沖縄と奄美に伝わる悪霊の総称。股をくぐられると死ぬとされる。

マジムンとはどんな妖怪か
マジムンは、股をくぐろうとする悪霊の総称です。
沖縄県や鹿児島県奄美群島に伝わる悪霊、妖怪の総称です。
さまざまなマジムンが伝えられていますが、共通する決まりがあります。
動物の姿をしたマジムンに股をくぐられると死んでしまうことから、決して股をくぐられてはいけないといわれます。
死霊が化けたもの、動物の姿をとるもの、古びた道具が化けたものなど、その顔ぶれは多岐にわたります。
また、奄美群島の一部ではハブのことをマジムンと呼びます。伝承では神の使いであるともされ、マジムンの中では唯一実在する生物です。
マジムンの漢字表記と読み方
読みは「マジムン」です。
「マジ」は魔、「ムン」は物を指す言葉とみられます。つまり「魔の物」がそのまま名になっています。
一体の妖怪の名ではなく、総称である点に注意が必要です。
そのため、それぞれのマジムンには個別の名が付きます。
アカングワーマジムン … 赤ん坊のマジムン。
アフィラーマジムン … アヒルのマジムン。
ウワーグワーマジムン … ブタのマジムン。
ミシゲーマジムン … しゃもじのマジムン。
ナビゲーマジムン … 杓子のマジムン。
それぞれの名の前半が、何が化けたものかを示しています。
奄美群島の喜界島では「シチ」、沖縄では「ヒチ」と呼ばれるものもあり、これらは同一視されることがあります。
マジムン(まじむん)
もっとも一般的な書き方。
アカングワーマジムン(あかんぐわーまじむん)
赤ん坊の死霊のマジムン。
龕の精(がんのせい)
葬具が化けたマジムンの呼び方。
マジムンの姿と特徴
マジムンの姿は、何が化けたかによって変わります。
アカングワーマジムン … 赤ん坊の死霊。四つんばいで人間の股をくぐろうとする。
アフィラーマジムン … アヒルの姿。片脚のないアヒルの姿であり、重病人の生霊が化けたものともいう。
牛マジムン … 真っ黒な牛のようなもの。棺桶を担ぐ葬具が牛に化けたものともいう。
ウワーグワーマジムン … ブタの姿。夜道などに現れる。
龕のマジムン … 葬具が化けたもの。牛や馬に化けて人を襲う。
ヒチマジムン … 幽霊の一種。道の辻にいて人を迷わせる。
ミシゲーマジムン … しゃもじが古びて化けたもの。
動物の姿をしたマジムンに共通するのは、股をくぐろうとするという行いです。
姿はさまざまですが、やってくることは一つです。
奄美大島には、目や耳など体の一部が欠損したブタの妖怪が伝わります。カタキラウワ(片耳豚)、ミンキラウワ(耳無豚)、ムィティチゴロ(片目豚)です。
ただし、沖縄のウワーグワーマジムンには、そのような身体上の特徴は見られません。
マジムンの伝承物語
股をくぐられてはいけない
マジムンについて、まず知るべき決まりがあります。
動物の姿をしたマジムンに股をくぐられると死んでしまうことから、決して股をくぐられてはいけないといわれます。
なぜ股なのか。はっきりした説明は伝わっていません。
しかし、この決まりは徹底しています。
アカングワーマジムンは赤ん坊の死霊で、四つんばいで人間の股をくぐろうとします。動物のマジムンと同じく、股をくぐられると死んでしまうといわれます。
アフィラーマジムンの話も伝わっています。
ある農民が夜中にアフィラーマジムンに出遭い、マジムンがしきりに股をくぐろうとするので石を投げつけたところ、無数のホタルとなって農民の周りを飛び回り、ニワトリの声とともに消え去ったといいます。
読谷高校の谷底に出た
沖縄県立読谷高等学校では、かつて運動場の前が谷底のようになっており、そこにアフィラーマジムンが現れたといいます。
