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徳島県

首切れ馬(くびきれうま)とはどんな妖怪か|姿と伝承

首切れ馬  / クビキレウマ

幽霊と霊獣の妖怪 各地の伝説

首の無い馬の姿で夜道に現れる妖怪。徳島をはじめ各地に伝わり、首無し馬ともいう。

首切れ馬の姿を描いた図

Naokijp 「祖谷渓(徳島県三好市)」 2021年 / CC BY-SA 出典

首切れ馬とはどんな妖怪か

首切れ馬はひとことで言えば、首の無い馬の妖怪です。「首無し馬」ともいいます。

宮城県、福島県、八丈島、福井県、淡路島、島根県の隠岐、愛媛県、高知県、徳島県など、伝承地は広い範囲にわたります。

その名のとおり頭の無い馬が路上に現れるというもので、馬の上には神が乗っているとも語られました。

徳島県の板野郡では、人に襲いかかって噛みついたともいわれます。祖谷山の首切れ馬は、大晦日や節分に四辻に姿を現したと伝えられます。

首の無い状態で現れるのは、幽霊に多く見られる形です。この馬についても、かつて死んだ馬や殺された馬が幽霊となって現れるとする話がよくあります。

徳島では、鬼である夜行さんが乗るものとして語られることでも知られます。

首切れ馬の漢字表記と読み方

読みは「くびきれうま」です。「くびなしうま」とも呼ばれます。

呼び名は土地によって揺れますが、指しているものは同じで、頭部の無い馬です。

鹿児島県の徳之島には、これに対応するように「首切牛」という首の無い牛の言い伝えがあります。

馬でも牛でも、村の暮らしを支えた大きな家畜が首を失った姿で現れる、という形が共通しています。

なお、徳島の一部と香川県東部では、この馬そのものを「夜行さん」と呼びます。本来は馬に乗る鬼の名ですが、乗り手のいない馬だけが夜行さんの名で語られる地域があります。

首切れ馬(くびきれうま)

徳島県などでの一般的な書き方。

首無し馬(くびなしうま)

同じものを指す別の呼び方。

首切牛(くいきりうし)

鹿児島県徳之島に伝わる、首の無い牛。

首切れ馬の姿と特徴

首切れ馬の姿は、名がそのまま姿を表しています。

基本の姿 … 頭部の無い馬。夜の路上に現れる。
宮城・福島での姿 … 神が乗った首切れ馬が現れる。馬の首だけが宙を飛び回るともいう。
徳島県板野郡での姿 … 人に襲いかかって噛みつく。
祖谷山での姿 … 大晦日や節分に四辻へ現れる。

顔が無いのに馬とわかる、という点にこの妖怪の不気味さがあります。

胴と脚の形、そして蹄の音。手がかりはそれだけです。実際、近年語られる話でも、まず蹄の音が背後から聞こえ、振り返ると何も見えないという形を取ります。

徳島県石井町には、首の無い馬に落武者の霊が騎乗しているという話が伝わり、明治期にも目撃談がありました。

首が無いという一点だけで成り立っている妖怪です。それ以上の説明を必要としません。

首切れ馬の伝承物語

  1. 短い目撃談と、長い物語
  2. 大晦日や節分に四辻へ現れる
  3. 死んだ馬の霊という説明
  4. 馬の上に神が乗るという伝え
  5. 首を失った馬は日本だけのものではない
  6. 行き先を決める頭が無い

