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島根県

おさん狐(おさんぎつね)とはどんな妖怪か|姿と伝承

おさん狐  / オサンギツネ

狐と狸 各地の伝説

美女に化けて妻や恋人のいる男に言い寄るという狐。西日本、とくに中国地方に多く伝わる。

おさん狐の姿を描いた図

Ujinaport 「江波皿山(広島市中区江波)」 2010年 / CC BY-SA 3.0 出典

おさん狐とはどんな妖怪か

おさん狐はひとことで言えば、美女に化けて男に言い寄る狐です。「おさんわ狐」ともいいます。

西日本、とくに中国地方に多く伝わります。

言い寄る相手は、妻帯者や恋人のいる男とされます。痴話喧嘩を好み、嫉妬深い一面があるといわれました。

現代でも、恋路を邪魔する女性や浮気の相手を蔑んで「女狐」と呼ぶことがありますが、この呼び方はこの妖怪が発祥とされます。

伝承地は非常に広く、島根県大田市、広島県、岡山県、山口県、鳥取県のほか、千葉県、大阪府、福岡県、大分県、鹿児島県など、遠く山形県や福島県、新潟県にまで及びます。

大阪府では「お三狐」と書き、執念深い性格とされました。

土地によっては、人を殺めることのない愛される狐としても語られます。

おさん狐の漢字表記と読み方

読みは「おさんぎつね」です。「おさんわ狐」とも呼ばれます。

漢字の当て方は土地によって違います。

大阪府北河内郡門真村、現在の門真市では「お三狐」と書き、執念深い性格とされました。千葉県佐倉市などでも「お三」の表記が使われます。

広島県の旧湯来町では「尾三」と書きますが、これは尾が三本あるからだと説明されています。

千葉県では「三度坂のおさん」「山ん台んおさん」のように、地名と結び付いた形で呼ばれます。

「おさん」という名は、女の名としてありふれたものです。特別な名ではないところに、この狐の性格が表れているともいえます。

おさん狐(おさんぎつね)

もっとも一般的な書き方。

お三狐(おさんぎつね)

大阪府門真市や千葉県佐倉市などでの書き方。

尾三(おさん)

広島県の旧湯来町での書き方。尾が三本あるからという。

おさん狐の姿と特徴

おさん狐の姿は、化けた姿として語られます。

化ける姿 … 美女。妻帯者や恋人のいる男に言い寄る。
性格 … 痴話喧嘩を好む。嫉妬深い。執念深いともいう。
そのほかに化けるもの … 大名行列。ライオン。
能力 … 尻尾に火を灯す。
… 広島県の旧湯来町では三本あるとされる。

狐そのものの姿はほとんど語られません。語られるのは、化けたあとの姿と、その振る舞いです。

広島県の江波に住んでいたとされるおさん狐は、年齢八十歳、五百匹の眷属を操り、京へ参ったり伏見へ位をもらいに行ったりと、風格のある狐だったといいます。

決して人を殺めることはなく、地元では愛される存在だったと伝えられます。

同じ名でありながら、男を惑わす狐と、土地に愛される狐が並んで語られています。

おさん狐の伝承物語

  1. 正体を暴かれた狐
  2. 伊賀の山中で名を聞く
  3. 大名行列に化けた狐
  4. 本物と偽物の見分けがつかない
  5. 愛された狐
  6. 県境を越えて広がった名