アフィラーマジムンは片脚のないアヒルの姿であり、重病人の生霊が化けたものともいわれます。
牛マジムンの話も残ります。
ある空手家が牛マジムンと闘い、激闘の末に角を折って組み伏せましたが、空手家も疲労のあまり気絶してしまいました。翌朝に気づくと、その角は龕の飾り物に変わっていたといいます。
沖縄県読谷村では真っ黒な牛のようなものといい、島尻郡では龕が牛に化けたものといわれます。
葬具が化ける ─ 龕のマジムン
沖縄のマジムンのなかで、独特なのが龕にまつわるものです。
龕とは、棺桶を担ぐ葬具のことです。
これが化けたものが「龕のマジムン」、または「龕の精」と呼ばれます。
国頭郡今帰仁村運天のブンブン坂という場所で、これが牛や馬に化けて人を襲うといわれました。
宮古島では龕は赤く塗られており、それが赤い馬に化けて出たこともあるといいます。
さらに、不吉なしるしとしての話もあります。
人が死に瀕している家の前では龕の精が歩き回り、人の足音や荷物を担ぐようなギーギーという音が聞こえるというのです。
葬具の音が死を先に知らせる
死が近いことを、葬具の音が先に知らせる。
葬具が化けるという発想は、この土地の弔いの形と深く結び付いています。
古くなった食器などが化けるという伝えもあります。
ミシゲーマジムンはしゃもじのマジムン、ナビゲーマジムンは杓子のマジムンです。
古くなった道具が化けるという考え方は、本土の付喪神と共通します。
ただし沖縄では、それが「マジムン」という悪霊の枠に入れられている点が違います。
辻に立つヒチマジムン
ヒチマジムンは、幽霊の一種です。単に「ヒチ」ともいいます。
道の辻にいて、人を迷わせます。
風のように山川を駆け、二十里、三十里も離れた場所に捨てられた者もいるといいます。
さらに、奇妙な問いを仕掛けてきます。
人に赤飯と白飯のどちらかを選ばせるというのです。
赤飯を選べば赤土を食わせ、白飯を選べば海の波しぶきを食わせるといいます。
どちらを選んでも、まともなものは口に入りません。
避ける方法も伝わっています。
夜道を歩くときに櫛をさしたり篩を持っていたりするとヒチに連れられるといい、男ならふんどしを鉢巻として、女なら腰巻を頭にかぶればヒチの害を避けられるといいます。
喜界島のシチという黒い円柱
奄美群島の喜界島での昔話『二十三夜』では「シチ」といって、難産で死んだ女が天地を繋ぐ黒い円柱のような霊になるといい、これがヒチと同一視されていることもあります。
辻に現れるという点は、本土の怪異とも共通します。
道が交わる場所は境目であり、そこに何かがいるという考え方は、日本の各地に見られます。
なお、沖縄では辻や三叉路に「石敢當」という石が置かれます。まっすぐにしか進めないマジムンが家に入らないよう、そこで跳ね返すためのものです。
マジムンの伝承地域
マジムンの伝承地は、沖縄県と鹿児島県奄美群島です。
種類ごとに現れる場所が語られます。
アフィラーマジムン … 沖縄県立読谷高等学校の運動場の前。
牛マジムン … 沖縄県読谷村、島尻郡。
龕のマジムン … 国頭郡今帰仁村運天のブンブン坂、宮古島。
ヒチマジムン … 道の辻。
シチ … 奄美群島の喜界島。
総称であるため、伝わる範囲は島々の全体に及びます。
沖縄の辻や三叉路に置かれる「石敢當」は、まっすぐにしか進めないマジムンを跳ね返すためのものとされます。
ブンブン坂(ぶんぶんざか)
龕のマジムンが出るとされる坂
ブンブン坂の所在地:沖縄県国頭郡今帰仁村運天
龕、つまり棺桶を担ぐ葬具が化けたマジムンが出るとされる場所です。
ここでは龕のマジムンが牛や馬に化けて人を襲うといわれました。
坂という地形は、日本各地で怪異の現れる場所とされます。
沖縄では葬具そのものが化けるという形をとる点が特徴です。
