難所の淵に出る怪火。近づくと病に侵される。

佐々木貞高 「閑窓瑣談 悪路神の火」 1841年 / パブリックドメイン 出典
悪路神の火とはどんな妖怪か
悪路神の火は、伊勢に伝わる怪火です。
『諸州採薬記抄録』や佐々木貞高(為永春水)の随筆『閑窓瑣談』に記されています。
場所は、難所です。
伊勢のうち田丸領間弓村(現三重県度会郡玉城町)の猪草が淵に現れたとされます。
猪草が淵は幅十間(約18メートル)ばかりの川に、水際まで十間を越える高さに丸木橋を渡します。
水底は深く、さらに周囲には山蛭が多く住む大変な難所でした。
そこに、火が出ます。
雨の降る夜に特に多く現れ、誰かが提灯を灯しているかのように往来するといいます。
悪路神の火の漢字表記と読み方
読みは「あくろじんのひ」です。
悪路の神の火、という形の名です。
「悪路」は、通りにくい道のことです。
実際、猪草が淵は水底は深く、さらに周囲には山蛭が多く住む大変な難所でした。
名が場所を言い当てています。
そして、書かれたものが二つあります。
天保12年(1841年)刊行の『閑窓瑣談』と、
享保5年(1720年)から宝暦4年(1754年)まで採薬使であった植村政勝の著す『諸州採薬記抄録』です。
後者のほうが古いものです。
悪路神の火(あくろじんのひ)
もっとも一般的な表記。
猪草が淵(いのくさがふち)
現れるとされる場所の名。
悪路神の火の姿と特徴
悪路神の火の姿は、提灯のような火です。
誰かが提灯を灯しているかのように往来するといいます。
行ったり来たりします。
高さも伝わっています。
地上から60〜90センチメートルの高さをふわふわと飛ぶといいます。
低い位置です。
そして、出る条件があります。
雨の降る夜に特に多く現れるといいます。
雨の夜です。
近づくと、危険です。
うっかり近づけば病に侵され、大変な患いになるといいます。
悪路神の火の伝承物語
地に伏して待てばよい
この怪火には、逃れ方が書かれています。
この火に出会った者は、素早く地に伏して通り過ぎるのを待ち、逃げ出せばよいといいます。
伏せて、待ちます。
そして、動かないことです。
このようにせず、うっかり近づけば病に侵され、大変な患いになるといいます。
近づくと、病になります。
「大変な患い」とあります。
「大変な患い」と書かれている、重い害です。
猪草が淵は、水際まで十間を越える高さに丸木橋を渡す場所です。
十間は、十八メートルほどです。
そこに、丸木の橋が一本かかっています。
雨の降る夜に、地に伏すのが正しい対処でした。
採薬使が見たと書かれている
この話には、出どころの問題があります。
『閑窓瑣談』はこの話の典拠として、享保年間に幕府の採薬使として諸国を巡った阿部友之進(照任)の採薬記を挙げています。
友之進が「眼前に見聞し」たものと記しています。
自分の目で見た、というのです。
ところが、その本にありません。
阿部照任の著述としては、松井重康とともに口述した『採薬使記』がありますが、この書に悪路神の火の記載はありません。
見たと書かれた本に、記事がありません。
別の採薬使の本にはある
同じ記述は、もう一人の採薬使の本にあります。
享保5年(1720年)から宝暦4年(1754年)まで採薬使であった植村政勝の著す『諸州採薬記抄録』伊勢国の項には、
『閑窓瑣談』とほぼ同様の記述が見られます。
ただし、書き方が違います。
『諸州採薬記抄録』では「猪草淵」の次に続けて「悪路神の火」を記すものの、この怪火を猪草淵に現れるものとしているわけではありません。
悪路神の火の伝承地域
悪路神の火は、伊勢国、あるいは伊勢のうち田丸領間弓村(現三重県度会郡玉城町)の猪草が淵に現れたとされます。
猪草が淵は幅十間(約18メートル)ばかりの川に、水際まで十間を越える高さに丸木橋を渡す場所でした。
水底は深く、さらに周囲には山蛭が多く住む大変な難所であったといいます。
淵の現在地は特定できず、この名で祀られた社や碑も確かめられていません。この欄は空のままにしてあります。
悪路神の火の正体と考えられているもの
悪路神の火については、次のように整理できます。
一つめは、場所です。伊勢のうち田丸領間弓村(現・三重県度会郡玉城町)の猪草が淵とされ、水底は深く、さらに周囲には山蛭が多く住む大変な難所でした。
二つめは、出方です。雨の降る夜に特に多く現れ、誰かが提灯を灯しているかのように往来するといい、地上から60〜90センチメートルの高さをふわふわと飛ぶとされます。
三つめは、逃れ方です。素早く地に伏して通り過ぎるのを待ち、逃げ出せばよいといいます。
四つめは、害です。うっかり近づけば病に侵され、大変な患いになるといいます。
五つめは、典拠のずれです。『閑窓瑣談』は阿部友之進の採薬記を典拠とするが、『採薬使記』にこの記載はありません。同様の記述は植村政勝の『諸州採薬記抄録』にあり、そちらはこの怪火を猪草淵に現れるものとしているわけではありません。
この火は、近づかなければ害がありません。 伏せて、やり過ごすのが伝えられた作法です。
悪路神の火をめぐる妖怪のつながり
悪路神の火が登場する作品
悪路神の火は、難所に出る火です。
雨の夜に低く飛び、近づくと病になります。伏せて待てば逃れられます。
資料は江戸の随筆と、幕府の採薬記に分かれます。
悪路神の火が登場する古典
閑窓瑣談
佐々木貞高(為永春水)、1841年刊。この怪火を詳しく記します。
諸州採薬記抄録
植村政勝。伊勢国の項にほぼ同様の記述があります。
悪路神の火が登場する研究
悪路神の火が登場する漫画・アニメ
怪火を扱う作品
鬼火や天狗火と並べて取り上げられます。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
悪路神の火についてよくある質問
悪路神の火とは何ですか。
『諸州採薬記抄録』や『閑窓瑣談』に記されている日本の怪火で、伊勢のうち田丸領間弓村(現・三重県度会郡玉城町)の猪草が淵に現れたとされます。
どんなふうに現れますか。
雨の降る夜に特に多く現れ、誰かが提灯を灯しているかのように往来するといい、地上から60〜90センチメートルの高さをふわふわと飛ぶとされます。
出会ったらどうすればよいのですか。
素早く地に伏して通り過ぎるのを待ち、逃げ出せばよいといいます。
近づくとどうなりますか。
うっかり近づけば病に侵され、大変な患いになるといいます。
悪路神の火と併せて覚えたい言葉・用語
採薬使(さいやくし)
幕府の命で諸国を巡り、薬になる植物などを調べた役人。
山蛭(やまびる)
山中にすむヒル。人や獣の血を吸う。
間(けん)
長さの単位。1間は約1.8メートル。