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全国に伝わるもの

天狐(てんこ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

天狐  / テンコ

狐と狸 各地の伝説和漢三才図会

千年を経て天に通じた狐。狐の位階でもっとも上に置かれる。

天狐の姿を描いた図

葛飾北斎 「北斎漫画 天狐」 1819年ごろ / パブリックドメイン 出典

天狐とはどんな妖怪か

天狐は、中国および日本に伝わる神獣・妖獣です。狐が霊力を得たものと考えられています。

中国の『玄中記』には、狐が千年の年を経て天に通じると天狐というものになる、と記されています。同書は、狐について五十歳で化ける術を会得し、百歳で美女となる、とも語ります。

五雑俎』には、千歳を過ぎると天に通じて人を魅すことはなくなるとも書かれています。ただし、その天に通じた狐は、千年のあいだ美女などに変じて人から精気を吸い取った結果としてそこにいる、ともされます。

齢千年の天狐は、千里以上遠くの出来事も察知できる(『玄中記』)とされます。九尾金色で日月宮に仕え、自然の摂理に精通する(『酉陽雑俎』)とも説かれます。

江戸時代の日本では、天狐は狐たちのなかで最上位にあたる存在とされました。

天狐の漢字表記と読み方

読みは「てんこ」です。「てんぎつね」とも読みます。

天に通じた狐という意味です。中国の『玄中記』の「千歳即与天通為天狐」という一文がもとになっています。

江戸時代の日本では、狐に位階があると考えられました。江戸末期の随筆『善庵随筆』や『北窓瑣談』には、皆川淇園『有斐斎箚記』に収められた当時の宗教者の言葉として、次の順が記されています。

天狐 > 空狐 > 気狐 > 野狐

最上位の天狐は、ほとんど神のような存在であり、千里の先を見通し、野狐や気狐のように悪さをすることはないとされました。

辰狐という呼び方もあります。十三世紀以後、荼枳尼天への信仰のなかで使われた尊称です。研究者の中村禎里は、「辰」の字に龍神や星辰の意味合いが含まれていると述べています。

天狐(てんこ)

もっとも一般的な表記と読み。

天狐(てんぎつね)

こう読む場合もある。

空狐(くうこ)

狐の位階のひとつ。天狐に次ぐ、あるいは天狐より上とされることもある。

辰狐(しんこ)

荼枳尼天信仰で使われた狐の尊称。

天狐の姿と特徴

天狐の姿については、いくつかの記述があります。

九尾金色 … 『酉陽雑俎』などによれば、天狐は九つの尾を持ち、金色に輝きます。玉藻前の正体である白面金毛九尾の狐と、姿の描写が重なります。

肉体を持たない … 「天狐に為る」ということは、修練によって天仙になった、つまり肉体を持たない精霊となったことと解釈されます。姿がないという解釈もあるわけです。

日月宮に仕える … 天の宮に仕え、符や醮(祭祀)によって陰陽に通じる、つまり天文によって自然の摂理に精通するとされます。

密教には三類形という修法があり、天狐・地狐・人形(人狐の三つを用います。狐という字が使われますが、実際に用いられる画像は鳥(天)・獣(地)・人(人)です。『秘蔵金宝抄』(十二世紀)などによれば、天狐の絵は鵄(トビ)、地狐の絵は野干(狐)とされます。

天狐は、鳥の姿で描かれることがあります。 狐の要素はほとんど希薄です。

天狐の伝承物語

  1. 狐の位階 ─ 天狐・空狐・気狐・野狐
  2. 中国での天狐 ─ 千年の修行
  3. 密教の天狐 ─ 狐ではなくなる
  4. 十三世紀に意味が変わる

狐の位階 ─ 天狐・空狐・気狐・野狐

江戸時代の日本では、狐に位階があると考えられました。

江戸末期の随筆『善庵随筆』や『北窓瑣談』には、皆川淇園『有斐斎箚記』に収められた、当時の宗教者が語った狐の階級が収録されています。

天狐 … 最上位。ほとんど神のような存在。千里の先を見通す。悪さをしない。
空狐 … 天狐に次ぐ位。
気狐 … その下。
野狐 … 最下位。人に憑き、人を化かし、悪さをする。

位が上がるほど、悪さをしなくなります。

これは重要な考え方です。人に憑いて祟る狐と、稲荷として祀られる狐。同じ狐でありながら性格が正反対なのは、位が違うからだという説明になります。

書物によっては空狐を天狐より上に置くものもあり、順序は一定していません。

いずれにせよ、天狐は「もう化かさない狐」です。 化かす力を極めた結果、化かす必要がなくなった存在として考えられました。

中国での天狐 ─ 千年の修行

天狐という考え方は、中国から来ました。

玄中記』にはこう記されます。

五十歳 … 変化の術を会得する。
百歳 … 美女となる。これよく蠱惑する。
千歳 … 天に通じて天狐となる。

段階を追って力を得ていくという構図です。

五雑俎』は、千歳を過ぎると天に通じて人を魅すことはなくなると書きます。ただし、そこには但し書きがあります。千年のあいだ美女などに変じ、人から精気を吸い取った結果として、その狐は存在しているというのです。

天狐になるには、千年のあいだ人を害し続ける必要があります。

これは日本の狐の位階の考え方と少し違います。日本では天狐が「悪さをしないもの」として整理されますが、中国の記述では、悪さをし尽くした果てにたどりつく境地として書かれています。

