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狸囃子とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

狸囃子  / タヌキバヤシ

そのほか狐と狸 各地の伝説

深夜にどこからともなく囃子の音が聞こえる怪異。本所七不思議の一つ。

狸囃子の姿を描いた図

三代歌川国輝 「本所七不思議之内 狸囃子」 1886年 / パブリックドメイン 出典

狸囃子とはどんな妖怪か

狸囃子はひとことで言えば、追いつけない音です。

深夜になると、どこからともなく笛や太鼓の囃子が聞こえてきます。江戸時代の本所(いまの東京都墨田区)では馬鹿囃子とも呼ばれ、本所七不思議の一つに数えられました。

音のする方へ歩いても、音は逃げるように遠ざかり、主は決して分かりません。

追ううちに夜が明け、見たこともない場所に立っていることに気づくといいます。

姿を持たない妖怪であり、音だけがあるという点が、ほかの妖怪と大きく違います。

狸囃子の漢字表記と読み方

読みは「たぬきばやし」です。本所では「ばかばやし」と呼ばれました。

「馬鹿」は罵る言葉ではなく、正体が知れず追いかけても無駄だという意味合いで使われたとみられます。

「囃子」は祭りで笛や太鼓を鳴らすことです。祭りの音が祭りの外で鳴るという不自然さが、この怪異の芯にあります。

狸囃子(たぬきばやし)

もっとも一般的な表記。

馬鹿囃子(ばかばやし)

江戸時代の本所での呼び名。

證城寺の狸囃子(しょうじょうじのたぬきばやし)

千葉県木更津市の伝説。童謡の題材になった。

狸囃子の姿と特徴

狸囃子には姿がありません。あるのは音だけです。

… 笛、太鼓などの囃子。
時刻 … 深夜。
振る舞い … 近づくと遠ざかる。決して追いつけない。
結果 … 追ううちに夜が明け、知らない場所に立っている。

姿を持たない妖怪であることが、この怪異の最大の特徴です。

名にタヌキとありますが、タヌキの姿を見たという話は伝わっていません。音の聞こえたあたりでタヌキの捜索が行われたこともありましたが、いた形跡は発見できませんでした。

歌川国輝の浮世絵など、本所七不思議を描いた絵では、音の主としてタヌキが描かれることがあります。ただしこれは絵にするために描き足されたものです。

狸囃子の伝承物語

  1. 藩主が探させても分からなかった
  2. 本所七不思議のなかで
  3. 木更津の證誠寺 ─ もう一つの狸囃子
  4. 汽笛まで真似される ─ 音の怪異が生まれる仕組み

藩主が探させても分からなかった

狸囃子には、身元のはっきりした目撃者がいます。

平戸藩主・松浦清です。

松浦清もこの怪異に遭い、人に命じて音の所在を捜させました。しかし割下水付近で音は消え、所在を捜すことはできませんでした。

名のとおりタヌキの仕業ともいわれ、音の聞こえたあたりでタヌキの捜索が行われたこともありました。しかしタヌキのいた形跡は発見できませんでした。

大名が人手を出して探しても分からなかった、という点がこの話の骨です。

音は確かに聞こえている。しかし出所がない。 気のせいで片づけられない証言が残っていることが、この怪異を七不思議の一つに押し上げました。

本所七不思議のなかで

狸囃子は本所七不思議の一つです。

本所七不思議は、江戸時代の本所(いまの東京都墨田区)を舞台とした奇談・怪談の集まりで、置行堀送り提灯燈無蕎麦片葉の葦足洗邸などが数えられます。

このうち狸囃子は、音だけで成り立つ数少ない一つです。

置行堀は声、送り提灯は光、足洗邸は姿。七不思議はそれぞれ違う感覚に訴えます。

本所という土地の性格も関わっています。当時の本所は、市街地でありながら割下水が縦横に走り、周辺には田畑も残っていました。夜は暗く、音が遠くまで届きます。

七不思議がこの土地に集まったのは偶然ではありません。江戸の中心に近く、しかし夜になると別の顔を見せる場所だったからです。

木更津の證誠寺 ─ もう一つの狸囃子

狸囃子は本所だけのものではありません。

千葉県木更津市の證誠寺にも狸囃子の伝説があります。

こちらは『分福茶釜』『八百八狸物語』と並んで「日本三大狸伝説」の一つに数えられます。

童謡「証城寺の狸囃子」の題材になったことで、こちらのほうが広く知られています。

同じ「狸囃子」の名でありながら、本所のものは追いつけない音の怪異、木更津のものはタヌキが実際に囃子を打つ話であり、中身が違います。

名前が同じために混同されがちですが、別のものとして扱うのが正確です。

なお、日本各地に「深夜に囃子が聞こえる」という同じ形の怪異が伝わっています。狸囃子は特定の一体を指す名ではなく、この形の怪異全体の呼び名でもあります。

汽笛まで真似される ─ 音の怪異が生まれる仕組み

柳田国男は、狸囃子と同じ形の怪異を各地から集めました。

東京あたりの町中でも深夜の太鼓馬鹿囃子、或いは広島などでいうバタバタの怪、始めて鉄道の通じた土地で、汽笛汽鑵車の響を狐狸が真似するというの類

(汽鑵車=きかんしゃ)

