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愛知県

火を貸せ(ひをかせ)とはどんな妖怪か|姿と伝承

火を貸せ  / ヒヲカセ

人型の妖怪 各地の伝説

愛知県北設楽郡の夜道に出るという怪異。おかっぱの童女が「火を貸せ」と言い、打とうとした男が気絶したと伝わる。

火を貸せとはどんな妖怪か

火を貸せはひとことで言えば、夜道で火をねだる童女です。愛知県北設楽郡の話です。

出る場所は決まっていました。火を貸せという道の怪が出る場所がある、という書き出しで記録されています。

話の筋はこうです。昔、鬼久左という力持ちの男が夜道を歩いていると、先を行くおかっぱの童女が「火を貸せ」と言いました。男は煙管で打ち据えようとします。ところが打つより先に、自分が気絶してしまいました

そして土地の人は、この童女を淵の神の子だったのだろうと語りました。

記録は柳田國男の「妖怪名彙(五)」(『民間伝承』4巻2号・通巻38号、1938年)です。柳田は『愛知県伝説集』を引いています。

力自慢の男が、幼い姿のものに手も足も出ないという形が、この話の芯にあります。

火を貸せの漢字表記と読み方

読みは「ひをかせ」です。

名は、童女が言った言葉そのものです。妖怪の姿や正体ではなく、発した一言が名になっています

煙草の火をもらう、火種を分けてもらうという言い方は、かつての夜道では珍しくありませんでした。ごく普通の頼みごとが、そのまま怪異の名になっているところに、この話の不気味さがあります。

火を貸せ(ひをかせ)

日文研データベースが示す漢字表記。

ヒヲカセ(ひをかせ)

同データベースの呼称読み。

火をかせ(ひをかせ)

平仮名を交えた書き方。

火を貸せの姿と特徴

火を貸せの姿として記録されているのは、おかっぱの童女です。

姿 … おかっぱ髪の幼い女の子。
場所 … 夜道。出る場所は決まっている。
言葉 … 「火を貸せ」。
位置 … 男のを歩いている。

顔つき、着ているもの、背丈は書かれていません。火を渡した場合にどうなるかも記録にありません。

恐ろしい姿ではなく、幼い子どもの姿である点が、この怪異の特徴です。

火を貸せの伝承記録

  1. 鬼久左という力持ちの男
  2. 「淵の神の子だったのだろう」
  3. 出る場所が決まっているという記録

鬼久左という力持ちの男

話に名が出てくるのは、鬼久左(きくざ)という男です。力持ちとして知られた人物だったと記録されます。

夜道を歩いていると、先を行く童女が「火を貸せ」と言いました。男は取り合わず、煙管で打ち据えようとします

結果は逆でした。打つ前に、鬼久左のほうが気絶してしまいます

力自慢の男が、幼い子どもの姿をしたものに何もできない。力では及ばないものがあるという結末が、この話を怪異として成り立たせています。

「淵の神の子だったのだろう」

記録は、童女の正体について土地の見方を書き添えています。淵の神の子だったのだろうというものです。

は、川の流れが深くよどんだところです。多くの土地で、淵は神や主が住む場所と考えられ、近づくことが戒められました。

その神の子であれば、力持ちの男が敵わないのも道理だ、という理屈になります。怪異を説明するために、土地でいちばん近い神が引き合いに出された形です。

ただし、どの淵か、その神が何と呼ばれていたかは書かれていません。断定でもなく、「だったのだろう」という推し量りとして記録されています。

出る場所が決まっているという記録

この話でもう一つ具体的なのは、出る場所が決まっているという点です。

記録は「火を貸せという道の怪が出る場所がある」と始まります。いつでもどこでも出るのではなく、特定の道に結び付いた怪異でした。

地名は書かれていません。 日文研データベースの地域欄は愛知県北設楽郡を示すだけで、区町村名の欄は空です。

北設楽郡は愛知県の東北の山あいにあたります。山と川と淵の多い土地で語られた話である、というところまでが記録から言えることです。

火を貸せの伝承地域

公的データベースの地域欄は、愛知県北設楽郡を示します。区町村名の欄は空です。

「出る場所が決まっている」と記録されているにもかかわらず、その場所の名は伝わっていません。地図で示せるのは郡の範囲までです。

北設楽郡周辺(きたしたらぐんしゅうへん)

日文研データベースが示す伝承地域

地図で開く

北設楽郡周辺の所在地:愛知県北設楽郡

柳田國男「妖怪名彙(五)」の地域欄に対応します。

資料には、怪異が出るとされる道や淵の名がありません。

火を貸せの正体と考えられているもの

火を貸せの正体は確定していません。

記録が伝えるのは、土地の人の見立てとして淵の神の子だったのだろうという一文です。断定を避けた言い方で書かれています。

狐や狸のしわざとは語られていません。 化かされたのでもなく、幼い姿のものに力で及ばなかった、という結末になっています。

幼い子どもの姿と、圧倒的な力という組み合わせは、各地の怪異にしばしば見られます。この話では、その力の出どころとして淵の神が引き合いに出されました。

分かっているのは、おかっぱの童女・火を貸せという一言・力持ちの男の気絶という三つだけです。

火を貸せが記録された資料

火を貸せを扱った小説や映像作品は見当たりません。読めるのは柳田國男の記事と、その出どころである『愛知県伝説集』です。

愛知県伝説集』は戦前に編まれた県単位の伝説集です。同じ形の本が各県にあり、地元の図書館の郷土資料でまとめて置かれていることがあります。

火を貸せが記録された民俗資料

妖怪名彙(五)

柳田國男が『民間伝承』4巻2号(1938年)に載せた中心資料です。

愛知県伝説集

柳田が話の出どころとして挙げている伝説集です。

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火を貸せについてよくある質問

火を貸せとはどんな妖怪ですか。

愛知県北設楽郡の夜道に出るとされた怪異です。おかっぱの童女が「火を貸せ」と言い、打とうとした力持ちの男が気絶したと伝わります。

童女の正体は何ですか。

記録では、淵の神の子だったのだろうと語られています。断定ではなく、土地の人の見立てとして書かれています。

鬼久左とは誰ですか。

話に出てくる力持ちの男の名です。煙管で童女を打ち据えようとして、自分のほうが気絶したと記録されています。

火を渡すとどうなりますか。

書かれていません。記録にあるのは、打とうとした場合の結末だけです。

火を貸せと併せて覚えたい言葉・用語

鬼久左(きくざ)

話に出てくる力持ちの男の名。童女を打とうとして気絶しました。

(ふち)

川の深くよどんだところ。神や主が住むとされ、童女はその神の子と語られました。

愛知県伝説集(あいちけんでんせつしゅう)

柳田國男が「妖怪名彙(五)」で引いた、愛知県の伝説を集めた本です。

火を貸せの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 国際日本文化研究センター「火を貸せ」