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全国に伝わるもの

提灯お化け(ちょうちんおばけ)とはどんな妖怪か|姿と伝承

提灯お化け  / チョウチンオバケ

器物と草木 妖怪絵巻怪談・百物語

古提灯が上下に裂けて口となり、目と舌をあらわす妖怪。絵と玩具でひろまり、土地の言い伝えはほとんど無い。

提灯お化けの姿を描いた図

葛飾北斎 「百物語 お岩さん」 1830年 / パブリックドメイン 出典

提灯お化けとはどんな妖怪か

提灯お化けはひとことで言えば、絵のなかで育った妖怪です。

古い提灯が上下に割れ、その裂け目が大きな口になって長い舌を垂らし、上半分に目が現れる。これが最もよく知られた姿です。

化け提灯」「お化け提灯」「提灯小僧」など、呼び名はいくつもあります。

江戸時代以降の草双紙、おもちゃ絵、お化けかるたに繰り返し描かれ、明治や大正を過ぎても玩具や子ども向けの本、お化け屋敷の演出に受け継がれました。

ところが、これほど知られていながら、土地に根ざした具体的な言い伝えはほとんど残っていません。

そのため「絵の上にだけ存在する妖怪」として扱う本もあります。

日本の妖怪のなかでも、知名度と伝承の量がこれほど食い違うものは多くありません。

提灯お化けの漢字表記と読み方

読みは「ちょうちんおばけ」です。単に「ちょうちん」と呼ばれることもあります。

呼び名が多いのは、この妖怪が一つの伝承から出たものではないことを示しています。

提灯小僧という呼び方には、子どもの姿を思わせる響きがあります。子ども向けの絵やかるたを通じて広まった事情がうかがえます。

鳥山石燕は『百器徒然袋』で提灯のかたちの妖怪に「不落不落」という名を与えました。「ぶらぶら」と読ませます。提灯が揺れる様子と、ぶらぶらしている様子を掛けた言葉です。

ただし石燕の不落不落と、いま知られる提灯お化けを、同じものとして扱ってよいかは決まっていません。

歌舞伎から出た「提灯お岩」という呼び名もあり、これは別の系統にあたります。

提灯お化け(ちょうちんおばけ)

最も広く用いられる表記。

化け提灯(ばけぢょうちん)

同じものを指す呼び名。絵の題に用いられる。

不落不落(ぶらぶら)

鳥山石燕が『百器徒然袋』で提灯の妖怪に付けた名。

提灯お化けの姿と特徴

姿は絵によって少しずつ違いますが、大きな枠は決まっています。

基本の形 … 古い提灯が上下に裂け、その割れ目が口になっています。
… 口から長い舌が飛び出しています。
… 提灯の上半分に、一つ目または二つの目が現れます。
そのほか … 顔だけでなく手や体、翼が生えていることもあります。

江戸時代の絵には、桶のような形のものや、細長い小田原提灯の形をしたものも描かれています。

器物の妖怪を並べた古い絵巻には、提灯を描いた例が確認されていません。

江戸時代以前とみられる『百鬼夜行絵巻』には提灯が出てきません。狩野乗信の『百鬼夜行之図』など、江戸時代以降の作例から現れます。

これは、提灯という道具そのものが庶民に広まった時期と関わるとみられます。

葛飾北斎の『百物語』の「お岩さん」や、歌川国芳の描いたお岩の霊は、提灯から顔が現れる姿で知られます。

提灯お化けの伝承物語

  1. 四谷怪談の舞台から生まれた提灯お岩
  2. 言い伝えがほとんど残っていない
  3. 狸が提灯に化ける話
  4. 古い絵巻に提灯がいない理由
  5. 玩具と遊びのなかで生き延びた

