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和歌山県

一本だたら(いっぽんだたら)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

一本踏鞴  / イッポンダタラ

人型の妖怪 各地の伝説

紀州熊野の深山に伝わる一本足の怪。雪の上に片足の跡だけが続く。

一本だたらとはどんな妖怪か

一本だたらはひとことで言えば片足の跡だけを残すものです。

紀州熊野の深山に伝わり、一たたら一本踏鞴とも呼ばれました。かつて勇士に退治されたという話も残ります。

土佐では山にいる者を山爺と呼び、一本足で、おまけに眼も一つだと信じられていました。

そして雪の日には、片足の跡だけ山道に続いていたといいます。

雪の上の大きな足跡は、各地の地誌に記録が残ります。姿を見た話より、跡を見た話のほうがはるかに多いのが、この怪の特徴です。

一本だたらの漢字表記と読み方

読みは「いっぽんだたら」です。

踏鞴」は、足で踏んで風を送る製鉄の道具を指します。片足で踏み続ける姿から、この字が当てられたと考えられています。

土佐では、跡の付き方をそのまま呼び名にしました。形が名前になった怪です。

一本だたら(いっぽんだたら)

広く使われる書き方。

一本踏鞴(いっぽんだたら)

紀州熊野での書き方。

一たたら(ひとつだたら)

同じく紀州熊野での呼び方。

一本だたらの姿と特徴

一本足です。土佐の山爺は、それに加えて眼も一つだと信じられていました。

大きさを伝えるのは足跡のほうです。駿河では大きさ三尺ばかり、歩幅は九尺ほどの跡が三里も続いたといいます。

姿を見たという話より、跡を見たという話のほうがずっと多く残りました。

一本だたらの伝承記録

  1. 文政年間、土佐の山で片足の跡が見つかる
  2. 熊野では一たたら、土佐では山爺
  3. 足跡から生まれた話ではない
  4. 足跡の砂を分けて、神棚に上げる

文政年間、土佐の山で片足の跡が見つかる

『土佐海』続編に、はっきりした記録が残っています。

文政年間、高岡郡大野見郷島の川の山中で、役所の命により香蕈を作らせていたときのことです。

雪の中に大きな足跡が見つかりました。

其跡左のみにて一二間を隔て、又右足跡ばかりの跡ありこれは一つ足と称し、常にあるものなり

左足だけが続き、少し離れて今度は右足だけが続く。

「常にあるものなり」と書かれているとおり、これは珍しい異変ではなく、その山では見慣れたものでした。香美郡にも同じものがあると書き添えられています。

熊野では一たたら、土佐では山爺

同じ一本足を、土地ごとに違う名で呼びました。

土佐では山にいる者を山爺と総称し、一本足で眼も一つだと信じ、これに会ったという人さえいました

紀州熊野の深山では一たたら、または一本踏鞴と伝え、かつて勇士に退治せられた話があります。

柳田国男は、こうした説がほかの府県にも多いことを確かめています。

雪上の足跡の記録も各地にあります。遠州奥山郷の白鞍山では、山男の跡を雪の中に見てその大きさを知るとされ、その形を見た者は早く死ぬと『遠江国風土記伝』は記します。

駿河安倍郡腰越村では、大きさ三尺ほど、歩幅九尺ほどの跡が三里も続き、小川を一跨ぎに渡っていました。

足跡から生まれた話ではない

ここで柳田国男は、順番をはっきりさせます。

単に雪の上の足跡から、推測しうべきことではもちろんなかった。すなわち実験以前から、そういう言い伝えがすでにあったので

先にあったのは言い伝えのほうです。

雪の上の跡を見て「一本足がいる」と考えたのではなく、一本足の言い伝えを持っていた人が、跡を見てそれを確かめた。順番が逆でした。

柳田はこれを誤信と呼びますが、同時に「それにはまた、別途の説明があった」と付け加えています。

足跡の砂を分けて、神棚に上げる

足跡は、恐れられるだけではありませんでした。

秋田の雄物川の岸で草を刈っていた人が、山から飛び降りてきた山男を見ます。恐ろしいので茅の陰に隠れ、後でその場所へ行ってみると、川原に非常に大きな足跡がありました。

あまり珍しいので村の人たちを呼んで見せると、一同は崇敬のあまり、その足跡の砂を分けて持ち帰りました

そしてそれぞれの家の神棚に上げたのです。

信州の虫倉山にも、山姥が住んだという大きな洞が二つあり、阿姥明神として祀られました。雪の中に大きな足跡を見たのは、そこに僧が住みつく前のことだと『信濃奇勝録』は書いています。

一本だたらの伝承地域

一たたら・一本踏鞴の伝承は紀州熊野の深山に、片足の跡の記録は高知県高岡郡大野見郷香美郡にあります。雪上の大足跡は遠州奥山郷白鞍山駿河安倍郡腰越村信州の虫倉山などにも記録が残ります。

一本だたらの正体と考えられているもの

一本だたらは、足跡が先にあった怪です。

雪の上に片方だけの跡が続く。その形に名前を与えたのが、一つ足であり、一本踏鞴でした。

恐れられる一方で、その砂は持ち帰られて祀られます。同じ跡が、避ける理由にも拝む理由にもなりました。

一本だたらをめぐる妖怪のつながり

一本だたらが登場する作品

一本だたらは、鍛冶と山の両方に足をかけています。

「たたら」は、砂鉄から鉄を作る炉と、そこへ風を送る足踏みの道具を指します。 火を見続けて片目を傷め、踏み続けて片足を悪くする。 鍛冶の仕事が、そのまま姿になったという見方があります。

柳田国男は、一本足の怪異を山の神の零落した姿として読みました。熊野の伯母ヶ峰では、十二月二十日に山へ入ってはならないと伝えられます。

一本だたらが登場する民俗学

妖怪談義

柳田国男の妖怪論集。一本足の怪異を、山の神の零落した姿として読む見方を示しています。

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一つ目小僧その他

柳田の論集。片目・一本足という欠けた身体が、神の印であったとする考えを展開します。

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一本だたらについてよくある質問

一本だたらとはどんな妖怪ですか。

紀州熊野の深山に伝わる一本足の怪です。一たたら、一本踏鞴とも呼ばれ、かつて勇士に退治されたという話も残ります。

一本足の足跡の記録はありますか。

『土佐海』続編に、文政年間の高岡郡大野見郷で雪の中に見つかった跡の記録があります。左足だけが続き、少し離れて右足だけが続いていたとされます。

足跡を見て一本足の話ができたのですか。

柳田国男は逆だとみています。雪の跡から推測できることではなく、言い伝えが先にあり、跡を見てそれを確かめたのだと書いています。

足跡は恐れられただけですか。

秋田では、山男のものとされた大きな足跡の砂を村人が分けて持ち帰り、それぞれの家の神棚に上げたと伝えられます。

一本だたらと併せて覚えたい言葉・用語

踏鞴(たたら)

足で踏んで風を送る製鉄の道具。片足で踏み続ける姿から一本だたらの字が当てられたとされる。

山爺(やまじじい)

土佐で山にいる者を指した総称。一本足で眼も一つだと信じられた。

香蕈(こうしん)

しいたけのこと。文政年間に土佐で官命により栽培され、その山中で雪の跡が見つかった。

一本だたらの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男『山の人生』(一九二六年)所引『土佐海』続編ほか