本文へ移動

東京都

髪切り(かみきり)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

髪切り  / カミキリ

そのほか 妖怪絵巻怪談・百物語

本人が気づかない一瞬に、結い上げた髪を元結から切り落とす正体不明の怪異。

髪切りの姿を描いた図

佐脇嵩之 「百怪図巻 髪切り」 1737年 / パブリックドメイン 出典

髪切りとはどんな妖怪か

髪切りは、結い髪が知らぬ間に切られる怪異です。元禄初めの伊勢松坂や江戸紺屋町などで噂になり、時代と場所を変えて似た事件が記録されました。

目撃されるのは犯人ではなく、地面へ落ちた髪です。刃物を当てられた痛みも、背後に立つ気配もない。その一瞬の空白に、姿のない妖怪が入り込みました。

髪切りの漢字表記と読み方

「かみきり」と読みます。昆虫のカミキリムシではなく、人の髪を切る怪異を指します。

髪切り(かみきり)

髪が突然切られる事件と、その原因とされた怪異の名。

髪切(かみきり)

送り仮名を省いた表記。

髪切りの姿と特徴

髪を切られた人は犯人の姿を見ておらず、髪切りは本来、目に見えない怪異です。後の妖怪絵巻では、鳥の嘴や鋏のような手を持つ姿も与えられました。実際の事件と絵巻の姿は同じ時点に生まれたものではなく、原因の見えない出来事へ後から形が与えられた関係です。

髪切りの伝承物語

  1. 歩いていた人の結い髪が、突然落ちる
  2. 伊勢松坂と江戸で、同じ怪事件が広がる
  3. 切られた髪は、身分と生活を乱す
  4. 姿のない事件に、鋏を持つ妖怪が生まれる
  5. 時代が変わっても、髪切り事件は消えない

歩いていた人の結い髪が、突然落ちる

髪切りの場面は、人通りのある道や町中でも始まります。きちんと結い上げていた髪が、元結のあたりから突然切れ、束のまま地面へ落ちます

本人は刃物の痛みを感じず、周囲の人も手を伸ばす犯人を見ていません。振り向いたときには、髪型だけが壊されている。何が起きたか理解するより先に、被害の跡が残ります。

伊勢松坂と江戸で、同じ怪事件が広がる

『諸国里人談』は、元禄初め伊勢松坂江戸紺屋町で、男女の髪が元結から切られた話を伝えます。一人だけの奇妙な体験ではなく、離れた町で似た出来事が続いたため、噂は土地を越えました。

誰かのいたずら、鋭い道具、動物の仕業といった説明が追いつかないまま、「髪切りが出た」という事件名が先に広がります。名が共有されると、別の町の被害も同じ怪異の仕業として読まれるようになります。

切られた髪は、身分と生活を乱す

江戸時代の結い髪は、身分と暮らしを示す形でした。男女の身分、年齢、職業、暮らし方を外見で示す大切な形でした。時間をかけて整えた髪を人前で失うことは、姿を変えられるだけでなく、社会の中の自分を乱される出来事です。

髪切りが恐れられたのは、姿と立場を同時に崩されるからです。髪を結い直す手間だけでなく、人前へ出る姿と立場を同時に崩されました。

姿のない事件に、鋏を持つ妖怪が生まれる

髪切りの現場には、切られた髪だけが残ります。後の妖怪絵巻は、その見えない原因へ、嘴や大きな鋏を思わせる手を持つ姿を与えました。

髪を切るなら刃物を持つはずだ、素早く近づくなら人ではない体だろう。事件から逆算して描かれた姿です。それでも、見えない恐怖を一目で理解できる妖怪像として定着していきます。

時代が変わっても、髪切り事件は消えない

髪を切られたという噂は、元禄期だけで終わりません。文化年間の江戸や、明治初めの新聞にも似た事件が現れます。町の情報が口伝、随筆、瓦版、新聞へ移っても、犯人の見えない切断は人々の関心を集めました。

髪切りは、退治されても名だけが残ります。原因を突き止められない出来事が報じられるたび、古い名が再び呼び戻されます。怪異は刃物の姿ではなく、事件を結び付ける名前として長く生きました。

髪切りの伝承地域

髪切りは一つの出現地に固定されず、伊勢松坂、江戸紺屋町、後の下谷・小日向など複数の町で噂になりました。

伊勢松坂(いせまつさか)

元禄初めの髪切り事件が語られた町

地図で開く

伊勢松坂の所在地:三重県松阪市周辺

『諸国里人談』に挙げられる事件地の一つです。

示しているのは噂の広まった町の範囲です。

江戸紺屋町(えどこんやちょう)

髪切り事件が語られた江戸の町

地図で開く

江戸紺屋町の所在地:東京都千代田区神田紺屋町周辺

元禄初めの類似事件が伝えられます。

歴史地名の概略位置を示します。

髪切りの正体と考えられているもの

髪切りは、原因の見えない出来事へ与えられた名です。人の髪が突然切られる原因の見えない事件に共通の名が付き、記録と噂を通して一つの妖怪像へ育ったものです。後世の絵巻は、その見えない働きへ鋏を持つ姿を与えました。

髪切りをめぐる妖怪のつながり

髪切りが登場する作品

髪切りは、事件が先にあって姿が後から来た妖怪です。

『諸国里人談』が伝えるのは、切られた髪だけが残るという出来事です。 犯人も刃物も見えません。

その空白を、絵師が埋めました。 鋏のような手を持つ姿は、髪を切るならこういうものだろうという推測から描かれたものです。 網切も、同じ作られ方をしています。

髪切りが登場する古典・記録

諸国里人談

江戸中期の見聞集。元禄初めの伊勢松坂と江戸紺屋町で、男女の髪が元結から切られた話を伝えます。

Amazonで本・漫画を探す

髪切りが登場する妖怪画

画図百鬼夜行

鳥山石燕の妖怪画集。嘴と鋏を思わせる手を持つ姿を描き、見えない事件へ形を与えました。

Amazonで本・漫画を探す

関東の妖怪の本を探す

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

髪切りについてよくある質問

髪切りとはどんな妖怪ですか。

本人が気づかない間に、結い上げた髪を元結から切り落とす姿の見えない怪異です。

髪切りはどこに出ましたか。

元禄初めの伊勢松坂や江戸紺屋町をはじめ、時代を変えて複数の町で似た事件が語られました。

髪切りはどんな姿ですか。

犯人の姿を見た者はいません。後の妖怪絵巻で、嘴や鋏のような手を持つ姿が与えられました。

髪切りと網切は同じ妖怪ですか。

名前と鋏の印象は似ますが別の妖怪です。髪切りは人の結い髪、網切は網や蚊帳などを切るものとして描かれます。

髪切りと併せて覚えたい言葉・用語

元結(もとゆい)

髪を束ねて結うために使う細い紐。髪切りでは、この付近から髪が落ちます。

紺屋町(こんやちょう)

染物を扱う職人や商人と結び付く町名。江戸の髪切り事件地として挙げられます。

怪異(かいい)

通常の原因では説明しにくい不思議な出来事。髪切りは事件名から妖怪名へ変化しました。

髪切りの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 国立国会図書館サーチ「諸國里人談 5巻」検索
  2. 国立国会図書館サーチ『怪異と妖怪のメディア史』