本文へ移動

全国に伝わるもの

雪女(ゆきおんな)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

雪女  / ユキオンナ

人型の妖怪水の妖怪 怪談・百物語

吹雪の夜に現れる白い着物の女。人の息を奪い、また人と暮らしもする。

雪女の姿を描いた図

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 雪女」 1776年 / パブリックドメイン 出典

雪女とはどんな妖怪か

雪女はひとことで言えば、雪の夜に現れる女の妖怪です。

白い着物をまとい、肌は透けるように白く、足跡を残さないと語られます。

性格は土地によってまったく違います。人の命を奪うものもあれば、ただ通り過ぎるだけのものもある。呼び名も雪女郎・雪坊・雪ばんば・雪降り婆など、土地ごとに変わります。

古い記録では、越後の雪の夜に女が現れて赤子を抱いてくれと頼み、受け取ると次第に重くなる、といった話が伝わります。牛鬼濡女の組の話とよく似た型です。

今日いちばん知られているのは、小泉八雲が『怪談』に収めた話でしょう。吹雪の小屋で老いた木こりが凍え死に、若い巳之吉は「このことを誰かに話せば命はない」と告げられて助けられます。のちに妻となったお雪こそがその雪女であり、秘密を口にした瞬間、妻は消えます。

この型が、雪女を別れの物語の主人公に変えました。

雪女の漢字表記と読み方

読みは「ゆきおんな」です。

呼び名は土地によって大きく変わります。雪女郎は東北・北陸、雪ばんばは老女の姿とする土地、雪坊は子供の姿とする土地の呼び名です。

姿は土地ごとに違います。 若い美女とする土地、老女とする土地、子供とする土地。青森の雪ばんばは老婆、越後の雪ん坊は子供の姿です。

雪女房」という呼び名は、人と結婚する型の話に用いられます。小泉八雲の『怪談』の雪女は、この型に属します。

雪女(ゆきおんな)

もっとも一般的な表記。

雪女郎(ゆきじょろう)

東北・北陸での呼び名。

雪坊(ゆきんぼ)

子供の姿とする土地での呼び名。

雪婆(ゆきばんば)

老女の姿とする土地での呼び名。

雪女房(ゆきにょうぼう)

人と暮らす型の話での呼び名。

雪女の姿と特徴

雪女の姿は、次のように語られます。

着物 … 白。単衣とされることが多い。
… 透けるように白い。血の気がない。
… 長い黒髪。白髪とする土地もある。
… 足跡を残さない。あるいは片足だけとする土地もある。
年齢 … 若い女とする土地が多いが、老女・子供とする土地もある。

足跡を残さないという特徴は、雪女らしさをよく表しています。雪の上には必ず足跡が残るはずなのに、それが無い

冷たさの描写も重要です。近づくと息が白く凍る、触れると凍りつく、息を吹きかけられて凍え死ぬ。

小泉八雲の話では、雪女は息を吹きかけて老木こりの命を奪います。刃物も爪も使いません。寒さそのものが、この妖怪の武器です。

消え方も特徴的です。雪女は霧のように、あるいは白い煙のように消えると語られます。

雪女の伝承物語

  1. 雪国の伝承 ─ 土地ごとの雪女
  2. 赤子を抱かせる ─ 古い型の話
  3. 小泉八雲の雪女 ─ 別れの物語へ
  4. お雪という妻 ─ 十人の子を産んで消える
  5. 八雲の雪女はどこから来たか

雪国の伝承 ─ 土地ごとの雪女

雪女の伝承は、雪の降る地域全体に分布します。

東北 … 雪女郎。子供を抱かせる話、家に入れてくれと頼む話。
北陸 … 雪女。吹雪の夜に戸を叩く。
信越 … 雪ばんば。老女の姿で現れる。
山陰 … 雪女。海辺にも現れる。