短い目撃談と、長い物語

首切れ馬の伝承は、大きく二種類に分かれるとされています。

一つは、特定の場所で首切れ馬を見たという短い目撃談です。どこそこの坂で、どこそこの辻で見た、というだけの話で、由来も結末もありません。

もう一つは、別の話と合わさって長い物語になったものです。落武者の霊が乗っている、城から逃れた姫が乗っている、といった筋書きが付きます。

短い目撃談のほうが数としては多く、長い物語は後から形を整えたものとみられます。

大晦日や節分に四辻へ現れる

祖谷山の首切れ馬は、大晦日や節分に四辻に現れると伝えられます。四辻は道が交わる場所であり、境目にあたります。

徳島県板野郡では、人に襲いかかって噛みつくといわれました。首が無いのに噛みつくという矛盾は、この話では問題にされません。

恐ろしさは、辻褄よりも先にあります。

宮城県や福島県では、首切れ馬が現れるだけでなく、馬の首だけが宙を飛び回るとも語られました。切り離された首と胴が、それぞれ別に怪異になるという形です。

死んだ馬の霊という説明

首無しという形は、日本の幽霊にしばしば見られるものです。

首切れ馬についても、かつて死んだ馬や殺された馬が幽霊となって現れるとする言い伝えが各地にあります。

馬は、農耕にも運搬にも欠かせない家畜でした。馬を粗末に扱った者が祟られるという話は各地にあり、死んだ馬の霊が人に取り憑くという馬憑きの怪異も伝えられています。

つまり首切れ馬は、家畜を扱う暮らしのなかから生まれた怪異と考えられます。

馬の上に神が乗るという伝え

一方、宮城県や福島県のように、馬の上に神が乗っているとする伝えもあります。この場合、首切れ馬は祟るものではなく、通り過ぎる行列のようなものになります。

同じ姿でありながら、恐れる対象にも、避けて通るべき行列にもなります。

徳島県石井町には、落武者の霊が首の無い馬に乗るという話が伝わります。この話は、遠く離れた土地の伝説とよく似た形をしているとされ、比べて語られることがあります。

明治期にも目撃談が出ており、話が長く生き続けたことがわかります。

首を失った馬は日本だけのものではない

首の無い馬は、日本の外にもあります。

アイルランドなどに伝わるデュラハンが乗るのは、首の無い馬とされます。この馬は「コシュタ・バワー」と呼ばれます。

ブラジルには、神父と関わりを持った女が呪いで姿を変えられるという「首なしラバ」の民話があります。

首を失った家畜が夜道に現れるという発想は、離れた土地でそれぞれに生まれています。

なぜこの形が広く生まれるのか。

行き先を決める頭が無い

馬やラバは、人を乗せて道を行くものです。乗り物であり、道の上のものです。その首が無いということは、行き先を決める頭が失われているということでもあります。

行き先の無い乗り物が、夜の道をひたすら走り続ける。

この不気味さは、言葉が違っても伝わります。

なお、首を失った状態で長く生きた動物の実例として、首を失いながら十八か月生き延びたという鶏の記録が知られています。首が無くても動くという事実そのものが、人の想像を刺激してきました。

首切れ馬の伝承地域

首切れ馬の伝承地は非常に広く、宮城県、福島県、八丈島、福井県、淡路島、島根県の隠岐、愛媛県、高知県、徳島県などにわたります。

このうち徳島県では、三好市の祖谷山が大晦日や節分に四辻へ現れる地として、名西郡石井町が落武者の霊の乗る馬の地として伝えられます。

板野郡では、人に襲いかかって噛みつくといわれました。

伝承は複数の県にまたがりますが、鬼である夜行さんと結び付いた形が語られるのは徳島県です。

いずれの土地にも、首切れ馬にちなむ碑や祠は確かめられませんでした。

祖谷山(いややま)

四辻に現れると伝わる地

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祖谷山の所在地:徳島県三好市

徳島県の山深い一帯です。

ここでの首切れ馬は、大晦日や節分四辻へ姿を現したと伝えられます。

道が交わる場所と、年や季節の変わり目とが重なった時刻に現れる、という形です。

夜行さんの伝えとも重なる地域にあたります。

首切れ馬にちなむ碑や祠は確かめられませんでした。

石井町(いしいちょう)

