山中で夜の通行人めがけて鑵子を転がしてくるもの。
鑵子転ばしとはどんな妖怪か
鑵子転ばしは、福島県に伝わる妖怪です。
山の中におり、夜の通行人めがけて鑵子を転がしてくるといわれます。
鑵子(かんす)とは、湯沸しの器です。
茶の湯や酒の燗に使います。
そして、これは一つの型の中にあります。
地上を転がるように動いて人間を転倒させようとするものを、まとめて「転バシ」と呼びます。
日本各地に、同じ形の妖怪がいます。
長野県のイジャロコロガシ、高知県のタテクリカエシ、山口県の鑵子転げ。
どれも、何かが転がってきます。
鑵子転ばしの漢字表記と読み方
読みは「かんすころばし」です。
鑵子(かんす)は、湯を沸かす器です。銅や鉄でつくります。
そして「転ばし」は、転ばせるものです。
山口県では「鑵子転げ」といい、こちらは器のほうが転げてくるという言い方です。
転ばせるのか、転げてくるのか。
長野県の「イジャロ」は、器物のざるを指します。
高知県の「タテクリカエシ」は、動作の名です。
とんぼ返りをするように転がってくる、という意味でしょう。
鑵子転ばし(かんすころばし)
福島県での呼び名。
鑵子転げ(かんすころげ)
山口県での呼び名。
転バシ(ころばし)
転がって人を転倒させるものの総称。
イジャロコロガシ(いじゃろころがし)
長野県南佐久郡南牧村海ノ口での呼び名。
鑵子転ばしの姿と特徴
転バシの仲間は、転がってくるものが違います。
福島・鑵子転ばし … 鑵子(湯沸しの器)。
山口・鑵子転げ … 酒の燗に使う器。人の生首という説も。
長野・イジャロコロガシ … ざる。人の前に現れると人間の顔に化ける。
高知・タテクリカエシ … 手杵(餅を搗く道具)のような形のもの。
どれも、丸いか、円筒形です。
転がりやすい形をしています。
そして、高知のタテクリカエシは「スットン、スットン」と音を立てて転がってきます。
出会い頭に、人を転ばせます。
鑵子転ばしの伝承物語
足の力が萎える
鑵子転ばしの害は、転倒です。
しかし、山口県の「鑵子転げ」はもっと重いものです。
崖の上から酒の燗に使う器が転がってきて、人がこれに驚いて腰を抜かすと、足の力が萎えてしまうといいます。
驚いた後が問題です。
腰を抜かし、そのまま足が立たなくなります。
そして、器物ではなく、人の生首が転がってくるという説もあります。
生首です。
山道で、上から何かが転がってくる。
実際に、落石は起こります。
そして、驚いて足を踏み外せば、崖から落ちます。
この妖怪の害は、そのまま山道の危険と重なります。
かわせば助かる
高知県幡多郡のタテクリカエシには、具体的な避け方が伝わっています。
人が夜道を歩いていると、手杵(餅を搗く道具)のような形をしたものが道の反対側からスットン、スットンと音を立てて転がって来て、出会い頭に人を転ばせるといいます。
そして、弱点があります。
猪のように急な方向転換ができないため、これに遭遇した際には、寸前で脇にそれるなどして身をかわすと良いといいます。
まっすぐしか進めません。
だから、横に逃げれば当たりません。
草などを打って柔らかくするのに用いる木槌のようなものが転がってくるという説もあります。
同県同郡の橋上村楠山(宿毛市)には「手杵返し」といって、雪の山道に何者かの1本足の足跡が残るという怪異があります。
新潟ではなく高知
タテクリカエシには、文献上の誤りが広まっています。
昭和・平成以降の妖怪関連の文献では、高知ではなく新潟県の妖怪とされていることが多いのです。
しかし、これは誤解です。
書籍『民間伝承』に、新潟の人物がこの妖怪の文書を寄稿したための誤解と見られており、正しくは高知の妖怪です。
寄稿者の住所が、妖怪の土地になってしまいました。
