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宮城県

大入道とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

大入道  / オオニュウドウ

人型の妖怪 各地の伝説

各地に伝わる巨大な僧形の妖怪。見た者は病むとされ、正体は多く不明とされる。

大入道の姿を描いた図

竜斎閑人正澄 「狂歌百物語 大入道」 1853年 / パブリックドメイン 出典

大入道とはどんな妖怪か

大入道はひとことで言えば、見上げるほど大きな坊主です。

名は「大きな僧」の意味ですが、地方によって姿はさまざまです。

輪郭のはっきりしない影のようなものであったり、僧ではなく単なる巨人であったりします。坊主姿のものは大坊主ともいいます。

大きさも幅があります。人間より少し大きい二メートルほどのものから、山のように巨大なものまで伝えられます。

人を脅かしたり、見た者は病気になってしまうとする伝承が多くあります。

正体については、キツネやタヌキが化けたもの、または石塔が化けたとする話もありますが、多くは正体不明とされています。

北海道から熊本まで、日本各地に話が残っています。

大入道の漢字表記と読み方

読みは「おおにゅうどう」です。

「入道」は仏門に入った者、つまり僧のことです。頭を剃った姿を指す言葉としても使われます。

つまり「大きな坊主」が、そのまま名前になっています。

ただし、名と実際の姿は必ずしも一致しません。僧ではなくただの巨人であったり、輪郭のはっきりしない影のようなものであったりします。

坊主姿のものは「大坊主」とも呼ばれます。

兵庫県丹波篠山市では「一本松の見越しの入道」として、篠山の怪談七不思議のひとつに数えられています。

見越し入道という別の妖怪と近い呼び方をされる土地もあり、両者の境目ははっきりしません。

大入道(おおにゅうどう)

もっとも一般的な呼び方。

大坊主(おおぼうず)

僧の姿のものを指す呼び方。

見越しの入道(みこしのにゅうどう)

兵庫県丹波篠山市などでの呼び方。

大入道の姿と特徴

大入道の姿は、土地によって大きく異なります。

姿 … 大きな僧。ただし影のようなもの、ただの巨人のこともある。
大きさ … 二メートルほどから、山を跨ぐほどまで。
… 人を脅かす。見た者は病気になる。
正体 … キツネ、タヌキ、カワウソ、イタチ、石塔。ただし多くは不明。

同じ名で呼ばれながら、大きさに千倍近い開きがあるのが特徴です。

伝えられた大きさをいくつか挙げます。

愛知県豊橋市 … 一丈三、四尺、およそ四メートル。大入道の中では小さい部類。
徳島県石井町 … 二丈八尺、およそ八・五メートル。
富山県黒部峡谷 … 五丈から六丈、およそ十五から十八メートル。
兵庫県西播磨 … 山を跨ぐほど。

大きいことだけが共通していて、あとは何も共通していません。

これは、各地の「大きな何かを見た」という話が、一つの名でまとめられていることを示しています。

大入道の伝承物語

  1. 人に害を成す大入道
  2. 赤羽の踏切に立った兵士
  3. 正体を暴かれた大入道たち
  4. 政宗が射たカワウソ
  5. 水車で米を搗く大入道
  6. 正体の分からない大入道たち
  7. 祭りの山車になった大入道
  8. 首が伸びるからくり人形

