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全国に伝わるもの

狐の嫁入り(きつねのよめいり)とはどんな妖怪か|姿と伝承

狐の嫁入り  / キツネノヨメイリ

狐と狸 各地の伝説怪談・百物語

連なる怪火と、日が照るのに降る雨。二つの現象を指す。

狐の嫁入りの姿を描いた図

葛飾北斎 「狐の嫁入り」 江戸時代 / パブリックドメイン 出典

狐の嫁入りとはどんな妖怪か

狐の嫁入りは、二つのまったく違う現象を指します。

一つは、無数の怪火です。

夜の山野に、提灯の群れと見まごう火が連なって見えるものです。

もう一つは、天気雨です。

日が照っているのに、雨が降る。

どちらも、人間を化かすといわれた狐と関連づけられました。

宝暦時代の越後国(現・新潟県)の地誌『越後名寄』には、夜間の怪火が四キロメートル近く並んで見えることを「狐の婚」と呼ぶとあります。

四キロです。

そして、古典の怪談や伝説には、実際に嫁入り行列を見たという話もあります。

狐の嫁入りの漢字表記と読み方

読みは「きつねのよめいり」です。

嫁入りは、嫁いでゆくことです。

なぜ嫁入りなのか。

理由があります。日本で結婚式場が普及していなかった昭和中期ごろまで、結婚式では、嫁が夕刻に提灯行列で迎えられるのが普通でした。

松明や提灯が、列をなして進みます。

連なる怪火の様子が、その婚礼行列に似ています。

そして、なぜ狐なのか。

嫁入りのような様子が見えるのに、実際にはどこにも嫁入りがない。

それを、人を化かす狐と結びつけて名づけたとされます。

狐の嫁入り(きつねのよめいり)

もっとも一般的な表記。

狐の嫁取り(きつねのよめとり)

埼玉県草加市、石川県能登、青森県南部地方での呼び名。

狐の祝言(きつねのしゅうげん)

静岡県沼津市、千葉県東夷隅郡での呼び名。

狐雨(きつねあめ)

神奈川県茅ヶ崎市、徳島県麻植郡での天気雨の呼び名。

狐の嫁入りの姿と特徴

怪火としての狐の嫁入りは、次のように現れます。

… 無数。提灯の群れと見まごう。
並び … 連なって見える。四キロ近く続くこともある。
時期 … 夏、田植えの後に多い。
場所 … 夜の山野。
見え方 … 遠くから見えるが、近づくと見えなくなる。

列になっています。

一つ二つではありません。 提灯行列そのものです。

かつて江戸の豊島村(現・東京都北区豊島、同区王子)でも、暗闇に怪火が連続してゆらゆらと揺れるものが「狐の嫁入り」と呼ばれ、「豊島七不思議」の一つに数えられました。

天気雨のほうは、姿がありません。

日が照ったまま、雨が降る。 それだけです。

狐の嫁入りの伝承物語

  1. 四キロ続く提灯
  2. 豊年か、不作か
  3. 嘘のような天気
  4. 糞が落ちている
  5. 見る方法

四キロ続く提灯

宝暦時代の越後国(現・新潟県)の地誌『越後名寄』に、記述があります。

夜間の怪火が四キロメートル近く並んで見えることを、「狐の婚」と呼ぶ。

四キロです。

同様の呼び方は、各地にあります。

新潟県中頚城郡、魚沼地方。秋田県。茨城県桜川市、城里町、常陸太田市。埼玉県越谷市、東秩父村。東京都多摩地域。群馬県。栃木県。山梨県北杜市。三重県。奈良県橿原市。鳥取県南部町。

東北から中国地方まで、広く分布しています。

そして、江戸の町にもありました。

豊島村(現・東京都北区)では、これが「豊島七不思議」の一つに数えられています。

呼び名も分かれます。

埼玉県草加市や石川県能登では「狐の嫁取り」、静岡県沼津市などでは「狐の祝言」。

豊年か、不作か

狐の嫁入りは、農業と結びつけられました。

新潟県の麒麟山にも狐が多く住み、夜には提灯を下げた嫁入り行列があったといわれます。

そして、この新潟や奈良県磯城郡などでは、こう伝えられました。

怪火の数が多い年は豊年、少ない年は不作。

火の数が、その年の実りを告げます。

説明もあります。

狐火リンの発光と考えられていたことから、狐火の多い時期には、農作物の生育に必要不可欠なリンが土中に多く生成されていたとも考えられています。

そして、もうひとつの説明があります。

戦前の日本には「虫送り」という行事がありました。田植えの後に松明を灯して田の畦道を歩き回るものです。

その灯を見誤った可能性も示唆されています。

嘘のような天気

天気雨を「狐の嫁入り」と呼ぶ地方は、さらに広くあります。

関東、中部、近畿、中国、四国、九州。日本各地です。

なぜ、天気雨なのか。

晴れていても雨が降るという、嘘のような状態。

何かに化かされているような感覚から、そう呼んだものと考えられています。

説明はいくつもあります。

天気雨のときには狐の嫁入りが行なわれている。
山の上を行く狐の行列を人目につかせないため、狐が雨を降らせる。
めでたい日にもかかわらず涙をこぼす嫁もいたであろうことから。

