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北海道

パウチカムイとはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

パウチカムイ  / パウチカムイ

そのほか憑き物 アイヌの伝承

北海道に伝わる、人に取り憑いて性格を一変させるとされるもの。

パウチカムイの姿を描いた図

SN74LS00 「石狩川(北海道新十津川町)」 2010年 / CC BY-SA 3.0 出典

パウチカムイとはどんな妖怪か

パウチカムイは、人を惑わせる神です。

ふだんは人の世ではなく、ススランペッという川のほとりにいて、男も女も皆が裸で踊って過ごしているといいます。

ときおり人の世に現れて踊り、男女を問わず人を誘います。誘いに乗った者、あるいはその踊りを見た者は、騒がしく落ち着かない性分になり、着物を脱ぎ捨てて走り回るようになるといいます。

人に取り憑いて性格をまるごと変えてしまうともいわれ、人が浮気をするのもこれが憑いたためだと説明されました。

一方で、石狩川の流域では工芸に長けたものとも伝えられます。

パウチカムイの漢字表記と読み方

読みは「ぱうちかむい」です。

「パウチ」という語は、単独でも使われます。アイヌ語で「ウコパウチコロ」といえば男女が交わることを指す動詞ですが、これは直訳すると「互いに・パウチを・持つ」となります。語そのものが、この妖怪の性質と結びついています。

知里真志保の説によれば、パウチカムイのいる川「ススランペッ」は、もとは「巫・神・川」を意味する語がなまったものだといいます。

樺太の古い歌では「パウチ」は巫女を指す言葉であり、またその巫女に憑くものをも指しました。いまのパウチカムイは、その落ちぶれた姿だというのが知里の見方です。

パウチカムイ(ぱうちかむい)

もっとも一般的な表記。

パウチ(ぱうち)

カムイを略した形。動詞の中にもこの語が現れる。

パウチノッカ(ぱうちのっか)

千歳地方での呼び名。音を立てて飛ぶものとされる。

パウチカムイの姿と特徴

パウチカムイの姿は、次のように伝えられます。

装い … 男も女も裸。
振る舞い … 集団で踊る。人を誘って仲間に加える。
居場所 … ススランペッという川のほとり。
別の姿 … 千歳地方ではパウチノッカと呼ばれ、トルルルという音を立てて飛ぶ。

決まった一つの形を持たないのが特徴です。千歳の伝えでは、さまざまな姿に変身できるとされます。

石狩川流域の伝えでは、層雲峡にいるものは舟人を誘う女の姿をとります。層雲峡の切り立った岩壁そのものが、これが築いた砦だと語られました。

姿よりも、取り憑かれた人のほうに変化が現れるのがこの妖怪の特徴です。着物を脱ぎ捨てて走り回る、落ち着きを失う、性格が一変する。人の側の異変が、その存在を示す証しになります。

パウチカムイの伝承物語

  1. ヤナギの葉がシシャモになる
  2. 踊りに巻き込まれて正気を失う
  3. 層雲峡を築いたもの ─ 石狩川の伝え

ヤナギの葉がシシャモになる

パウチカムイのいるススランペッという川では、不思議なことが起きます。

彼らが踊りながらヤナギの葉を川へ投げ入れると、それがシシャモになるといいます。

アイヌ語でヤナギの葉は「スス・ハム」、シシャモは「スサム」あるいは「スシャム」といいます。川の名ススランペッとあわせて、名の響きが重なるところから生まれた話とみられます。

この話には現実の習慣が結びついていました。ホロベツではシシャモはパウチカムイの魚として恐れられ、他人に渡すときも直接手渡さず、投げて寄越しました。

客にシシャモの料理を出すときも、まず一掴みを客の前に投げ散らしてから、あらためて膳を出す習慣があったといいます。

食べ物の扱い方にまで、この妖怪の影が残っていたわけです。

踊りに巻き込まれて正気を失う

パウチカムイは、ときおり人の世に現れて踊ります。

その誘いに乗った者、あるいは踊りを見ただけの者も、騒がしく落ち着かない性分になります。着物を脱ぎ捨てて裸で走り回るなどの奇行に走るようになるといいます。

集団で踊る姿が目撃されることもあり、人を誘ってはこの踊りの仲間に加えてしまうとされました。

個人に取り憑いて、その性格を一変させることもあります。人が浮気をするのも、これが取り憑いたためだと説明されました。

憑いたものを離すには、憑かれた者を棘のついた枝で殴るか、川に落とす必要があると伝えられています。

これは、その人自身の性質ではなく外から来たものだ、という説明の仕方でもあります。取り憑いたものを追い出せば、その人は元に戻るという考え方がここにあります。

層雲峡を築いたもの ─ 石狩川の伝え

北海道の石狩川流域には、まったく違う顔のパウチカムイが伝わります。

こちらでは、パウチカムイは工芸に長けたものとされます。石狩川の上流にある層雲峡は、パウチカムイが作った砦だというのです。

層雲峡は、切り立った柱状の岩壁が長く続く峡谷です。人の手で作ったとしか思えないほど整った岩の並びが、この話を生んだと考えられます。

そしてここに住むものは、舟人を誘う女だといいます。層雲峡が挟む石狩川を夜盗たちが船で進んでいたところ、これに誘われた末に死んでしまったという話が残ります。

歌や姿で舟人を惑わし、命を落とさせるという筋は、川の難所に付きものの語り方です。実際、層雲峡付近の石狩川は流れが速く、舟にとって危険な場所でした。

パウチカムイの伝承地域

パウチカムイの伝承地は、北海道です。地名がはっきり出てくるのは、石狩川の上流にある層雲峡、それに千歳地方ホロベツです。

ふだんの居場所とされるススランペッは、神の世の川です。知里真志保は、この名を「巫・神・川」を意味する語がなまったものとみています。

会いに行ける祠や施設は確認できませんでした。層雲峡は観光地として整備されており、岩壁を見上げることはできます。

層雲峡(そううんきょう)