人に害を成す大入道

大入道の話には、人に害を及ぼすものが多くあります。

北海道の事例

嘉永年間、支笏湖畔の不風死岳の近くにあるアイヌの集落に、大入道が出現しました。

その大きな目玉で睨みつけられた人間は、気がふれたように卒倒してしまったといいます。

東京の事例

第二次世界大戦の最中、昭和十二年のことです。

赤紙を届けに行った人が、赤羽駅の近くにある八幡神社踏切で、兵士の姿の大入道に襲われ、四日後にその場所で変死しました。

大入道の正体は自殺した新兵、もしくは失敗を責められて上官に撲殺された兵士の亡霊と言われました。

赤羽の踏切に立った兵士

ちなみにその近辺では、赤紙を受取ったという者は誰もいなかったといいます。

人間の霊が大入道と化す、珍しい事例です。

大入道は多く動物の化けたものとされますが、この話では死んだ人の霊とされています。しかも時代は昭和です。

古い伝承だけでなく、近い時代の話としても語られてきたことが分かります。

佐々木喜善は『東奥異聞』に、山で火にあたる大入道を書きとめています。

どこからか巨大白鬚の大入道がやってきて火にあたる。そしてその焼いている餅を一つくれという。

襲うのではなく、餅をねだります。 人に近いところに現れる大入道が、確かにいました。

正体を暴かれた大入道たち

大入道の正体が明かされる話も、いくつか伝わっています。

岩手県のイタチ

岩手県紫波郡の口碑「鼬の怪」の話です。

同郡の高伝寺で、毎夜本堂に怪火が燃え上がり、その影から恐ろしい大入道が現れました。寺では檀家に頼んで夜番をしてもらっていました。

ある冬の小雪の朝、寺の周囲を見て歩くと、イタチが本堂から抜け出していった足跡がありました。

後を追うと隣家の薪を積んだ下に入ったので、村人多数で取り巻き、薪を取り退けるとイタチの巣がありました。巣の中から古イタチを捕らえて殺します。

するとその夜から、寺の怪火も大入道も現れなくなりました。

宮城県のカワウソ

かつて仙台の荒巻伊勢堂山に、夜ごとに唸り声を発する大岩がありました。さらにその大岩が雲をつくような大入道に化けるという話もありました。

政宗が射たカワウソ

藩主の伊達政宗はこの怪異を怪しんで家来に調査させましたが、戻って来た家来たちは、手に負えないと皆青ざめていました。

剛毅な政宗は自ら退治に出向きます。現場に着くと、ひときわ大きな唸り声と共に、いつもの倍の大きさの入道が現れました。

政宗が怯むことなく入道の足元を弓矢で射ると、断末魔の叫びと共に入道は消えます。

岩のそばには子牛ほどもあるカワウソが呻いており、入道はこのカワウソが化けたものでした。

以来、この坂は「唸坂」と呼ばれたといいます。

ただし、この唸坂は仙台市青葉区に実在しますが、坂の名を示す碑には、かつて荷物を運ぶ牛が唸りながら坂を昇ったことが名の由来とあり、そちらのほうが定説のようです。

水車で米を搗く大入道

大入道には、人を助ける側の話もあります。

人を助ける大入道

阿波国名西郡高川原村字城、現在の徳島県名西郡石井町では、小川の水車に米などを置いておくと、身長二丈八尺、およそ八・五メートルの大入道が現れ、それを搗いておいてくれると言われていました。

ただし、搗いている様子を見ようとすると、脅かされてしまうといいます。

正体の分からない大入道

富山県 … 越中国下新川郡黒部峡谷に十六体もの大入道が現れ、鐘釣温泉の湯治客たちを驚かせました。身長は五丈から六丈、七色の美しい後光が差していたといいます。後光という特徴がブロッケン現象の光輪と共通することから、温泉の湯気に映った湯治客の影を正体とする説もあります。

正体の分からない大入道たち

滋賀県 … 『月堂見聞集』に「伊吹山異事」として載ります。ある秋の夜、伊吹山の麓に大雨が降り、大地が激しく震えました。すると野原から大入道が現れ、松明状の灯火を体の左右に灯して進んで行きました。村の古老たちは外へ出ることを厳しく制し、音がやんで外へ出ると、山頂へ続く道の草が残らず焼け焦げていたといいます。

兵庫県西播磨 … 『西播怪談実記』によれば、延宝年間の九月、夜中に水谷という者が犬を連れて山奥に猟に出かけ、山伏姿の大入道が自分を睨み付けているのを目撃しました。山を跨ぐほどの巨大さで、殺生を戒める山の神の化身であったと噂されたといいます。

