下半身を長く伸ばし、二階を覗き込む女の姿のもの。

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 高女」 1776年 / パブリックドメイン 出典
高女とはどんな妖怪か
高女は、下半身を長く伸ばした女の姿の妖怪です。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』(1776年)にあります。
絵では、女郎屋らしき建物のそばに立ち、二階の高さから室内を覗き込んでいます。
上半身は、ふつうの女です。伸びているのは腰から下だけです。長い着物の裾が、そのまま柱のように地面まで届いています。
石燕の解説文はありません。
昭和以降の本では、男に相手にされなかった醜い女が化けたもので、遊女屋の二階を覗いて人を脅すと説明されます。
ただし、その説明の出どころは石燕の絵です。 妖怪研究家の村上健司は、後の書き手が絵から想像したものにすぎないと指摘しています。
高女の漢字表記と読み方
読みは「たかおんな」です。
高い女、と読めます。背が高いのではなく、伸びるのです。
石燕の絵では、上半身は普通の大きさのままです。腰から下だけが、二階の高さまで伸びています。
似た名に「高坊主」があります。こちらは道で背丈を伸ばしていく坊主で、見越し入道と同じ系統です。
「高」の字がつく妖怪は、見上げさせるという一点で共通しています。
和歌山県には「高女房」という呼び方が伝わるとされます。「女房」は妻のことですが、ここでは女ほどの意味です。
高女(たかおんな)
鳥山石燕『画図百鬼夜行』での表記。
高女房(たかにょうぼう)
藤沢衛彦『妖怪画談全集』が和歌山県の話として挙げる呼び名。
タカオンナ(たかおんな)
カタカナで書くこともある。
高女の姿と特徴
石燕の描く高女は、次のような姿です。
上半身 … ふつうの女。髪を長く垂らしている。
下半身 … 柱のように長く伸びている。
着物 … 白い長着。裾が地面まで届く。
手 … 障子の桟に添えている。
足元 … 縁側と、脱ぎ置かれた履物。
顔は笑っています。 眉を落とし、口の端を上げています。
恐ろしい顔ではありません。 それが、この絵をかえって不穏にしています。
背後には、格子の並んだ建物が描かれています。女郎屋と見られています。
覗き込んでいる先には、誰かがいるはずです。しかし石燕は、覗かれている側を描きませんでした。
高女の伝承物語
二階を覗くという一点
高女の説明は、書き手が変わっても一点で揃います。
二階を覗く。
藤沢衛彦は、和歌山県の「高女房」の話として、妓楼の二階を驚かすものと書きました。
山田野理夫は、秋田県の怪談として、家の二階を覗きこむものと書きました。
どちらも「二階」です。 石燕の絵がそう描かれている以上、当然のことではあります。
二階は、江戸の町で特別な場所でした。
一階は店であり、通りに開かれています。二階は寝る場所であり、閉じられています。遊女屋であれば、なおさらです。
そこを外から見られる。 高女の怖さは、伸びる体そのものよりも、この一点にあります。
相手にされなかった女
昭和以降の本にある高女の説明は、次のようなものです。
男に相手にされなかった醜い女が化けたもの。
山田野理夫の『東北怪談の旅』では、嫉妬深い醜い女が、男に相手にされないあまり、遊女屋などの二階を覗いて歩くと書かれています。
戦後の多くの妖怪本が、この説明を受け継ぎました。
そして、この説明には出どころがあります。
村上健司は、藤沢の説は石燕の絵から想像したことに過ぎないとし、山田の怪談は別の話に高女を当てはめたものだと指摘しました。
つまり、嫉妬という動機は、後から与えられたものです。
石燕は、女が二階を覗いている絵を描いただけでした。
吉原を笑う絵
高女には、まったく別の読み方があります。江戸の吉原遊廓を風刺した創作ではないか、というものです。
石燕の絵の背景は、女郎屋らしき建物です。格子が並び、二階には座敷があります。
そこを、外から女が覗き込んでいる。
買う側ではなく、覗く側に女を置いた。 そこに皮肉を読むことができます。
石燕には、遊里を題材にした絵が他にもあります。小袖の手は死んだ遊女の小袖から手が伸びるもので、やはり吉原を風刺した創作と解釈されています。大禿も遊里の禿を題材にしています。
『画図百鬼夜行』は、妖怪の図鑑であると同時に、当世の絵解きでもありました。
