本文へ移動

全国に伝わるもの

旧鼠(きゅうそ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

旧鼠  / キュウソ

獣の妖怪 各地の伝説怪談・百物語絵本百物語

長く生きて大きくなり、猫を倒す恐ろしさと子猫を育てる情の両方を見せる老鼠。

旧鼠の姿を描いた図

竹原春泉 「絵本百物語 旧鼠」 1841年 / パブリックドメイン 出典

旧鼠とはどんな妖怪か

旧鼠は、年を経て力を得た鼠です。猫を噛み殺す話がある一方、母猫を失った五匹の子を夜ごと育てる話もあります。

別々の話が、年を経た鼠という一点でまとめられています。老いた鼠をめぐる別々の奇談が同じ名へ集まり、猫より弱いはずの鼠が、敵にも親代わりにもなる逆転を生みました。

旧鼠の漢字表記と読み方

「きゅうそ」と読みます。「旧」は長い年月を経たこと、「鼠」は身近なネズミを表し、年を重ねて普通の動物ではなくなったものを指します。

旧鼠(きゅうそ)

年を経た古い鼠を漢語風に表した名。

古鼠(ふるねずみ)

老いた鼠を意味する一般的な呼び方。

旧鼠の姿と特徴

共通する一つの姿はありません。犬ほどに大きくなり、猫と戦える太い胴と歯を持つ話もあれば、厩へ住みつき、夜に子猫の世話をする老鼠として現れる話もあります。

旧鼠の伝承記録

  1. 厩の老鼠は、母猫と争わず暮らしていた
  2. 母猫が死ぬと、五匹の子猫へ乳を与える
  3. 名古屋の大鼠は、仕掛けた猫を次々と倒す
  4. 旧鼠は善い妖怪でも、悪い妖怪でもない
  5. 猫又と比べると、鼠と猫の立場が入れ替わる

厩の老鼠は、母猫と争わず暮らしていた

文明年間の出羽で、ある家の厩に年を経た鼠が住みつきます。同じ厩には一匹の母猫もいました。猫と鼠は本来なら追う側と逃げる側ですが、この二匹は争わず、互いを避けることもなく暮らしていました。

母猫はやがて五匹の子を産みます。敵同士であるはずの猫と鼠が同じ場所を分け合うことから、旧鼠の最も不思議な話が始まります。ここでの老鼠は、猫を出し抜いて餌を盗む者でも、家を荒らす害獣でもありません。

母猫が死ぬと、五匹の子猫へ乳を与える

母猫は毒のあるものを食べ、子猫を残して死んでしまいます。まだ自分で餌を取れない五匹のそばへ、夜になると旧鼠が現れました。老鼠は子猫へ乳を与え、母猫の代わりに育てます

子猫たちは無事に大きくなり、親の助けがいらなくなると、旧鼠は厩から姿を消します。恩返しを求めることも、人へ正体を明かすこともありません。猫を恐れる鼠が、その猫の子を守り終えるまで通うという逆転が、この話の温かさを作っています。

名古屋の大鼠は、仕掛けた猫を次々と倒す

一方、『翁草』の名古屋の話に現れる大鼠は、厩の養育者とは正反対です。家で荒らしを働く鼠を捕らえるため、猫を入れて戸を閉めます。ところが翌朝に残るのは鼠の死骸ではなく、噛み殺された猫でした。

さらに強い猫を借りても結果は変わりません。人が頼りにした鼠捕りの名手が倒され、家の中では鼠の方が上位の捕食者になります。翌朝、家の者は、鼠を狙って入れた猫の死骸を先に見ることになります。

旧鼠は善い妖怪でも、悪い妖怪でもない

子猫を育てる旧鼠と、猫を噛み殺す旧鼠は、別々の話です。時代も場所も異なる話が、年を経た鼠という共通点で一つの名へ集まっています

そのため「旧鼠は子どもに優しい」「旧鼠は猫を食べる」と性格を一つに決めることはできません。長寿を得た動物は、人より深い情を見せることもあれば、人が飼いならした動物の力を越えて脅威にもなる。旧鼠は、老いた獣へ向けた敬意と不安の両方を受け止める名です。

