提灯の火が吸い取られるように細くなる。通り過ぎると元に戻る。

火取り魔とはどんな妖怪か
火取り魔は、石川県江沼郡山中町に伝わる怪現象です。
現在の加賀市にあたります。
場所が決まっています。
こおろぎ橋の近くに姥の懐と呼ばれる場所があります。
そこを通ると、起きます。
夜にここを人が提灯を灯して通ると、提灯の火がまるで吸い取られるように細くなり、そこを通り過ぎるとまた元通り明るくなるといいます。
細くなって、戻ります。
消えるわけではありません。
土地の住民からは、この現象は火取り魔という妖怪の仕業と呼ばれています。
加賀山中温泉ではキツネが悪さをしているともいい、河童が正体ともいわれます。
火取り魔の漢字表記と読み方
読みは「ひとりま」です。
火を取る魔、という形の名です。
同じ現象は各地にあります。
新潟県三条市の翁坂 … 砂撒きイタチが正体とされます。
石川県能美郡今江村(現・小松市) … 茯苓の精(ぶくりょうのせい)と呼ばれます。
高知県 … 「魔が憑く」と呼ばれます。
愛知県北設楽郡三輪村大字川合(現・新城市) … 「火を貸せ」といいます。
そして、沖縄にも似た伝承があります。
キジムナーも、夜道を行く人から提灯を奪って逃げるという伝承があります。
火取り魔(ひとりま)
もっとも一般的な表記。
火取魔(ひとりま)
送り仮名を省いた形。
火を貸せ(ひをかせ)
愛知県の同様の怪異の呼び名。
茯苓の精(ぶくりょうのせい)
石川県能美郡の同様の怪異の呼び名。
火取り魔の姿と特徴
火取り魔の伝承物語
姥の懐で細くなる
火取り魔の起きる場所は、きわめて限られています。
こおろぎ橋の近くに姥の懐と呼ばれる場所があります。
そこだけです。
夜にここを人が提灯を灯して通ると、提灯の火がまるで吸い取られるように細くなり、そこを通り過ぎるとまた元通り明るくなるといいます。
その場所を過ぎれば戻ります。
そして、説明がついています。
妖怪漫画家・水木しげるの説によれば、かつては夜道を照らす照明といえば提灯くらいしかなかったため、
その提灯の火が細くなることは人の恐怖心を煽り、そのためにこのような妖怪伝承が生まれたとされます。
明かりが弱まることは、命に関わりました。
風の通り道や湿った空気でも、炎は細くなります。
火を吹き消してつけ直す
同じ現象は、各地にあります。
高知県の対処法が、具体的です。
高知県でも同様に提灯の火が細くなる現象が伝えられており、こちらでは「魔が憑く」と呼ばれます。
細くなった火を一度吹き消してから火をつけ直すと、この怪異を逃れられるといいます。
一度消してから、つけ直します。
愛知県では、少女が出ます。
愛知県北設楽郡三輪村大字川合(現・新城市)では「火を貸せ」という怪異が伝わります。
ある男が夜、亀淵という地の付近を通ると、小さな少女が現れ「火を貸せ」と言いました。
男は付近に河童が出るという噂を思い出し、大煙管で少女の頭を打ちつけると、少女の姿は消え、男のほうが気絶しました。
その少女は、淵の主、または淵の神の子と噂されました。
砂撒きイタチと茯苓の精
正体とされるものは、土地ごとに違います。
新潟県三条市の翁坂です。
砂撒きイタチというイタチが、人に砂をかけたり人の蝋燭の火を奪うといい、これが正体だといいます。
イタチです。
石川県能美郡では、植物です。
江戸時代の奇談集『三州奇談』によれば、能美郡今江村(現・小松市)で、
夜半に湖畔の切り通しを通ると、人の呼び声が聞こえるとともに、松のきつい香りがして提灯の火が奪われるといいます。
これは植物の怪異として「茯苓の精」(ぶくりょうのせい)と呼ばれます。
茯苓は、松の根に生えるキノコです。
松の香りがする、という点と結びついています。