落武者の霊が乗ると伝わる地

地図で開く

石井町の所在地:徳島県名西郡石井町

首の無い馬に落武者の霊が騎乗しているという話が伝わる土地です。

短い目撃談ではなく、由来のある物語の形を取っています。

明治期にも目撃談が発生したと記録されています。

同じ徳島県内でも、板野郡の噛みつく首切れ馬とは性格が違います。

目撃の場所を特定する標識はありません。

首切れ馬の正体と考えられているもの

首切れ馬の正体については、次のように考えられています。

死んだ馬の霊とする見方がもっとも広く行われています。かつて死んだ馬や殺された馬が首の無い幽霊となって現れる、という説明です。馬を粗末に扱った者が祟られるという話は各地にあります。

行列の一部とする見方もあります。宮城県や福島県では馬の上に神が乗っているとされ、この場合は祟るものではなく、行き会ってはならないものになります。

落武者の話と結び付いたとする見方は、徳島県石井町の伝えに当てはまります。首を失った武者と首を失った馬が重ね合わされています。

鬼の乗り物として後から加わったとする見方も可能です。徳島から香川にかけては、鬼ではなく馬そのものを夜行さんと呼ぶ土地があり、どちらが先かは決まっていません。

首が無いという形そのものに力があるとする見方も重要です。デュラハンの乗るコシュタ・バワー、ブラジルの首なしラバなど、離れた土地にも同じ形があります。

一つに決めることはできません。 首切れ馬は、土地ごとに別の理由を与えられながら、姿だけを共有してきました。

首切れ馬をめぐる妖怪のつながり

首切れ馬が登場する作品

首切れ馬は、絵よりも音で語られてきた妖怪です。

江戸時代の絵師が描いた例は確かめられませんでした。かわりに、背後から蹄の音が近づくという語り方が各地で共通しています。

頭の無い馬が走り続けるという形は、近い時代の怪談にも受け継がれています。 首を失った乗り手が二輪車で走り続けるという話は、その延長線上にあります。

姿を描かなくても伝わるという点が、この妖怪の強さです。

首切れ馬が登場する伝え

徳島県各地の言い伝え

祖谷山では四辻に、板野郡では噛みつくものとして語られます。

宮城・福島の言い伝え

神が乗った首切れ馬のほか、馬の首だけが宙を飛び回るとも語られます。

首切れ馬が登場する書物

妖怪を扱う各種の事典

首無し馬の名で立項され、夜行さんと組にして紹介されることがあります。

首切れ馬が登場するそのほか

首の無い姿を扱う各種の作品

首なしライダーなど、近い時代の怪談にも同じ形が受け継がれています。

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首切れ馬についてよくある質問

首切れ馬とは何ですか。

頭部の無い馬の姿で夜道に現れるという妖怪です。首無し馬ともいいます。宮城県、福島県、福井県、淡路島、島根県隠岐、愛媛県、高知県、徳島県など、広い範囲に伝わります。

どこに出るとされますか。

徳島県では、三好市の祖谷山で大晦日や節分に四辻へ現れるとされ、名西郡石井町では落武者の霊が乗る馬として語られます。板野郡では人に噛みついたともいわれます。

夜行さんとはどういう関係ですか。

徳島では、鬼である夜行さんが乗る馬として語られます。ただし必ず組になっているわけではなく、馬だけの言い伝えのほうが多いとされます。吉野川下流から香川県東部では、馬そのものを夜行さんと呼びます。

なぜ首が無いのですか。

かつて死んだ馬や殺された馬が幽霊となって現れるという説明がもっとも広く行われています。首無しという形は日本の幽霊にしばしば見られるものです。

日本以外にも同じものがありますか。

あります。デュラハンが乗る馬は首の無い馬とされ、コシュタ・バワーと呼ばれます。ブラジルには首なしラバの民話があります。

首切れ馬と併せて覚えたい言葉・用語

祖谷山(いややま)

徳島県三好市の山深い一帯。首切れ馬が四辻に現れると伝わる。

四辻(よつつじ)

道が十文字に交わる所。境目にあたり、怪異の現れる場として語られやすい。

首切牛(くいきりうし)

鹿児島県徳之島に伝わる首の無い牛。首切れ馬に対応する形をとる。

コシュタ・バワー(こしゅたばわー)

デュラハンが乗るとされる首の無い馬。日本以外の同じ形の例。