猫又と比べると、鼠と猫の立場が入れ替わる

猫又は、長く生きた猫が尾を分け、人の言葉を話したり、人へ害をなしたりする妖怪です。身近な動物が年を経て異能を得る点では、旧鼠とよく似ています。

けれど旧鼠の話に出てくる猫は、倒される敵か、育てられる子です。大鼠に倒される敵か、老鼠に育てられる幼い子になります。猫が主役になる猫又と、猫より上へ回る鼠を描く旧鼠。同じ長寿の動物妖怪でも、家の中の力関係をどちらから見るかが反対です。

旧鼠の伝承地域

旧鼠には全国共通の一つの出現地があるのではなく、出羽の養育譚と尾張国名古屋の大鼠譚などが別々に残ります。地図は話の舞台となった広い歴史地域を示します。

出羽(でわ)

子猫を育てる旧鼠の物語地域

地図で開く

出羽の所在地:山形県・秋田県

『絵本百物語』が養育譚の舞台として挙げる旧国名。

家や厩の現所在地は特定できません。

尾張国名古屋(おわりのくになごや)

猫を倒す大鼠の物語地域

地図で開く

尾張国名古屋の所在地:愛知県名古屋市

『翁草』に収められた大鼠の奇談の舞台。

現代の家屋や住所へ結びつけることはできません。

旧鼠の正体と考えられているもの

旧鼠は、年を経た鼠が普通の猫を越えるほどの力や情を得たものです。子猫を育てる話と猫を倒す話を無理につなぐ必要はありません。弱い害獣と見られた鼠が、母にも捕食者にもなることで、人と動物の決めつけを裏返す妖怪です。

旧鼠をめぐる妖怪のつながり

旧鼠が登場する作品

旧鼠には、正反対の二つの話が集まっています。

母猫を失った子猫へ夜ごと乳を与える話と、仕掛けた猫を次々に噛み殺す話。 時代も場所も違う話が、年を経た鼠という一点で同じ名になりました。

そのため「旧鼠は優しい」「旧鼠は猫を食べる」と決めることはできません。老いた獣へ向けた敬意と不安の、両方を受け止める名です。

旧鼠が登場する妖怪画

今昔画図続百鬼

鳥山石燕の妖怪画集。年を経て大きくなった鼠を描き、「旧鼠」の名を与えました。

Amazonで本・漫画を探す

日本の妖怪の本を探す

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

旧鼠についてよくある質問

旧鼠とはどんな妖怪ですか。

長く生きて大きな力を得た鼠です。猫を噛み殺す恐ろしい話と、母猫を失った五匹の子猫を育てる情深い話の両方があります。

旧鼠はなぜ子猫を育てたのですか。

出羽の話では、旧鼠は母猫と同じ厩で仲よく暮らしていました。母猫の死後、その子を引き取り、育つまで夜ごと世話をします。

旧鼠は猫を食べますか。

名古屋には猫を次々と噛み殺す大鼠の話があります。ただし子猫を育てる旧鼠とは別の奇談で、行動は話ごとに変わります。

旧鼠と猫又は同じですか。

別のものです。旧鼠は年を経た鼠、猫又は年を経た猫です。どちらも長寿の動物ですが、妖怪になる動物が反対です。

旧鼠と併せて覚えたい言葉・用語

出羽(でわ)

現在の山形県と秋田県にまたがった旧国名。

(うまや)

馬を飼う建物。子猫を育てる旧鼠の話の舞台。

(きゅう)

古いこと、長い年月を経ていることを表す字。

旧鼠の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 国立国会図書館サーチ『絵本百物語 5巻』
  2. 国立国会図書館サーチ『絵本百物語 桃山人夜話』
  3. 国立国会図書館サーチ『翁草 校訂』