奈良の纏向で多数の蜘蛛が一塊の火となって飛び、触れれば命を失うと恐れられた怪火。

春名忠成 「西播怪談実記 蜘蛛火」 1754年 / パブリックドメイン 出典
蜘蛛火とはどんな妖怪か
蜘蛛火は、奈良県の旧纏向村で語られた空飛ぶ怪火です。数百の蜘蛛が集まり、一つの火の塊になって空中を進みます。その火に当たった者は死ぬと恐れられました。
岡山県の玉島八島には、よく似た名の「蜘蛛の火」があります。こちらは稲荷神社近くの森から赤い火が現れ、高山と森の間を行き来して消えるものです。同じ蜘蛛と火の名を持ちながら、姿と動きは土地ごとに異なります。
蜘蛛火の漢字表記と読み方
蜘蛛火は「くもび」と読みます。岡山の「蜘蛛の火」は「くものひ」と読み、呼び名も一続きにはしません。
蜘蛛火(くもび)
奈良県の旧纏向村で伝わる呼び名。
蜘蛛の火(くものひ)
岡山県玉島八島に伝わる近い呼び名。
蜘蛛火の姿と特徴
奈良の蜘蛛火は、数百の蜘蛛が集まった火の塊です。群れが一つの火になります。岡山の蜘蛛の火は赤い飛火として語られ、火の中に蜘蛛の姿が見えるとはされません。
蜘蛛火の伝承記録
数百の蜘蛛が一つの火になる
地上にいた無数の蜘蛛が寄り集まり、境目のない一塊の火へ変わります。小さな虫の群れが、暗い空を照らすほどの怪火になるところに、蜘蛛火の異様さがあります。
燃えた蜘蛛が飛ぶのでも、一匹の蜘蛛が火を吐くのでもありません。「数百の蜘蛛そのものが火になる」という変化が、名前と姿を結び付けています。
空を飛ぶ火に当たると命を落とす
一つになった火は地面に留まらず、虚空を飛びます。遠くから眺めるだけの灯ではなく、人へ近づき、触れれば死ぬと恐れられました。
誰がどのように逃げ切ったかという物語は残っていません。見つけても近寄らないこと、飛ぶ先へ立たないことが、そのまま身を守る方法になります。
玉島八島では赤い火が森と山を往復する
岡山県玉島八島の「蜘蛛の火」は、島の稲荷神社付近にある森の上へ現れます。赤い火は高山の方向へ飛び、再び森へ戻るように行き来した後、消えたといいます。
奈良の話にある「数百の蜘蛛」や「当たれば死ぬ」という特徴は、この岡山の話には出てきません。共通するのは蜘蛛を名に持つ飛火であることです。
蜘蛛火の伝承地域
蜘蛛火は奈良県の旧纏向村、蜘蛛の火は岡山県玉島八島に伝わります。二つの地域を同じ出現場所として重ねません。
蜘蛛火の正体と考えられているもの
蜘蛛火は、蜘蛛の群れが一つの致命的な火へ変わる奈良の怪異です。岡山の蜘蛛の火は赤い飛火で、蜘蛛の群れとは語られません。名称の近さだけで一つの妖怪へまとめず、奈良では群体、岡山では往復する赤い火という違いがあります。
蜘蛛火をめぐる妖怪のつながり
蜘蛛火が登場する作品
蜘蛛火は、同じ名で別の話が伝わる怪火です。
奈良の話では、数百の蜘蛛が寄り集まって一つの火になり、当たれば死ぬとされます。 岡山県玉島八島の「蜘蛛の火」には、その特徴が出てきません。
赤い火が森と高山を往復し、やがて消えるだけです。共通するのは、蜘蛛を名に持つ飛ぶ火であること。それだけです。
蜘蛛火が登場する事典
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蜘蛛火についてよくある質問
蜘蛛火とはどんな妖怪ですか。
数百の蜘蛛が一つの火となって空を飛び、当たった者を死なせると恐れられた奈良の怪火です。
蜘蛛火は一匹の大蜘蛛ですか。
数百の蜘蛛が集まったものです。小さな蜘蛛が数百集まって火の塊になるとされます。
蜘蛛火はどこに伝わりますか。
奈良県の旧磯城郡纏向村、現在の桜井市北部に伝わります。岡山県玉島八島には別の「蜘蛛の火」があります。
奈良の蜘蛛火と岡山の蜘蛛の火は同じですか。
名は近いものの、奈良では蜘蛛の群れ、岡山では森と山を往復する赤い火です。伝わる特徴は土地ごとに変わります。
蜘蛛火と併せて覚えたい言葉・用語
怪火(かいか)
原因の分からない火や光を怪異として捉えた呼び名。
虚空(こくう)
何もない空中。
纏向村(まきむくむら)
奈良県磯城郡にあった村。現在は桜井市の一部。
蜘蛛火の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。