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高知県

山姫(やまひめ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

山姫  / ヤマヒメ

人型の妖怪山の妖怪 各地の伝説

山奥に住む女の姿の妖怪。笑いかけられて笑い返すと血を吸われて死ぬとされた。

山姫の姿を描いた図

鳥文斎栄之 「模文画今怪談 山女」 1788年ごろ / パブリックドメイン 出典

山姫とはどんな妖怪か

山姫はひとことで言えば、山奥に住む女の姿の妖怪です。「山女」ともいいます。

東北地方、岡山県、四国、九州など、ほぼ全国各地に伝わります。

土地によって性質に違いはありますが、多くは長い髪を持つ色白の美女とされます。

服装は、半裸の腰に草の葉の蓑をまとっているとも、樹皮を編んだ服を着ているとも、十二単を着た姿ともいわれます。

恐ろしいのは、笑いかけられることです。 つられて笑い返すと、血を吸われて殺されると伝えられました。

高知県幡多郡奥内村、現在の大月町では、血を吸われるどころか、出遭っただけで熱病で死んでしまうといわれます。

屋久島では「ニイヨメジョ」とも呼ばれ、伝えが数多く残ります。

東北では「山女」と呼びました。柳田国男が『遠野物語』に書きとめた猟師の話には、その姿がそのまま出てきます。

遥かなる岩の上に美しき女一人ありて、長き黒髪を梳りていたり。顔の色きわめて白し。

(梳る=櫛でとかす)

猟師はこの女を撃ち倒し、証拠に髪を切り取って帰りました。長い黒髪と白い顔。 遠野でも屋久島でも、山の女はこの二つで語られます。

山姫の漢字表記と読み方

読みは「やまひめ」です。

山女」と書いて「やまおんな」とも呼ばれます。民俗の資料、中世以降の怪談集、随筆などに記述があります。

「姫」と呼ぶか「女」と呼ぶかで、受け取られ方はずいぶん変わります。

「姫」は美しさを、「女」は正体の知れなさを強めます。実際、伝えのなかでも、絶世の美女とされる土地と、人か獣か判別できないとされる土地があります。

屋久島では「ニイヨメジョ」とも呼ばれます。

なお、山姥とは別のものとして扱われますが、山に住む女という点では重なります。山姥が老いた姿で語られるのに対し、山姫は若い女として語られる点が違います。

山姫(やまひめ)

もっとも一般的な書き方。

山女(やまおんな)

同じものを指す別の呼び方。民俗資料や随筆に見える。

ニイヨメジョ(にいよめじょ)

屋久島での呼び方。

山姫の姿と特徴

山姫の姿は、土地を越えてよく似ています。

… 長い。踵に届くほど、地面につくほどとされる。
… 色白。
服装 … 半裸に草の葉の蓑。樹皮を編んだ服。十二単に緋の袴。縦縞の着物。
行い … 笑いかける。血を吸う。
熊本県での姿 … 頭はウッポリ髪。人を見ると大声で笑いかける。

服装の伝えはばらばらですが、「踵に届くほど長い髪の若い女」という点だけは、どの土地でも共通しています。

熊本県菊池郡の話では、身の丈は約一丈で頭に角があったともいいます。

大分県の黒岳の山姫は絶世の美女とされ、旅人が声をかけたところ、山姫の舌が長く伸びて血を吸い尽くされたと伝えられます。

美しさと恐ろしさが、同じ姿の中に同居しています。

山姫の伝承物語

  1. 笑い返して死ぬ ─ 血を吸われる
  2. にらむ、先に笑う、ナメクジを握る ─ 逃れる手立て
  3. 屋久島の山姫 ─ 十八人のうち一人だけ生き残る
  4. 岡山の村の娘だった ─ 正気を失った女
  5. 淵で機を織る音 ─ 山に女の仕事がある

笑い返して死ぬ ─ 血を吸われる

山姫の伝えでもっとも広く共通するのは、笑いにまつわる戒めです。

屋久島では、山姫に笑いかけられ、思わず笑って返せば血を吸われて殺されるといいます。

熊本県下益城郡では、山女に出遭った女性が笑いかけられ、大声を出したところ山女は逃げ去りました。しかし笑われた際に血を吸われたらしく、その女性はまもなく死んでしまったと伝えられます。

