本文へ移動

長崎県

野狐(やこ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

野狐  / ヤコ

憑き物 各地の伝説怪談・百物語

人を化かす狐。九州では憑き物として恐れられた。

野狐の姿を描いた図

作者不明 「化物之繪 野狐」 1700年ごろ / CC BY-SA 出典

野狐とはどんな妖怪か

野狐は、人を化かす狐です。普通の野生の狐、人間を化かす狐、神格を持たない狐を指します。

人国記』(16世紀ごろ)には、和泉国の信太明神(大阪府)に野狐が多くおり、それが人をたぶらかしていたという文が見られます。

そして、野狐には位があります。

江戸時代、野狐は狐たちの間の最低層位にあたる存在の呼称とされました。

皆川淇園『有斐斎箚記』に収められた当時の宗教者の話では、狐の階級は高いものから天狐空狐・気狐・野狐の順です。

いちばん下です。

宮川舎漫筆』では、狐は大きく善狐野狐の二種があり、前者は人に善、後者は悪をなすと説かれます。

野狐の漢字表記と読み方

読みは「やこ」です。

」がついています。野にいる狐、という意味です。

しかし、それだけではありません。

野狐という表現が用いられるのは、主としてそれとは別の狐(信仰されるような存在)との対比が意識される場合です。

稲荷の狐に対して、野の狐。

室町時代以前には「野犴」(やかん)と表記する場合もあります。「野狗」「野狛」の字が当てられることもあります。

「狗」も「狛」も、当時では犬の類といった意味です。

狐でありながら、犬の字を当てられました。

野狐(やこ)

もっとも一般的な表記。

野犴(やかん)

室町時代以前に見られる表記。

野狗(やこ)

「狗」は犬の類の意。

ヤコオ(やこお)

長崎県壱岐島での呼び名。

野狐の姿と特徴

憑き物としての野狐は、次のように語られます。

… 黒いとも白いともいう。
大きさ … ネズミより少し大きい。あるいはネコよりも小さい。
見え方 … 本来の野狐は目に見えないともいう。
… 常に大勢連れ立って歩く。
憑く場所 … 人の脇の下に潜む(壱岐島)。

