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岡山県

トウビョウ(とうびょう)とはどんな妖怪か|姿と伝承

トウビョウ  / トウビョウ

憑き物蛇と竜 各地の伝説

中国・四国地方に伝わる蛇の憑きもの。憑いた家は富むが、人に災いをもたらすという。

トウビョウの姿を描いた図

作者不明 「トウビョウ」 江戸時代 / パブリックドメイン 出典

トウビョウとはどんな妖怪か

トウビョウはひとことで言えば、蛇の憑きものです。

中国・四国地方に伝わります。香川県では「トンボカミ」ともいい、「トンベ」「トンベガミ」と呼ばれることもあります。漢字では「当廟」「土瓶神」などと書かれます。

姿は十センチから二十センチほどの長さの蛇で、体色は全体に淡い黒ですが、首の部分に金色の輪があるといいます。

七十五匹の群れをなしており、姿を消すこともできるとされます。

このトウビョウが憑いている家は「トウビョウ持ち」といわれました。

四国では、人目につかないように土製の瓶にトウビョウを入れ、台所の床上や床下に置いておき、ときどき人と同じ食事や酒を与えるといいます。

トウビョウ持ちの家は、金が入って裕福になるとされました。

トウビョウの漢字表記と読み方

読みは「とうびょう」です。

香川県では「トンボカミ」、ほかに「トンベ」「トンベガミ」とも呼ばれます。

漢字では「当廟」「土瓶神」などと書かれます。「土瓶神」は、土製の瓶に入れて飼うという習わしにちなむものとみられます。

つまり漢字表記のほうが後から当てられたもので、もとは音だけの名だった可能性があります。

民俗学者の谷川健一は、トウビョウを「藤憑」、すなわち蔓植物のように巻き付く蛇と解し、縄文時代から続く蛇への信仰の名残ではないかという説を述べています。

鳥取県では「トウビョウギツネ」といい、蛇ではなく小さな狐だともいわれます。

トウビョウ(とうびょう)

もっとも一般的な書き方。

当廟(とうびょう)

漢字を当てた書き方の一つ。

土瓶神(とうびょうがみ)

土製の瓶に入れる習わしにちなむ書き方。

トウビョウの姿と特徴

トウビョウの姿は、小さな蛇として語られます。

大きさ … 十センチから二十センチほど。
体色 … 全体に淡い黒。
目印 … 首の部分に金色の輪がある。
… 七十五匹の群れをなす。
能力 … 姿を消すことができる。

首の金色の輪という特徴は、実在の蛇には見られないもので、トウビョウを見分けるしるしとされました。

一方、岡山県のいくつかの社では白蛇と伝えられています。沖田神社の末社である道通宮の社史でも、道通様は白蛇と言い伝えられています。

鳥取県では「トウビョウギツネ」といい、小さな狐だともいわれます。

つまり、蛇として語る土地と、白蛇として祀る土地と、狐とする土地があります。

憑きものは姿よりも「憑いている家」で語られるため、姿の伝えは土地ごとにばらつきます。

トウビョウの伝承物語

  1. 土瓶に飼うということ
  2. 富んだ家が村から切り離される
  3. 体の節々が痛みだす
  4. 痛みが人の悪意に結び付く
  5. 祟りを鎮めるものから、信仰へ
  6. 谷川健一の藤憑説