正体を暴かれた狐

おさん狐の話には、正体を暴かれるという形が繰り返し出てきます。

鳥取県では、八上郡小河内、現在の鳥取市のガラガラという場所におさん狐が棲んでいたといいます。

谷口與忽平という男が、美女に化けたおさん狐に化かされそうになりました。しかし男は火であぶって正体を暴き、二度と悪さをしないことを条件に逃がしました。

数年後のことです。

小河内の者が伊勢参りに行き、伊賀の山中で一人の娘に会いました。娘は「與忽平はまだ生きているか」と尋ねます。

伊賀の山中で名を聞く

生きていると答えると、娘は「やれ恐ろしや」と言って逃げていきました。

遠く離れた土地で、なお名前を恐れられている。この結び方が、この話をよく知られたものにしています。

火であぶるという手立ては、狐の正体を暴く方法として各地に見られます。

逃がしてやるという結末も特徴的です。

そのため話は続きを持ち、数年後の再会へとつながります。

大名行列に化けた狐

広島県広島市には、次のような話が伝わります。

おさん狐が尻尾に火を灯したり、ライオンに化けたりして人を脅かすので、ある職人が捕まえて火あぶりにしようとしました。

すると狐は、翌晩に大名行列に化けて見せると言って許しを乞います。

翌晩、たしかに大名行列が現れました。

職人は狐の腕前を褒めました。

ところが、それは本物の大名行列でした。職人は打ち首になったといいます。

この話には類話があります。

本物と偽物の見分けがつかない

職人ではなく、お三狐と伊像の与三郎狸とが化かし合いをし、大名行列の殿様にお三狐が斬られたという話です。逆に、狸のほうが斬られたという話も伝わっています。

化かし合いの結末が、語る土地によってひっくり返るわけです。

狐と狸が化かし合う話は各地にあります。四国の狸の話とも通じる形です。

この話の恐ろしさは、妖怪が人を襲うところにはありません。本物と偽物の見分けがつかなくなるところにあります。

愛された狐

おさん狐には、まったく別の顔があります。

同じ広島でも、中区江波地区の皿山公園付近に棲んでいたおさん狐は、年齢八十歳、五百匹の眷属を操り、京へ参ったり伏見へ位をもらいに行ったりと、風格のある狐でした。

決して人を殺めることはなく、地元では愛される存在だったといいます。

終戦の頃には、この子孫とされる狐が町の住人たちに食べ物をもらって生きていたと伝えられます。

現在では、江波東二丁目の丸子山不動院に小さな祠が祀られています。江波車庫前の電停近くの中央分離帯には、立ち上がった姿の狐の像があります。

県境を越えて広がった名

男を惑わす狐と、土地に愛される狐。同じ名でありながら、性格が正反対です。

おさん狐の伝承は、広島県江波のものを筆頭に、廿日市市、三次地区、江田島市、安芸高田市など県内各地に及びます。

さらに島根県大田市静間町、岡山県、山口県、大阪府、千葉県、福岡県、大分県、鹿児島県、そして北は山形県や福島県、新潟県にまで確認されています。

これだけ広い範囲に同じ名が伝わることは、そう多くありません。

おさん狐の伝承地域

おさん狐の伝承地は、中国地方を中心にきわめて広い範囲にわたります。

島根県では大田市静間町に伝えが確認されています。

もっとも詳しい話が残るのは広島県で、なかでも広島市中区の江波地区が知られます。ここでは丸子山不動院に小さな祠があり、電停近くには狐の像があります。

そのほか、岡山県、山口県、鳥取県、大阪府、千葉県、福岡県、大分県、鹿児島県、さらに山形県、福島県、新潟県にまで及びます。

伝承は複数の県にまたがります。同じ名が広い範囲で別々の話とともに語られてきました。

静間町(しずまちょう)

おさん狐の伝承地の一つ

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静間町の所在地:島根県大田市

島根県大田市の静間町も、おさん狐の伝承が確認されている土地の一つです。

おさん狐の伝えは中国地方一帯に広がっており、島根県内でもその名が語られてきました。

ただし、この土地に伝わる話の細かい中身までは確かめられませんでした。

伝承地の広さを示す例として挙げています。

この土地固有の話の内容は確かめられませんでした。

丸子山不動院(まるこやまふどういん)

