捨てられた人形から電話がかかり、だんだん近づいてくるという怪談。
メリーさんの電話とはどんな妖怪か
メリーさんの電話は、距離が縮まっていく怪談です。
引っ越しのときに古い人形を捨てた。しばらくして、電話が鳴ります。
私メリーさん。今ゴミ捨て場にいるの。
切っても電話は鳴り続けます。そのたびに、
今、駅前にいるの。
今、角の電柱のところにいるの。
今、家の前にいるの。
と、少しずつ場所が近づいてくる。
そして最後の電話は、
今、あなたの後ろにいるの。
で終わります。
怖さの作りが徹底して単純です。 距離が縮まっていく、ただそれだけで話が進みます。
捨てた者のもとへ戻ってくるという筋は、付喪神の物語とよく似た構造を持っています。
昭和後期から子供のあいだで語られ、携帯電話が普及したのちも設定を変えながら語り継がれています。
メリーさんの電話の漢字表記と読み方
読みは「めりーさんのでんわ」です。
「メリー」は、外国製の人形の名前として選ばれたと考えられます。日本の家庭にあった洋風の人形、いわゆる西洋人形の呼び名として自然だったのでしょう。
日本の人形ではないという点に意味があります。捨てられた日本人形が祟るという話は古くからありますが、この怪談の人形は外来のものです。
日本人形なら供養するという習わしがあります。しかし外国製の人形には、その受け皿がありません。扱いの分からない物が捨てられたときの落ち着かなさが、この名前に表れているのかもしれません。
メリーさんの電話(めりーさんのでんわ)
もっとも一般的な呼び名。
メリーさん(めりーさん)
略した呼び方。
まりーさん(まりーさん)
地域による呼び名の揺れ。
メリーさんの電話の姿と特徴
メリーさんの姿は、ほとんど語られません。
この怪談で描かれるのは、電話の声だけです。
声 … 幼い女の子の声とされる。
言葉 … 「私メリーさん。今◯◯にいるの」の一文だけ。
姿 … 語られない。
最後に振り返ったときに何を見たかは、ほとんどの話で語られません。 話はそこで終わります。
人形としてのメリーさんは、次のように語られることがあります。
種類 … 西洋人形。
大きさ … 抱えられるほど。
特徴 … 古い。長く持っていたもの。
しかし、これらも話の背景として触れられる程度です。
姿を語らないことが、この怪談の作りです。見えないまま近づいてくる。そして、振り返った先は語られない。
想像に委ねる部分を最大にした怪談といえます。
メリーさんの電話の伝承物語
距離が縮まる ─ 話の骨格
メリーさんの電話は、きわめて単純な構造を持っています。
電話が鳴る。名乗る。場所を告げる。切る。また鳴る。場所が近づいている。
これを繰り返すだけです。
今、ゴミ捨て場にいるの。
今、駅前にいるの。
今、公園にいるの。
今、角の電柱のところにいるの。
今、家の前にいるの。
今、玄関にいるの。
今、あなたの後ろにいるの。
場所の数は、語り手が自由に増減できます。 だから、この怪談は語る人によって長さが変わります。
ゆっくり近づけば、緊張が長く続きます。急に近づけば、驚きが強くなります。
語り方で怖さを調整できる。 これがこの怪談の完成度の高さです。
同じ構造の話は世界各地にあり、近づいてくる恐怖は普遍的な形といえます。
捨てられた人形 ─ 付喪神との重なり
この怪談の発端は、人形を捨てたことです。
ここに、日本の物への感覚が表れています。
人形は、顔と体を持つ物です。他の道具と違い、人の形をしています。だから捨てるときに、多くの人がためらいます。
人形供養という行事が各地の寺社にあるのは、そのためです。使い終えた人形を、ただ捨てるのではなく供養する。
メリーさんの電話は、この習わしを踏まえたうえで成立しています。供養せずに捨てた。だから戻ってくる。
付喪神の物語と構造は同じです。捨てられた道具が集まって談合し、人間に復讐する。
長年仕えてきたのに、こんな仕打ちを受けるとは。
室町時代の絵巻に描かれたこの言葉が、昭和の子供の怪談に受け継がれています。
電話という装置 ─ 声だけが届く
この怪談が電話を使うことには意味があります。
電話は、姿の見えない相手と話す道具です。声だけが届き、相手がどこにいるかは分かりません。
今、どこにいるの。
この問いに嘘をつけるのが、電話です。そして、嘘かどうか確かめられません。
昭和の家庭電話は、多くが玄関や廊下の固定電話でした。家のなかで、決まった一か所へ行かなければ出られません。夜、暗い廊下で受話器を取る。この状況そのものが、怪談の舞台です。
携帯電話が普及すると、この設定は変わりました。どこにいても電話は鳴ります。逃げても届く。話の恐ろしさは、むしろ強まりました。
技術が変われば、怪談も形を変えます。 メリーさんの電話は、道具の変化に合わせて語り直されてきた怪談です。