熊本県では虹が出たとき、愛知県では霰が降ったときに狐の嫁入りがあるといいます。

地方によって、結びつく天気が違います。

糞が落ちている

自然現象だけでなく、嫁入りの痕跡が見られたという話もあります。

埼玉県行田市では、谷郷の春日神社に狐の嫁入りがよく現れるといい、そのときには実際に道のあちこちに狐の糞があったといいます。

岐阜県武儀郡洞戸村(現・関市)では、怪火が見えるだけでなく、竹が燃えて裂ける音が聞こえるなどが数日続き、確かめてもそんな痕跡はないといわれました。

江戸の古書にも、行列を見た話があります。

今昔妖談集』は江戸の本所竹町、『江戸塵拾』は八丁堀、『怪談老の杖』は上州(現・群馬県)神田村。

それぞれ奇妙な嫁入り行列が目撃され、それが実は狐だったという話です。

そして、指摘もあります。

人間が狐に仮装して「狐の嫁入り」を演じても、庶民には見破れなかったとして、人為的な仕掛けであった可能性も示唆されています。

見る方法

狐の嫁入りには、見るための作法が伝わる土地があります。

福島県。

旧暦10月10日の夕方に、すり鉢を頭にかぶり、腰にすりこぎをさして、マメガキの下に立つ。

愛知県。

井戸に唾を吐き、指を組み合わせてその穴から覗く。

すると、狐の嫁入りが見えるといいます。

どちらも、ばかばかしい格好です。

しかし、こうした作法は各地にあります。普通ではない姿勢をとることで、普通ではないものが見える。

股のぞきも、同じ考え方です。

そして、狐が人に嫁ぐ話もあります。葛の葉です。

安倍晴明の出生にまつわる話として、人形浄瑠璃にもなりました。

狐の嫁入りの伝承地域

狐の嫁入りは、本州・四国・九州の広い範囲に伝わります。

怪火としては、新潟県(『越後名寄』、麒麟山)、茨城県埼玉県東京都(北区豊島・王子の「豊島七不思議」)、群馬県奈良県橿原市鳥取県など。

天気雨としては、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の各地。

埼玉県行田市春日神社には、狐の嫁入りがよく現れ、道に狐の糞があったという伝えがあります。

ただし、いずれも広い範囲にわたる呼び名であり、狐の嫁入りそのものを祀った碑や祠は確かめられていません。 この欄は空のままにしてあります。

狐の嫁入りの正体と考えられているもの

狐の嫁入りの正体については、次のように整理できます。

一つめは、婚礼行列との相似です。昭和中期ごろまで、結婚式では嫁が夕刻に提灯行列で迎えられました。 連なる怪火が、その様子に似ています。

二つめは、虫送りです。戦前には、田植えの後に松明を灯して田の畦道を歩き回る行事がありました。 狐の嫁入りが夏に出現するという話が多いことから、その灯を見誤った可能性が示唆されています。

三つめは、光の錯覚です。実際の灯を誤って見たか、異常屈折の光を錯覚したものとも考えられています。

四つめは、天気雨の異様さです。晴れていても雨が降るという嘘のような状態を、何かに化かされているような感覚から狐と結びつけたとされます。

五つめは、人の仕掛けです。人間が狐に仮装して演じても庶民には見破れなかったとして、人為的な仕掛けであった可能性も示唆されています。

狐の嫁入りは、いまも天気雨の呼び名として生きています。

祀られた狐には、澤蔵司もあります。傳通院で三年余りで浄土教の奥義を修め、もとの神に帰ったとされる狐神です。

狐の嫁入りをめぐる妖怪のつながり

狐の嫁入りが登場する作品

狐の嫁入りは、いまも生きている言葉です。

天気雨をこう呼ぶ地方は、関東から九州まで広くあります。 妖怪の名でありながら、日常の言葉として残りました。

平成以降も、これにちなんだ神事や祭事が各地で開催されています。

狐の嫁入りが登場する古典

越後名寄

宝暦時代の越後国の地誌。怪火が四キロ近く並ぶのを「狐の婚」と呼ぶと記します。

今昔妖談集

寛永時代の随筆。江戸本所竹町の嫁入り行列の話があります。

怪談老の杖

寛政時代の怪談集。上州神田村の嫁入り行列の話があります。

葛の葉

人形浄瑠璃。狐が人間の男に嫁ぐ話で、安倍晴明の出生にまつわります。

狐の嫁入りが登場する絵画

狐の嫁入図

葛飾北斎。狐の嫁入り行列と、天気雨に驚く人々を同じ画面に描いています。

狐の嫁入りが登場する漫画・アニメ

ゲゲゲの鬼太郎

狐の嫁入りが登場します。連なる怪火として描かれます。

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妖怪をまとめて扱う作品

狐にまつわる怪異として、狐火と並べて取り上げられます。

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狐の嫁入りについてよくある質問

狐の嫁入りとは何ですか。

二つの現象を指します。 提灯の群れと見まごう無数の怪火と、日が照っているのに雨が降る天気雨です。どちらも狐と結びつけられました。

なぜ「嫁入り」なのですか。

昭和中期ごろまで、結婚式では嫁が夕刻に提灯行列で迎えられるのが普通でした。 連なる怪火がその様子に似ているため、こう呼ばれたと考えられています。

怪火の正体は何ですか。

実際の灯の見誤りや、異常屈折の光の錯覚とも考えられています。また、戦前の「虫送り」(田植えの後に松明を灯して畦道を歩く行事)の灯を見誤った可能性も示唆されています。

火の数に意味があるのですか。

新潟県や奈良県磯城郡などでは、怪火の数が多い年は豊年、少ない年は不作といわれました。狐火がリンの発光と考えられていたことと結びつける説もあります。

狐の嫁入りと併せて覚えたい言葉・用語

天気雨(てんきあめ)

日が照っているのに降る雨。各地で狐の嫁入りと呼ばれる。

虫送り(むしおくり)

田植えの後に松明を灯して田の畦道を歩き回る行事。

豊島七不思議(としまななふしぎ)

江戸の豊島村(現・東京都北区)に伝わる七つの怪異。狐の嫁入りもその一つ。