沖縄のガジュマルの古木に住む赤い精霊。仲良くなると漁を助けてくれる。
キジムナーとはどんな妖怪か
キジムナーはひとことで言えば、沖縄の木の精霊です。
ガジュマルの古木に住むとされ、体は赤く、髪も赤い子供の姿で語られます。
この妖怪の大きな特徴は、人と親しくなるという点です。気に入った相手の漁について行き、大漁をもたらします。ただしキジムナーが食べるのは魚の左目だけで、残りはすべて人に渡すといいます。
一方で、怒らせると容赦がありません。住む木を切られる、屁をかけられる、蛸を見せられる。こうしたことがあると、家に災いをもたらして去ります。それまでの富が、そっくり消えるという語られ方をします。
夜の海に漁火のような光が動くのは、キジムナーの火だとも言われます。
沖縄では今も、ガジュマルの大木を粗末に扱わない気風が残っています。妖怪への配慮が、木を守る形で働いています。
キジムナーの漢字表記と読み方
読みは「きじむなー」です。仮名書きが一般的です。
語源については、「キー(木)+ムン(者)」=木の者とする説が有力です。沖縄の言葉で「ムン」は「もの」を意味します。
呼び名は地域によって変わります。本島北部では「ブナガヤ」と呼ばれ、大宜味村など北部の市町村ではこの名で親しまれています。
同じ精霊でありながら、地域ごとに名前と性格が少しずつ違う点は、本土の河童とよく似ています。
キジムナー(きじむなー)
もっとも一般的な呼び名。沖縄本島中南部で多く使われる。
キジムン(きじむん)
同じものを指す呼び名。
ブナガヤ(ぶながや)
沖縄本島北部での呼び名。
ハンダンミー(はんだんみー)
地域によって用いられる呼び名。
アカガンター(あかがんたー)
赤い頭を意味する呼び名。
キジムナーの姿と特徴
キジムナーの姿は、次のように語られます。
大きさ … 五、六歳の子供ほど。
体の色 … 赤い。全身が赤いとも、顔だけとも語られる。
髪 … 赤い。もじゃもじゃとして長い。
目 … 大きい。
住まい … ガジュマルの古木の洞。
赤が決定的な特徴です。「アカガンター(赤い頭)」という呼び名があるほどで、赤い髪と赤い体がキジムナーのしるしになっています。
夜の海に見える光も赤いとされ、これをキジムナー火と呼びます。
姿を見た者が語るという点は、本土の妖怪と違うところです。キジムナーは人と付き合う存在なので、顔を合わせた話が数多く伝わります。一緒に漁をした、家に上がった、話をした。
近年は、赤い髪の愛らしい子供として描かれることが多くなっています。
キジムナーの伝承物語
ガジュマルに住む ─ 木と精霊
キジムナーが住むのは、ガジュマルの古木です。
ガジュマルは沖縄でよく見られる木で、幹から気根が垂れ下がり、絡み合って独特の姿になります。古い木は、幹に大きな洞ができることがあります。
あの木にはキジムナーがいる。
土地の人はそう言い、その木を切りません。枝を折ることも、根を傷つけることも避けます。
妖怪への配慮が、そのまま木を守る規範として働いているのです。
沖縄の集落には、ガジュマルの大木が中心に立っていることがよくあります。人が集まり、涼み、話をする場所です。その木に精霊がいるとすることは、木を守ることと直結します。
キジムナーの伝承は、自然への向き合い方を伝える形を持っています。
漁を手伝う ─ 魚の左目だけをもらう
キジムナーの話でもっともよく語られるのが、漁の手伝いです。
キジムナーは気に入った人間を選び、その人の漁について行きます。夜の海へ一緒に出て、魚を追い込む。おかげで舟は魚でいっぱいになります。
そして、キジムナーが取るのは魚の左目だけです。
左目さえもらえれば、あとは全部あなたのものだ。
目だけを抜き取り、残りはすべて人に渡します。
こうして、キジムナーに気に入られた漁師の家は栄えました。座敷童子が家を富ませるのとよく似た構造です。
ただし、この関係はキジムナーの側が選ぶものです。キジムナーの側から選びます。
なぜ左目なのかは、分かっていません。沖縄に魚の目を珍味とする習慣があることと結びつける説明もあります。
怒らせると去る ─ 三つの禁忌
キジムナーが嫌うものは、はっきりしています。
屁 … かけられることを何より嫌う。
蛸 … 見せられると逃げる。
熱い鍋の蓋 … 頭に載せられると怒る。
住む木を傷つけること … 切る、釘を打つ。
とくに木への仕打ちは決定的です。キジムナーの住むガジュマルに釘を打った人が、その後に家をすべて失ったという話が伝わります。
怒ったキジムナーは去ります。そして、それまでもたらしていた富も一緒に去ります。
だから、キジムナーとの付き合いは慎重でなければなりません。 良くしてもらっているあいだは栄え、機嫌を損ねれば元より悪くなる。
親しくなれるからこそ、壊れたときの損失が大きい。これがキジムナーという妖怪の性格です。
