海中から現れ、海岸の木にとまる怪火。龍神の灯す火とされた。

竜斎閑人正澄 「狂歌百物語 竜燈」 1853年 / パブリックドメイン 出典
龍燈とはどんな妖怪か
龍燈は、海から現れる怪火です。龍灯、竜灯とも書きます。
主に海中より出現し、海上に浮かんだ後に、いくつもの火が連なったり、海岸の木などに留まるとされます。
そして、これは恐れられていません。
主に龍神の住処といわれる海や河川の淵から現れる怪火であり、龍神の灯す火の意味で龍燈と呼ばれ、神聖視されています。
神が、灯りを献じます。
広島県の厳島神社の例では、こうです。
旧暦の元旦から1月6日頃まで、静かな夜に社前の海上に現れます。最初に1個現れた火が次第に数を増して50個ほどになり、それらが集まってまた1個に戻り、明け方に消え去るといいます。
龍燈の漢字表記と読み方
読みは「りゅうとう」です。
龍の燈。 龍神の灯す火という意味です。
厳島神社では、名の由来にも説があります。
「龍燈」の名は、厳島神社で祀られている厳島明神が海神であるために、海神の住居である龍宮にちなんで名づけられたともいいます。
そして、灯る場所が決まっています。
松や杉の梢です。
日本各地に「龍灯の松」「龍灯の杉」と呼ばれる木が伝わり、龍神が寺社に神火を献じているといわれます。
火が、木にとまります。
龍燈(りゅうとう)
もっとも一般的な表記。
龍灯(りゅうとう)
「燈」を新字体で書く例。
竜灯(りゅうとう)
「龍」を新字体で書く例。
沖龍灯(おきりゅうとう)
大阪での呼び名。魚たちが龍を祀るために灯す火という。
龍燈の姿と特徴
龍燈は、次のように現れます。
出どころ … 海中、または河川の淵。
動き … 海上に浮かび、いくつもの火が連なる。
とまる先 … 海岸の松や杉の梢。
数 … 1個から50個ほどまで増え、また1個に戻る(厳島)。
時期 … 旧暦の元旦から1月6日頃(厳島)、大晦日(周防)、毎月16日の夜中(天橋立)。
日付が決まっています。
多くの土地で、特定の期日に現れます。
磐城国(現・福島県)の例は、より具体的です。
閼伽井岳山頂の寺から東を見ると、4里から5里(約16〜20キロ)の彼方に海が見え、日暮れの頃、海上の高さ約1丈(約3メートル)の空中に、提灯か花火の玉のような赤い怪火の出没する様子がよく見えたといいます。
龍燈の伝承物語
必ず二個ずつ
磐城国(現・福島県)の龍燈は、現れ方が決まっています。
閼伽井岳山頂の寺から東を見ると、4里から5里の彼方に海が見えます。
日暮れの頃。
海上の高さ約1丈の空中に、提灯か花火の玉のような赤い怪火が出没します。
そして、その数え方が独特です。
毎晩7、8個現れるが、必ず2個ずつ対になって現れる。
1個目が現れ、3、4町(約327〜436メートル)ほど宙を漂う。
その後、2個目の龍燈が現れ、1個目の軌跡を沿って宙を漂うといいます。
後を追っています。
十六キロ先の海の火を、山頂から数えています。
龍灯の松
龍燈は、木にとまります。
寛保時代の雑書『諸国里人談』には、寺に火を献じる例が紹介されています。
周防国(現・山口県東南部)の上庄熊野権現には、大晦日に龍燈が現れる。
丹後国(現・京都府北部)の天橋立には、文殊堂に「龍灯の松」と呼ばれる一本松があり、毎月16日の夜中、沖から龍燈が飛来してこの松に神火を灯す。
日付と場所が決まっています。
そして、越中国(現・富山県)には珍しい例があります。
橘南谿『東遊記』によれば、中新川郡の眼目山(立山寺)で毎年7月13日の夜、立山の頂上と海中から龍燈が飛来して境内の松の梢に留まるといいます。
立山から飛来するものを山燈、海上から飛来するものを龍燈と称し、両方が一度に現れるのは全国的に極めて稀と伝えられました。
祖霊か、インドか
龍燈の起源については、大きな論争があります。
柳田國男の説。
「龍灯」は水辺の怪火を意味する漢語で、日本において自然の発火現象を説明するために、龍神が特定の期日に特定の松や杉に灯火を献じるという伝説が発生したとします。
そして、その期日が多く祖霊を迎えてこれを祀り再び送り出す期日と一致することから、この伝説の起源は現世を訪れる祖霊を迎えるために、その目印として高木の梢に掲げた灯火であろうと説きます。
南方熊楠は、反論しました。
龍灯伝説の起源はインドにあり、自然の発火現象を僧侶が神秘であると説くようになり、後には人工的にこれを発生させる方法をも編みだした。
それが中国に伝わって習合し、僧侶によって日本に伝来したというのです。
柳田は祖霊の目印、南方は僧の神秘。二人の見方は、正面から食い違っています。
射てみたら鷺だった
龍燈には、あっけない話もあります。