似た誤りは、他にもあります。
黒坊主は、藤沢衛彦の本の解説文から東北地方の妖怪とされましたが、これも誤解と指摘されています。
一目入道は、『大語園』が読みを「いちもくにゅうどう」として50音配列の「い」に入れたため、読みの錯誤が広がりました。
本が一冊間違えると、その後の本がすべて引き継ぎます。
鑵子転ばしの伝承地域
鑵子転ばしは、福島県に伝わります。山の中におり、夜の通行人めがけて鑵子を転がしてくるとされます。
似たものとして、次の土地に伝承があります。
山口県 … 崖の上から酒の燗に使う器が転がってくる「鑵子転げ」。
長野県南佐久郡南牧村海ノ口 … 古いお堂の中に、夜遅くにざるが床を転がって来る「イジャロコロガシ」。
高知県幡多郡 … 手杵のようなものが転がってくる「タテクリカエシ」。
高知県宿毛市(旧・橋上村楠山) … 雪の山道に一本足の足跡が残る「手杵返し」。
高知県四万十町(旧・十和村広瀬) … 夜の河原で手杵のようなものが錫杖の音を立ててとんぼ返りをする。
いずれも山道や堂そのものが舞台であり、碑や祠は確かめられていません。 この欄は空のままにしてあります。
鑵子転ばしの正体と考えられているもの
鑵子転ばしについては、次のように整理できます。
一つめは、転がる器物です。山の中におり、夜の通行人めがけて鑵子(湯沸しの器)を転がしてくるとされます。
二つめは、転バシという型です。地上を転がるように動いて人間を転倒させようとするものの総称で、長野のイジャロコロガシ、高知のタテクリカエシ、山口の鑵子転げが同じ仲間です。
三つめは、落石です。山道で上から何かが転がってくることは、実際に起こります。 山口では驚いて腰を抜かすと足の力が萎えるといい、これは転倒の危険そのものです。
四つめは、生首です。山口の鑵子転げには、器物ではなく人の生首が転がってくるという説もあります。
鑵子転ばしが何であったかは、わかっていません。 ただ、まっすぐしか転がれないから、横にかわせば助かるという高知の知恵は、実用的です。
鑵子転ばしをめぐる妖怪のつながり
鑵子転ばしが登場する作品
鑵子転ばしは、各地に同じ型のある妖怪です。
福島、山口、長野、高知。転がって人を転ばせるという一点が共通しています。
なお、高知のタテクリカエシが新潟の妖怪とされてきたのは、寄稿者の土地による誤解と指摘されています。
鑵子転ばしが登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
器物の妖怪として、付喪神と並べて取り上げられます。
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鑵子転ばしについてよくある質問
鑵子とは何ですか。
湯沸しの器です。銅や鉄でつくり、茶の湯や酒の燗に使います。
転バシとは何ですか。
地上を転がるように動いて人間を転倒させようとするものの総称です。長野のイジャロコロガシ、高知のタテクリカエシ、山口の鑵子転げなどが同じ仲間です。
かわす方法はありますか。
高知のタテクリカエシには伝わっています。猪のように急な方向転換ができないため、寸前で脇にそれるなどして身をかわすと良いといいます。
新潟の妖怪ではないのですか。
高知の妖怪です。 昭和・平成以降の文献では新潟県の妖怪とされることが多いのですが、これは書籍『民間伝承』に新潟の人物がこの妖怪の文書を寄稿したための誤解と見られています。
鑵子転ばしと併せて覚えたい言葉・用語
鑵子(かんす)
湯沸しの器。茶の湯や酒の燗に使う。
イジャロ(いじゃろ)
長野県で、器物のざるを指す語。
手杵(てぎね)
餅を搗く道具。高知のタテクリカエシはこの形とされる。