「天狐に為る」とは、修練によって天仙になったこと、つまり肉体を持たない精霊になったことと解釈されます。

密教の天狐 ─ 狐ではなくなる

密教には、三類形という修法があります。

天狐・地狐・人形(人狐)という三つを使う修法・まじないです。狐という字が使われていますが、実際に用いられる画像は違います。

… 鳥の画像。『秘蔵金宝抄』(十二世紀)によれば鵄(トビ)
… 獣の画像。野干(狐)。
… 人の画像。

天狐の絵は、狐ではなく鳥です。 ここでは狐の要素がほとんど希薄になっています。

十三世紀に意味が変わる

さらに時代が下ると、意味が変わります。十三世紀ころには『実帰抄』『白宝抄』などで、三類形に描かれる天狐・地狐・人形そのものが「三毒」のしるしであり、災い・障礙神を示すものと説かれるようになりました。

三毒とは、貪り・怒り・愚かさという三つの煩悩です。

最上位の霊獣だったはずの天狐が、煩悩のしるしになる。同じ名前が、まったく逆の意味で使われるようになりました。

十三世紀以後は、荼枳尼天信仰のなかで辰狐という尊称も使われるようになります。

天狐の伝承地域

天狐には、訪ねられる伝承地がありません。

天狐は書物のなかの考え方であり、特定の土地に現れたという言い伝えを持たないためです。中国の字書から入ってきた概念で、江戸時代の日本で位階として整理されました。

狐に関わる場所であれば、全国に稲荷社があります。稲荷の狐は神の使いであり、天狐の考え方と重なる部分もあります。

しかし、稲荷社を天狐の伝承地として挙げることはしません。 稲荷社が祀るのは宇迦之御魂神であり、狐はその使いです。祀られているのは稲荷の神です。

密教の三類形を伝える寺についても、現在も修法が行われているかを確かめられませんでした。

確かめられなかったものを、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。

天狐の正体と考えられているもの

天狐の正体については、書物のなかの概念として理解するのが正確です。

一つめは、中国の道教的な考え方です。動物が長い年月を経て力を得て、最後に天仙(肉体を持たない精霊)になる。修行によって位が上がるという発想は、道教の仙人の考え方そのものです。

二つめは、狐の二面性を説明するための道具です。日本の狐には、人に憑いて祟る面と、稲荷として祀られる面があります。この矛盾を、位階という考え方が解決します。 悪さをするのは野狐、祀られるのは天狐。同じ狐でも位が違う、という説明です。

三つめは、密教の修法です。三類形における天狐は、鳥(鵄)の画像で表され、狐の要素はほとんどありません。しかも十三世紀ころには三毒のしるしとされるようになりました。同じ名前が正反対の意味で使われています。

四つめは、九尾の狐との重なりです。九尾金色という記述は、玉藻前の正体である白面金毛九尾の狐と共通します。中国から入ってきた狐の像が、日本で別々に育った結果と考えられます。

天狐は、位を表す言葉です。 天狐とは、狐がどこまで力を持ちうるかを説明するための言葉でした。

天狐をめぐる妖怪のつながり

天狐が登場する作品

天狐は、位階という設定の面白さで作品に取り入れられます。野狐から天狐まで段階があるという仕組みは、力の成長を描く物語と非常に相性がよいものです。

九尾金色という記述から、玉藻前や九尾の狐と重ねて描かれることも多くあります。

天狐が登場する古典

玄中記

中国の書物です。狐が五十歳で化け、百歳で美女となり、千歳で天狐になると記します。

五雑俎

千歳を過ぎると人を魅すことはなくなる、と記します。

善庵随筆・北窓瑣談

江戸末期の随筆です。天狐・空狐・気狐・野狐という狐の階級が収録されています。

天狐が登場する信仰

三類形

密教の修法です。天狐・地狐・人形の三つを用います。天狐の画像は鵄(トビ)とされます。

荼枳尼天信仰

十三世紀以後、辰狐という尊称が用いられました。

天狐が登場する漫画・アニメ・ゲーム

妖狐を扱う作品

狐の位階という設定は、力の段階を示す仕組みとして数多くの作品に取り入れられています。

女神転生シリーズ

天狐が実装されており、狐の系統の上位として扱われます。

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妖怪ウォッチ

天狐を下敷きにした妖怪が登場します。

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天狐についてよくある質問

天狐とは何ですか。

狐が霊力を得たものとされる神獣・妖獣です。中国の『玄中記』には、狐が千年を経て天に通じると天狐になると記されています。

狐の位階とは何ですか。

江戸時代の日本で語られた狐の階級で、天狐・空狐・気狐・野狐の順とされます。最上位の天狐はほとんど神のような存在で、悪さをしないとされました。

天狐はどんな姿ですか。

九尾金色とする記述がある一方、肉体を持たない精霊になったという解釈もあります。密教の三類形では、天狐の画像は鵄(トビ)という鳥です。

九尾の狐と同じですか。

九尾金色という記述は重なります。指すものは分かれます。天狐は狐の位階を表す言葉で、九尾の狐は具体的な妖怪を指します。

天狐に会える場所はありますか。

ありません。書物のなかの考え方であり、土地の言い伝えを持たないためです。

天狐と併せて覚えたい言葉・用語

野狐(やこ)

狐の位階で最下位。人に憑き、化かし、悪さをする。

天仙(てんせん)

道教でいう、肉体を持たない精霊。天狐になることはこれになることと解釈される。

三類形(さんるいぎょう)

密教の修法。天狐・地狐・人形の三つを用いる。

辰狐(しんこ)

荼枳尼天信仰で用いられた狐の尊称。