おさん狐の祠がある地

地図で開く

丸子山不動院の所在地:広島県広島市中区江波東

江波地区の皿山公園付近に棲んでいたとされるおさん狐を祀る小さな祠があります。

このおさん狐は年齢八十歳、五百匹の眷属を操り、決して人を殺めなかったと伝えられます。

地元では愛される存在でした。

江波車庫前の電停近くの中央分離帯には、立ち上がった姿の狐の像があります。

広島県の伝承地であり、島根県の伝えとは別の話です。

おさん狐の正体と考えられているもの

おさん狐の正体については、次のように考えられています。

化け狐の話の一つとする見方がもっとも素直です。美女に化けて男を惑わす狐の話は各地にあり、おさん狐はそのうち名が定着したものにあたります。

男女の関わりを語る話とする見方も重要です。言い寄る相手が妻帯者や恋人のいる男に限られている点は、この妖怪の性格をよく表しています。 現代の「女狐」という言い方の発祥ともされます。

土地の守りとする見方もあります。広島県江波のおさん狐は五百匹の眷属を操り、人を殺めず、地元で愛されました。祠が残り、像が立っています。

別々のものが同じ名を得たとする見方は避けられません。伝承地が中国地方から関東・東北・九州にまで及び、性格も正反対のものがあります。おそらく各地の狐の話に、ありふれた女の名である「おさん」が付いた結果とみられます。

一つに決めることはできません。 ただ、名前だけがこれほど広い範囲に行き渡ったという事実そのものが、この妖怪の特徴です。

おさん狐をめぐる妖怪のつながり

おさん狐が登場する作品

おさん狐は、名前が広まった妖怪です。

江戸時代の絵師が描いた例は確かめられませんでした。かわりに、近年の各地の怪異事典に、土地ごとの話が数多く収められています。

恋路を邪魔する女性を蔑んで「女狐」と呼ぶ言い方の発祥とされる点で、日常の言葉にまで痕跡を残しています。

広島県江波では、祠と像という形で現在も残っています。

おさん狐が登場する書物

日本怪異妖怪事典 中国

中国地方の怪異を集めた事典。おさん狐の各地の伝えを収めます。

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日本怪異妖怪事典 九州・沖縄

九州各地に及ぶおさん狐の伝えを扱っています。

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宮城県史

狐が女に化けて通行人をたぶらかしたという伝承を収めます。

おさん狐が登場する伝え

長四郎狐の居なくなった理由

新潟県の民俗誌に載る物語。おさん狐が登場人物として出てきます。

おさん狐が登場するそのほか

化け狐を扱う各種の作品

美女に化けて男を惑わす狐の代表として名が挙がることがあります。

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おさん狐についてよくある質問

おさん狐とは何ですか。

美女に化けて、妻帯者や恋人のいる男に言い寄ってくるという狐の妖怪です。おさんわ狐ともいいます。西日本、とくに中国地方に多く伝わります。痴話喧嘩を好み、嫉妬深いとされました。

どこに伝わりますか。

島根県大田市静間町、広島県各地、岡山県、山口県、鳥取県のほか、大阪府、千葉県、福岡県、大分県、鹿児島県、さらに山形県、福島県、新潟県にまで及びます。伝承は複数の県にまたがります。

「女狐」という言葉と関係がありますか。

あります。恋路を邪魔する女性や浮気の相手を蔑んで「女狐」と呼ぶことがありますが、この呼び方はおさん狐が発祥とされます。

悪い狐なのですか。

土地によります。広島県中区江波のおさん狐は五百匹の眷属を操り、決して人を殺めることはなく、地元で愛される存在でした。現在も丸子山不動院に小さな祠があります。

大名行列の話とは何ですか。

広島市で、捕まった狸ならぬ狐が「翌晩に大名行列に化けて見せる」と言って許しを乞い、翌晩に現れた行列を職人が褒めたところ、それは本物の大名行列で、職人は打ち首になったという話です。

おさん狐と併せて覚えたい言葉・用語

江波(えば)

広島市中区の地区。愛されたおさん狐の伝えが残り、祠と像がある。

女狐(めぎつね)

恋路を邪魔する女性への蔑称。おさん狐が発祥とされる。

眷属(けんぞく)

従える手下のこと。江波のおさん狐は五百匹を操ったという。

尾三(おさん)

広島県旧湯来町での書き方。尾が三本あるからと説明される。