笑い返すかどうかで、生死が決まります。

にらむ、先に笑う、ナメクジを握る ─ 逃れる手立て

では、どうすれば逃れられるのか。土地ごとに、手立てが伝わっています。

屋久島では、山姫をにらみつける。草鞋の鼻緒を切り、唾を吐きかけて投げつける。サカキの枝を振る。そして、山姫が笑う前に自分が先に笑えば身を守れるといいます。

宮崎県東臼杵郡には、別の手立てがあります。ある猟師が猿を撃とうとして、不憫になってやめました。すると猿が、猟師の手にナメクジを握らせます。後にその猟師が山女に出遭ったとき、山女はナメクジを嫌って襲ってきませんでした。

にらむ、先に笑う、ナメクジを握る。 どれも具体的で、実際に山へ入る者へ渡された作法の形をしています。

屋久島の山姫 ─ 十八人のうち一人だけ生き残る

屋久島には、山姫の伝えがとりわけ数多く残ります。

ニイヨメジョ」とも呼ばれます。十二単に緋の袴とも、縦縞の着物とも、シダの葉の腰蓑とも。服装はばらばらですが、踵に届くほど長い髪の若い女という点だけは動きません。

もっとも恐ろしいのが、次の話です。

吉田集落の十八人が、山に麦の初穂を供えるため御岳に登りました。日が暮れて山小屋に泊まります。翌朝、飯炊きが皆より早く起きて支度をしていると、妙な女が現れ、眠る一同の上にまたがって何かをしていました。

物陰に隠れていた飯炊き以外の全員が、血を吸われて死んでいたといいます。

屋久島では昭和初期にも目撃談があります。「旧正月と九月十六日には山姫がバケツをかついで潮汲みに来る」「小学生が筍取りに行ったところ、白装束で髪の長い女に笑いかけられた」。バケツと小学生が出てくる山姫。 話は途切れずに続いています。

岡山の村の娘だった ─ 正気を失った女

その正体は人間だとする見方があります。

明治の末から大正の初め、岡山に山姫が現れました。荒れた髪、光る目、腰にぼろ布をまとうだけの姿。生きたカエルやヘビを食べ、山だけでなく民家にも現れます。

住民に殺されたあと、素性が分かりました。近くの村の娘が、正気を失ってこの姿になっていたのです。

妖怪探訪家の村上健司は、各地の山姫や山女も、多くはこれと同じく正気を失った人の姿だったと見ています。

この見方は、話の向きを変えます。 山に住む恐ろしいものの話ではなく、山へ入っていった人の話になるからです。

橘南谿の『西遊記』も、山姫に似たものを人か獣か判別できないと書くにとどめました。

淵で機を織る音 ─ 山に女の仕事がある

柳田国男は、山の女たちが里の側から見られていたことを書きとめています。

こういう為事は男がしませんから、その為に山姥山姫のいい伝えはなお永く残るのであります

(為事=仕事。淵で機を織る音、峰の岩に干した布のこと)

機を織り、布を晒す。 里の女がする仕事を山でしている者がいる。その気配だけが、山姫の話を長く残しました。

山姫の伝承地域

山姫の伝承地は、東北地方から岡山県、四国、九州まで、ほぼ全国各地に及びます。

高知県では幡多郡大月町の旧奥内村に、出遭っただけで熱病で死ぬという厳しい形の伝えが残ります。

もっとも話が厚いのは鹿児島県屋久島で、ニイヨメジョの名で数多くの伝えが語られてきました。

そのほか、熊本県下益城郡・菊池郡、鹿児島県肝属郡、宮崎県えびの市・東臼杵郡、大分県黒岳、岩手県遠野市などに伝えがあります。

一つの県に絞れる妖怪ではありません。山という場所そのものに結び付いた話だからです。

山姫を祀る祠は確かめられませんでした。

旧奥内村(きゅうおくうちむら)

出遭うだけで死ぬと伝わる地

地図で開く

旧奥内村の所在地:高知県幡多郡大月町

高知県幡多郡の旧奥内村にあたる土地です。

ここでいう山女は、血を吸われるどころか、出遭っただけで熱病で死んでしまうといわれました。

笑いかけられて笑い返す、という条件すらありません。

山姫の伝えのなかでも、とりわけ厳しい形です。

出遭ったとされる場所を特定する記述は確かめられませんでした。

屋久島(やくしま)