新潟県佐渡島新穂村(現・佐渡市)の伝説です。
根本寺の梅の木に、毎晩のように龍燈が飛来していました。
そこで、ある者が弓矢で射てみました。
すると、正体はサギであったといいます。
鳥です。
大阪では、また違います。
沖龍灯と呼ばれ、魚たちが龍を祀るために灯す火といわれます。
魚が、灯します。
ほかにも、常宮神社(福井県敦賀市)、焼火神社(島根県隠岐郡西ノ島町)、木余り性翁寺(東京都足立区)などが伝承地として知られます。
南方熊楠は、中国やインドにも同様の伝承があることを報告しています。
龍燈の伝承地域
龍燈は、日本各地に伝わります。
広島県・厳島神社 … 旧暦の元旦から1月6日頃、社前の海上に現れ、島の最高峰である弥山からよく見えたといいます。
福島県・閼伽井岳 … 山頂の寺から、16〜20キロ先の海上の怪火が見えたといいます。
京都府・天橋立 … 文殊堂に「龍灯の松」と呼ばれる一本松があり、毎月16日の夜中に龍燈が飛来するとされます。
富山県・眼目山(立山寺) … 毎年7月13日の夜、立山の頂上と海中から飛来するといいます。
山口県・上庄熊野権現 … 大晦日に現れるとされます。
新潟県・根本寺(佐渡市) … 梅の木に飛来したが、射たところサギだったといいます。
そのほか、常宮神社(福井県敦賀市)、焼火神社(島根県隠岐郡西ノ島町)、木余り性翁寺(東京都足立区)も伝承地として知られます。
厳島神社(いつくしまじんじゃ)
社前の海上に龍燈が現れるとされた社
厳島神社の所在地:広島県廿日市市宮島町1-1
平成8年(1996年)に世界遺産に登録されました。
旧暦の元旦から1月6日ごろ、社前の海上に龍燈が現れ、島の最高峰である弥山からよく見えたといいます。
龍燈の正体と考えられているもの
龍燈の正体については、次のように整理できます。
一つめは、龍神の火です。主に龍神の住処といわれる海や河川の淵から現れ、龍神が寺社に神火を献じているとされます。 恐れる火ではなく、神聖視されました。
二つめは、祖霊の目印です。柳田國男は、現れる期日が祖霊を迎え送り出す期日と一致することから、高木の梢に掲げた灯火が起源であろうと説きました。
三つめは、インド起源です。南方熊楠は、起源はインドにあり、僧侶が自然の発火現象を神秘と説き、人工的に発生させる方法をも編みだしたものが中国を経て日本に伝来したと反論しました。
四つめは、鳥です。新潟県佐渡島では、龍燈を弓矢で射たところ、正体はサギであったといいます。
五つめは、魚です。大阪では沖龍灯と呼ばれ、魚たちが龍を祀るために灯す火といわれます。
龍燈が何であったかは、わかっていません。 ただ、日付が決まっているという点は、他の怪火にない特徴です。
龍燈をめぐる妖怪のつながり
龍燈が登場する作品
龍燈は、神聖な火です。
恐れる怪火ではなく、龍神が寺社に献じる灯りとして迎えられました。 各地に「龍灯の松」が伝わり、日付を決めて人が待ちました。
資料は江戸の雑書・紀行文と、柳田・南方の論に分かれます。
龍燈が登場する研究
柳田國男の論
龍灯を祖霊を迎える目印の灯火に由来するものと説きます。
南方熊楠の論
起源をインドに求め、僧侶による神秘化と人工的発生を説きます。
龍燈が登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
怪火の一種として、鬼火や狐火と並べて取り上げられます。
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龍燈についてよくある質問
龍燈はどこから現れますか。
主に海中、または河川の淵です。龍神の住処とされる場所から現れ、海上に浮かんだ後、海岸の松や杉の梢に留まるとされます。
厳島神社の龍燈はどんなものですか。
旧暦の元旦から1月6日頃まで、静かな夜に社前の海上に現れます。最初に1個現れた火が次第に数を増して50個ほどになり、それらが集まってまた1個に戻り、明け方に消え去るといいます。
起源については何が言われていますか。
柳田國男は祖霊を迎えるために高木の梢に掲げた灯火が起源とし、南方熊楠は起源はインドにあり、僧侶が神秘化したものが中国を経て伝来したと反論しました。
正体が判明した例はありますか。
新潟県佐渡島の根本寺では、梅の木に飛来する龍燈を弓矢で射たところ、正体はサギであったといいます。
龍燈と併せて覚えたい言葉・用語
龍灯の松(りゅうとうのまつ)
龍燈が飛来して神火を灯すと伝わる松。各地にある。
閼伽井岳(あかいだけ)
福島県の山。山頂の寺から海上の龍燈が見えたとされる。
山燈(さんとう)
越中の眼目山で、立山の頂上から飛来する火の呼び名。