深夜の道端で赤子を抱いてくれと呼び止める女。抱いた者は褒美か災難を受ける。

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 産女」 1776年 / パブリックドメイン 出典
産女とはどんな妖怪か
産女はひとことで言えば赤子を抱かせる道の神です。
深夜、道の畔に現れ、通りかかった人を呼び止めて赤子を差し出します。抱き取ると、その赤子はだんだん重くなっていきます。
逃げれば話は終わります。受け取った者にだけ、その先が起こります。
腕が抜けそうになるまで耐えた者に、産女は黄金の袋を渡しました。あるいは百人力を授けました。
産で死んだ女の怨みだと説明されてきた存在が、耐えた相手には礼を尽くします。
産女の漢字表記と読み方
読みは「うぶめ」です。
「姑獲」の字を当てることがありますが、これは中国で鳥を指す言葉でした。柳田国男は、古い人たちがこれを産女に当て、産で死んだ女の怨みが姿を変えたもの、子どもに害をなすものと決めつけてしまったと書いています。
ただし、それでは説明のつかない特徴が一つ残ります。産女は、気に入った相手には大きな幸福を授けようとするのです。
産女(うぶめ)
一般的な表記。
ウブメ(うぶめ)
柳田国男が用いた表記。
姑獲(こかく)
中国で鳥の名として用いられた字。古い人はこれを産女に当てた。
産女の姿と特徴
姿は赤子を抱いた女です。深夜の道の畔に立ち、こちらへ声をかけます。
抱かされた赤子には、はっきりした変化が起こります。だんだんと重くなるのです。
やがて腕が抜けそうになるまで重くなり、そこで正体が分かります。
産女の伝承物語
深夜の道端で呼び止められる
柳田国男は、全国の産女の話を並べて、その型をこうまとめています。
ウブメは必ず深夜に道の畔に出現し赤子を抱いてくれといって通行人を呼び留める。
道端に女が立っている。腕に赤子を抱いている。抱いてくれ、と声をかけてくる。
出会う場所は必ず道で、時刻は必ず深夜です。相手を選んで呼び止めるわけでもありません。そこを通った者が、そのまま当事者になります。
驚いて逃げ帰るようでは、話はそこで終わります。受け取るかどうかが、この怪異の入口でした。
抱くと、だんだん重くなる
赤子を受け取った者に起こることは、どの土地の話でも決まっています。
幸いに勇士等が承諾してこれを抱き取ると、だんだんと重くなってしまいには腕が抜けそうになる。
はじめは赤子の重さです。それが少しずつ増していきます。
腕が抜けそうになっても、投げ出さずに抱き続ける。柳田国男がこれを引き受ける側を勇士と書いているとおり、この場面は度胸試しの形をしています。
そこまで耐えた者だけが、この先を見ることができました。
腕の中にあったのは石地蔵だった ─ 二つの結末
ここから話は二つの型に分かれます。
一つは、腕の中をよく見ると石地蔵であった、あるいはただの石であったという結末です。重さの正体が明かされて終わります。
もう一つは、抱き手が名僧である場合です。この型では産女は幽霊で、念仏や題目の力で苦しみから救われます。抱くことが供養になる筋立てです。
土地によって、話は仏の縁起へ寄ったり、寄らなかったりしました。
どちらの型でも、依頼をきちんと果たした者に、産女は非常に礼を言って十分な報謝をしたことになっています。
礼は黄金の袋、あるいは百人力
仏道の縁起に取り込まれなかった型では、礼の中身がはっきりしています。
産女が渡したのは黄金の袋、あるいは取れども尽きぬ宝でした。使っても減らない宝を、道端の女が置いていきます。
宝の代わりに五十人力・百人力の力量を授けられたという例も多くありました。柳田国男は、そうした例が佐々木喜善の『東奥異聞』に見えると書いています。
重さに耐えた腕が、そのまま人並み外れた力になる。報酬の形が、耐えた場所と一致しています。
怖れられる前は、祈るに足りた神だった
柳田国男は、産女を『今昔物語』以来の道の神の列に置きます。道の神は女性で、喜怒も恩怨も気まぐれでした。
ある者はこれに逢って命を危うくし、ある者はその縁から幸運をつかみます。同じ相手に出会っても、結末が正反対になる。
神に選択があり人の運に前定があったと信じた時代には、これもまた祷るに足りた貴き霊であったに相違ない。
神の側に選ぶ権利があり、人の運は先に決まっている。 そう信じられていた間は、この気まぐれは祈る理由になりました。
後の宗教観から見ると、同じ気まぐれは不安でしかありません。畏怖だけが残り、授ける側の顔が忘れられました。
産女の伝承地域
産女の話は特定の一地域に限られません。柳田国男は『今昔物語』以来の道の神の系列として全国の例を扱い、怪力を授かる型については佐々木喜善『東奥異聞』の東北の例を挙げています。
産女の正体と考えられているもの
産女は、試す神です。
呼び止め、差し出し、重くする。逃げた者には何も起こらず、耐えた者には黄金か怪力が渡されます。
産で死んだ女の怨みという説明だけでは、この報謝の部分が宙に浮きます。怨みで人を害する霊が、耐えた相手に礼を尽くして宝を置いていく理由がありません。
重くなる赤子は、罰ではなく試験でした。
産女をめぐる妖怪のつながり
産女が登場する作品
産女の作品は、説話と妖怪画の二つに分かれます。
『今昔物語集』の産女は、川で子を抱いてくれと頼みます。抱いた子はどんどん重くなり、耐えた者は力を授かる。 この「重くなる子」の型は、牛鬼や三吉鬼の話にも同じ形で現れます。
石燕の絵は、その場面を一枚に固定しました。 血に染まった腰巻という描写が、以後の産女の姿を決めています。
産女が登場する古典・説話
産女が登場する妖怪画
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産女についてよくある質問
産女とはどんな妖怪ですか。
深夜の道端に現れ、通りかかった人に赤子を抱いてくれと頼む女です。抱き取ると赤子はだんだん重くなり、腕が抜けそうになります。柳田国男は、これを『今昔物語』以来の道の神の系列に置いています。
赤子を抱くとどうなりますか。
腕が抜けそうになるまで重くなります。耐え抜くと、正体が石地蔵や石であったと分かる型と、名僧が念仏で産女を救う型に分かれます。
産女は何をくれるのですか。
柳田国男によれば、黄金の袋や取れども尽きぬ宝を渡す型があり、代わりに五十人力・百人力の力量を授けられた例も多く伝えられます。
産女は産で死んだ女の霊なのですか。
古い人たちはそう断定したと柳田国男は書いています。ただし、気に入った相手に大きな幸福を授ける点は、その説明では説き切れないと指摘しています。
産女と併せて覚えたい言葉・用語
姑獲(こかく)
中国で一種の鳥を指した言葉。日本で産女に当てられ、鳥の姿の話と混ざった。
道の神(みちのかみ)
道に現れて人の運を左右する神。柳田国男は産女をこの系列に置いた。
東奥異聞(とうおういぶん)
佐々木喜善による東北の伝承集。産女から怪力を授かる例が見える。
産女の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。