木原の姥。髪を前に垂らして顔を隠し、動物を化けさせて人を襲わせるという。
ケナシコルウナルペとはどんな妖怪か
ケナシコルウナルペの漢字表記と読み方
読みは「けなしこるうなるぺ」です。
ケナㇱは「木原」、ウナㇻペは「おばさん」を指します。
あわせて「木原の姥」です。
土地ごとに呼び名が違います。
沙流郡・幌別地方(胆振)では「ケナシコルウナルペ」。
湿地の小母を意味する「ニタッウナラベ」。
天塩地方では「山の魔」の意味で「イワメテイェプ」。
どれも、女を指す語です。
山と湿地に棲む、年老いた女という形が共通しています。
ケナシコルウナルペ(けなしこるうなるぺ)
沙流郡や幌別地方での呼び名。
ケナシウナラペ(けなしうならぺ)
一般的な形。「木原の姥」の意。
ニタッウナラベ(にたっうならべ)
湿地の小母の意。
イワメテイェプ(いわめていぇぷ)
天塩地方での呼び名。「山の魔」の意。
ケナシコルウナルペの姿と特徴
ケナシコルウナルペの姿は、資料によって違います。
怪女として
振り乱したざんばら髪。髪が前垂れになっていて、前後がわからない。
黒い顔には目や口が無く、親指のような鼻が付いているのみ。
怪鳥として
異説では、ミミズクの一種であるアフン・ラサンペ(コミミズク)に似た怪鳥だといいます。悪い鳥で、人を化かす習性があるとされます。
藤村久和は、こう説明します。
アイヌの神は、ケナシウナラペも山の神である熊も、本来の動物の姿でいるときはそうでもないが、鎧(ハヨクペ)をぬいで人間の姿に変身する時は、大それた悪事を働くようになるといいます。
ケナシコルウナルペの伝承物語
子熊はリスだった
沙流郡二風谷部落に、具体的な話が伝わります。
ある男が山で親からはぐれた小熊を捕らえ、自宅の檻で育てていました。
ある夜、窓からのぞいてみます。
蓬髪のケナシコルウナルペが檻の前に現れており、檻の小熊は禿頭の少年に姿を変えて、女の手拍子に合わせて踊っていました。
村の長老が手を打ちます。
悪魔払いを講じて、特別な木幣(イナウ)を配置したのち、しきたりに背いた熊送りもどきをおこない、子熊を縛って連れ出し棍棒で叩くと、それは木鼠(リス)の死体となって転がりました。
見た目は子熊、正体はリスでした。
教訓として、はぐれた子熊を安易に山から拾ってくるなとの戒めが伝えられます。
狩の女神のふりをする
ケナシコルウナルペは、狩人を惑わします。
ニール・ゴードン・マンローによれば、こうです。
この湿地の悪神は、髪を前に垂らして隠して、狩猟の女神ハシナウウクカムイの格好とふりをして狩猟者たちのもとに現れ、彼らを惑わします。
そして、獲物が消えます。
ハンターが獲物に矢を射当てたと思ったとたん、獲物がいなくなったり、無傷のまま逃げおおせるといいます。
血も吸います。
一種の吸血でもあり、負傷者や、野営しているハンターの血を吸ったりもするといいます。
それでも、頼ることがありました。
難産のばあい、特別な祈祷をもちいてこの悪神に祈り、不浄な仕事に関わらせて手助けさせることができたといいます。報酬は、血をひとくちです。
火を起こしそこねて生まれる
ケナシコルウナルペには、生まれの話があります。
創造神コタンカㇻカムイが火の起こし方を発明しようとして、白楊(ドロノキ)で失敗しました。
そこから二柱の悪神が生まれます。
ドロノキの火鑚杵(発火錐)がケナシウナラペ、火鑚臼がモシリシンナイサムとなりました。
道具が、そのまま悪神になっています。
異聞もあります。
最高神が、世界創造の道具として作った60振りの斧を打ち捨てたら、それがやがて朽ちて泥沼化し、ついで「湿地の母」と「湿地の叔母」という二人の悪魔になったというものです。
彼女らやその子孫一族は熊を飼っていて、馬や人間さえも襲わせ、病気にさせ、癲癇発作を起こさせるといいます。
ケナシコルウナルペの伝承地域
ケナシコルウナルペは、北海道のアイヌに伝わります。
沙流郡や幌別地方(胆振)では「ケナシコルウナルペ」、天塩地方では「イワメテイェプ」と呼ばれます。
子熊の話は沙流郡二風谷部落のものです。類話は釧路や十勝にも伝わります。
棲むとされたのは樹木の空洞や川岸の柳原で、そうした場所では人が泊ることを戒められていました。
土地に結びついた社や碑はありません。 この欄は空のままにしてあります。
ケナシコルウナルペの正体と考えられているもの
ケナシコルウナルペについては、次のように整理できます。
一つめは、木原の姥です。名称は「木原の姥」の意で、振り乱したざんばら髪の怪女とされ、山姥とも比較されます。
二つめは、顔の無い女です。髪が前垂れになっていて、前後がわからないといい、黒い顔には目や口が無く、親指のような鼻が付いているのみとも描写されます。
三つめは、動物を使うものです。動物を呪いで使役し、あるいは変化もさせて人間を襲わせるとされ、リスを子熊に化けさせた話が伝わります。
四つめは、怪鳥です。異説では、ミミズクの一種アフン・ラサンペに似た怪鳥で、人を化かす習性があるといいます。
五つめは、失敗から生まれたものです。創造神が火起こしに失敗し、ドロノキの火鑚杵がケナシウナラペになりました。
この妖怪は、山と湿地の危険そのものと重なっています。 泊ってはいけない場所が、はっきり示されています。
ケナシコルウナルペをめぐる妖怪のつながり
ケナシコルウナルペが登場する作品
ケナシコルウナルペは、アイヌの伝承です。
神謡(ユーカラ)や説話として語り伝えられ、外国人研究者の記録にも残りました。 ジョン・バチェラー、ニール・ゴードン・マンローが書きとめています。
資料はアイヌ文化の研究書が中心です。
ケナシコルウナルペが登場する研究
ケナシコルウナルペが登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
アイヌの伝承の妖怪として、コロポックルなどと並べて取り上げられます。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
ケナシコルウナルペについてよくある質問
名前の意味は何ですか。
「木原の姥(おばさん)」の意です。ケナㇱが「木原」、ウナㇻペが「おばさん」にあたります。
どんな姿ですか。
振り乱したざんばら髪の怪女とされ、髪が前垂れになっていて、前後がわからないといいます。黒い顔には目や口が無く、親指のような鼻が付いているのみとも描写されます。
子熊の話とは何ですか。
男が山で拾った小熊を檻で育てていると、夜にケナシコルウナルペが檻の前に現れ、小熊は禿頭の少年に姿を変えて踊っていました。 長老が悪魔払いをして叩くと、木鼠(リス)の死体になりました。
どこに棲むのですか。
樹木の空洞や川岸の柳原です。そうした場所では、人が泊ることを戒められていました。
ケナシコルウナルペと併せて覚えたい言葉・用語
ケナㇱ(けなし)
アイヌ語で木原、低木の生えた土地。
イナウ(いなう)
アイヌの木幣。祈りのために立てる。
ハシナウウクカムイ(はしなううくかむい)
アイヌの狩猟の女神。