四谷怪談の舞台から生まれた提灯お岩

提灯と怪異を強く結び付けたのは、歌舞伎でした。

文政八年に初演された『東海道四谷怪談』には、伊右衛門に殺されたお岩の霊が提灯から姿を現す演出があります。これを「提灯抜け」と呼びます。

それ以前、文化十年に中村座で上演された『累渕扨其後』には、提灯に顔が浮かぶ演出がありました。

舞台の上で、破れた提灯から幽霊がぬっと出てくる。この光景が、そのまま絵になりました。

葛飾北斎の『百物語』にある「お岩さん」は、提灯の裂け目がお岩の顔になっている絵です。歌川国芳の『神谷伊右エ門 於岩のばうこん』も同じ発想です。

これらは「提灯お岩」と呼ばれます。

厳密に言えば、提灯お岩は提灯へ現れたお岩の霊です。 提灯を通り道にした幽霊です。

しかし絵として見たときの印象があまりに強く、後の提灯お化けの姿に影響を与えたと考えられています。

言い伝えがほとんど残っていない

提灯お化けは、日本でおそらく最も名の知れた妖怪の一つです。ところが、その割に土地の言い伝えがありません。

どこそこの村に出たという具体的な話が、ほとんど集められていないのです。

そのため妖怪の本のなかには、提灯お化けを「絵画上でのみ存在する妖怪」として分類するものがあります。子ども向けに作られた妖怪だとする説もあります。

よく知られていることと、古くから語られてきたことは、まったく別のことです。

狸が提灯に化ける話

言い伝えのなかにも「提灯」と呼ばれる怪異はあります。ただ、その中身は違います。

狐や狸が人を驚かすために提灯に化ける、という話は各地にあります。これは化かす獣の話です。

また、提灯火のように、器物ではなく怪火として伝わる例も多くあります。

山形県には、古びた提灯のある社に提灯お化けが出て人を脅かし、その提灯を片付けたら出なくなったという昔話があります。これは、正体が古道具だったという「化物寺」の型にあたるものです。

古い絵巻に提灯がいない理由

道具の妖怪をずらりと並べた絵巻に『百鬼夜行絵巻』があります。琵琶、琴、鍋、傘、履物といったものが、手足を得て行列を作る絵です。

この古い絵巻に、提灯は描かれていません。

江戸時代以前とみられる作品を調べても、提灯の妖怪は確認されていません。提灯が現れるのは江戸時代以降の作例からです。

道具の妖怪の顔ぶれは、その時代に人々が実際に使っていた道具で決まります。

提灯は、折りたためて持ち運べる灯りとして、江戸時代に広く使われるようになりました。祭りにも商いにも夜歩きにも欠かせない道具です。

古くなれば紙が破れ、骨が歪みます。破れた提灯は、裂け目が口のように見えます。

つまり提灯お化けは、提灯が身近な道具になってから生まれた妖怪です。

新しい道具には新しい妖怪が付く。その筋道を、この妖怪はよく示しています。

玩具と遊びのなかで生き延びた

提灯お化けが今日まで残ったのは、書物よりも遊びの道具によるところが大きいと考えられます。

お化けかるたには、提灯お化けの札があります。おもちゃ絵にも繰り返し描かれました。子どもが手に取って眺め、名前を覚えるかたちで伝わっていったのです。

明治や大正を過ぎても、この流れは絶えませんでした。玩具、絵本、紙芝居、そしてお化け屋敷の仕掛けとして、提灯お化けは使われ続けています。

恐ろしさよりも、分かりやすさで残った妖怪だと言えます。

姿を一目見れば何であるかが分かる。名前も説明が要らない。この扱いやすさが、長く生き延びる力になりました。

一方で、そのことが伝承の少なさとも結び付いています。語り継ぐ物語ではなく、見て覚える図柄として広まったからです。

提灯お化けは、絵と玩具が育てた妖怪です。 そこに引け目はありません。妖怪の伝わり方には、口で語る道と、絵で見せる道の二つがあります。

提灯お化けの伝承地域

提灯お化けには、特定の土地に結び付いた言い伝えがありません。

各地に伝わる「提灯」の怪異は、狐や狸が化けたものや、怪火として語られるものが中心で、提灯お化けそのものの伝承とは言えません。

山形県には、古びた提灯のある社に出たという昔話がありますが、これは正体が古道具だったという「化物寺」の型の一例です。

歌舞伎の『東海道四谷怪談』から出た提灯お岩も、舞台の演出です。

そのため、この妖怪をたずねて行ける場所は確かめられませんでした。

提灯お化けの正体と考えられているもの

提灯お化けの成り立ちについては、次のような見方があります。

芝居の演出から広がったとする見方があります。『東海道四谷怪談』の提灯抜けをはじめ、提灯から霊が現れる仕掛けが評判を呼び、それを写した浮世絵が姿を固めていったとみるものです。

