竹筒に収まるほどの小さな狐。使い手にしか見えない。

三好想山 「管狐」 1821年ごろ / パブリックドメイン 出典
管狐とはどんな妖怪か
管狐は、憑き物の一種です。
管(竹筒)に収まるほどの小型の生き物の様ですが、普通はその使い手にしか姿は見えません。
そして、使い手には力が与えられます。
管狐の力で他人の過去を言い当てたり、未来を予言できたりといった占術が使えるとも、他人に災いをもたらす呪術を使えるともされました。
山伏などが、竹筒で持ち運びます。
あるいは使い主が懐などに飼っており、集めた情報を耳元に囁くので、その使い手は他人の過去や未来を言い当てることができるといいます。
食事を与えると、人の心中や考えを悟って告げるともいわれます。
管狐の漢字表記と読み方
読みは「くだぎつね」です。
竹筒の中に入ってしまうほどの大きさなので、その名があります。
または、尾が管を二つ割にしたようなのでそう呼ぶとも説かれます。
柳田国男は、別の見方をしました。
「クダ」は田の神が「山を降(くだ)る」ことの意味である、と。
呼び名は、地方で分かれます。
中部地方では「クダ狐」、東北では「イヅナ」、関東北部では「オサキ」と呼び習わすことが多いとされます。
関東では千葉県や神奈川県を除いて管狐の伝承がありません。 関東がオサキの勢力圏だからといわれます。
管狐(くだぎつね)
もっとも一般的な表記。
クダ狐(くだぎつね)
中部地方での呼び方。
飯綱(いづな)
信濃国での呼び名。飯縄権現信仰と結びつく。
イヅナ(いづな)
東北での呼び名。
管狐の姿と特徴
管狐の大きさは、資料によって違います。
『甲子夜話』(1841年) … 文政5年、大阪で入手され江戸で見世物になったものは、尻尾を含めず全長1.2〜1.3尺(36〜39センチ)。
柳田國男 … これは最大級で、小さいものでは鼬ほどであろう。
その他の形容 … ハツカネズミほど、マッチ箱くらい。
『想山著聞奇集』(1850年刊)には挿絵があります。
顔は猫、身体は獺似、毛は鼠色で大きさはリスほど、尻尾は太かったとされます。
『善庵随筆』(1850年刊)では、イタチほどの大きさで、目が縦(竪)についているほかは野狐に同じとされます。
善庵が実見したのは、町医者が患者の皮膚下から摘出したとされる生物の皮標本でした。
管狐の伝承物語
耳元に囁く
管狐の力は、情報です。
山伏などがクダギツネを竹筒で持ち運びし、出没させてみせるという伝承があります。
あるいは、使い主が懐などに飼っています。
そして、集めた情報を耳元に囁くので、その使い手(狐遣い)は、他人の過去や未来を言い当てることができるといいます。
使い主以外に、その姿は見えません。
食事を与えると人の心中や考えを悟り、飼っている山伏に告げるともいわれます。
つまり、管狐は間諜です。
そして、その力は売り物になりました。
山伏や行者が、占いや祈祷でこれを使いました。
飯綱の法
信濃国(現・長野県)では、管狐は飯綱(いづな)と呼ばれます。
戸隠山や付近の飯綱山(飯縄山)・飯縄権現信仰と結びついています。
飯綱は、飯縄大権現の使いとされます。
そして、術者(飯綱使い)は飯縄権現を信仰する行者の場合もありますが、必ずしもそうとは限りません。
取得の方法も伝わっています。
『老媼茶話』の「飯縄の法」の節には、こうあります。
術者が精進潔斎し単独で山に行き、子を孕んだ母狐を訪ねて自分の養子とすると説き、出産まで餌などの世話をすることで、呼べばいつでも来る狐のしもべを得られる。
母狐と契約します。
朝川善庵によれば、管狐の使役法は、山伏が霊山で修学を終えた後、大和国の金峯山や大峯で山伏の官位を得る際に、山から授からねばならないとされます。
七十五匹
管狐は、家に憑きます。
地方によって管狐を有するとされる家は「クダ持ち」「クダ屋」「クダ使い」「くだしょう」等と呼ばれて忌み嫌われました。
そして、家は裕福になります。
管狐は主人の意思に応じて他家から品物を調達するため、管狐を飼う家は次第に裕福になるといわれます。
しかし、続きがあります。
初めのうちは家が裕福になるものの、管狐は75匹にも増えるので、やがては食いつぶされて家が衰えるともいわれています。
この75匹という数には、説明があります。
クダ持ちやオサキ持ちのレッテルを張られた家があまりに増えたため、それを説明するために、嫁入りのたびに75匹の眷属を伴って家庭に入るという俗説が生まれたとされます。
