夜空を斜めに飛び、屋根へ落ちると火事や病人を出すと恐れられた提灯ほどの怪火。

竹原春泉 「絵本百物語 天火」 1841年 / パブリックドメイン 出典
天火とはどんな妖怪か
天火は、空を飛ぶ怪火です。九州をはじめ各地で語られました。提灯ほどの火が尾を引かずに飛び、家の屋根へ落ちると火事になる、村へ落ちると病人が出ると恐れられました。
佐賀では、空を斜めに進む天火を見つけると、村人が鐘や太鼓を鳴らして追い払いました。天火は、落ちた先へ災いを残す光です。火が家へ着く前に人々が集まり、音を立てて村の外へ送るところまでが伝承になっています。
天火の漢字表記と読み方
「てんか」のほか、「てんび」「てんぴ」と読みます。同じ字でも、土地ごとに姿、動き、起こる出来事が少しずつ異なります。
天火(てんか)
怪火の名として広く用いられる読み。
天火(てんび)
熊本や岐阜などの採録に見える読み。
天火(てんぴ)
佐賀などの採録に見える読み。
天火の姿と特徴
佐賀と熊本の天火は、提灯ほどの大きさをした火の塊です。人魂のような長い尾はなく、空中を斜めに飛んだり、屋根へ降りたりします。人の顔や手足は持たず、赤や青白い光そのものが姿です。
天火の伝承記録
佐賀の夜空を火の塊が斜めに飛ぶ
佐賀で天火が現れるのは夜です。提灯ほどの火の塊が、流れ星のように一瞬で消えず、空を斜めに進みます。人魂のような長い尾も見えません。
火は飛んだ先で姿を隠し、どこへ落ちたのか分からなくなることもありました。空の光が地上の家へ近づいてくる動きが、遠くの見世物では済まない不安を生みます。
鐘と太鼓を鳴らして村の外へ追う
天火を見つけた人が声を上げると、村人は鐘や太鼓を持ち出しました。大きな音を立て、火が家へ近づかないように追い立てます。
誰か一人が逃げるのではなく、集落全体で火へ応じるのが佐賀の天火です。夜の異変を音で知らせる行動と、怪火を威嚇する行動が一つになっています。鐘や太鼓の響きは、見えにくい火の行方を村中へ伝える警報にもなりました。
東松浦では落ちた先に病人が出る
佐賀県東松浦地方の山村では、天火が地上へ落ちると、その近くに病人が出るといわれました。村人は鉦を叩き、火がとどまらないように外へ追い出します。
天火そのものが家を焼かなくても、落ちた場所には災いが残ると考えられました。空を飛ぶ火、鳴らされる鉦、その後に起こる病が結びつき、天火は村の健康まで脅かす前触れになります。
熊本では屋根へ落ちると火事になる
熊本県玉名地方の天火も、提灯ほどの大きさで尾を引きません。こちらで恐れられたのは、火が家の屋根へ落ちることでした。屋根に着けば、その家は火事になると語られます。
空中の小さな光が、そのまま大火へ変わるかもしれない。火を使う暮らしの中で、出火元が分からない火災は大きな脅威でした。天火という名は、地上に火種が見当たらない炎を、空から来たものとして説明します。
同じ名でも土地ごとに災いが変わる
佐賀では鐘や太鼓で追われ、東松浦では病人の前触れとなり、熊本では屋根を焼く。天火は一つの長い物語を持つ妖怪ではなく、各地で見られた怪火を同じ名で呼んだ伝承群です。
共通するのは、尾のない火が空を動き、人の暮らす場所へ近づくことです。その先で病になるか火事になるか、どんな音で追うかは土地によって変わります。地域差があるからこそ、天火は人の姿を持たず、見るたびに意味の変わる火として残りました。
天火の伝承地域
佐賀県東松浦地方の採録を代表して表示します。天火は熊本県玉名地方などにも伝わり、土地ごとに火事・病・追い方が異なります。
佐賀県東松浦地方(さがけんひがしまつうらちほう)
天火を鉦で追う伝承地域
佐賀県東松浦地方の所在地:佐賀県唐津市
提灯ほどの天火が落ちると病人が出るとされ、鉦を鳴らして追い出しました。
地図は旧東松浦郡の中心域を示します。
天火の正体と考えられているもの
天火は、夜空を移動する正体の知れない光を、火事や病の前触れとして受け止めた怪火です。提灯ほどの大きさ、尾を引かない姿、屋根や村へ落ちる動きが九州の採録に重なります。鐘や太鼓を鳴らして追う伝承には、見知らぬ火から集落を共同で守ろうとした人々の行動が残っています。
天火をめぐる妖怪のつながり
天火が登場する作品
天火は、同じ名で災いが変わる怪火です。
佐賀では鐘や太鼓で村の外へ追い、東松浦では落ちた先に病人が出るとされ、熊本では屋根に着くと火事になります。
共通するのは、尾のない火が空を動き、人の暮らす場所へ近づくことだけです。 地域差があるからこそ、天火は人の姿を持たず、見るたびに意味の変わる火として残りました。
天火が登場する事典
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天火についてよくある質問
天火とはどんな妖怪ですか。
提灯ほどの火の塊となって夜空を斜めに飛び、屋根へ落ちると火事、村へ落ちると病人を出すと恐れられた怪火です。人魂のような長い尾はありません。
天火は何と読みますか。
「てんか」のほか、地域によって「てんび」「てんぴ」と読みます。同じ表記でも、佐賀では病の前触れ、熊本では屋根へ落ちて火事になる火として語られます。
天火はどうやって追い払いますか。
佐賀では、村人が鐘や太鼓を鳴らして追い払いました。東松浦地方では鉦を叩き、提灯ほどの火が村や家へ落ちないよう、集落の外へ送ります。
天火と人魂は同じですか。
同じとはされません。佐賀・熊本の採録では、天火は提灯ほどの大きさで、人魂のような尾を引かない火として区別されています。
天火と併せて覚えたい言葉・用語
怪火(かいか)
夜に現れ、普通の火とは異なる動きや由来を持つとされた光。
鉦(かね)
金属製の打楽器。東松浦では天火を追うために打ち鳴らした。
東松浦(ひがしまつうら)
佐賀県北西部の地域。天火が落ちると病人が出るという話が採録された。
天火の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。