付喪神の考えの延長とする見方もあります。長く使われた道具は化けるという考えは古くからありました。提灯もその一つに数えられたとするものです。

子ども向けに作られたとする説もあります。かるたやおもちゃ絵での扱われ方から、はじめから遊びのために作られた妖怪だとみる立場です。

道具そのものの姿によるとも言えます。破れた提灯は、裂け目が口に見え、骨の影が歯に見えます。誰が見ても顔に見えるかたちをしていました。

どれか一つに決めることはできません。 ただ、江戸時代以前の絵巻に提灯が現れないことは確かで、この妖怪が新しいものであることを示しています。

提灯お化けをめぐる妖怪のつながり

提灯お化けが登場する作品

提灯お化けは、絵と玩具と芝居の三つで広まった妖怪です。

育ったのは、絵と舞台の上です。舞台の仕掛けが浮世絵になり、浮世絵がかるたやおもちゃ絵になり、そこから子どもの遊びに入っていきました。

語られる話が乏しいまま、姿だけが日本中に行き渡ったのです。

いまでも夏の飾りやお化け屋敷の看板に、提灯お化けは当たり前のように使われます。

説明の要らない妖怪であることが、この存在の最大の強みです。

提灯お化けが登場する絵

百器徒然袋

鳥山石燕が「不落不落」の名で提灯のかたちの妖怪を描いています。

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百物語

葛飾北斎の連作。「お岩さん」は提灯の裂け目がお岩の顔になっています。

神谷伊右エ門 於岩のばうこん

歌川国芳の浮世絵。提灯から現れるお岩の霊を描いています。

提灯お化けが登場する書物

お化けかるた

江戸時代以降のかるた。提灯お化けの札が繰り返し作られました。

提灯お化けが登場する能・浄瑠璃

東海道四谷怪談

歌舞伎。お岩の霊が提灯から現れる「提灯抜け」の演出で知られます。

提灯お化けが登場する漫画・アニメ

妖怪を扱う各種の作品

道具の妖怪の代表として、傘の妖怪と並んで登場することが多くあります。

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提灯お化けについてよくある質問

提灯お化けとは何ですか。

古い提灯が上下に割れ、裂け目が口になって長い舌を出し、上半分に目が現れるという妖怪です。江戸時代以降の草双紙、おもちゃ絵、かるたに広く描かれ、玩具やお化け屋敷を通じて今日まで伝わっています。

提灯お化けの言い伝えはどこにありますか。

土地に根ざした具体的な言い伝えはほとんど残っていません。そのため「絵の上にだけ存在する妖怪」として扱う本もあります。各地に伝わる提灯の怪異は、狐や狸が化けたものや怪火である場合が多いものです。

提灯お岩とは違うものですか。

成り立ちが違います。提灯お岩は歌舞伎『東海道四谷怪談』の演出から生まれたもので、提灯から現れるお岩の霊を描いたものです。提灯へ現れたのは、お岩の霊です。

鳥山石燕は提灯の妖怪を描いていますか。

描いています。『百器徒然袋』に「不落不落」の名で提灯のかたちの妖怪があります。「ぶらぶら」と読ませ、提灯が揺れる様子を言葉に掛けたものです。

なぜ古い絵巻に提灯の妖怪がいないのですか。

道具の妖怪の顔ぶれは、その時代に使われていた道具で決まるためです。提灯が庶民の暮らしに広まったのは比較的新しく、江戸時代以前の絵巻には提灯が描かれていません。

提灯お化けと併せて覚えたい言葉・用語

不落不落(ぶらぶら)

鳥山石燕が『百器徒然袋』で提灯の妖怪に与えた名。

提灯抜け(ちょうちんぬけ)

歌舞伎の演出。破れた提灯からお岩の霊が現れる仕掛け。

おもちゃ絵(おもちゃえ)

子どもが遊ぶために作られた浮世絵。提灯お化けが繰り返し描かれた。

小田原提灯(おだわらぢょうちん)

折りたためる細長い提灯。この形の提灯お化けも描かれている。