伝えが数多く残る島

地図で開く

屋久島の所在地:鹿児島県熊毛郡屋久島町

山姫を「ニイヨメジョ」とも呼び、伝えが数多く残る島です。

御岳に登った十八人のうち、物陰にいた飯炊き以外の全員が血を吸われて死んだという話が伝わります。

にらみつける、草鞋の鼻緒を切って唾を吐きかけたものを投げる、サカキの枝を振るといった逃れ方も、この島に伝わります。

昭和初期になっても目撃例が語られました。

高知県外の伝えですが、山姫の話がもっとも厚い土地です。

山姫の正体と考えられているもの

山姫の正体については、次のように考えられています。

正気を失った人間とする見方があります。明治末から大正初めの岡山の事例では、荒れた髪で生きたカエルやヘビを食べていた女が住民に殺され、その正体は近くの村の娘でした。妖怪探訪家の村上健司は、各地の山姫もこれと同じ場合が多いと推測しています。

山に住むものとする見方もあります。橘南谿の『西遊記』は、人間か獣か判別できず、女の形をしていると記すにとどめており、この記述の中では「山の神」とも解釈されています。

血を吸うものとする見方は、伝えの中心にあります。笑いかけられて笑い返すと血を吸われる、という形はほぼ全国で共通します。

山姥と分けて考える見方も重要です。山姥が老いた姿で語られるのに対し、山姫は若い女として語られます。ただし土地によっては境目が曖昧です。

一つに決めることはできません。 ただ、山に入る者への戒めとして働いてきたことは、どの土地の伝えからも読み取れます。

山姫をめぐる妖怪のつながり

山姫が登場する作品

山姫は、聞き書きによって形を保ってきた妖怪です。

江戸時代の絵師が描いた例は確かめられませんでした。かわりに、各地の民俗調査によって、服装や逃れ方が細かく記録されています。

とくに屋久島では、昭和初期の目撃談まで具体的に残されており、話が生きたまま伝わってきたことがわかります。

長い髪の色白の美女という姿は、現在の創作作品にも受け継がれています。

山姫が登場する書物

西遊記

橘南谿の著書。人間か獣か判別できない女の形のものを記します。

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妖怪事典

村上健司の編著。山姫の正体を人間とみる推測を述べています。

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屋久島、もっと知りたい

下野敏見の著書。屋久島のニイヨメジョの伝えを収めます。

山姫が登場する論考

山女と蛞蝓

日高正夫の論。ナメクジを苦手とする伝えを扱っています。

山姫が登場するそのほか

山の女を扱う各種の作品

長い髪の色白の美女という姿で描かれることが多いものです。

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山姫についてよくある質問

山姫とは何ですか。

山奥に住む女の姿の妖怪です。山女ともいいます。東北地方、岡山県、四国、九州など、ほぼ全国各地に伝わります。多くは長い髪を持つ色白の美女とされます。

なぜ危ないのですか。

笑いかけられて、つられて笑い返すと血を吸われて殺されるとされました。高知県幡多郡大月町の旧奥内村では、出遭っただけで熱病で死んでしまうといわれます。

逃れる方法はありますか。

屋久島では、にらみつける、草鞋の鼻緒を切って唾を吐きかけたものを投げつける、サカキの枝を振る、といった手立てが伝わります。山姫が笑う前に自分が先に笑えばよいという伝えもあります。

正体は何だとされていますか。

人間だとする見方があります。明治末から大正初めの岡山の事例では、正体は正気を失った近くの村の娘でした。妖怪探訪家の村上健司は、各地の山姫も同様の場合が多いと推測しています。

山姥と同じものですか。

別のものとして扱われます。山姥が老いた姿で語られるのに対し、山姫は若い女として語られる点が違います。ただし土地によっては境目が曖昧です。

山姫と併せて覚えたい言葉・用語

山女(やまおんな)

山姫の別の呼び方。民俗資料や随筆に記述がある。

ニイヨメジョ(にいよめじょ)

屋久島での山姫の呼び方。伝えが数多く残る。

御岳(おんたけ)

屋久島の山。十八人が登り、飯炊き以外が死んだと伝わる。

サカキ(さかき)

常緑の木。屋久島では、その枝を振ると山姫から逃れられるとされた。

山姫の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男『遠野物語』
  2. 青空文庫 柳田国男『日本の伝説』