沖縄の妖怪の世界 ─ 本土とのつながり
キジムナーは、沖縄の妖怪のなかでもっともよく知られた存在です。
沖縄には、このほかにも数多くの怪異が伝わります。マジムン(魔物の総称)、シチマジムン、アカナー、ヒーヌカン(火の神)など、独自の体系があります。
キジムナーと本土の妖怪を比べると、興味深い重なりが見えます。
河童 … 水辺にいて、人と相撲を取り、詫び証文を書く。
座敷童子 … 家に富をもたらし、去ると没落する。
小人の精霊 … コロポックルなど。
キジムナーは、この三つの性格を併せ持っています。
ただし、直接のつながりを示す資料はありません。似た形の話が別々の場所で生まれたと考えるのが自然でしょう。
沖縄は本土と別の歴史を歩んだ土地であり、妖怪の体系も独自に育ちました。キジムナーはその代表です。
キジムナーの伝承地域
キジムナーには、訪ねられる伝承地を挙げません。
キジムナーはガジュマルの古木に住むとされる精霊であり、沖縄本島や周辺の島々の各地に話が伝わります。ただし「この木にキジムナーがいる」とされる木は集落ごとにあります。どれか一本が代表というわけにはいきません。
また、そうした木の多くは集落の生活の場にあります。いずれも人の暮らす集落のなかにあります。
本島北部ではキジムナーをブナガヤと呼び、地域のしるしとして扱う市町村があります。ただしそれは近年の取り組みであり、伝承地とは別のものです。
確かめられない場所を、あるように書くことはしません。
キジムナーの正体と考えられているもの
キジムナーの正体については、次のように考えられています。
もっとも基本的なのは、木への畏れを形にしたとする見方です。ガジュマルの古木は、気根が絡み合って人の形にも見える異様な姿になります。夜に見れば、そこに何かがいると感じます。 木を切らせないための規範として、この伝承は確実に働いてきました。
海の光とする見方もあります。夜の海に見える光を「キジムナー火」と呼びます。実際には、発光する生物や、遠くの漁火、水面の反射などが考えられます。
人と精霊の関係を語る型として見る見方もあります。キジムナーの話は、親しくなり、恩恵を受け、そして壊れるという筋をたどります。これは座敷童子や河童の詫び証文の話と同じ構造で、人ならぬものとの付き合い方を教える形になっています。
魚の左目については、説明がついていません。魚の目を珍味とする習慣と結びつける説もあります。
キジムナーが何であったかは、わかっていません。ただ、この妖怪が沖縄の木と海の暮らしに密着していたことは確かです。
キジムナーをめぐる妖怪のつながり
キジムナーが登場する作品
キジムナーは、沖縄の妖怪のなかで群を抜いて知られている存在です。人と親しくなるという性格から、児童書や絵本の題材として好まれます。
近年は赤い髪の愛らしい子供として描かれることが多く、恐ろしさよりも親しみが前に出ています。伝承の側では、怒らせたときの恐ろしさも語られていました。
キジムナーが登場する地域の取り組み
ブナガヤの里
沖縄本島北部では、キジムナーをブナガヤと呼び、地域のしるしとして扱う市町村があります。
沖縄の児童書・絵本
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キジムナーについてよくある質問
キジムナーとは何ですか。
沖縄に伝わる木の精霊です。ガジュマルの古木に住むとされ、体も髪も赤い子供の姿で語られます。気に入った人の漁を手伝い、大漁をもたらします。
キジムナーの名前の意味は何ですか。
「キー(木)」と「ムン(者)」、つまり木の者を意味するとする説が有力です。本島北部ではブナガヤと呼ばれます。
キジムナーは魚の何を食べるのですか。
左目だけです。残りはすべて人に渡すとされます。なぜ左目なのかは分かっていません。
キジムナーが嫌うものは何ですか。
屁、蛸、熱い鍋の蓋などが語られます。とくに住んでいるガジュマルを切ったり釘を打ったりすると怒り、家に災いをもたらして去るとされます。
キジムナーに会える場所はありますか。
特定の場所は挙げられません。ガジュマルの古木に住むとされ、そうした木は集落ごとにあります。多くは集落の生活の場にあります。
キジムナーは河童や座敷童子と関係がありますか。
直接のつながりを示す資料はありません。ただし、人と付き合う点は河童に、家に富をもたらす点は座敷童子によく似ています。
キジムナーと併せて覚えたい言葉・用語
ガジュマル(がじゅまる)
沖縄に多い常緑樹。気根が垂れ下がり、古木は大きな洞ができる。キジムナーが住むとされる。
ブナガヤ(ぶながや)
沖縄本島北部でのキジムナーの呼び名。
マジムン(まじむん)
沖縄の言葉で魔物の総称。
キジムナー火(きじむなーび)
夜の海に見える赤い光。キジムナーのしわざとされる。