熊本県 … 宇城市の「今にも坂」には、昔ここに大入道が現れて通行人を驚かせ、以来この話をしながら坂を通ると「今にも」という声がして大入道が現れるといいます。坂の名はこの大入道に由来します。

祭りの山車になった大入道

大入道は、祭りの出し物にもなっています。

三重県四日市市で毎年十月に行われる諏訪神社の祭礼四日市祭は、大入道山車で知られます。三重県有形民俗文化財に指定されています。

これは諏訪神社の氏子町の一つである桶之町、現在の中納屋町が、文化年間に製作したものとされます。

町名の「桶」に「大化」の字を当てて「化け物尽くし」の仮装行列を奉納していたものが進化したものと考えられていますが、次のような民話も伝えられています。

桶之町の醤油屋の蔵に老いた狸が住み着き、農作物を荒らしたり、大入道に化けて人を脅かしたりといった悪さをしていました。

困り果てた人々は、狸を追い払おうとして大入道の人形を作って対抗します。ところが狸は、その人形よりさらに大きく化けました。

首が伸びるからくり人形

そこで人々は、大入道の人形の首が伸縮する仕掛けを作ります。人形と狸での大入道対決の際、首を長く伸ばして見せました。

狸はこれに降参し、逃げ去って行ったといいます。

また、反物屋の久六のもとに来た奉公人が実はろくろ首であり、正体を見られて消息を絶った彼を偲んで製作したという話もあります。

現在の山車は高さ二・二メートル、その上に乗る大入道は身の丈三・九メートル、伸縮し前へ曲がる首の長さは二・二メートル。舌を出したり目玉が変わったりする巨大なからくり人形です。

恐ろしいものが、町の顔になりました。

岡本綺堂は「飛騨の怪談」で、大入道を雲の形にたとえています。

例えば大入道のような怪物が黒い衣服の裳を長くいて、太い片腕を長く突き出したような形で、徐に北の空から歩んで来た。

山の雲が、この形に見えた。 大入道が何から起きたかを、この一文が示しています。

大入道の伝承地域

大入道の話は日本各地にあり、一つの土地に定まりません。

北海道 … 支笏湖畔の不風死岳の近く。
岩手県 … 紫波郡の高伝寺。
宮城県 … 仙台市青葉区の唸坂。
東京都 … 赤羽駅近くの八幡神社踏切。
富山県 … 黒部峡谷の鐘釣温泉。
愛知県 … 豊橋の近く。
滋賀県 … 伊吹山の麓。
兵庫県 … 西播磨、佐用郡、丹波篠山市。
徳島県 … 名西郡石井町。
熊本県 … 宇城市の今にも坂。

これほど広い範囲に話があるため、この図鑑では一つの県に絞らず「全国」として扱います。

三重県四日市市の大入道山車は祭りの造り物であり、伝承地とは性質が異なります。

唸坂(うなりざか)

伊達政宗が大入道を射たとされる坂

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唸坂の所在地:宮城県仙台市青葉区

仙台の荒巻伊勢堂山にあったという大岩が大入道に化け、伊達政宗が弓矢で射たと伝えられる坂です。

正体は子牛ほどもあるカワウソだったとされます。

ただし坂の名を示す碑には、かつて荷物を運ぶ牛が唸りながら坂を昇ったことが名の由来とあり、そちらのほうが定説のようです。

坂そのものは現存します。

碑の記す由来と伝説の由来は食い違っています。

諏訪神社(四日市祭)(すわじんじゃ(よっかいちまつり))

