夜に現れる説明しにくい火を広く指し、墓の燐火、化け物がともす火、土地固有の怪火などを含んできた呼び名。

寺島良安 「和漢三才図会 鬼火」 1712年 / パブリックドメイン 出典
鬼火とは何か
鬼火は、夜の野に出る怪しい火です。
墓で見える火を狐火と呼び、化け物がともす火を鬼火と呼ぶ。近世の説明でも、線引きは揺れていました。
鬼火の漢字表記と読み方
一般的な読みは「おにび」です。日文研の『愚雑俎』採録カードでは「鬼火」を「きか」と読んでいます。読みが違うだけで別種と決めることはできず、書かれた時代と本文の意味を併せて見る必要があります。
鬼火(おにび・きか)
一般には「おにび」。漢語的に「きか」と読む資料もある。
怪火(かいか)
正体の分からない火を指す広い語。鬼火と重なる用例がある。
狐火(きつねび)
狐や化生のものがともすとされた火。鬼火の説明中に併記されることがある。
鬼火の姿と特徴
鬼火の色・数・大きさ・動きに、全国共通の形はありません。
『詩学大成抄』を引く記録では、墓などの火が見えたり消えたり、進んでは戻ったりすると説明されます。高知の「怪火」は、後光のような光が差さず、ほの明るい火として採録されました。
青白い球体や顔の付いた炎は、後世の絵でよく使われる形です。古い記録の火には、顔も決まった色もありません。
鬼火の伝承記録
夏の雨夜、墓で青白い火が揺れる
山形県で1991年に採録された話では、夏の雨夜、墓から鬼火が出ると語られました。火は青白く、点いたり消えたりしながら燃えるように見えたといいます。夜の墓、雨、青白い明滅が一つの場面としてそろう記録です。
別の『詩学大成抄』を引く資料では、墓などに現れる燐の火を鬼火とし、狐火とも呼びます。その火は見えたり消えたりし、進んでは戻ると説明されました。墓に現れる火でも、鬼火と狐火の名が重なる例があります。
珍しい火を見物する人々がいた
江戸期の随筆『愚雑俎』を収めた日文研のカードには、夜陰の鬼火を世間の人が珍しいものとして見物した、と短く記されています。鬼火は恐怖の対象であるだけでなく、見慣れない現象を確かめようとする好奇心も集めました。
この一文は、火が出たという記述だけで終わります。暗夜に現れた火と、それを囲む人々の反応を切り取った記録です。逃げる者だけでなく、正体の分からない光を見ようと集まる者がいたことを伝えます。
高知の怪火は、草履で招くと頭上へ来る
1931年に高知県幡多郡で採録された怪火は、草履の裏に唾を付けて招けば捕らえられるとされました。人の火との見分け方は薄目で見ることで、後光が差さず、ほの明るいだけなのが怪火だといいます。
同じ火の怪異でも、墓や死者ではなく、見分け方と招き方が具体的に語られる例です。鬼火という総称の下には、土地ごとに異なる観察と振る舞いが残っています。草履という日用品が、遠い火を手元へ呼ぶ道具になります。
人魂とも狐火とも重なる ─ 名の境目
幽霊が提灯を提げて出る
鬼火は、日本では幽霊とセットで現れます。岡本綺堂が、その特徴を外国と比べました。
支那や外国の幽霊は暗夜に無灯で出没する。それが幽霊の特権であろうと思われるのに、日本の幽霊は警視庁令を守る自転車乗りの如くに必ず灯火を携帯する。
(警視庁令=夜間の無灯火走行を禁じた当時の規則)
外国の幽霊は灯を持たない。日本の幽霊だけが必ず持つ。 綺堂はここを面白がりました。
外国でも燐光は飛ぶ。支那でも古沼や墓場には燐火が見られる。現に鬼火とか鬼燐とかいう言葉もあるくらいで
燐の火そのものは、どこの国にもあります。 違うのは、日本ではそれが幽霊の持ち物になったことです。
青白い火と、白い着物の女。この組み合わせが決まり、鬼火は幽霊の提灯の役を負いました。
鬼火の伝承地域
鬼火は全国の記録を包む広い呼称のため、一地点を代表住所として表示しません。山形の墓、高知の野外など、採録ごとに現れる場所と様子が異なります。墓地、私有地、夜の山野を見学先にするものでもありません。各地の具体的な話は、火魂、狐火、野火など個別の記録からたどれます。
鬼火の正体と考えられているもの
鬼火という語が指すのは、夜の火のうち、名前の付かないものです。墓で明滅する青白い火、化生のものがともすと考えられた火、見物の対象になった火、草履で招けるとされた土地の怪火が同じ呼称の周辺に集まっています。古い記録を比べると、色だけでなく、現れる場所、動き、誰の仕業と考えたかが名前の範囲を決めていました。つまり「鬼」という字だけから鬼が炎を出す姿を想像するより、各地で夜の異様な光をどう見分け、何と結び付けたかを読む方が、記録に残る鬼火の実像へ近づけます。
空に立つ火では、火柱が古くから記録されています。『吾妻鏡』にも載り、俗に大火の前兆といわれました。
鬼火をめぐる妖怪のつながり
鬼火が登場する作品
鬼火は、各地の怪火をまとめて呼ぶ名です。
青鷺火、狐火、遊火、天火、権五郎火。 同じ「夜に浮かぶ火」でありながら、土地ごとに別の名と別の由来を持ちます。
石燕の『画図百鬼夜行』は、そのうちの一つを「鬼火」として一枚に描きました。個別の怪火をたどると、それぞれの土地で何が恐れられていたかが分かります。
鬼火が登場する妖怪画
鬼火が登場する古典・記録
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鬼火についてよくある質問
鬼火とは何ですか。
夜の墓地や野外などに現れる説明しにくい火を広く指す呼び名です。鬼の姿を持つ一体ではなく、狐火や人魂、地方の怪火と範囲が重なります。
鬼火と狐火は同じですか。
同じ火を鬼火・狐火と併記する資料がありますが、狐火は狐や化生のものがともすという原因を強く持ち、鬼火はより広い呼び名として使われます。
鬼火は何色ですか。
全国共通の色はありません。ほの明るい火、見えたり消えたりする火。古い資料の鬼火は、青白い球体に定まりません。
鬼火の正体は何ですか。
一種類の現象には決まっていません。異なる夜の光が、死者や狐、化生のものと結び付けて説明され、鬼火という広い名にまとめられたと考えられます。
鬼火と併せて覚えたい言葉・用語
怪火(かいか)
原因の分からない不思議な火の総称。
燐火(りんか)
墓地などの火を説明する際に使われてきた語。
化生(けしょう)
人や動物とは異なるものが姿を変えて現れること。
鬼火の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。