高女もその一枚だとすれば、伸びた下半身は、届かないものへの手の代わりかもしれません。
御坊市の石像が切られた
高女には、現代の出来事がひとつ結びついています。
2016年8月2日、和歌山県御坊市の日高港塩屋緑地にある公園で、高女の石像が根元から切断されているのが見つかりました。
この像は水木しげるのデザインによるもので、2009年から他の妖怪像九体とともに置かれていました。
同月10日、胴体は近くの港の海底(水深4.5メートル)から引き揚げられます。右手の部分は破損していました。
9月16日、御坊署は器物損壊の疑いで、市内の男子高校生を書類送検しました。像の価値は約12万円とされます。
妖怪の像が壊され、海に沈められ、引き揚げられた。 江戸の絵から二百四十年後の出来事です。
和歌山は、藤沢衛彦が「高女房」の話を伝えた土地でもあります。
高女の伝承地域
高女には、訪ねられる伝承地がありません。
石燕の絵に描かれた妖怪であり、土地の言い伝えとして採られたものではないためです。
藤沢衛彦は和歌山県の「高女房」の話として、山田野理夫は秋田県の怪談として高女を書きました。しかし、いずれも石燕より後の記述で、地元の記録として確かめられてはいません。
和歌山県御坊市の公園には、水木しげるのデザインによる高女の石像が置かれています。ただしこれは2009年に設置されたもので、伝承地ではありません。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
高女の正体と考えられているもの
高女の正体については、次のように整理できます。
まず、石燕の解説文がありません。 どのような妖怪を意図して描かれたものかは、はっきりしません。
一つめは、吉原の風刺です。絵の背景が女郎屋であることから、江戸の遊廓を笑うために描かれたとする説があります。石燕は小袖の手でも大禿でも遊里を題材にしています。
二つめは、嫉妬した女です。昭和以降の本にある説明で、男に相手にされなかった女が化けたものとします。もっとも広く知られていますが、絵から想像されたものと指摘されています。
三つめは、二階を覗く怪異です。和歌山の「高女房」も秋田の怪談も、二階を覗くという一点で揃います。覗かれる側の不安が、この妖怪の芯にあります。
四つめは、見上げさせるものです。見越し入道や高坊主と同じ系統で、背丈が伸びていくことそのものが怪異になります。
高女が何であったかは、わかっていません。 ただ、閉じているはずの二階を外から見られるという不安は、いまも通じます。
高女をめぐる妖怪のつながり
高女が登場する作品
高女は、石燕の一枚から広がった妖怪です。
解説文が無かったため、藤沢衛彦と山田野理夫がそれぞれの説明を与えました。 どちらも絵からの読みで、地元の記録として確かめられてはいません。
そのため、古典側に挙げられるものは『画図百鬼夜行』だけになります。
高女が登場する古典
高女が登場する研究
妖怪画談全集 日本編 上
藤沢衛彦。和歌山県の「高女房」として、妓楼の二階を驚かすものと説明しています。
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高女についてよくある質問
高女はどのような妖怪ですか。
石燕は何も書いていません。絵では、女が下半身を長く伸ばして二階を覗いています。 昭和以降の本では、男に相手にされなかった女が化けたものとされますが、これは後から与えられた説明です。
背が高いのですか。
伸びるのです。 上半身はふつうの大きさのまま、腰から下だけが二階の高さまで伸びます。 見越し入道や高坊主と同じで、見上げさせることが怪異になります。
吉原を風刺した絵というのは本当ですか。
そうした説があります。 絵の背景が女郎屋であること、石燕が小袖の手や大禿でも遊里を題材にしていることが根拠です。ただし確かめられてはいません。
高女の像が壊された事件があったそうですが。
2016年、和歌山県御坊市の公園にあった水木しげるデザインの高女の石像が切断され、近くの港の海底から引き揚げられました。同年9月、器物損壊の疑いで市内の男子高校生が書類送検されています。
高女と併せて覚えたい言葉・用語
妓楼(ぎろう)
遊女屋。高女は、その二階を覗くとされた。
禿(かむろ)
遊里で働く遊女見習いの少女。石燕は大禿でこれを題材にした。
画図百鬼夜行(がずひゃっきやこう)
鳥山石燕の妖怪画集。1776年。高女はこの本にある。