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全国に伝わるもの

釣瓶火(つるべび)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

釣瓶火  / ツルベビ

火の妖怪 怪談・百物語鳥山石燕の絵

木の枝からぶら下がる火の玉。火の中に人や獣の顔が浮かぶという。

釣瓶火の姿を描いた図

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 釣瓶火」 1776年 / パブリックドメイン 出典

釣瓶火とはどんな妖怪か

釣瓶火は、木の枝からぶら下がる火の玉です。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』(1776年)にあります。

釣瓶とは、井戸から水を汲むための桶です。縄で吊るし、上げ下げします。

つまり釣瓶火とは、釣瓶のように上下する火のことです。

石燕の絵では、崖から張り出した松の枝から、細い蔓が何本も垂れています。そのうちの一本の先に、炎の塊がぶら下がっています。

解説文は一切ありません。

昭和以降の本では、静かな夜の山道を歩いていると、木の枝から突然ぶら下がるとされます。

そして、毬のように上がったり下がったりを繰り返すといいます。

火といっても、木に燃え移ることはありません。

釣瓶火の漢字表記と読み方

読みは「つるべび」です。

釣瓶は、井戸から水を汲む桶のことです。縄や竿で吊るし、上げ下げして使います

釣瓶落とし」といえば、秋の日が急に暮れることのたとえです。 井戸に釣瓶を落とすように、すとんと落ちる。

釣瓶火は、その動きを火に当てた名です。

木の枝から、すとんと下がる。そしてまた上がる。

別名として「つるべおとし」「つるべおろし」も挙げられます。

釣瓶落としという妖怪も、木の上から落ちてくるものです。名も動きもよく似ています。

混同されることの多い二つです。

釣瓶火(つるべび)

鳥山石燕『画図百鬼夜行』での表記。

つるべおとし(つるべおとし)

高田衛監修『鳥山石燕 画図百鬼夜行』が挙げる別名。

つるべおろし(つるべおろし)

同じく別名として挙げられる。

釣瓶おろし(つるべおろし)

『古今百物語評判』の「西岡の釣瓶おろし」での表記。

釣瓶火の姿と特徴

石燕の描く釣瓶火は、次のような姿です。

… 炎の塊。渦を巻いている。
吊るされ方 … 細い蔓の先に下がる。
… 松。崖から横に張り出している。
… 何本も垂れている。火がついているのは一本だけ。
背景 … 岩壁。