古い記録では、室町時代の連歌の書に雪女郎の語が見えるとされます。江戸時代の『宗祇諸国物語』には、越後で雪の夜に美しい女に出会った話が記されます。

共通するのは、吹雪の夜に現れるという一点です。

吹雪の夜には外へ出るな。

この戒めが、雪女という妖怪の中心にあります。 実際、吹雪の夜に外へ出ることは命に関わります。雪女は、冬の危険を人の形にしたものという面を強く持っています。

赤子を抱かせる ─ 古い型の話

古い雪女の話には、赤子を抱かせる型があります。

吹雪の夜、女が赤子を抱いて立っている。少しのあいだ抱いてくれと頼む。受け取ると、赤子はみるみる重くなり、抱いた者は雪に埋もれて死ぬ。

この型は、牛鬼と濡女の組の話とほとんど同じです。海と雪で舞台が違うだけで、筋はまったく共通しています。

助かる方法も語られます。刀を抜く、真言を唱える、重くなる前に返す。

また、助けた者が褒美をもらうという話もあります。赤子を最後まで抱き通した者に、雪女が力や富を与えるというものです。

恐ろしい試練として現れる。 これが古い型の雪女です。小泉八雲の話に見られるような、夫婦になる筋はここにはありません。

小泉八雲の雪女 ─ 別れの物語へ

現在もっとも知られた雪女の話は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』に収めたものです。

吹雪の夜、老いた木こり茂作と若い巳之吉が渡し守の小屋に閉じ込められます。夜中、巳之吉が目を覚ますと、白い着物の女が茂作に息を吹きかけていました。茂作は凍え死にます。

女は巳之吉に向き直り、微笑んでささやきます。田部隆次の訳ではこうです。

私は今ひとりの人のように、あなたをしようかと思った。しかし、あなたを気の毒だと思わずにはいられない、――あなたは若いのだから。……あなたは美少年ね、巳之吉さん、もう私はあなたを害しはしません。しかし、もしあなたが今夜見た事を誰かに――あなたの母さんにでも――云ったら、私に分ります、そして私、あなたを殺します。……覚えていらっしゃい、私の云う事を

巳之吉は生き延びました。老人だけが小屋で凍って死にます。

お雪という妻 ─ 十人の子を産んで消える

翌年の冬、巳之吉はお雪という娘と道連れになります。江戸へ奉公に出るところだという娘は、そのまま巳之吉の家にとどまり、妻になりました。

子が十人生まれました。お雪は年を取らず、村では不思議がられます。

ある夜、行灯の下で針仕事をする妻の白い顔を見て、巳之吉はあの晩のことを話してしまいます。お雪は針を投げ捨てて叫びました。

それは私、私、私でした。……そしてその時あなたが、その事を一言でも云ったら、私はあなたを殺すと云いました。

それでも、お雪は手を下しませんでした。眠っている子供たちのためです。白い霧となって、煙出しから消えていきます。

約束を破った側が生き残り、守らせた側が去る。 雪女は、ここで人を殺す妖怪から、去っていく妻に変わりました。

八雲の雪女はどこから来たか

小泉八雲の『雪女』については、注意すべき点があります。

八雲自身は、武蔵国のある村の農民から聞いた話として紹介しています。しかし、この話とまったく同じ形の伝承が他に記録されていないため、八雲の創作が加わっているのではないかという指摘があります。

実際、

約束を破ると去る妻 … 鶴の恩返しなどの型。
異類との結婚 … 蛇女房、狐女房などの型。
冬の怪異としての雪女 … 雪国の伝承。

この三つを組み合わせた形になっています。日本の昔話の型を、雪女という枠に流し込んだといえます。

継ぎ合わせであることが、この作品の弱みにはなりませんでした。八雲の『雪女』は、雪女という妖怪の性格を決定的に変えました。

恐ろしい雪の怪から、愛して別れる相手へ。今日の作品に描かれる雪女は、ほぼすべてこの型を受け継いでいます。

雪女の伝承地域

雪女は雪国の全域で語られます。東北・北陸を中心に、埼玉県や栃木県にも「雪女郎」「雪女房」の郷土資料が残ります。

八雲の「雪女」の舞台は、序文の「武蔵国・調布村」という記述から、東京都青梅市の調布橋周辺とする説があります。橋のたもとには雪女の像が立っています。語り継がれてきた土地と、作品の舞台とされる土地は別のものです。