子供のあいだで広まる
メリーさんの電話は、子供のあいだで語られる怪談です。
理由として、次の点が挙げられます。
語りやすい … 構造が単純で、覚えることが少ない。場所を並べるだけです。
演じられる … 電話の声を真似られます。「今、あなたの後ろにいるの」と言って背後を指させる。実演できる怪談です。
人形が身近 … 子供にとって人形は身近な物であり、捨てた経験もあります。
電話が身近 … 家に電話があり、知らない相手からかかってくることもあります。
怖い話としての完成度が高く、しかも短い。休み時間に語りきれる長さです。
トイレの花子さんが「呼び出す」怪談であるのに対し、メリーさんは「向こうから来る」怪談です。
呼ばなくても来る。逃げられないという点が、この怪談の恐ろしさの核心にあります。
メリーさんの電話の伝承地域
メリーさんの電話には、訪ねられる伝承地がありません。
この怪談は特定の土地に結びつきません。 舞台はどこかの家であり、名前も場所も語られません。塚も祠も、ゆかりの地もありません。
電話に告げられる場所も、「ゴミ捨て場」「駅前」「角の電柱」といったどこにでもある場所です。具体的な地名が入ることはまずありません。
どこにでもある場所だからこそ、聞いた人が自分の家に置き換えられます。 それがこの怪談の広まった理由でもあります。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
メリーさんの電話の正体と考えられているもの
メリーさんの電話の正体については、次のように考えられています。
まず、これは現代の子供の怪談です。 古い伝承にさかのぼるものではなく、昭和後期に子供のあいだで語られ始めたものと考えられます。発生の時期や場所を特定した調査は、口裂け女ほど詳しくは行われていません。
付喪神の系譜として読むことができます。捨てられた物が戻ってくるという筋は、室町時代の『付喪神絵巻』とまったく同じ構造です。長く使った物を粗末に扱うなという感覚が、形を変えて残っているといえます。
人形という物の特殊性も働いています。人形は人の形をしており、捨てるときにためらいが生じます。人形供養の行事が各地にあるのはそのためです。供養せずに捨てたから戻ってくるという筋は、この習わしを前提にしています。
電話という装置が話を成立させています。姿が見えず、声だけが届き、居場所を確かめられない。嘘をつけて、しかも確かめられない道具は、怪談ときわめて相性がよいものです。
同じ構造の話は世界各地にあります。 近づいてくる恐怖は普遍的な形であり、日本の人形と電話がその器になったと考えられます。
メリーさんの電話をめぐる妖怪のつながり
メリーさんの電話が登場する作品
メリーさんの電話は、作品よりも口伝えで広まった怪談です。構造が単純で、覚えることが少なく、演じられる。
「今、あなたの後ろにいるの」と言って背後を指す。この一言で話を終えられるのが、この怪談の完成度を示しています。
携帯電話の普及後も、設定を変えながら語り継がれています。
メリーさんの電話が登場する映像・書籍
学校の怪談を集めた本
児童向けの怪談集に繰り返し収められています。
ホラー映像作品
近づいてくる怪異という構造は、映像作品でも繰り返し用いられます。
メリーさんの電話が登場する語りの文化
口伝えの怪談
構造が単純で演じやすいため、子供のあいだで直接語り継がれてきました。
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メリーさんの電話についてよくある質問
メリーさんの電話とはどんな怪談ですか。
捨てた人形から電話がかかってくる怪談です。電話のたびに「今◯◯にいるの」と場所が近づき、最後に「今、あなたの後ろにいるの」で終わります。
メリーさんとは何者ですか。
捨てられた西洋人形とされます。姿の描写はほとんどなく、電話の声だけで語られます。
メリーさんの電話はいつからある怪談ですか。
昭和後期から子供のあいだで語られてきました。発生の時期や場所を特定した調査は、口裂け女ほど詳しくは行われていません。
メリーさんの電話は付喪神と関係がありますか。
直接のつながりを示す資料はありません。ただし、捨てられた物が戻ってくるという筋は『付喪神絵巻』とまったく同じ構造です。
メリーさんが出る場所はありますか。
ありません。特定の土地に結びつかない怪談で、電話に告げられる場所もどこにでもある場所ばかりです。
メリーさんの電話と併せて覚えたい言葉・用語
人形供養(にんぎょうくよう)
使い終えた人形を供養する行事。各地の寺社で行われる。
都市伝説(としでんせつ)
現代の社会で語られる、出所のはっきりしない噂話。
付喪神(つくもがみ)
長く使われた道具が化けたもの。捨てられた恨みから化けるとされる。