蓑が胴、草鞋が両脚となり、鍬をかついだ姿のもの。

鳥山石燕 「百器徒然袋 蓑草鞋」 1784年 / パブリックドメイン 出典
蓑草鞋とはどんな妖怪か
蓑草鞋は、蓑と草鞋の妖怪です。鳥山石燕の『百器徒然袋』(1784年)にあります。
絵では、雪のつもった竹林の中を、蓑が胴体、草鞋が両脚となった姿が歩いています。
肩には、鍬をかついでいます。
顔は蓑のあいだから覗き、髭を生やしています。
蓑は、藁や菅で編んだ雨具です。肩から羽織って雨や雪をしのぎます。
草鞋は、藁で編んだ履物です。
どちらも、藁でできています。
そして、どちらも農民の道具です。
鍬をかついでいるということは、野良仕事の帰り、あるいはこれから出るところです。
蓑草鞋の漢字表記と読み方
読みは「みのわらじ」です。
蓑(みの)は、藁や菅で編んだ雨具です。肩から羽織ります。
草鞋(わらじ)は、藁で編んだ履物です。
どちらも藁でつくられています。
藁は、稲の茎です。米を取ったあとに残ります。
農民にとって、藁は最も身近な材料でした。
蓑にも、草鞋にも、縄にも、俵にもなります。
そして、藁の道具は消耗品です。
草鞋は数日で履きつぶします。大量に作り、大量に捨てました。
捨てられる数が多いということは、化ける機会も多いということです。
蓑草鞋(みのわらじ)
鳥山石燕『百器徒然袋』での表記。
蓑草履(みのぞうり)
「草鞋」を「草履」と書く例もある。
ミノワラジ(みのわらじ)
カタカナで書くこともある。
蓑草鞋の姿と特徴
石燕の描く蓑草鞋は、次のような姿です。
胴 … 蓑。藁が幾重にも垂れる。
脚 … 草鞋。二本の紐が脚のように伸びる。
肩 … 鍬をかついでいる。
顔 … 蓑のあいだから覗く。髭が生えている。
背景 … 竹林。雪が積もっている。
手が、鍬を支えています。
細い腕が蓑から出て、肩の鍬に添えられています。 人の仕草そのものです。
草鞋から伸びた紐が、そのまま脚になっています。細く、頼りない脚です。
雪が積もっているところが重要です。
冬の竹林。人のいない場所です。
そこを、農具を担いだ何かが歩いています。
顔だけが、こちらを見ていません。 前を向いています。
蓑草鞋の伝承物語
絵巻の草鞋と蓑
年貢と農民の怨み
平成以後、蓑草鞋には具体的な説明が加わりました。
凶作が続いた時期に年貢を厳しく取り立てられた農民の怨みの念が、古い蓑や草鞋に乗り移って付喪神と化したもの。
これは、絵とよく合っています。
蓑と草鞋は農民の装いです。鍬は農具です。
そして、雪の竹林という背景。
冬に、鍬を担いで歩く必要はありません。 畑仕事はできません。
それでも、歩いています。
石燕がそこまで考えていたかはわかりません。
しかし、江戸時代に凶作と年貢の取り立てがあったことは事実です。
享保、天明、天保。 大きな飢饉が繰り返されました。
蓑は呪力を持つ
蓑草鞋の伝承地域
蓑草鞋には、訪ねられる伝承地がありません。
石燕が『百器徒然袋』に描いた妖怪であり、土地の言い伝えとして採られたものではないためです。
蓑をまとう来訪神の行事は、各地に残っています。秋田県のなまはげ、石川県のあまめはぎ、岩手県のスネカ。いずれも国の重要無形民俗文化財です。
ただし、それらは来訪神の行事であって、蓑草鞋を伝える場所とは別です。
碑も祠も、この名では見つかっていません。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
蓑草鞋の正体と考えられているもの
蓑草鞋の正体については、次のように整理できます。
一つめは、絵巻の妖怪です。『百鬼夜行絵巻』や『付喪神絵巻』には、草鞋や蓑をモチーフとして描かれた妖怪が存在します。 石燕はそこから着想を得たとみられます。
二つめは、農民の怨みです。平成以後は、凶作が続いた時期に年貢を厳しく取り立てられた農民の怨みの念が、古い蓑や草鞋に乗り移って付喪神と化したと解説されることもあります。
三つめは、呪力です。蓑は来訪神の多くが身にまとうように呪力があるとされ、草鞋も妖怪を避けるための呪物としてよく使われました。 力のある器物は妖怪化しやすいと考えられていたともされます。
四つめは、藁の道具です。蓑も草鞋も消耗品で、大量に作られ、大量に捨てられました。 化ける機会が多い道具です。
蓑草鞋は、伝承として語られてきた妖怪ではありません。 石燕が絵巻と農具から仕立てた一体と考えられています。
蓑草鞋をめぐる妖怪のつながり
蓑草鞋が登場する作品
蓑草鞋は、絵巻と農具から仕立てられた絵です。
蓑と草鞋は、どちらも藁でできた消耗品です。 大量に作られ、大量に捨てられました。付喪神の条件としては、これ以上ないものです。
資料は石燕の絵と、絵巻に分かれます。
蓑草鞋が登場する古典
付喪神絵巻
室町時代の絵巻。捨てられた道具が人を恨む話を描きます。
蓑草鞋が登場する研究
蓑草鞋が登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
器物の妖怪として、付喪神と並べて取り上げられます。
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蓑草鞋についてよくある質問
蓑草鞋はどんな姿ですか。
蓑が胴体、草鞋が両脚となり、肩に鍬をかついだ姿です。雪のつもっている竹林の中を歩いています。
農民の怨みというのは本当ですか。
平成以後の解説です。 凶作が続いた時期に年貢を厳しく取り立てられた農民の怨みの念が、古い蓑や草鞋に乗り移って付喪神と化したとされます。石燕の絵にその記述はありません。
蓑に呪力があるのですか。
来訪神の多くが蓑を身にまとうことから、呪力があるものとされました。 なまはげ、あまめはぎ、スネカ。いずれも蓑をまとって家々を回ります。
草鞋にも意味がありますか。
草鞋は、妖怪を避けるための呪物としてよく使用されました。 大きな草鞋を村境に掛け、悪いものが入らないようにします。そのような器物は妖怪化しやすいと考えられていたともされます。
蓑草鞋と併せて覚えたい言葉・用語
蓑(みの)
藁や菅で編んだ雨具。肩から羽織る。来訪神の装束でもある。
草鞋(わらじ)
藁で編んだ履物。妖怪除けの呪物としても使われた。
来訪神(らいほうしん)
年の変わり目に山や海から訪れるとされる神。蓑をまとうものが多い。