坂の位置を詳しく示すものは確かめられませんでした。
マジムンの正体と考えられているもの
マジムンの正体については、次のように考えられています。
死霊とする見方があります。アカングワーマジムンは赤ん坊の死霊、ヒチマジムンは幽霊の一種とされます。
生霊とする見方もあります。アフィラーマジムンは片脚のないアヒルの姿で、重病人の生霊が化けたものともいわれます。
葬具が化けたものとする見方は、沖縄独特のものです。龕が牛や馬に化け、人が死に瀕している家の前を歩き回るとされます。 空手家が組み伏せた牛マジムンの角が、翌朝には龕の飾り物に変わっていたという話もあります。
古びた道具が化けたものとする見方もあります。ミシゲーマジムンやナビゲーマジムンがこれにあたり、本土の付喪神と共通する考え方です。
実在の生き物とする例もあります。 奄美群島の一部ではハブのことをマジムンと呼び、神の使いであるともされます。マジムンの中では唯一実在する生物です。
総称であることが、この語のいちばんの特徴です。 一体の妖怪ではなく、恐ろしいものをまとめて呼ぶ言い方です。
マジムンをめぐる妖怪のつながり
マジムンが登場する作品
マジムンは、総称であるために作品での扱いが難しい存在です。
一体の妖怪ではないため、姿を一つに決めることができません。
そのかわり、「股をくぐられると死ぬ」という決まりは強い印象を残します。
沖縄の辻に置かれる石敢當は、いまも街のあちこちで見ることができます。マジムンへの備えが、日々の風景のなかに残っている例です。
マジムンが登場する書物
琉球妖怪変化種目
金城朝永による論考。沖縄の妖怪を整理して紹介しています。
山原の土俗
島袋源七の著。沖縄本島北部の伝承を記録しています。
マジムンが登場するそのほか
石敢當
沖縄の辻や三叉路に置かれる石。マジムンを跳ね返すためのものとされます。
マジムンが登場する漫画・アニメ
沖縄の妖怪を扱う各種の作品
キジムナーと並ぶ島の怪異として登場します。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
マジムンについてよくある質問
マジムンとは何ですか。
沖縄県や鹿児島県奄美群島に伝わる悪霊、妖怪の総称です。一体の妖怪の名ではなく、さまざまなマジムンが伝えられています。
なぜ股をくぐられてはいけないのですか。
動物の姿をしたマジムンに股をくぐられると死んでしまうといわれるためです。なぜ股なのかについての説明は伝わっていません。
どんな種類がありますか。
赤ん坊の死霊のアカングワーマジムン、アヒルの姿のアフィラーマジムン、真っ黒な牛のような牛マジムン、ブタの姿のウワーグワーマジムン、道の辻で人を迷わせるヒチマジムン、しゃもじが化けたミシゲーマジムンなどです。
龕のマジムンとは何ですか。
棺桶を担ぐ葬具である龕が化けたマジムンです。「龕の精」ともいい、牛や馬に化けて人を襲うといわれます。人が死に瀕している家の前では龕の精が歩き回り、足音や荷物を担ぐようなギーギーという音が聞こえるともいいます。
実在するものもあるのですか。
奄美群島の一部ではハブのことをマジムンと呼びます。伝承では神の使いであるともされ、マジムンの中では唯一実在する生物です。
マジムンと併せて覚えたい言葉・用語
龕(がん)
棺桶を担ぐ葬具。これが化けたものが龕のマジムンとされる。
石敢當(いしがんとう)
沖縄の辻や三叉路に置かれる石。マジムンを跳ね返すためのものとされる。
ヒチマジムン(ひちまじむん)
幽霊の一種。道の辻にいて人を迷わせ、遠くへ運び去るという。
毛遊び(もうあしび)
夜の野で三線などを弾きながら男女が遊ぶこと。飛び入りの正体を確かめる囃子があった。