滝の中に現れる不動明王の姿。諸国の滝壺から現れるという。

鳥山石燕 「今昔百鬼拾遺 滝霊王」 1781年 / パブリックドメイン 出典
滝霊王とはどんな妖怪か
滝霊王は、滝に現れるものです。鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』(1781年)にあります。
絵では、落ちる滝の中に、不動明王の姿が浮かんでいます。炎を背負い、剣を持ち、岩の上に立っています。
石燕の解説文には、こうあります。
諸国の滝つぼよりあらはるると云 青竜疏に一切の鬼魅諸障を伏すと云々
諸国の滝壺から現れるという。『青竜疏』に、一切の鬼魅や諸障を伏せると云々。
「鬼魅」は、鬼や魑魅。「諸障」は、修行を妨げるものです。
つまり、この存在は妖怪を退ける側にいます。
詳細は不明ですが、実際には妖怪ではなく、不動明王そのものを描いたとの説もあります。
滝霊王の漢字表記と読み方
読みは「たきれいおう」です。
滝の霊王、と読めます。
「明王」(みょうおう)は、仏教で、仏の教えに従わないものを力ずくで従わせる尊格です。不動明王がその代表です。
霊王は、明王に近い響きを持つ語です。
そして、滝は修行の場でした。
滝行といい、滝に打たれて心身を清めます。 修験道でも広く行われました。
不動明王は、その滝行の本尊です。
滝と不動明王は、もともと固く結びついています。
石燕は、そこに名をつけました。
滝霊王(たきれいおう)
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』での表記。
瀧霊王(たきれいおう)
旧字体を用いる表記。
タキレイオウ(たきれいおう)
カタカナで書くこともある。
滝霊王の姿と特徴
石燕の描く滝霊王は、次のような姿です。
姿 … 不動明王。忿怒の相。
背 … 炎を負う。渦を巻いて立ち上る。
手 … 剣を持つ。もう一方に羂索。
足 … 岩の上に立つ。
周囲 … 落ちる滝。白い水の筋が幾条も。
下 … 滝壺。水が渦を巻く。
滝の中に立っています。
水の筋が体の前を横切り、姿が半ば隠れています。 見えたり隠れたりします。
顔は忿怒の相です。
眉を寄せ、牙を剥いています。不動明王の決まった姿です。
背の炎は、迦楼羅炎と呼ばれるものです。
そして、この絵には妖怪らしいところがありません。
仏画として見ても、通用します。
滝霊王の伝承物語
妖怪を伏せる側
滝で修行する
滝は、修行の場です。
滝行といい、滝に打たれて心身を清めます。
修験道でも、密教でも、広く行われました。
冷たく、重く、息ができません。
そこに耐えることが行になります。
そして、不動明王は滝行の本尊です。
全国の滝には、不動明王を祀った祠が数多くあります。
那智の滝、清瀧、各地の不動滝。
滝と不動明王は、固く結びついています。
石燕が「諸国の滝つぼよりあらはるる」と書いたのは、その景色をそのまま述べたものとも読めます。
実際に、諸国の滝には不動明王がいます。
滝壺から引き揚げた木
滝霊王には、具体的な下敷きがあるとする解釈があります。
滋賀県の天台宗の寺院、葛川息障明王院です。
かつて開祖の相応和尚が、滝壺から引き揚げた霊木で不動明王像を彫って尊体としたという伝説があります。
滝壺から出た木が、不動明王になった。
「諸国の滝つぼよりあらはるる」という石燕の言葉と、そのまま重なります。
この伝説をモデルとして描いたものが滝霊王だとする解釈があります。
相応和尚は、比叡山の回峰行を始めた人物とされます。
葛川は、その修行の地です。
滝、不動明王、修行。三つが揃っています。
妖怪ではないのかもしれない
滝霊王について、正直に書いておくべきことがあります。
詳細は不明です。
そして、実際には妖怪ではなく、不動明王そのものを描いたとの説もあります。
絵を見れば、確かにそう見えます。
忿怒の相、剣、羂索、迦楼羅炎。不動明王の姿がそのまま描かれています。
