることを目指す日本の信仰。天狗の姿は山伏の装束による。

羽団扇(はうちわ)

天狗が持つ団扇。あおぐと風を起こし、人を飛ばすとされる。

天狗道(てんぐどう)

慢心した修行者が落ちるとされる世界。六道のいずれにも属さないとされる。

僧正坊(そうじょうぼう)

鞍馬山の大天狗。牛若丸に兵法を授けたと語られる。

兜巾(ときん)

山伏が額に着ける小さな黒い帽子。天狗の姿にも描かれる。

天狗の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 国立国会図書館「天狗のイメージ生成について」
  2. 国立国会図書館 常設展示「天狗」
  3. 国立国会図書館月報621号
  4. 文化庁 文化遺産オンライン「天狗草紙」
  5. 国立国会図書館サーチ『今昔物語』
  6. 青空文庫 喜田貞吉「憑き物系統に関する民族的研究」