飛騨で語られた憑き物筋。人が直接、人に憑くと信じられた。
牛蒡種とはどんな妖怪か
牛蒡種の漢字表記と読み方
読みは「ごぼうだね」です。
歴史学者の喜田貞吉は、狐持・犬神筋などを合わせて物持筋と呼びました。牛蒡種もその一つに数えられます。
ただし、牛蒡種だけは霊物を介さず、人が直接憑くとされました。
牛蒡種(ごぼうだね)
飛騨での呼び名。
ごぼだね(ごぼだね)
短く呼ぶ形。
物持筋(ものもちすじ)
憑き物を持つとされた家筋の総称。喜田貞吉の用語。
牛蒡種の姿と特徴
姿はありません。人そのものだからです。
見分けるしるしも伝わっていません。分かるのは結果のほうでした。
恨まれた人が病気になる。羨まれた作物が萎れる。それが「あの家は牛蒡種だ」という噂の根拠にされました。
牛蒡種の伝承と変遷
恨まれると病気になり、羨まれると作物が枯れる
喜田貞吉は、飛騨の牛蒡種の特徴をこう記しています。
ひとりこの飛騨の牛蒡種のみは、これらとはやや様子が違って、直ちに人間が人間に憑くと信ぜられているのである
牛蒡種の人に恨まれると、その人はたちまち病気になります。
狐憑き・狸憑き・犬神憑きは、人に使われた霊物が他人に憑いて災いをなすと考えられました。牛蒡種だけが、その間に何も挟みません。
力は人以外にも及びました。牛蒡種の人が他人の作物の出来のよいのを羨ましく思うと、それがだんだん萎縮して、ついには枯れてしまうといいます。
結婚で他家へ移り、捨てれば拾った者につく
牛蒡種は、犬神筋や狐持と同じ形で広がると考えられました。
結婚によって他の家へ伝播するのです。本場とされた吉城郡上宝村から、国府村や袖川村へも移住や婚姻で伝わったとされます。
もう一つ、奇妙な言い伝えがあります。
牛蒡種のものが世に恥じてこれを免れんが為には、金につけてこれを道路に捨てるので、その代りそれを拾った慾張りは、たちまち牛蒡種になるのだ
世間に恥じた者が、金に添えて道へ捨てる。
犬神筋や狐持と同じく、結婚によって他家へ移るとも考えられました。広がり方まで、ほかの憑き物筋と同じ形をしています。
拾った欲張りが、そのまま次の牛蒡種になります。
本場を何度歩いても、憑かれた者はいなかった
ここに、重要な記録があります。
住広造という人が、本場とされる吉城郡上宝村を数回旅行し、長いあいだ注意していました。
それでも、牛蒡種に憑かれたという者を見ることはありませんでした。
聞こえてきたのは、漠然と世間話でそんなことを言い触らす声だけです。
野崎寿の報告では、大野・吉城の二郡から益田郡、美濃の恵那郡の一部、信州の西部にまで散在するとされました。範囲は広いのに、当事者が見つかりません。
喜田貞吉は、文明開化の今日では、もはや評判ほどにはないものになっていると書いています。
天狗の住む山として語られた土地
なぜこの土地だったのか。喜田貞吉は地形から説明します。
上宝村は面積が非常に広く、東西約九里二十町、南北七里十町。ほかの国の普通の一郡よりまだ大きいほどです。
人の住む集落は、高原川とその支流の双六川・蔵柱川に沿って散在しているにすぎません。
そこには天狗住居の伝説もありました。昔の人の目から見れば、まったく物凄い魔界の山村だったのです。
だからこそ、すこぶる古い風習も少なからず残っていたと喜田貞吉は見ます。『斐太後風土記』にも、その痕跡が記されています。
牛蒡種の伝承地域
牛蒡種の本場とされたのは岐阜県吉城郡上宝村(現在の高山市奥飛騨温泉郷)です。国府村・袖川村にも及び、大野・吉城の二郡から益田郡、美濃の恵那郡の一部、信州の西部にも散在したと報告されています。この呼称は実在する家や住民へ向けられ、差別に使われた歴史があります。現在の家や集落と結びつけて読むことはできません。
牛蒡種の正体と考えられているもの
牛蒡種は、霊物を介さない憑き物です。
狐も犬神も、人に使われる霊物が他人に憑くと考えられました。牛蒡種だけは、人が直接、人に憑きます。
だからこそ、噂は人そのものへ向かいました。 本場を何度歩いても憑かれた者は見つからず、残っていたのは言い触らす声だけでした。
牛蒡種をめぐる妖怪のつながり
牛蒡種が登場する作品
牛蒡種は、家筋として語られてきた憑き物です。
岐阜や滋賀で、牛蒡種の家が名指しされました。 目を合わせただけで憑くとも言われ、憑かれた者は原因の分からない不調に苦しむと語られます。
犬神、トウビョウ、オサキと同じ枠にあります。妖怪の話であると同時に、実在の家を追い詰めてきた言葉でもあります。読むときはそこを踏まえます。
牛蒡種が登場する民俗学
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牛蒡種についてよくある質問
牛蒡種とは何ですか。
飛騨で語られた憑き物筋です。狐憑きや犬神憑きと違い、霊物を介さず人が直接人に憑くと信じられました。恨まれた人は病気になるとされます。
牛蒡種はどう広がるとされましたか。
犬神筋や狐持と同じく、結婚によって他家へ伝播すると考えられました。金につけて道路に捨てると、拾った者につくという言い伝えもあります。
実際に憑かれた人はいたのですか。
本場とされた上宝村を数回旅行して長く注意した人がいますが、憑かれたという者を見ることはありませんでした。漠然と世間話で言い触らす声を聞いただけです。
牛蒡種と併せて覚えたい言葉・用語
物持筋(ものもちすじ)
憑き物を代々持つとみなされた家筋。狐持・犬神筋・牛蒡種などを含む喜田貞吉の用語。
上宝村(かみたからむら)
牛蒡種の本場とされた飛騨の村。東西約九里二十町と非常に広く、天狗住居の伝説もあった。
斐太後風土記(ひだごふどき)
飛騨の地誌。喜田貞吉が上宝村の古い風習を語る際に引いている。
牛蒡種の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。