土瓶に飼うということ

トウビョウの伝えでもっとも具体的なのは、飼い方です。

四国では、人目につかないように土製の瓶にトウビョウを入れます。

置き場所は、台所の床上か床下です。

そして、ときどき人間と同じ食事や酒を与えます。

家の中で、目につかない場所に、家族と同じものを食べる何かがいる。この設定そのものが、憑きものの話の核にあたります。

屋敷の中にトウビョウを放している家もあったといいます。

トウビョウ持ちの家は、金が入って裕福になるとされました。

つまり、この妖怪は災いと富を同時にもたらします。飼えば富む。しかし人には知られてはならない。

富んだ家が村から切り離される

富の理由を説明できない家に対して、村がどう語ったか。憑きものの話は、多くの場合そこから始まります。

豊かさへの説明であると同時に、その家を村から切り離す言葉でもありました。

だからこそ、この種の話は名指しが実害を生みます。現在この言い伝えを読むときには、その点を踏まえておく必要があります。

南方熊楠は『十二支考』で、その姿を尾の欠けた蛇に結び付けています。

『郷土研究』一巻三九六頁に見た中国の蛇神トウビョウも蛇に似て短いとは、かかる畸形の一層烈しいのでなかろうか。

(中国=中国地方)短い蛇。 土瓶に入るという言い伝えと、姿の説明が噛み合っています。

体の節々が痛みだす

トウビョウは、飼い主の意思に従って動くとされました。

飼い主が怨みを抱いた相手に憑き、体の節々に激しい痛みをもたらすといいます。

人に災いをもたらすのは、蛇そのものの意思ではなく、飼い主の意思だという点が重要です。

つまりトウビョウの話は、蛇の話であると同時に、人と人との関わりの話です。

体の節々が痛むという症状は、はっきりした原因の分からない病を説明する言葉として使われました。

医療が今日のようでなかった時代、原因の分からない痛みは、しばしば人の悪意に結び付けられました。

そして、その悪意の担い手として「トウビョウ持ち」の家が名指しされることになります。

痛みが人の悪意に結び付く

これは妖怪の話であると同時に、村の中で起きた出来事の記録でもあります。

なお、憑きものの話は全国に広がっています。犬神狐憑きなど、同じ形の言い伝えが各地にあります。

トウビョウはそのうち、蛇を主体とするものの代表にあたります。

柳田国男は「地名の研究」で、この蠱神を他の憑きものと並べています。

山陰・山陽の田舎にトウビョウと称する一種の蠱神がある。本体は蛇であるともいう。他地方のオサキ、犬神とやや似ている。

(蠱神=こしん。人に憑いて災いをなすとされる神)オサキ・犬神と同じ列に置かれています。

祟りを鎮めるものから、信仰へ

トウビョウの話には、もう一つの面があります。

岡山県では、トウビョウの祟りを鎮めるために「道通様」の名で祀られてきました。

笠岡市の道通神社は、この道通様の社としての面を持ちます。

信者から奉納された道通様の小さな家があり、蛇の好物として卵などが供えられています。

それらの家の中に置かれた蛇の像は、擬宝珠に巻き付いて、それぞれ阿吽の口の形をした二匹の白蛇の姿をしています。

岡山市の沖田神社の末社である道通宮の社史でも、道通様は白蛇と言い伝えられています。

谷川健一の藤憑説

ここでのトウビョウは、祀る相手になっています。

祟るものを祀ることで、守るものに変える。 これは日本の信仰に広く見られる形です。

民俗学者の谷川健一は、トウビョウを「藤憑」、つまり蔓植物のように巻き付く蛇と解し、縄文時代から続く蛇への信仰の名残ではないかという説を述べています。

この説に立てば、順序は逆になります。古い蛇への信仰が先にあり、それが後の世に憑きものとして語り直された、ということになります。

どちらが先かは決まっていません。

トウビョウの伝承地域

トウビョウの伝承地は、中国・四国地方です。

岡山県では「道通様」の名で祀られており、笠岡市の道通神社と、岡山市の沖田神社末社道通宮が知られます。どちらでも白蛇と伝えられています。

四国では、土製の瓶に入れて台所の床上や床下に置く飼い方が伝えられました。

香川県では「トンボカミ」、鳥取県では「トウビョウギツネ」と呼ばれます。

憑きものの話は、特定の家を名指しすることが実害を生みます。そのため、憑いていたとされる家の場所は書きません。

祀られている社だけを挙げています。

道通神社(どうつうじんじゃ)

道通様を祀る社

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道通神社の所在地:岡山県笠岡市

トウビョウの祟りを鎮めるための「道通様」の社としての面を持つ社です。

信者から奉納された道通様の小さな家があり、蛇の好物として卵などが供えられています。

その家の中に置かれた蛇の像は、擬宝珠に巻き付き、阿吽の口の形をした二匹の白蛇の姿をしています。

憑きものが信仰の対象に変わった例にあたります。

恐れる相手としてではなく、守るものとして扱われています。

沖田神社末社道通宮(おきたじんじゃまっしゃどうつうぐう)