大入道山車が出る祭礼の地

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諏訪神社(四日市祭)の所在地:三重県四日市市

毎年十月に行われる諏訪神社の祭礼四日市祭で、大入道山車が曳かれます。

三重県有形民俗文化財に指定されており、文化年間に桶之町が製作したものとされます。

山車の高さは二・二メートル、上に乗る大入道は身の丈三・九メートル、伸縮する首の長さは二・二メートルです。

狸との化け比べに勝つために首の伸びる仕掛けを作ったという民話が伝わります。

毎年八月の大四日市まつりにも曳き出されます。

大入道の正体と考えられているもの

大入道の正体については、次のように考えられています。

動物が化けたものとする見方があります。岩手県ではイタチ、宮城県ではカワウソ、三重県の民話では狸とされます。キツネの仕業とする話も各地にあります。

石塔が化けたとする見方もあります。ただし、これを伝える土地は限られます。

人の霊とする見方は珍しい例です。東京都の赤羽の話では、自殺した新兵、あるいは上官に撲殺された兵士の亡霊とされました。

自然の現象とする見方もあります。富山県黒部峡谷の話では、後光が差していたという特徴がブロッケン現象の光輪と共通することから、温泉の湯気に映った湯治客の影を正体とする説があります。

山の神の化身とする見方も伝わります。兵庫県西播磨の話では、殺生を戒める山の神の化身であったと噂されました。

多くは正体不明とされています。 これがもっとも正確な言い方です。

大きなものを見たという体験に、一つの名が与えられたものと考えるのが、実際に近いように思われます。

大入道をめぐる妖怪のつながり

大入道が登場する作品

大入道は、姿が単純であるがゆえに広く使われる妖怪です。

大きな坊主。それだけで通じます。細かい説明を必要としません。

四日市市では祭りの山車になり、市のシンボルにもなっています。 恐ろしいものが町の顔になった例です。

首が伸縮するからくりは、大入道が狸との化け比べに勝つために作られたという民話にもとづきます。この仕掛けを模した紙人形は、地元の土産品にもなっています。

大入道が登場する書物

西播怪談実記

播磨に現れた山伏姿の大入道など、複数の目撃談を収めます。

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月堂見聞集

「伊吹山異事」として、滋賀県の大入道の話を載せています。

日本妖怪大事典

村上健司の編著。各地の大入道の伝承をまとめています。

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大入道が登場するそのほか

四日市祭の大入道山車

三重県有形民俗文化財。首が伸縮する巨大なからくり人形です。

大入道が登場する漫画・アニメ

妖怪を扱う各種の作品

見上げるほど大きな坊主の姿で、繰り返し描かれてきました。

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大入道についてよくある質問

大入道とは何ですか。

日本各地に伝わる、大きな僧の姿をした妖怪です。地方によって姿はさまざまで、影のようなものであったり、僧ではなく単なる巨人であったりします。人を脅かす、見た者は病気になるという伝えが多くあります。

どのくらいの大きさですか。

伝えによって大きく違います。愛知県豊橋の話ではおよそ四メートル、徳島県石井町では八・五メートル、富山県黒部峡谷では十五から十八メートル、兵庫県西播磨では山を跨ぐほどとされます。

正体は何ですか。

多くは正体不明とされています。岩手県ではイタチ、宮城県ではカワウソ、三重県の民話では狸とされ、石塔が化けたとする話もあります。富山県の話では温泉の湯気に映った湯治客の影を正体とする説もあります。

人を助ける大入道もいるのですか。

います。徳島県名西郡石井町では、小川の水車に米などを置いておくと大入道が現れて搗いておいてくれると言われていました。ただし搗いている様子を見ようとすると脅かされるといいます。

いま見に行ける場所はありますか。

三重県四日市市の諏訪神社の祭礼「四日市祭」で、大入道山車が曳かれます。三重県有形民俗文化財に指定された巨大なからくり人形で、首が伸縮します。

大入道と併せて覚えたい言葉・用語

入道(にゅうどう)

仏門に入った者。頭を剃った姿を指す語としても使われる。

唸坂(うなりざか)

仙台市青葉区の坂。伊達政宗が大入道を射たと伝えられる。

大入道山車(おおにゅうどうだし)

四日市祭の山車。首が伸縮する巨大なからくり人形。

ブロッケン現象(ぶろっけんげんしょう)

霧に自分の影が大きく映り、光の輪が差して見える現象。

大入道の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 佐々木喜善『東奥異聞』
  2. 青空文庫 岡本綺堂「飛騨の怪談」