便所に住み、尻を撫でる毛むくじゃらの手。切ると取り返しに来る。
黒手とはどんな妖怪か
黒手は、能登に伝わる妖怪です。
能登(現在の石川県)戸板村に現れたとされます。
浅香山井による江戸時代の随筆『四不語録』6巻「黒手切り」(くろてぎり)に記述があります。
話は、便所から始まります。
慶長年間のことです。
笠松甚五兵衛という村人の家で、甚五兵衛の妻が便所に入ると何者かに尻を撫でられるという怪異が起きました。
尻を撫でられます。
夫は、狐狸を疑いました。
甚五兵衛は狐狸の仕業かと思い、刀を用意して便所に入りました。
黒手の漢字表記と読み方
読みは「くろて」です。
黒い手、そのままの名です。
この名は、話の中で明かされます。
僧の1人が「これは人家の便所に住み着く黒手という物だ」と言いました。
取り返しに来た側が、名を教えています。
そして、随筆の題は別です。
『四不語録』6巻「黒手切り」(くろてぎり)です。
切ったほうを題にしています。
同じ『四不語録』には、力持ち幽霊の話もあります。
どちらも能登の話です。
黒手(くろて)
もっとも一般的な表記。
黒手切り(くろてぎり)
『四不語録』6巻での題。
黒手の姿と特徴
黒手の姿は、手として現れます。
毛むくじゃらの手が出てきたといいます。
毛だらけの手です。
そして、本体は大きなものでした。
九尺(約2.7メートル)もの丈のある正体を現したといいます。
二メートル七十です。
人に化けることもできます。
妖怪が3人組の僧に化けて手を取り返しに来たといいます。
三人の僧です。
現代の絵は、別のものが元になっています。
漫画家・水木しげるはこの妖怪を三本指で人間くらいの大きさの猿のような姿で描いています。
黒手の伝承物語
刀で切り落とした
甚五兵衛は、待ち構えました。
甚五兵衛の妻が便所に入ると何者かに尻を撫でられるという怪異が起きました。
妻が狙われていました。
夫が代わりに入ります。
甚五兵衛は狐狸の仕業かと思い、刀を用意して便所に入りました。
刀を持って入りました。
そして、出てきました。
毛むくじゃらの手が出てきたため、これを刀で切り落としました。
切りました。
手が残りました。
この手が、次の話を呼びます。
数日後、妖怪が3人組の僧に化けて手を取り返しに来ました。
僧に化けて取り返しに来た
来たのは、三人の僧でした。
僧の正体を知らない甚五兵衛は、自宅に怪しい相があるといわれ、件の手を見せました。
家を見てやる、と言われました。
そこで、手を出しました。
手を受け取った僧の1人が「これは人家の便所に住み着く黒手という物だ」と言いました。
名を教えています。
そして、正体を現します。
さらに別の僧が手を受け取り「これはお前に斬られた我が手だ!」と叫び、九尺(約2.7メートル)もの丈のある正体を現し、手を奪って3人もろとも消え去りました。
手を取り返されました。
言葉巧みに、返させています。
刀まで奪われた
話は、それで終わりません。
後日、甚五兵衛が夕方遅くに家への帰り道を歩いていました。
帰り道です。
突然空から衾のようなものが降りてきて彼を包み込みました。
衾は、掛け布団のことです。
6〜7尺(約1.8〜2.1メートル)も宙に持ち上げ、下に落としました。
持ち上げて落としました。
そして、失くしていました。
気づいたときには甚五兵衛の懐から、黒手を斬った刀が奪われていたといいます。
刀まで取られました。
手も刀も、返っていません。
そして、現代の絵には注意が要ります。
水木しげるの絵の元となったのは江戸時代の古書『絵本小夜時雨』巻五にある播州の奇談「播州士異獣を斬」であり、黒手とは異なります。
黒手の伝承地域
黒手は、能登(現在の石川県)戸板村に伝わります。
浅香山井による江戸時代の随筆『四不語録』6巻「黒手切り」に記述があります。
慶長年間のこととされます。
同じ『四不語録』には、能登の別の話もあります。
力持ち幽霊(2巻「女の幽霊」)です。
村と家の跡は確かめられていません。この欄は空のままにしてあります。
黒手の正体と考えられているもの
黒手については、次のように整理できます。
一つめは、出どころです。浅香山井による江戸時代の随筆『四不語録』6巻「黒手切り」に記述があります。
二つめは、住む場所です。人家の便所に住み着くとされ、甚五兵衛の妻が便所に入ると何者かに尻を撫でられるという怪異が起きました。
三つめは、姿です。毛むくじゃらの手として現れ、九尺(約2.7メートル)もの丈のある正体を持ちます。
四つめは、取り返しです。3人組の僧に化けて手を取り返しに来て、「これはお前に斬られた我が手だ!」と叫び、手を奪って3人もろとも消え去りました。
五つめは、仕返しです。空から衾のようなものが降りてきて彼を包み込み、気づいたときには甚五兵衛の懐から、黒手を斬った刀が奪われていたといいます。
この妖怪は、取り返しに来ます。 切った側が、最後には何も持っていません。
黒手をめぐる妖怪のつながり
黒手が登場する作品
黒手は、取り返しに来る妖怪です。
切り落とした手を、僧に化けて言葉巧みに返させました。
資料は江戸の随筆に集まります。
黒手が登場する古典
四不語録
浅香山井。6巻「黒手切り」にこの話があります。
絵本小夜時雨
巻五の「播州士異獣を斬」が、水木しげるの絵の元になっています。
黒手が登場する研究
黒手が登場する漫画・アニメ
手の妖怪を扱う作品
便所に出る怪異として、加牟波理入道と並べて取り上げられます。
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黒手についてよくある質問
黒手とは何ですか。
能登(現在の石川県)戸板村に現れたとされる妖怪で、人家の便所に住み着くとされます。
何が起きたのですか。
甚五兵衛の妻が便所に入ると何者かに尻を撫でられるという怪異が起き、毛むくじゃらの手が出てきたため、これを刀で切り落としました。
手はどうなりましたか。
3人組の僧に化けて手を取り返しに来て、「これはお前に斬られた我が手だ!」と叫び、手を奪って3人もろとも消え去りました。
その後どうなりましたか。
空から衾のようなものが降りてきて彼を包み込み、気づいたときには甚五兵衛の懐から、黒手を斬った刀が奪われていたといいます。
黒手と併せて覚えたい言葉・用語
衾(ふすま)
掛け布団のこと。
尺(しゃく)
長さの単位。1尺は約30センチメートル。
慶長(けいちょう)
1596年から1615年までの年号。