石燕が何をしようとしたのかは、わかりません。
妖怪の本に、仏を入れた。
あるいは、滝に現れる何かを、不動明王の姿として捉えた。
どちらとも読めます。
『今昔百鬼拾遺』の最後の丁に近い位置にあることから、本を締めるために置いたとも考えられます。
瓶長が『百器徒然袋』を締めたのと、同じ形です。
滝霊王の伝承地域
滝霊王に関わる場所としては、滋賀県大津市の葛川息障明王院が挙げられます。
天台宗の寺院で、開祖の相応和尚が滝壺から引き揚げた霊木で不動明王像を彫って尊体としたという伝説が伝わります。
相応和尚は、比叡山の回峰行を始めた人物とされ、葛川はその修行の地です。
この伝説をモデルとして描いたものが滝霊王だとする解釈があります。
ただし、滝霊王そのものを祀った堂や碑は確かめられていません。 石燕は「諸国の滝つぼよりあらはるる」と書いており、特定の一か所を指してはいません。
確かめられていない場所を、伝承地として挙げることはしません。この欄は空のままにしてあります。
滝霊王の正体と考えられているもの
滝霊王の正体については、次のように整理できます。
一つめは、不動明王です。実際には妖怪ではなく、不動明王そのものを描いたとの説があります。 絵は、忿怒の相・剣・羂索・迦楼羅炎と、不動明王の姿をそのまま備えています。
二つめは、妖怪を伏せるものです。石燕は「一切の鬼魅諸障を伏す」と書きました。鬼や魑魅、修行を妨げるものを退ける側にいます。
三つめは、滝行の本尊です。滝は修行の場であり、全国の滝には不動明王を祀った祠が数多くあります。 「諸国の滝つぼよりあらはるる」は、その景色そのままとも読めます。
四つめは、葛川の伝説です。滋賀県の葛川息障明王院には、相応和尚が滝壺から引き揚げた霊木で不動明王像を彫ったという伝説があります。これをモデルとする解釈があります。
滝霊王が何であったかは、わかっていません。 ただ、滝に何かがいるという感覚は、行を積む者に共通のものです。
滝霊王をめぐる妖怪のつながり
滝霊王が登場する作品
滝霊王は、仏と妖怪の境にある絵です。
石燕は「一切の鬼魅諸障を伏す」と書いており、退ける側として置いています。 『今昔百鬼拾遺』には、白沢や方相氏など、同じく退ける側のものも入っています。
資料は石燕の絵と、不動明王をめぐる記録に分かれます。
滝霊王が登場する古典
滝霊王が登場する研究
滝霊王が登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
滝に現れるものとして、水の妖怪と並べて取り上げられます。
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滝霊王についてよくある質問
滝霊王は妖怪ですか。
実際には妖怪ではなく、不動明王そのものを描いたとの説があります。 石燕は「一切の鬼魅諸障を伏す」と書いており、妖怪を退ける側に置いています。
どこに現れるのですか。
石燕は「諸国の滝つぼよりあらはるる」と書いています。特定の一か所を指してはいません。 全国の滝には、不動明王を祀った祠が数多くあります。
葛川息障明王院との関係は何ですか。
滋賀県の天台宗の寺院です。開祖の相応和尚が、滝壺から引き揚げた霊木で不動明王像を彫って尊体としたという伝説があり、これをモデルとして描いたものが滝霊王だとする解釈があります。
「鬼魅諸障」とは何ですか。
「鬼魅」は鬼や魑魅、「諸障」は修行を妨げるものを指します。石燕は『青竜疏』を引いて、滝霊王がそれらを伏せると述べています。
滝霊王と併せて覚えたい言葉・用語
不動明王(ふどうみょうおう)
仏の教えに従わないものを力ずくで従わせる尊格。滝行の本尊。
滝行(たきぎょう)
滝に打たれて心身を清める行。修験道や密教で行われる。
相応和尚(そうおうかしょう)
葛川息障明王院の開祖。比叡山の回峰行を始めた人物とされる。