実在のキツネとは違います。

小さく、色が定まらず、そして見えません。

その姿や性質は、管狐オサキなど同類の妖怪の伝承と近似しています。

長崎県平戸市周辺では、野狐が常に大勢連れ立って歩くといわれることから「ヤコの千匹連れ」という言葉があります。

千匹です。

野狐の伝承物語

  1. 狐の位
  2. 野狐憑き
  3. 家筋に憑く
  4. ヤコオを防ぐ

狐の位

江戸時代、狐にはがありました。

皆川淇園『有斐斎箚記』に収められた、当時の宗教者が語った狐の階級です。

天狐。空狐。気狐。野狐。

高いものから、この順にあげられています。

野狐は、いちばん下です。

そして、『宮川舎漫筆』では、狐が語ったという話として別の分け方が説かれます。

狐は大きく善狐野狐の二種があり、前者は人に善であり、後者は悪をなす。

善と悪で分けています。

これらの説は、天狐や善狐など、一般的なキツネとは違ったものとの対比をとるために「野狐」という区分が設けられたものといえます。

上があるから、下ができます。

野狐憑き

九州地方を中心に、キツネに憑かれることを「野狐憑き」(やこつき)といいます。

「野狐」は、明確な神格を持たない狐などを指していると考えられます。

その姿は、伝承ごとにほぼ一致しています。

実在のキツネと違って色が黒いとも白いともいい、ネズミより少し大きい、あるいはネコよりも小さいとされます。

本来の野狐は、目に見えないともいいます。

長崎県や佐賀県などの北部九州では、野狐に憑かれた者は病気のような症状が現れるといわれました。

壱岐島では「ヤコオ」ともいいます。

イタチに似たもので、これが人の脇の下に潜むとその人は憑かれるといいます。

家筋に憑く

南九州では、野狐は家筋に憑くとされました。

野狐を飼っている(野狐の憑いている)家筋は、その後も代々憑き、養いきれなくなると牛馬に憑くこともあるといいます。

そして、けしかけることもできます。

狐持ちの家の人は、野狐をけしかけて仲の悪い者に憑けるといいました。

鹿児島県揖宿郡喜入町(現・鹿児島市)では、これに憑かれると半病人のようになってしまうといわれていました。

家に代々ついて回るということは、縁組みに響きます。

犬神も、オサキも、同じ扱いを受けました。

憑き物筋という言い方は、実際に人を苦しめました。

妖怪の話でありながら、これは人の話です。

ヤコオを防ぐ

壱岐島には、ヤコオを防ぐ手立てが伝わります。

まず、危ないのは病人です。

ヤコオに火傷の傷跡や疱瘡(天然痘)を嘗められると死ぬといわれていました。

そのため、疱瘡を患った者は、こうしました。

ヤコオを寄せつけないように蚊帳の中に入る。
周囲に麻殻の灰をまく。
または刀剣を置いて、野狐が中に入ることを防ぐ。

蚊帳、灰、刀。三つの備えです。

病人を守るための、具体的な作法です。

疱瘡は、江戸時代にもっとも恐れられた病のひとつでした。

治りかけの傷を嘗められると死ぬ。 その言い伝えは、病人に触れさせないための知恵でもあったのかもしれません。

野狐の伝承地域

野狐の伝承が濃いのは、九州地方です。

長崎県佐賀県などの北部九州では、野狐に憑かれた者は病気のような症状が現れるといわれました。

長崎県壱岐島では「ヤコオ」ともいい、イタチに似たものが人の脇の下に潜むといいます。長崎県平戸市周辺には「ヤコの千匹連れ」という言葉があります。

南九州では家筋に憑くとされ、鹿児島県揖宿郡喜入町(現・鹿児島市)では憑かれると半病人のようになるといわれました。

また『人国記』には、和泉国の信太明神(大阪府)に野狐が多くいたとあります。

いずれも広い地域にわたる伝えであり、特定の祠や碑に結びついたものではありません。 この欄は空のままにしてあります。

野狐の正体と考えられているもの

野狐の正体については、次のように整理できます。

一つめは、神格を持たない狐です。普通の野生の狐、人間を化かす狐を指します。 稲荷の狐など信仰される存在との対比で用いられる語です。

二つめは、狐の最低位です。江戸時代の狐の階級は、高いものから天狐・空狐・気狐・野狐の順でした。『宮川舎漫筆』では善狐野狐に分け、後者は悪をなすとされます。

三つめは、憑き物です。九州地方を中心に「野狐憑き」といい、色が黒いとも白いともいい、ネズミより少し大きい、あるいはネコよりも小さいとされます。本来の野狐は目に見えないともいいます。

四つめは、家筋です。南九州では家筋に憑くとされ、代々憑き、養いきれなくなると牛馬に憑くこともあるといいます。

野狐は、上位の狐があってはじめて成り立つ呼び名です。 そして、憑き物としての側は、人の暮らしに深く関わりました。

野狐をめぐる妖怪のつながり

野狐が登場する作品

野狐は、伝承の厚い妖怪です。

狐の階級を説く随筆と、九州の憑き物の伝えが、それぞれ別に残っています。 絵の妖怪とは成り立ちが違います。

資料は古典側と、各地の民俗の記録に分かれます。

野狐が登場する古典

人国記

16世紀ごろ。和泉国の信太明神に野狐が多くいたと記します。

有斐斎箚記

皆川淇園。天狐・空狐・気狐・野狐という狐の階級を伝えます。

宮川舎漫筆

江戸時代の随筆。狐を善狐と野狐の二種に分けて説きます。

野狐が登場する研究

妖怪事典

村上健司編著、2000年。九州の野狐憑きを整理しています。

Amazonで本・漫画を探す

野狐が登場する漫画・アニメ

ゲゲゲの鬼太郎

野狐が登場します。憑き物としての姿で描かれます。

Amazonで本・漫画を探す

妖怪をまとめて扱う作品

憑き物として、管狐やオサキと並べて取り上げられます。

九州の妖怪の本を探す

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

野狐についてよくある質問

野狐とはどんな狐ですか。

普通の野生の狐、人間を化かす狐、神格を持たない狐を指します。稲荷の狐など、信仰される存在との対比で用いられる語です。

狐に位があるのですか。

江戸時代にはそう説かれました。高いものから天狐・空狐・気狐・野狐の順で、野狐はいちばん下です。皆川淇園『有斐斎箚記』にあります。

野狐憑きとは何ですか。

九州地方を中心に、キツネに憑かれることをいいます。色が黒いとも白いともいい、ネズミより少し大きい、あるいはネコよりも小さいとされ、本来の野狐は目に見えないともいいます。

どうすれば防げますか。

長崎県壱岐島の伝えでは、疱瘡を患った者は蚊帳の中に入り、周囲に麻殻の灰をまくか、刀剣を置いて野狐が中に入ることを防いだといいます。

野狐と併せて覚えたい言葉・用語

野狐憑き(やこつき)

九州地方を中心に、キツネに憑かれることをいう語。

天狐(てんこ)

狐の階級の最上位。野狐は最下位にあたる。

ヤコの千匹連れ(やこのせんびきづれ)

長崎県平戸市周辺の言葉。野狐が大勢連れ立って歩くことをいう。