汽車が通った土地では、狐狸が汽笛を真似すると言われました。 音の怪異は、新しい音が来るたびに作り直されています。

柳田はその仕組みにも触れました。

およそ異常に強烈な印象を与えたものが、時過ぎて再びまぼろしに浮ぶ例は、じつは他にも数限りがない

強く耳に残った音が、あとから独りでに鳴りだす。 太鼓の音を狸のせいにするか、記憶のせいにするか。違いはそこだけです。

狸囃子の伝承地域

狸囃子の伝承地は、東京都墨田区の本所です。本所七不思議の一つとして語られました。

音を探させて消えたのは割下水の付近です。当時の小梅や寺島のあたりは農村地帯でした。

千葉県木更津市の證誠寺にも同じ名の伝説がありますが、こちらは中身が違います。

なお、深夜に囃子が聞こえるという同じ形の怪異は日本各地に伝わります。

本所(墨田区)(ほんじょ(すみだく))

狸囃子が聞こえたとされる土地

地図で開く

本所(墨田区)の所在地:東京都墨田区 両国・亀沢・石原一帯

江戸時代の本所です。本所七不思議の舞台にあたります。

平戸藩主・松浦清が音を探させたのは割下水の付近でした。割下水は本所を東西に走っていた排水路で、いまは埋め立てられて道路になっています。

当時の小梅や寺島のあたりは農村地帯でした。 現在は市街地です。

両国駅や錦糸町駅から歩ける範囲に、七不思議ゆかりの地が点在します。

割下水はすでに埋め立てられており、当時の水路そのものを見ることはできません。

狸囃子の正体と考えられているもの

狸囃子の正体については、次のように考えられています。

祭りの囃子の稽古とする見方が、もっともよく挙げられます。墨田区の小梅や寺島のあたりは当時は農村地帯であり、収穫祝いの秋祭りの囃子の稽古の音が風に乗り、いくつも重なって奇妙な調子や音色になったのではないか、というものです。

柳橋付近の三味線や太鼓とする見方もあります。風の加減で遠くまで聞こえたものが、出所の分からない音として受け取られたというものです。

どちらの説明も、音が近づくと遠ざかるように感じられる理由を無理なく説明します。風向きが変われば、音の来る方向は変わります。

タヌキの仕業とする見方は、名の由来ではありますが、裏づけはありません。音の聞こえたあたりでタヌキの捜索が行われたこともありましたが、いた形跡は発見できませんでした。

なぜタヌキの名がついたのかは、はっきりしていません。タヌキが腹を叩いて音を出すという言い伝えが各地にあり、それと結びついたものとみられます。

狸囃子をめぐる妖怪のつながり

狸囃子が登場する作品

狸囃子は、童謡を通じて知られている怪異です。

ただし広く歌われているのは千葉県木更津市の證誠寺の伝説であり、本所七不思議としての狸囃子とは中身が違います。

姿を持たないため、絵や映像では扱いにくく、作品での登場は多くありません。

狸囃子が登場する音楽

童謡「証城寺の狸囃子」

千葉県木更津市の證誠寺の伝説を題材にした童謡です。

狸囃子が登場する浮世絵

本所七不思議を描いた諸作

音の主としてタヌキが描かれることがあります。

狸囃子が登場するゲーム

日本の妖怪を扱う各種のゲーム

化け狸の系統として実装されることがあります。

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狸囃子についてよくある質問

狸囃子とは何ですか。

深夜にどこからともなく笛や太鼓の囃子が聞こえる怪異です。音のする方へ行っても遠ざかり、追いつけません。本所七不思議の一つに数えられます。

狸囃子はどこで聞こえますか。

東京都墨田区の本所です。平戸藩主・松浦清が音を探させたのは割下水の付近でした。千葉県木更津市の證誠寺にも同じ名の別の伝説があります。

正体はタヌキなのですか。

裏づけはありません。音の聞こえたあたりでタヌキの捜索が行われたこともありましたが、いた形跡は発見できませんでした。秋祭りの囃子の稽古とする見方が有力です。

證城寺の狸囃子と同じですか。

違います。本所のものは追いつけない音の怪異、木更津のものはタヌキが実際に囃子を打つ話です。名が同じため混同されがちです。

狸囃子と併せて覚えたい言葉・用語

馬鹿囃子(ばかばやし)

江戸時代の本所での狸囃子の呼び名。

割下水(わりげすい)

本所を走っていた排水路。松浦清が音を探させて消えた場所。いまは埋め立てられている。

日本三大狸伝説(にほんさんだいたぬきでんせつ)

證城寺の狸囃子・分福茶釜・八百八狸物語の三つ。

狸囃子の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男『山の人生』