噂が、噂を説明するために増えました。
使うか、勝手に動くか
管狐と、似た憑き物には違いがあります。
オサキなどは家の主人が意図しなくても勝手に行動するのに対し、管狐の場合は主人の「使う」という意図のもとに行動することが特徴と考えられています。
道具として使われます。
小林庄次郎は、より広く見ています。
クダ憑きは、他の部落で「蛇憑き」「犬神憑き」「狸憑き」などとして信じられるものと同類である、と。
柳田国男は、クダを持つ家がどう扱われたかを書いています。
クダ屋は相當の資産があつても、忌嫌つて此と嫁聟を遣取する者が無い。
憑かれた人の様子も、書き留めています。
憑かれた者はクダ狐其物の眞似を爲し、取止もない事を口走つて、狂態を演ずるので、多くは恥ぢて醫者の診察を受けず、
そのレッテルは実際に人を苦しめました。
管狐の伝承地域
管狐の伝承は、長野県・静岡県・愛知県など中部地方を中心に、関東地方南部、東北地方などの一部にも及びます。
とくに信濃国(現・長野県)では「飯綱」と呼ばれ、戸隠山や付近の飯綱山(飯縄山)・飯縄権現信仰と結びついています。
飯縄山は長野市にあり、飯縄神社が祀られています。戸隠山も同市内です。
管狐の使役法は、大和国の金峯山や大峯で山伏の官位を得る際に授かるとも説かれました。
ただし、管狐そのものを祀った碑や祠は確かめられていません。
憑き物の伝承は、実在の家に対するレッテルとして働いたものです。この欄は空のままにしてあります。
管狐の正体と考えられているもの
管狐の正体については、次のように整理できます。
一つめは、小さな獣です。竹筒に収まるほどとされ、大きさの形容はハツカネズミほどからイタチほどまで幅があります。 『想山著聞奇集』は、顔は猫、身体は獺似、毛は鼠色、リスほどと記します。
二つめは、見えないものです。普通はその使い手にしか姿は見えません。 使い主の懐にいて、情報を耳元に囁くといいます。
三つめは、飯縄権現の使いです。信濃国では飯綱と呼ばれ、戸隠山や飯綱山の信仰と結びついています。
四つめは、家に貼られたレッテルです。家が栄えると、それはクダ憑きの家だからと不名誉な噂を立てられることがありました。 75匹に増えるという俗説も、そのレッテルの多さを説明するために生まれたとされます。
管狐が何であったかは、わかっていません。 ただ、この噂が実際に人を苦しめたことははっきりしています。
管狐をめぐる妖怪のつながり
管狐が登場する作品
管狐は、記録の厚い憑き物です。
江戸の随筆に大きさや姿の記述があり、皮標本を実見した記録まで残っています。 一方で、その噂は実在の家に貼られるレッテルでもありました。
資料は江戸の随筆と、各地の民俗の記録に分かれます。
管狐が登場する古典
想山著聞奇集
三好想山、1850年刊。挿絵とともに姿を記します。
善庵随筆
1850年刊。町医者が摘出したという皮標本を実見した記録があります。
管狐が登場する研究
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管狐についてよくある質問
管狐はどれくらいの大きさですか。
竹筒に収まるほどとされます。 『甲子夜話』では全長36〜39センチの個体が江戸で見世物になったとありますが、柳田國男はこれを最大級とし、小さいものでは鼬ほどであろうとしています。
何ができるのですか。
使い手は、他人の過去を言い当てたり、未来を予言できたりといった占術が使えるとも、他人に災いをもたらす呪術を使えるともされました。管狐が集めた情報を耳元に囁くといいます。
飯綱とは何ですか。
信濃国(現・長野県)での呼び名です。戸隠山や飯綱山の飯縄権現信仰と結びついています。飯綱は、飯縄大権現の使いとされます。
なぜ75匹なのですか。
クダ持ちやオサキ持ちのレッテルを張られた家があまりに増えたため、それを説明するために、嫁入りのたびに75匹の眷属を伴って家庭に入るという俗説が生まれたとされます。
管狐と併せて覚えたい言葉・用語
飯縄権現(いづなごんげん)
長野県の飯縄山を中心とする信仰の神。飯綱はその使いとされる。
クダ持ち(くだもち)
管狐を有するとされた家の呼び名。忌み嫌われた。
人狐(にんこ)
島根の憑き物。尾が細く、鼠の尻尾より短いという。