火取り魔の伝承地域
火取り魔は、石川県江沼郡山中町(現・加賀市)に伝わります。
こおろぎ橋の近くに姥の懐と呼ばれる場所があり、そこで起きるとされます。
こおろぎ橋は、山中温泉の渓谷にかかる橋です。
同様の怪異は、各地にあります。
新潟県三条市の翁坂(砂撒きイタチ)。
石川県能美郡今江村、現・小松市(茯苓の精)。
愛知県新城市、旧・北設楽郡三輪村大字川合の亀淵(「火を貸せ」)。
高知県(「魔が憑く」)。
訪ねる際は、現地の案内をご確認ください。
こおろぎ橋(こおろぎばし)
近くの「姥の懐」で火取り魔が出るとされた橋
こおろぎ橋の所在地:石川県加賀市山中温泉こおろぎ町
鶴仙渓にかかる総ヒノキ造りの橋です。
山中温泉を代表する名勝で、橋から眺める鶴仙渓は絶景です。
名の由来は、行路が危なかったので「行路危」と呼ばれたとも、秋の夜に鳴くコオロギからともいわれます。
火取り魔の正体と考えられているもの
火取り魔については、次のように整理できます。
一つめは、火が細くなることです。夜に提灯を灯して通ると、提灯の火がまるで吸い取られるように細くなり、そこを通り過ぎるとまた元通り明るくなるといいます。
二つめは、正体の諸説です。加賀山中温泉ではキツネ、河童が正体ともいわれ、新潟県三条市では砂撒きイタチ、石川県能美郡では茯苓の精とされます。
三つめは、恐怖心です。水木しげるは、かつては夜道を照らす照明といえば提灯くらいしかなかったため、その火が細くなることは人の恐怖心を煽り、このような妖怪伝承が生まれたとしています。
四つめは、逃れ方です。高知県では細くなった火を一度吹き消してから火をつけ直すと、この怪異を逃れられるといいます。
五つめは、絵の出どころです。水木しげるの妖怪画の火取り魔は、元は山東京伝による草双紙『妬湯仇討話』にある二本足の幽霊です。
この怪異は、明かりが弱まる不安そのものです。 通り過ぎれば戻るという点が、危険の少なさを示しています。
火取り魔をめぐる妖怪のつながり
火取り魔が登場する作品
火取り魔は、明かりの怪異です。
提灯の火が細くなり、通り過ぎれば戻ります。 正体はキツネ、河童、イタチ、松のキノコと、土地ごとに違います。
資料は江戸の奇談集と、各地の民俗の記録に分かれます。
火取り魔が登場する古典
三州奇談
江戸時代の奇談集。能美郡今江村の茯苓の精を記します。
火取り魔が登場する研究
火取り魔が登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
火にまつわる怪異として、送り提灯やキジムナーと並べて取り上げられます。
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火取り魔についてよくある質問
火取り魔とは何ですか。
石川県江沼郡山中町(現・加賀市)に伝わる怪現象で、夜に提灯を灯して通ると、提灯の火がまるで吸い取られるように細くなり、そこを通り過ぎるとまた元通り明るくなるといいます。
どこで起きるのですか。
こおろぎ橋の近くに姥の懐と呼ばれる場所です。
正体は何ですか。
加賀山中温泉ではキツネが悪さをしているともいい、河童が正体ともいわれます。 新潟県三条市では砂撒きイタチ、石川県能美郡では茯苓の精とされます。
逃れる方法はありますか。
高知県では、細くなった火を一度吹き消してから火をつけ直すと、この怪異を逃れられるといいます。
火取り魔と併せて覚えたい言葉・用語
こおろぎ橋(こおろぎばし)
山中温泉の渓谷にかかる橋。
茯苓(ぶくりょう)
松の根に生えるキノコ。その精が火を奪うとされた。
砂撒きイタチ(すなまきいたち)
人に砂をかけ、蝋燭の火を奪うとされるイタチ。