青梅市千ヶ瀬町・調布橋周辺

地図で開く

青梅市千ヶ瀬町・調布橋周辺の所在地:東京都青梅市千ヶ瀬町5丁目周辺

青梅市は、小泉八雲『怪談』の「雪女」の舞台とする説がある地域として調布橋周辺を案内しています。伝承の舞台を確定した史跡ではなく、地域で受け継がれている一つの説として訪ねる場所です。

雪女の正体と考えられているもの

雪女の正体は、話の型ごとに違います。

一つめは、凍死の記憶です。吹雪の晩に外へ出て戻らなかった人。息を吹きかけて凍らせるという語り口は、低体温で死ぬ姿をそのまま写しています。

二つめは、山の神の零落です。雪ばんば、雪降り婆といった老女の呼び名は、冬の山を司る女神の名残と見られます。子を抱かせる話が産神の型と重なるのも同じ筋です。

三つめは、異類婚姻譚です。人ならぬものが妻になり、禁を破られて去る。鶴女房・蛇女房と同じ形で、八雲の「雪女」はここに属します。

凍死・山の神・異類の妻。 三つの別々の話が「雪女」という一つの名に集まりました。地域ごとの口承と、八雲が世界に広めた文学の雪女は、別の系統として並んでいます。

雪女をめぐる妖怪のつながり

雪女が登場する作品

雪女は、創作の側でもっとも姿を保った妖怪です。白い着物、長い黒髪、冷たい美貌。この像は八雲の一篇が作り、映画・漫画・ゲームがそのまま受け継ぎました。

一方、土地の語りに残る雪女は、老婆であったり子供であったり、ただ吹雪の晩に通り過ぎるだけであったりします。画面で見る雪女と、雪国で語られてきた雪女は、別の顔をしています。

雪女が登場する文学

怪談(小泉八雲)

1904年刊の作品集。武蔵国の農民から聞いたと記された「雪女」を収め、巳之吉とお雪の約束と別れを描きます。

Amazonで本・漫画を探す

雪女が登場する映画

怪談(映画)

小泉八雲の怪談を原作とする1964年の映画。「雪女」は四つの物語の一篇として映像化されています。

AmazonでDVD・Blu-rayを探す

雪女の本を探す

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

雪女についてよくある質問

雪女とはどんな妖怪ですか。

雪の夜に現れる女の妖怪です。白い着物をまとい、足跡を残さないとされます。人の命を奪う話と、人と暮らす話の両方が伝わります。

雪女はどこに伝わっていますか。

東北・北陸・信越を中心とした雪国の全域です。雪女郎、雪ばんば、雪坊など、土地によって呼び名が変わります。

小泉八雲の「雪女」は伝承ですか。

八雲は武蔵国の村で聞いた話としていますが、同じ形の伝承が他に記録されていないため、創作が加わっているという指摘があります。今日知られる雪女の像は、ほぼこの話に由来します。

雪女はいつも若い女の姿ですか。

いいえ。土地によっては老女の姿(雪ばんば)や子供の姿(雪坊)で語られます。若い美女という姿は、小泉八雲の作品を通じて定着したものです。

雪女に会える場所はありますか。

ありません。特定の場所に結びつく妖怪ではなく、塚も祠も祀る社もありません。

雪女の正体は何ですか。

吹雪の夜の危険を人の形にしたものとする見方が基本です。低体温症による幻覚とする説、雪の神が零落したとする説もあります。

雪女と併せて覚えたい言葉・用語

小泉八雲(こいずみやくも)

明治期に日本に帰化した作家。『怪談』で雪女の話を紹介した。

雪女郎(ゆきじょろう)

東北・北陸での雪女の呼び名。

異類婚姻譚(いるいこんいんたん)

人と人ならぬものが結婚する型の話。雪女、鶴の恩返しなどが属する。

雪女の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 国立国会図書館レファレンス協同データベース「小泉八雲『雪おんな』の原拠」
  2. 国立国会図書館レファレンス協同データベース「埼玉県の雪女郎」
  3. 国立国会図書館レファレンス協同データベース「栃木県の雪女伝説」
  4. CiNii Research「小泉八雲『雪女』の特殊性」
  5. 青梅市「青梅の妖怪と伝説ガイドブック」
  6. 青空文庫 小泉八雲「雪女」(田部隆次訳)