パウチカムイが築いたとされる峡谷

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層雲峡の所在地:北海道上川郡上川町 石狩川上流の峡谷

石狩川の上流にある峡谷です。パウチカムイが作った砦だと伝えられています。

切り立った柱状の岩壁がおよそ二十四キロメートルにわたって続きます。整いすぎた岩の並びが、人ならぬものが築いたという話を生んだと考えられます。

ここに住むものは舟人を誘う女とされ、石狩川を船で進んだ夜盗たちが誘われた末に死んだという話が残ります。

現在は観光地として整備され、道路から岩壁を見上げることができます。

峡谷そのものが伝承地です。パウチカムイを主題とした施設は確認できませんでした。

石狩川(いしかりがわ)

パウチカムイの話が伝わる川

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石狩川の所在地:北海道 上川地方から石狩湾へ注ぐ川

パウチカムイを工芸に長けたものとする伝えが残る流域です。

層雲峡はこの川の上流にあたります。流れの速い難所を通る舟人が、この妖怪の話と結びついていました。

川沿いには公園や河川敷が整備され、流れを見ることができます。

同じ石狩川にはミントゥチの話も多く伝わります。

パウチカムイの正体と考えられているもの

パウチカムイの正体については、いくつかの見方があります。

落ちぶれた巫女とする見方が、もっとも踏み込んだものです。知里真志保によれば、樺太の古い歌で「パウチ」は巫女を指す言葉であり、またその巫女に憑くものをも指しました。いまのパウチカムイは、その姿が落ちぶれたものだといいます。

この見方に立つと、踊りという要素の意味が変わってきます。憑かれた者が我を忘れて踊るのは、もともとは巫女が行っていた振る舞いだったことになります。

説明のつかない振る舞いを説明する言葉だったとする見方もあります。人が急に落ち着きを失う、性格が変わる、浮気をする。それを本人の性質ではなく、外から来たものの仕業とする。憑いたものを追い出せば元に戻るという考え方が、そこにはあります。

川の難所を語る話とする見方は、層雲峡の伝えにあてはまります。流れの速い川で舟人が死ぬ理由を、誘う女の姿で語ったものです。

土地によって語られ方が変わります。 千歳地方ではパウチノッカと呼ばれ、音を立てて飛ぶものとされます。石狩川流域では工芸に長けたものとされます。一つの姿にまとめられないのが、この妖怪の実際のところです。

パウチカムイをめぐる妖怪のつながり

パウチカムイが登場する作品

パウチカムイは、作品での登場例がほとんど確認できない妖怪です。

ゲゲゲの鬼太郎や妖怪ウォッチのような広く知られた作品での登場例は見つかりませんでした。

題材の性質上、子供向けの作品では扱いにくいことが理由とみられます。 ただし、層雲峡の成り立ちを語る話としては、地元の案内で触れられることがあります。

パウチカムイが登場する書物

知里真志保の研究

ススランペッの語源と、巫女との関係を論じています。

アイヌの伝承を集めた各種の書物

石狩川流域の伝えと千歳地方の伝えが別に記録されています。

パウチカムイが登場する観光・地域

層雲峡の観光案内

峡谷の成り立ちを語る伝えとして紹介されることがあります。

パウチカムイが登場するゲーム

日本の妖怪を扱う各種のゲーム

人に取り憑くものとして実装されることがあります。

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パウチカムイについてよくある質問

パウチカムイとは何ですか。

北海道に伝わる、人に取り憑いて性格を一変させるとされるものです。裸で踊り、人を誘って仲間に加えるといいます。憑かれた者は落ち着きを失うとされました。

パウチカムイはどこに出ますか。

北海道です。地名がはっきり出るのは石狩川上流の層雲峡、千歳地方、ホロベツです。ふだんの居場所とされるススランペッは神の世の川です。

取り憑かれたらどうすればよいのですか。

憑かれた者を棘のついた枝で殴るか、川に落とす必要があると伝えられています。憑いたものを追い出せば元に戻る、という考え方がここにあります。

なぜシシャモが恐れられたのですか。

パウチカムイがヤナギの葉を川に投げ入れるとシシャモになるとされたためです。ホロベツでは、他人に渡すときも手渡さず投げて寄越す習慣がありました。

層雲峡との関係は何ですか。

石狩川流域の伝えでは、層雲峡はパウチカムイが作った砦だとされます。ここに住むものは舟人を誘う女とされ、船で進んだ夜盗が誘われて死んだと伝わります。

パウチカムイと併せて覚えたい言葉・用語

ススランペッ(すすらんぺっ)

パウチカムイがいるとされる川。知里真志保は「巫・神・川」を意味する語のなまりとみる。

パウチノッカ(ぱうちのっか)

千歳地方での呼び名。トルルルという音を立てて飛び、さまざまな姿に変身するという。

層雲峡(そううんきょう)

石狩川上流の峡谷。パウチカムイが築いた砦だと伝えられる。

スス・ハム(すす・はむ)

アイヌ語でヤナギの葉。川に投げ入れるとシシャモ(スサム)になるとされた。