白蛇として伝える社

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沖田神社末社道通宮の所在地:岡山県岡山市

沖田神社の末社である道通宮です。

その社史でも、道通様は白蛇と言い伝えられています。

四国で語られる淡い黒に金の輪という姿とは、伝わり方が違います。

同じ名でありながら、土地によって姿の伝えが異なることを示す例です。

住所は市の粒度までにとどめています。

トウビョウの正体と考えられているもの

トウビョウの正体については、次のように考えられています。

古い蛇への信仰の名残とする見方があります。民俗学者の谷川健一は、トウビョウを「藤憑」、つまり蔓植物のように巻き付く蛇と解し、縄文時代から続く蛇への信仰の名残ではないかとしています。

富の説明とする見方も重要です。トウビョウ持ちの家は金が入って裕福になるとされました。理由の分からない豊かさを、村が説明するための言葉として働いた面があります。

病の説明とする見方もあります。憑かれると体の節々に激しい痛みが出るとされました。原因の分からない痛みに、名を与える働きをしていました。

祟りを鎮める信仰へ移ったとする見方は、岡山県の例が示します。道通様として祀られ、白蛇として伝えられるようになりました。

姿は土地ごとに違います。 淡い黒に金の輪の蛇、白蛇、小さな狐。この揺れそのものが、憑きものが「姿ではなく関係で語られるもの」であることを示しています。

トウビョウをめぐる妖怪のつながり

トウビョウが登場する作品

トウビョウは、絵よりも聞き書きで伝わってきた妖怪です。

江戸時代の絵師が描いた例は確かめられませんでした。かわりに、民俗学の調査によって呼び名や飼い方が細かく記録されています。

憑きものの話は、特定の家を名指しすることが実害を生むため、扱いには注意が要ります。

現在では、岡山県の道通様のように、祀られる側に移ったかたちで名が残っています。

トウビョウが登場する書物

日本の憑きもの

石塚尊俊の著書。憑きものの言い伝えを地域ごとに扱っています。

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綜合日本民俗語彙

各地の民俗の言葉を集めた書物。トウビョウの呼び名を収めます。

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トウビョウが登場する説

藤憑説

谷川健一による説。蔓植物のように巻き付く蛇と解し、古い蛇信仰の名残とみます。

トウビョウが登場するそのほか

憑きものを扱う各種の作品

犬神などと並べて、蛇の憑きものとして取り上げられることがあります。

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トウビョウについてよくある質問

トウビョウとは何ですか。

中国・四国地方に伝わる蛇の憑きものです。十センチから二十センチほどの蛇で、体色は淡い黒、首に金色の輪があるとされます。七十五匹の群れをなし、姿を消すこともできるといわれます。

どうやって飼うのですか。

四国では、人目につかないように土製の瓶に入れ、台所の床上や床下に置き、ときどき人間と同じ食事や酒を与えるといいます。屋敷の中に放している家もあったとされます。

憑かれるとどうなりますか。

飼い主の意思に従って、怨みを抱いた相手に憑き、体の節々に激しい痛みをもたらすとされました。災いをもたらすのは蛇の意思ではなく飼い主の意思という点が特徴です。

道通様とは何ですか。

岡山県で、トウビョウの祟りを鎮めるために祀られてきた名です。笠岡市の道通神社や、岡山市の沖田神社末社道通宮で伝えられており、いずれも白蛇とされます。

蛇ではないという伝えもありますか。

あります。鳥取県ではトウビョウギツネといい、小さな狐だともいわれます。岡山県のいくつかの社では白蛇と伝えられています。

トウビョウと併せて覚えたい言葉・用語

トウビョウ持ち(とうびょうもち)

トウビョウが憑いているとされた家。金が入って裕福になるといわれた。

道通様(どうつうさま)

岡山県でトウビョウの祟りを鎮めるために祀られてきた名。白蛇とされる。

トンボカミ(とんぼかみ)

香川県でのトウビョウの呼び方。トンベ、トンベガミともいう。

藤憑(ふじつき)

谷川健一の説。蔓植物のように巻き付く蛇とみて、古い蛇信仰の名残とする。

トウビョウの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男「地名の研究」
  2. 青空文庫 南方熊楠『十二支考』「蛇に関する民俗と伝説」