顔はありません。 火だけです。

垂れている蔓が何本もあり、そのうち一本の先だけが燃えている。 この描き方が巧みです。

どれが燃えてもおかしくないという感じが出ます。

石燕の火の妖怪には、顔のあるものが多くあります。ふらり火にも姥ヶ火にも顔があります。

釣瓶火には、ありません。

ただし昭和以降の説明では、火の中に人や獣の顔が浮かび上がることもあるとされます。

釣瓶火の伝承物語

  1. 西岡の釣瓶おろし
  2. 毬のように上下する
  3. 菌類とバクテリア
  4. 釣瓶落としと分かれる

西岡の釣瓶おろし

釣瓶火に、石燕の解説文はありません。しかし、原典とされるものがあります。

江戸時代の怪談本『古今百物語評判』(1686年刊)です。

そこに「西岡の釣瓶おろし」という一段があります。京都西院の火の玉の妖怪を扱ったものです。

国文学者・高田衛監修の『鳥山石燕 画図百鬼夜行』(国書刊行会)は、これが釣瓶火の原典であるとしています

石燕は、これを描いたうえで「釣瓶火」と名づけたと解されます。

『古今百物語評判』は、石燕が下敷きにした本のひとつです。

垢嘗の原型とされる「垢ねぶり」も、同じ本にあります。

石燕は、この怪談本を繰り返し使いました。

毬のように上下する

昭和・平成の本では、釣瓶火の性質が具体的に書かれます。

四国・九州地方で、木の精霊が青白い火の玉となってぶら下がったもの。

あるいは、静かな夜の山道を歩いていると、木の枝から突然ぶら下がり、毬のように上がったり下がったりを繰り返すもの。

上下運動が、この妖怪の特徴です。

そして、火でありながら木に燃え移ることはありません

さらに、火の中に人や獣の顔が浮かび上がることもあるといいます。

顔が出るのは、後からの説明です。 石燕の絵に顔はありません。

夜の山道で、頭の上から火が下りてくる。逃げ場は、前か後ろしかありません。

菌類とバクテリア

釣瓶火には、合理的な説明も示されています。

樹木についた菌類による生物発光。
腐葉土に育ったバクテリアによる発光。

どちらも、実際に起こる現象です。

朽ちかけた木や落ち葉には、光を出す菌がつくことがあります。ヤコウタケなどがその例です。

暗い森のなかで、それは確かに青白く光ります。

そして、風で枝が揺れれば、光も上下します。

四国・九州で「木の精霊が火の玉になった」と語られたことも、この説明と合います。

木そのものが光っているのですから。

火が木に燃え移らないのも、当然ということになります。

釣瓶落としと分かれる

釣瓶火には、よく似た妖怪があります。釣瓶落としです。

木の上から、すとんと落ちてくるものです。

昭和・平成の文献では、釣瓶火は釣瓶落としに類する怪火、または釣瓶落としとは別種の妖怪として扱われることがほとんどです

扱いが定まっていません。

名も動きも近く、どちらも木の上から下りてきます。

違いを挙げるとすれば、こうなります。

釣瓶落としは、落ちてくる。
釣瓶火は、下がって、また上がる。

落ちきるか、戻るか。その一点で分けられます。

石燕の絵では、火は蔓の先に吊るされたままです。落ちてはいません。

釣瓶火の伝承地域

釣瓶火には、訪ねられる伝承地がありません。

石燕の絵に解説文が無く、土地の言い伝えとして採られたものではないためです。

原典とされる『古今百物語評判』の「西岡の釣瓶おろし」は、京都西院の火の玉を扱ったものです。西院は京都市右京区にあります。

ただし、それは釣瓶おろしの話であって、釣瓶火の伝承地として記録されたものではありません。

昭和以降の本では、四国・九州地方に現れるとされます。しかし、具体的な山や道の名は挙げられていません。

無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。

釣瓶火の正体と考えられているもの

釣瓶火の正体については、次のように整理できます。

まず、石燕の解説文がありません。 どのような妖怪を意図して描かれたものかは、絵から読むほかありません。

一つめは、西岡の釣瓶おろしです。『古今百物語評判』(1686年刊)にある京都西院の火の玉で、石燕がこれを描いて「釣瓶火」と名づけたと解されています。

二つめは、木の精霊です。四国・九州では、木の精霊が青白い火の玉となってぶら下がったものとされます。

三つめは、生物発光です。樹木につく菌類や、腐葉土のバクテリアによる発光という説明があります。風で枝が揺れれば、光も上下します。

四つめは、釣瓶落としの仲間です。名も動きも近く、扱いは文献ごとに分かれます。落ちきるか、戻るか。 そこが違いです。

釣瓶火が何であったかは、わかっていません。 ただ、頭の上から火が下りてくるという一場面は、夜の山道でいまも起こりえます。

釣瓶火をめぐる妖怪のつながり

釣瓶火が登場する作品

釣瓶火は、怪談本を下敷きにした絵です。

『古今百物語評判』の「西岡の釣瓶おろし」が原典とされています。 石燕は同じ本から垢嘗の原型も取っており、繰り返し使った資料でした。

昭和以降の説明は、釣瓶落としとの区別を含めて、文献ごとに分かれます。

釣瓶火が登場する古典

画図百鬼夜行

鳥山石燕、1776年。釣瓶火の絵はここにあります。解説文はありません。

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古今百物語評判

1686年刊。「西岡の釣瓶おろし」として京都西院の火の玉を扱い、釣瓶火の原典とされます。

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釣瓶火が登場する研究

鳥山石燕 画図百鬼夜行

高田衛監修、国書刊行会。別名を「つるべおとし」「つるべおろし」とし、原典を示しています。

妖怪事典

村上健司編著、2000年。釣瓶落としとの扱いの違いを整理しています。

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釣瓶火が登場する漫画・アニメ

ゲゲゲの鬼太郎

釣瓶火が登場します。木からぶら下がる火として描かれます。

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妖怪をまとめて扱う作品

怪火の一種として、鬼火や釣瓶落としと並べて取り上げられます。

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釣瓶火についてよくある質問

釣瓶火と釣瓶落としは同じですか。

扱いが定まっていません。 昭和・平成の文献では、釣瓶火を釣瓶落としに類する怪火とするものと、別種の妖怪とするものがあります。 違いを挙げるなら、釣瓶落としは落ちてくる、釣瓶火は下がってまた上がるという点です。

釣瓶とは何ですか。

井戸から水を汲むための桶です。縄や竿で吊るし、上げ下げして使います。「釣瓶落とし」といえば、秋の日が急に暮れることのたとえです。

火は木に燃え移らないのですか。

燃え移らないとされます。 昭和以降の説明では、青白い火の玉として木からぶら下がりますが、火災にはなりません。樹木につく菌類やバクテリアによる生物発光という説明もあります。

火のなかに顔が見えるのですか。

昭和以降の本にある説明です。 火の中に人や獣の顔が浮かび上がることがあるとされます。石燕の絵に顔はありません。

釣瓶火と併せて覚えたい言葉・用語

釣瓶(つるべ)

井戸から水を汲む桶。縄で吊るして上げ下げする。

古今百物語評判(ここひゃくものがたりひょうばん)

1686年刊の怪談本。石燕が繰り返し下敷きにした。

生物発光(せいぶつはっこう)

菌類やバクテリアが光を出す現象。朽木や腐葉土で起こる。